「お客様との絆を結ぶ」には、絆の結び目を何にするか、どうやって結ぶかを考えなければなりません。CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の教科書を書くのではないのです。生身のお客様を向かい合う実際の商売です。お客様との関係を管理するっていうのは、「一筋縄」ではいきません。少なくとも、絆の結び目と結び方を具体的にイメージできなければなりません。

「人と繋(つな)がれば人で切れる」ものです。顧客接点のスタッフとお客様の人間『関係』を結び目に選べば、スタッフが移動すればお客様も移動します。「人の切れ目が縁の切れ目」です。お客様に提供している価値との結び付きは希薄です。

「値引きや景品など経済価値で繋がれば、お金で切れる」、文字通り「金の切れ目は縁の切れ目」です。「品質で繋がれば品質で切れる」のも当然です。品質を評価する合理的な評価基準のお客様は、もっと優れた品質の製品が発売されればそれを選びます。

「結び目」は同時に「切れ目」でもあるのです。切れない結び目はあるのでしょうか?

絶対にとは言いませんが、切れ難い結び目はあります。精神分析理論で言う「カセクシス」です。カセクシスとは、「精神的エネルギーが、特定の活動・観念・物・人などに向け続けられること。特定の人や物に対する好悪の感情が、いつまでも続くこと」です。提供する価値を象徴する銘柄とお客様を、感情の絆で結び付けられれば恒久的な『関係』を形成することができます。

例えばランニングシューズです。そんなに詳しくない生禿でも、皇居外苑で走っている人の足元(履いている靴)を見るだけで、その方の年齢をだいたい当てることができます。ランニングシューズに関わった人間なら誰でもそうだと思います。公式な競技会に出たレベルのランナーは、懸命に走っていた学生時代に履いていた靴を、生涯に亘って履き続けます。走りのスタイルが変わっても、店員さんにソール調整をして貰って「履き慣れた靴」で走ります。ですから、シューズメーカーは「ブランド・コンタクト・ヒストリー」を描き、カセクシスが生まれる時と所に向かって活動を集中します。

強い感情で結び付くことの少ない製品領域の場合は、その精神的エネルギーを補い続ける必要があります。結び目が解(ほぐ)れないように強化し続けるのです。

銘柄の顧客関係が、顧客接点のスタッフとお客様の人間関係が結ばれている場合、その関係を「銘柄化して強化する」ことが必要になります。「人の切れ目が、銘柄との切れ目」にさせない、関係が長続きする支援を、銘柄の仕組みとして構築します。

特に、カウンセリング型の製品では「人切れ」の影響が大きくなっています。フルタイムで働く女性が増え、個人商店が減少した結果、ターミナル立地の店舗や営業時間の長い店舗での購買が増えています。その為に、個客との継続的なカウンセリングが必要な製品は購買が不安定になっています。

かつては、ターミナルの大型店は、アンテナショップとして、銘柄を選択する店としての機能を果たし、選択された銘柄を再購入するのは最寄駅前の店舗で、というのが一般的でした。ところが、最近は、最寄りの店舗の営業時間に帰れない、近隣の店舗が閉店してしったなど、買いたいけれど買えない「買物難民」が増えています。その度にターミナル店舗に寄るのも面倒です。そこで役に立つのが、何時でも注文できるネットショップです。ですから、カウンセリングが必要なときは設備もスタッフも充実した(ターミナル)店舗で、買うだけのときはネットで、という使い分けは一般的になっています。

多くのメーカーが、流通に遠慮して自社でネットショップを持ちませんが、そのことで、製造小売会社にお客様を奪われています。通販が伸びているのではなく、お客様のご都合に適合する『販路ミックス』が支持されているのです。お客様の都合を無視して、自分のことだけを考える近視眼の個人商店は「消え去るのみ」なのは当然でしょう。

さて、メーカーとしてはどうすべきなのでしょうか?段階を追って、何をすべきかをご説明しましょう。

1)お客様相談室で店舗をキチンとご紹介する

お客様がどうしてもその製品が欲しい場合は、お客様相談室(客相)に相談の電話を掛けて下さいます。その時、その製品を確実に在庫し、かつ、その製品の付帯/関連サービスを顧客満足度高く提供できる店を「キチンと」ご紹介できるかどうかが「銘柄の関係を維持できるか」の分岐点です。

そのためには、営業要員が地域を回って信頼できる店舗を特定し報告し、営業統括部門でこれを集約し調整して、客層に紹介店舗リストを提供します。この準備ができていないメーカーでは、不十分な扱い店紹介が顧客不満足を招き、「二度とあのメーカーは買わない」非顧客を増やしてしまいます。現在では、高齢化が進んでいますので、重量嵩物の製品では宅配機能を持つ店舗を「押える」ことも必須です。

生禿の経験では、客層に買物難民の解決を求めてお電話を下さるお客様の殆どは、「少し遠い店舗ですが、定価で宜しければ、定期的にケース単位でお届けします」と申し込むと「それは助かる」と歓迎して下さいます。店舗側としては「定価での継続的なまとめ買い」の「美味しい」お客様を紹介してくれるのですから、メーカーに対する好意が増します(『客付』は、店舗に対する最強の施策です)。顔馴染みになれば、御用聞き電話で様々な物を買って下さいます。酒屋さんなどでは、こういった宅配専門店?が結構繁盛しています。このタイプの店舗は、宅配機能を活かして、自らもショッピングサイトを持っている店舗もあります。賢いですね。

上記のように、お客様との関係維持にとって『客相は最後の砦』なのです。客相での顧客維持の経験によって、(お客様の顔を見たことも無いメーカーのスタッフは)「お客様と絆を結ぶ」とはどういうことかを学びます。この学びなくしては、CRMは絵空事に終わります。

