マーケティングか、それともセールスなのか。顧客志向になっているのか。そういう理屈は学者の方にお任せしましょう。実務家としての「マーケティングか販売か」の分岐点は、製品ターゲトが製品仕様決定以前に意思決定され製品開発〜マーケティング部門で共有されていればマーケティング、さもなければセールスです。(生禿が「日本にはマーケティングがほとんど無い」と言っているのはこの定義によります)

マーケティングは、とても簡単で単純な原理に基づいています。「お客様がお望みになる物事を、お客様のご都合に合わせて提供すれば売れます」。それだけです。それ以上でも、それ以下でもありません。売れなければ、お客様の要求と都合に合っていない、ということです。

お客様の要求と都合に適合する[作って-運んで-売る]仕組と体制は、製品仕様決定以前にターゲット意思決定を必然とします。「お客様の要求に適合する製品」を作るのですから、「誰のどのような要求」に向かって作るかが、作る前に明らかになっていなければ、何も作れません。もし作れるとしたら、「お客様の要求を無視して開発者の都合で作っている」ことを示しています。

顧客志向とは、実務では「誰に」作るか/売るかを決定し、目指すお客様の要求と都合を明らかにして、明らかになった要求と都合に向かって、製品と販売(そして、それらを総合した顧客経験)を作り込むことです。

ターゲティングは、マーケティング最大の意思決定です。ですから、ターゲティングを主導している部門が、マーケティング意思決定部門であると識別できます。日本の場合は、マーケティングの意思決定部門と作業部門が分離しています。製品開発部門がマーケティング意思決定を行い、マーケティング部門が後付け作業と販売促進業務を行うのが一般的になっています。

かつてコンサルテーションをさせて頂いたアイスクリーム製造小売の社長さんは、「あの奥様が微笑んで下さる」アイスクリームを企画し販売していました。マーケティングの教科書では「実在する特定の人物に焦点を合わせた」マーケティング(商品企画〜販売管理の全過程)設計は、不適切とされています。ですが、実際には、特にカリスマ経営者が率いるベンチャー系の製造小売では、「あの方」をターゲットとした運用が、最も適切なマーケティングである場合が少なくありません。

「あの方」は、古い言い方をすれば、「プラトニック・ラブ」の対象です。いつまでも続く強い恋愛感情(=片想ひ)が、事業を成功に導くのです。肉体の性愛とは異なり、果てることの無い精神エネルギーを注ぎ込む「片想ひ」は、全ての業務を統合する一貫した「その行為」を継続させます。