「基礎からわかるミクロ経済学」 家森信善＆小川光 2007年 中央経済社
ミクロ経済学をおさらいしようと入門書を買ったのですが、いくらなんでも入門書過ぎるのですが、基本の基本を思いだすには、生禿にとっても好著でした。しかも、初学者の入門書にしては、言葉の定義がキッチリしています。優しい言葉で説明しているのですが、忘れがちな、経済学の基本概念を再確認できました。確かに、超入門書としては良い本だと思います。版を重ねているのも納得です。
「ある価格のもとで、どのくらいの数量を購入する意志があるかという購入スケジュールのことを、経済学では需要という言葉で表現します」。需要という言葉の定義です。実はこの定義が曖昧だと、実測データを整理して需要曲線を求める時に困る事になります。一言一句を蔑(ないがしろ)にできない定義なのです。
「需要曲線を限界評価曲線、あるいは限界便益曲線と呼ぶこともできます」これもそうです。漫然と、需要曲線を需要を表した線ぐらいのイメージしか持っていないと、痛い目に会います。『限界便益曲線』その通りです！だからこそ、「消費者は、消費者余剰を最大にする」「消費者は価格と限界評価が等しくなるように消費量を選ぶ」になるのです。図表付きでココまで懇切丁寧に説明して下さると、空気化している知識の再確認になって、むしろ新鮮ですらあります。
「一般に、考慮する期間を長く取るほど(需要でも供給でもその価格)弾力性は大きくなります」「取り上げる商品を特定すればするほど、弾力性は大きくなります」。そうそう！短期的な事実の把握だけなら、価格変化に対する購買量の感度を実測すべきです。しかし、長期的な傾向の把握には、ある程度の抽象化は必要です。価格弾力性を推計する価値を久々に実感させて貰いました。
もう一つ、リアルタイミング･オファリングの理論的根拠となっているは、「個人の需要曲線というのは人によって様々」だということ。そして、個客の価格弾力性に応じた取引条件を提供する場合にも、価格弾力性を用います。何故かと言えば、データ数が少ないので、弾力性に丸めないと、かえって現実性が無くなるのです。日本では、商品アイテムの価格感度を測定することはあっても、個人別の価格感度を計測する機会が無いので、価格弾力性の利用価値が理解できないのです。危ない危ない。こういう知的水準の差が、日本とアメリカのビジネスの質の差になっています。
「市場は、いくつかの市場に分かれている」という理屈は、日本のマーケッターでも知ってはいるでしょうが、細分市場の需給関係を、需要曲線と供給曲線を実測して、その実体を理解している日本のビジネスマンは「何人居る？」のでしょうか。きっと、何人しか居ないでしょうね。この本は需要曲線の実測のし方は解説してはいませんが、「やらなきゃあ」という気にさせてくれます。この本、凄いんじゃない？！
外部効果については、「市場を経由しない取引というのは、対価の支払いを伴わない取引」で、外部効果を内部化する為に、例えば、環境の外部費用なら、「国が環境の所有者と考える」ことで「税と言う形で支払って貰う」なんていうフツーの解説。生禿は、何でも経済学の枠内で説明し、扱おうとする姿勢を認めません。経済学は社会正義みたいなことを扱うべきではありません。文字通り「お金で買えない」ものが存在するのです。「市場の失敗」は傲慢です。市場は失敗してません。市場に扱えない世界があるだけです。
ゲーム理論についての解説も、簡潔で、実に的確です。後悔をしない為に、後悔の大きさの最大が最小となる選択肢を選ぶ(ミニマックス基準)の、あっさりと解かる説明が「何でも無い」ところが、逆に凄いです。
