「日本語の大疑問」 国立国語研究所 2021年 幻冬舎新書

 学生時代、国立国語研究所のお世話になりました。現在のコンピュータに搭載されている予想辞書の元になっているチェムスキーの生成文法などを教えて貰いました。とにかく新しもの好きで、新しい技術や学問にはどんなものでも首を突っ込んでいました。おかげで勉強が忙しくて、寝る暇が無かった〜! この本は国研に寄せられた疑問に答えた本。 以下は特に興味を引いたもの引用と要約です。

今後はこの本で紹介されている、国立国語研究所が作成したデータベース「現代日本語書き言葉コーパス」も使ってみようと思います。。


■ どうも気になる最近の日本語

・「あの〜」や「えっと」が多い人

 場つなぎ表現が多い方が話し下手というわけではありません。場つなぎ表現の多い講演の方が、聞き手に良い印象を与えやすい傾向があります。

 「あのー」で、話し手の心情が伝わる。「えー」は、話を始めたり話題を変えるときのクッションになる。一方で、「えっと」は、たどたどしい印象を与えます。

・絵文字の発祥は日本

 絵文字は、NTTドコモが1999年に開発したインターネット接続サービス「iモード」に搭載されました。

 2011年にUnicode化されたemojiとしてiPHONに搭載され、世界中に広がりました。

・LINEのスタンプ

 LINEのスタンプはイラスト。絵文字のように文字化けの心配が無い。文字が付与されているものは伝え損ないが無い。

■ 過剰か無礼か

・家族に使う尊敬語

 軽い尊敬を表す「ハル」。「お父さんは帰らはります」というような、標準語には無い用法は、沖縄・鹿児島から愛知・岐阜・長野、日本海側では新潟あたりまで、主に西日本に分布しています。

■ 世界の言葉と日本の言葉

・日本語は難しい言語か

 相対的な難しさは、学習者の母語に左右されます。韓国語やトルコ語が母語である人にとっては、学びやすい言語です。

 絶対的な難しさ。音声や文法では、日本語は簡単な言語です。語彙では、和語・漢語・外来語が共存し、日本語特有のオノマトペが数多くあり、易しくはありません。日本語で最も難しいのは、表記です。ひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字。日本語の表記は世界でも有数の難しいものの一つです。

・外行語(外往語)

 「tsunami」のように、日本語が他の言語に取り入れられたものを「外行語(外往語)」と呼びます。

・手話は世界共通ではない

 ジェスチャーは国によって違います。日本語の手話は、全国共通のものが普及しています。

■ どちら?迷う日本語

・「思う」と「考える」

 「思う」は、情緒的・一時的な思考。「考える」は、論理的・継続的な思考。

 「考える」ことは自分の意志で制御でき、「思う」は制御しにくいものです。

・「戌年」の戌は犬ではない

 干支は、「十干」と「十二支」を組み合わせたもの。古代中国で、天体の運行などに基づいて月日・方位などを定めました。中国ではこの十干十二支と、五行説(木火土金水)、陰陽説(陰と陽の気)を結びつけて考えるようになります。

 十二支は月日などの順序を表す記号。動物とは関りはありませんでした。十二支の動物名は、後から割り当てられたものです。

・「可能性」は、「高い」のか「大きい」のか「強い」のか

 電子言語情報を用いて言語使用を観察する「コーパス言語学」。「可能性」は、「大きい」「高い」の両方が使われます。「頻度」は「高い」。「確率」では「高い」がより多く、「恐れ」の場合は「大きい」が優勢です。

■ 便利で奇妙な外来語

 多くのヨーロッパ語では、全ての名詞が「性」を持ちます。例えばフランス語では、「下駄」が男性か女性か共通認識が得られていません。

 言語によっては、品詞ごとに固有の語尾が決まっています。外来語の語形を調整しなければなりません。

 日本語は「新語」が受け入れやすい言語。日本語は、単語そのものは語形変化せず、単語に助詞や接辞などを直接張り付ける、というやり方によって文法的機能を表示します。単語と文法機能を表す部分が分けて表現される日本語は、外来語をはじめとする「新語」の受け入れ易い言語です。

 一般にどの言語でも、名詞が最も借用しやすく、その他の品詞が借用される例は多くはありません。日本語では、形容動詞や動詞も取り入れることができています。

・「シミュレーション」が「シュミレーション」と発音される

 英語の綴を見れば、「シミュレーション」や「コミュニケーション」が本来の発音。

 発音の変化。撥音(ん)が長音(ー)になる。拗音(特にュ)が脱落する。連続する同じ母音が短音化する。kやsなどの子音(無声子音)に挟まれた母音が脱落する。前後の音が入れ替わる(例:シミュレーション)。外来語の清音と濁音が入れ替わる(例:バドミントン)。

 子供の言語の中にも、音位転換が観察されます(例:柔らかい → やらわかい)。

■ 歴史で読み解く日本語の不思議

 「令和」は初めて「漢籍」ではなく「国書」(万葉集)から選ばれたと話題になりました。

 元号は、基本的に漢字二文字で音読み。「令和」もこの構造です。

■ 文字を持たない言語が圧倒的に多い

 地球上に存在する言語の数は、数え方によって3000から8000と言われています。文字を持っている言語は400程度です。

 文字を持っている言語の多くは「借りてくる」という方法によって表記体系を作り出しています。

 大陸から儒教や仏教を取り入れ始めると、漢字で書かれた書物を読む能力が必要になりました。7世紀には、隋や唐からの帰国者や、大学寮で名経道を学んだ人々も含め、識字層が広がっていきました。

 7世紀から8世紀に編纂された万葉集は漢字だけで記されています。

・漢字の使用停止を視野に入れた「当用漢字字体表」

 昭和24年(1949年)、内閣が国民に告示したのが「当用漢字字体表」。「当用」というのは、「当面用いる」という意味で、漢字字体の使用をやめさせるということも視野に入れての名称でした。

 昭和56年(1981年)、「新字体」がそのまま引き継がれて「常用漢字表」が告示されました。