「モーツァルトと量子力学」 糸川英夫 1983年 PHP文庫
「ハヤブサ」が映画化されることだし( ← 何に関係があるんだ?)、糸川さんの本を読みたくなった。それにしても、映画のキャストがチョットね。普通は実際の人物より役者の方がイケメンの筈だが、この映画は逆だ。川口PLなんて滅茶苦茶カッコいいのに、あれですよ!
この本は、糸川さんらしい本です。今更、生禿ごときがコメントするまでもなく、万感の想いをかいま見せる前書きから始まる糸川さんの言葉をお聞き下さい。
・文庫本への前書き
「過去は他人である」・・・ ロケット研究をやった「糸川先生」は今の私にとって「他人」なのである。
弦楽器奏者にユダヤ人が多い。「屋根の上のバイオリン弾き」でデビューしたアイザック・スターンもそうだ。ユダヤ人についで優れた弦楽器の奏者を出しているのは日本と言われている。
・景気を良くする法
景気は・・・、自分のまわりの見回したときに感ずる「気分」ということになる。「明日への希望、期待をもち得るか」の気分のことであろう。
・無視という不毛の批判
「無視」することは日本では、極めて容易である。・・・ そこで「独創者」は失意の中で消え去る。
・演奏家と顔
ヨー・ヨー・マ ・・・ テクニックや音程や音色や音楽性については、前評判通りであった。・・・ 「風格」・・・ つまり「顔が悪い」のである。
彼の演奏について、もう一つ文句をつけたいのは「バイオリン曲」を選ぶことである。バイオリンは本体が小さいから、振動学の理論通り、音のビルドアップが短い。音の立ち上がりが早い。だから、短い音の連続が可能になる。チェロは質量が大きいから、立ち上がりに時間遅れが出る。だから、バイオリン曲をチェロで弾くと、音が飛ぶ。
*音楽家としての糸川さんの「高さ」に感服しました。
・日本語と読心術
あいまいな言語は、当然、当事者間に。フレキシビリティをつくる。つまり柔軟な思想、発想をつくり出すことになる。
アリゾナ大学の講義の後の質問は、ユダヤ人のエズラ・ヴォーゲルの著書「ジャパン・アズ・No1」と大内教授の「Z理論」に集中した。・・・ 日本人は「以心伝心」「腹芸」の類が得意なのだ。
日本の読心術としぐさは、情報交換のスピードを上げる。
・エントロピーと日本
物理学という学問体系の中で、このエントロピーの法則だけが、情緒的な感情を産み出す特異点なのである。
なぜエントロピーは、一方的に増大して減少することがないのか、という問に対する答えとして、分子の運動、というミクロの世界に立ち入った。
*凄い!マクロな物理とミクロな物理の接点=エントロピー!エントロピーというモノサシはマクロだが、その実体はミクロ!これをこういう形でアッサリと言ってのけるあたり、やっぱり天才ですね。
・救いは太陽エネルギーと心の幸せだ
太陽エネルギーだけは、地球という閉鎖系の外から来るから、「減ることはない」。
・「怨念」について
元来出雲大社は、ツングースから朝鮮半島経由で日本列島にたどり着いた「鉄器文明」を持った種族によってつくられた。それが、南方から南九州に上陸した南方系種族である「天孫族」によって乗っ取られた。・・・ 「怨念」というのは、「悲憤の運命」が伝承され続けるものであろう。・・・ 「怨恨」は一代または二代で終わる。
・サイエンスの美学
加速度という概念は、速度の変化なので、距離を時間で割って速度が出て、速度の変化を時間で再び割って出て来る。
ドブロイは、物質は波動性と物質性の二重人格者だという仮説を立てて、ニュートンの光粒子説や、マックスウェルの光波動説を一つの説にくっつけてしまった。この波動方程式も、微分方程式で書かれている。
*本当に凄い!ここまで簡潔にズバリって感じで書けるって。理解の深さが違うんですね。
・西欧旅行から
協会や古城の中のコンサートホールとして使われているホールに案内されると、・・・ 必ず手をたたいてみた。一つの拍手の音が何秒くらいこだまするかを調べるためである。
