● 新事業を育てる − セブンイレブンの体験（鈴木敏文）
人気が無く人材も確保できない小売業に必要なのは、「生産性を上げる仕組みである」が鈴木氏の信条です。
米国のコンビニは、近隣に店舗が無い郊外の立地にあります。「小売業は地域性が強い」「米国で成功した仕組みが、日本で通用するとは限らない」のです。「米国のＣＶＳは卸売業者が店の棚に商品を並べていくプッシュ･システムを採用していた」「私には、各点が消費者のニーズを見ながら問屋に商品を発注するプル･システムに方が向いている」と、米国とは異なるＣＶＳを開発していきます。
問屋に箱単位ではなく小分けして配送して貰う、共同配送をお願いする、年中無休で営業するために商品の生産体制を変えて貰う、お握りや弁当の販売開始に際して１日に３回ご飯を炊き配送する仕組みを作って貰う…、「小売業者はお客さんに都合がよい状態を作り出す」「供給側が身を切る傷みを負わねばならない」「苦労せずに対応できる」ようでは改善にはならない、と述べます。
最後に氏は、「働く人の質が業績を左右する。社員の質が落ちると、それを元に戻すのは難しい」と指摘しています。
成功事例の原則を簡潔にまとめたお話には説得力がありますね。
● ブランド形成 − ユニクロ（柳井正）
ユニクロは、「ユニーク･クロージング･ウェアハウス(ユニークな衣料品の倉庫)の略で、「マクドナルドのように、どんな人にも気軽に寄って貰い、どの店でも同じ規格の商品を同じ価格で得られる安心感を提供する」。ファーストりティリングと言う社名は、「ファーストフード店が持つ気軽な雰囲気を映している」店員の接客もファーストフード店に学んだ部分があるそうです。
原宿進出に成功したユニクロは、イメージングに成功。売れ筋に絞った少品種大量販売を基本とする多店舗展開を推し進めます。
定番商品の価値を見事に示した「大事なのは服の個性では無く着る人の個性だ」は名言でしょう。
● イノベーションを生み出す（青島矢一）
ヘイズとアバナシーは、「２０年前、米国の不況は、マクロな経済要因よりミクロな企業経営のあり方に起因していることを訴えた」。このことは、８０年代以降の日本にも当て嵌まります。上手い！まず、自分とは関りのない他国の話で納得させておいて、自らに問題に移す。でないと受け入れては貰えない。学者って考える人では無く、太鼓持ちでんな〜。偉い！
「長期的な成功の鍵は、新しい価値を創造することである」「日本企業の多くは、イノベーションと遠い存在になり。先進諸国から学ぶ姿勢も失った」結果、競争力を無くしたのです。日本企業の投資効率が悪化したのは、不適切な資源配分を行った表れです。
新しい価値を生み出すための資源が配分されないのは、しがらみの為であると筆者は指摘します。1) より確実な「既存事業(のしがらみ)」の延長で資源配分したくなる、2) 既存の組織能力を無用にする革新に投資できない組織のしがらみ、3) 取引先に密着すればするほど、目の前の顧客の要求に細かく対応する「顧客のしがらみ」、です。
面白いのは、「三次元ＣＡＤの導入が遅れたのは、担当者間のコミュニケーションが機能していたためだ」という指摘です。『強さが弱さに変わる』ことはよくあることです。
８０年代の日本企業の強みは、製造現場に蓄積されたモノ作りの能力でした。ところが、だからこそ、現場のノウハウを体系化-標準化するようなイノベーションをしませんでした（日本人は元々、作業手順の形式化-標準化が苦手です）。例えば、日本の半導体は、製造知識を体系化したソフトウェアの開発の遅れによって凋落しました。
また、日本の取引先対応力の高さは、「取引先に個別化した製品開発など」、顧客を繋ぎ止めるには有効だが、「新しい市場を生む出すイノベーションには目が向かなくなる」とも指摘しています。
イノベーションの収益性を事前に評価する不確実性を解決するには、1) 革新を誘導する基準(構想)を持つ、2) 事後判断できる手順を持つ(段階的に小さく試行する)、の２つの方法があります。
革新を生み出す視点の転換は、自社内の人事移動、他社との提携、大学との交流など、異なる人々との接点を作ることによってもたらされます。
● ＩＴを活かす（國領二郎）
「情報の伝達と処理の方法は、組織の構造を制約してきた」「紙を使って情報を共有しようとすれば、上位に情報を集めることが効率的になる」。売れている学者さんは、掴みが上手です。
現在は、情報の非対称性が解消され、「権限委譲を進め、社員に独立性の高い動きを促しす」自律分散の仕組みが可能になっています。企業間でもＳＣＭが実現可能です。