*客相への取扱店舗照会の件数で、製品ロイヤリティが計測できます。逆に言えば、扱い店率(店舗カバレッジ)と店舗照会件数の指数で、「絆を結ぶべき銘柄」を識別することができます。

2)顧客接点の人間関係を応援する

「客付」を通して、メーカーと一体となった顧客維持を協働する店舗とそのやり方が、少し「見える化」されます。そうなったら次は、顧客接点でのお客様と接点要員の人間関係を応援する段階に入ります。『応援』ではジレッタイと思われるでしょうが、顧客接点の『心技』を持たない者が、そこに土足で入り込むのは失礼です。

応援のし方は単純です。メーカーから、お客様に接点要員に対して「感謝の言葉」を送って下さるようにお願いします。そして、感謝の言葉を送ったお客様と送られたスタッフの両方に(抽選で/感謝数に応じて)プレゼントをし(表彰し)ます。このことにより、スタッフは愛顧客を増やそうと動機づけられ、お客様はメーカーがスタッフの顧客サービスを応援していることを認知します(WEBサイトなどで「感謝の言葉」は公表され、お客様にも公開を通知します)。このことで、店舗内に閉じていた顧客接点の人間関係が、若干ですが「銘柄化(メーカー化)」します。「人切れ」のリスクも少しだけ減少します。

重要なことはこの段階は、学習期間だということです。ですから、出来るだけ短期間に「卒業」するように努力します。習得すべき「科目」は以下の通りです。

・お客様の顧客接点への要求(ニーズ)を把握する
 − 但し、感謝の言葉で表明されるのは「飾り言葉」であることに注意
 − 「素の要求」は「飾り言葉」を出発点とした個客洞察により明らかにする
  「お言葉」を発したそのお客様の観察とインタビューによって知見を得る
  それらの知見を集約して、各客層の顧客接点への要求を整理する
・店舗〜メーカー関係(PRM)の要点を確認する
 − 顧客維持を協働する制度と体制のあり方
 − 協働の深度による取引条件設定の基準
・顧客接点を支援する仕組みの立案
 − 協力店舗で(感謝数を増やす)予備実験を行う

この学習の要(かなめ)は、メーカーの自己都合による『売り言葉』から出発するのではんく、歪はあるにしてもお客様の『買い言葉』から出発する点です。当たり前のことですが、お客様は『売り言葉』で買うのではなく、『買い言葉』で買うのです。そして、この事実を否定する人が存在します。彼らは、会議の場で、自らの権益を害する事実を木っ端微塵に否定します。

誰がどのような理屈で事実を否定するのか。その事実を容認するのは誰々か。その両者の利害関係と力関係はどうなっているかを把握し、事実を否定する者どもを完膚なきまで打ちのめす手順と方法を考える。エゲツナイ言い方になりましたが、この段階でやるべきことは、収益を損ねる人と事を排除することです。

3)顧客接点を支援し、銘柄化する

いよいよCRMを実施します。CRMは机上の空論で実施できるような「代物」ではありません。理屈だけのPPMなどとは訳が違うのです。

カウンセリング・サービスを製品(プロダクト=労働の産出)の一部として内包する場合、顧客接点での人、時間、空間の余裕が無くなっている今日では、標準化されたサービスを短時間で提供することが求められます。その為には、顧客接点での診断や助言を支援するツールやシステムが必要になります。同時に、「薄くなった」顧客接点の人間関係(情緒)を補う仕組みを顧客接点の外に作る必要が出てきます。

簡単に言えば(これ以降の詳細は、営業秘密ですヨ)、顧客接点のスタッフ(個客担当者)名義で、個客のモバイル(この場合はPCは不可)にメールを送ることです。メールの内容は、個客要求でカスタマイズします。勿論、固有名詞によるパーソナライズは絶対にしてはいけません(← 経験したことの無い方には理解不能なので説明しません)。個客要求を、高速なDWHでリアルタイミングで予測し、お客様の「その時」「その場所」を目掛けて「個客に刺さる」(プロモーション)メッセージを発信します。今や世界標準のプロモーションとなっている「個客プロモーションのマス展開」の一種です。

CRMシステムが稼働すると、ターミナル立地の大型店でも個客維持が可能になります。小売の店舗(POSレジと接点要員)とメーカーのCRMサーバー(プロモーション・ジェネレーター/PCサイト/モバイルメール)が連動したお客様とのコミュニケーションがダイナミックに回り始めれば、ターミナル立地の店舗などの接客時間の短い店舗を核とするCRM(ブリック&クリック)が成立します。

4)販路ミックスとプロモーションミックスの個客適合度を高める

個客の生活行動と、WEBを含む店舗の利用可能な(営業)時間や場所や、製品と付帯/関連サービスの提供の時所と方法の適合度を高めます。このプロセスに終わりはありません。お客様のご都合に合わせた販路ミックスで購買機会の損失を予防し、お客様の要求に応じたプロモーションミックスで製品の価値感を維持し続けます。

こうして、顧客接点の省力化に対応して、お客様との結び目を強化し続ける仕組みを構築していきます。

勿論、技術革新による付加価値で事業を維持拡大する企業には顧客関係管理(CRM)は必須ではありません。また、価格競争力で収益を確保しようとする企業にもCRMは不要です。ですが、製品の価値観や、製品のスタイルに対する選好によって付加価値を高めようとするならば、カセクシスの形成(≒ブランディング)か、恒常的なCRMが必要になります。そして、CRMでは、お客様の都合に合わせた販路-販促ミックスの適合性/利便性が必須になるのです。