一つの音が数秒間鳴り響いているということは、一つの楽器で、アンサンブル、ハーモニーがつくれる、ということになる。
こういうところを頭において作曲されたクラシック音楽を、残響時間を抑えた現代のスタジオで演奏したら、音楽の中身が違ったものになる。
室内楽は、元来、部屋の残響時間がかなり長いところで生まれたように思う。
*手を打って、ホールの残響時間を調べるクセがあるなんて嬉しい!生禿もこれを習慣にしているからです。生禿も訪れたホールの残響時間は体内時計で持っています。糸川博士と同じだなんて感激です。
*そしてもう一つ。古楽器の弦の張力が低いのは、当時の楽器制作者が、この残響時間の長い場所で音楽することを前提としていたためだと生禿は考えています。
・ユダヤの作曲
テヘラン大学のシロニー氏は「日本とユダヤだけが、非キリスト教国で成功を収めた民族で、非キリスト教徒であるために、世界の問題児、異端児とされ、時として弾圧され、いわれない批判もうける」と言う。
(ユダヤのチェロ曲の代表が)マックス・ブルッフの「コール・ニドライ」、アーネスト・ブロッホ「ショロモ」「ニーグン」「祈り(プレイヤー)」である。
*早速、ヘブライ音楽をアマゾンで注文しました。
・バイカルチャー説
創造性というのは、ある日突然、世間の目にさらされると、不連続な、飛躍的なしろものに見えるが、世に出る前は、連続的に少しずつ段階を上ったのであって、突如、一階から二階へジャンプしたものではない。B・F・スキナーの説によれば、天才とは、階段を上るところを、人目から隠すことがうまかったのだ、という。
・ヘブライの歌
キリスト教のクラシック(キリスト教の教会音楽を原点に持つ音楽)は共通点がある。同じような音符が規則正しく並んでいることである。テンポもメトロノームで決められている。繰り返しが多い。・・・ ボロッホやブルッフェ、この正反対である。・・・ フェルマータ記号が、いたるところに見られる。聴いた感じは、初めは難解な感じがする。繰り返しと、テーマメロディーと、音符の整列になれた耳には。
ヘブライの歌のメロディーは日本的である。古謡、民謡になると大変近くなる。音を「適当に長くのばす」のは日本民謡の特色である。繰り返しの無い民謡も多い。
・頭脳在外
アメリカは、世界中の頭脳が集まって業績をあげる「環境」を提供し得る国として誇りを持っている。
・身体を動かすときは目的がある方が良い
私共は、目だけギラギラさせて、指先だけを動かす「宇宙人」と化しつつある。そこで、「目的なき」体の運動を生活の中に取り入れることになった。・・・ 面白くないから、音楽の援用が登場する。フィットネス体操を提唱したモアハウス博士の説によれば、体操は生活の中にビルドインするのが最善だという。
BGMの危険は、体が本来持っている「自律」のメカニズム、つまり心臓に負担がかかる。「他律」のリズムに共生されて、無理が生じる。中年以上の人がやるBGM体操は、ジョギングと同じ危険を伴うのではないか。
・雑音と殺意の関係
角田説を有名にしたのは「こおろぎの鳴き声は、西洋人は右脳に入るのに、日本人は左脳に入る」という一節である。日本人は・・・、左脳に過負荷がかかり、思考が損なわれるであろう。
角田説によれば、これは日本人種の遺伝子の構造から来るものではなく「日本語」という母音優勢の言語系を持つためだという。
・アタマをよくする法
頭脳の中の記憶のメカニズムは、ナトリウム、カリウム、カルシウムの三つのイオンのゲートによって行なわれるらしい。この三つの科学物資の出入りするゲートの内、二つが閉まって、一つが開き、そこで、この三つのうちの一つが出たり入ったりすることで、脳の中の「シノプス」といわれる神経のターミナルがついたり離れたりする、という。
この三つのゲートを開閉するトリガーとなるのが燐酸である。私の母は「アタマには燐が必要である。小豆には燐が含まれているから、小豆はたくさん食べたほうがよい」と言っていた。