興味深いのは「紙やＣＤなどの物理媒体が情報を運ぶために必要だったときは、情報をモノの希少性を結びつけて販売できたが、音楽や動画までネットでやりとりできる時代に、どのような手法が有効かまだ決定的な答えが無い」という指摘です。
ネットワーク社会は、相手が信用できる証、それを保証する仕組みによる安心感が必要です。販売代理人や購買代理人に事業機会があると言われるのもそのためです。
それにしても、やっぱりＩＴ業界の人って軽くて薄いですネ。重厚な業界になったら終わりなんでしょうけど。
● 企業の国際化 − 日本ＩＢＭとＩＢＭ（大歳卓麻）
筆者も定義していいように、「グローバル経営とは、国際的なネットワークを利用して、最高の製品を提供する」ことです。
様々な地域生まれた知恵を世界の拠点で共有するために、ＩＢＭでは「社内の専門家が厳選したベストプラクティスを、社内のネットワークで公開している」そうです（利用されているとは思われないが…。こういうのを嘘も方便というのですネ。特に、ＣＥＯでない社長とかの発言は要注意です）。「日本企業でも、日本企業でも米証券取引委員会(ＳＥＣ)基準による連結決算で経営内容を説明する必要性が強まってきた」という発言も、商売的な意図が背景にあるものです。ここまで見え見えだと…。まあ、日経だからいいか〜。
ＩＢＭは、地域×業界×製品のマトリクス組織を導入しているそうです。マトリクス組織は、一般に、部署間の高い調整能力と、知識の共有に高度な仕組みが必要になります。「９０年代以降、ＩＴ業界は、製品や技術を組み合わせて経営課題の解決策を提示するサービスに移行した」ために、取引先の要求に機敏に応えることができるマトリクス組織が導入されています。
最後に筆者は、「日本人は、異文化に身構えずに接することができる総合的なコミュニケーション能力が足りない」「国際的な舞台で活躍できる人材の不足という日本ＩＢＭの問題は、日本社会が抱える問題と相似形」だと論じています。その通りですね。
● 企業を統治する（宮島英昭）
米国では、取締役会は株主代表から構成され、経営執行陣を監視します。日本では、取締役会は社内から昇進した者から構成され、取締役会メンバーと経営執行陣が一致しています。「また、米国では、株主は取締役会での発言や株式の売却を通じて経営者を規律づけますが、日本では、最大の資金の貸し手であり、大株主の一人であるメーンバンクが規律づけを担ってきました」。「メーンバンクは、取引先企業の業績が悪化すると役員を派遣し、更には経営権を奪取してきました」。
日本型企業統治は、成長志向的な行動を促してきましたが、近年は過剰投資の誘発や事業再編の遅れを深刻化させ、停滞の要因となっています。
「戦後、政府が約束していた支払は反古にされ、企業の債権者として再建計画に関わった銀行が地位を高めました」。また「戦争協力者の追放により、創業者を含む経営陣が退任させられ、取締役会から株主の影響が一掃されました」。「経営者は従業員代表の側面を強め、内部昇進者からなる取締役会が一般化しました」。こうして、戦後、経営者のイニシアティブは強まったのです。
「復興期の企業は、投資資金の不足に直面していた」。また、経営者は近視眼的な株式市場の影響を遮断するために、株式の持ち合いや、金融機関に株式を持ってもらう安定化工作を行いました。
「1980年代以降、日本企業の効率の低下が目立ってきます。80年代に過大な投資が行われ、90年代に過剰な設備の調整が遅れました」。「従業員を重視する経営では、本業を拡大する機会が減っても不採算部門の縮小が遅れます」。また、経済の中心が貿易財を扱う製造業からサービス業にシフトし、海外との競争圧力が弱まりました。しかも、「社債発行規制が緩和されて、優良企業が社債による資金調達を進めたため、貸出先を失った銀行は、低収益企業に過剰な貸し出しを展開しました」。さらに、「終身効用制の下でポストを用意するために70年から取締役の数が増え、業績とは無関係に経営者が定期的に交代する傾向を強めました」。
90年代は、海外を中心とした機関投資家の持つ株式の割合が増え、株価が下がればすぐに売却するという形で経営者を規律づけし始めました」。「持ち株会社などの規制緩和が進む中、多様な統治構造が併存する」という見解で締め括ります。え！何も言っていないのと同じです。過去の事柄については、論評は可能でも、肝心の未来に向かっては「何も言えない」。立派な態度です。見習わなくては！
