「薬の飲み合わせ」 澤田康文 1996年 ブルーバックス
薬学部の学生を教えている生禿としては、一応読んでおこうかな〜という本です。でも、化学はとっても苦手なので・・・、半分くらいしか理解はできませんでした。
知識に基づく判断は、コンピュータの情報処理で代替できます。医者の診断も、弁護士や会計士の法律や過去の事例に基づく文書上の処理は、コンピュータ作業の方が精度が高く、間違いも少ないことが実証されています。所謂、専門家の作業は、その世界の優れた研究者が数人集まって、ナレッジ・データベースと判断プログラムさえ作ってしまえば、その他大勢の『専門家』は頭を使う必要は無い作業者に過ぎません。
人間は、コンピュータにできる作業は止めて、人間にしかできない仕事をすべきです。コンピュータにできない仕事には二つのタイプがあります。一つは、お掃除のように不確定な作業で、逐次に人間の大局の判断(言語化できない判断)が必要なために、動作手順が事前に作成できない作業。もう一つは、対人応対のような、反応が不確実な人間相手の作業です。人間に限らず感情を持つ相手とのコミュニケーションは、形式論理に馴染みません。
掃除や接客は低賃金労働です。コンプータにでもできる知恵の低い仕事が高賃金で、人間にしかできない高度な知恵が求められる仕事が『誰にでもできる仕事』とされています。不思議ですね。
さて、これからの薬剤師は、情報処理作業はコンプータで代替されます。ですから、薬剤師という『人間に求められる』仕事は、お客様(患者)に対する応対です。そして、人間への応対という点では、『薬の飲み合わせ』というような、患者の生活の全体、もっと言えば、患者の全人格に関わる分野こそが出発点になるものと考えられます。
医療は、「病気の治療の為なら、人を殺しても構わない」と法律上も規定されているように、健康とは何の関係も無い機能です。ですが、薬剤師の『お薬に関する相談と助言』は、人間の健康に関わる、人間に生活の質(QOL)に向き合う機能です。
この本は、そのような観点からの『薬の飲み合わせ』を考える一助にはなりました。ありがとう御座いました。
「はじめに」によれば、「病院の外来における診療では、処方箋に平均して五つの飲み薬が記載されている。そして、服用する薬が多くなるほど副作用も出やすくなる」そうです。高齢者に対する薬漬け医療が続けば・・・、なんとしても『かかりつけの薬師』を定着させなければなりません。
「吸収、分布、代謝分解、排泄は、薬の主作用と副作用を決めるプロセスである」「これらのプロセスで決まる血液中の薬の濃度に従って、薬の作用が起こる部位へ移行する薬の量が決まるからである」。
薬にはイオン型と非イオン型(分子型)があり、「非イオン型の薬は脂質に溶けやすく膜の脂質部分に馴染みやすいので、濃度勾配があれば膜を通過できる。また、水に溶けている小さな分子は、細胞膜の細孔を通過できる」。対して、イオン型の薬は、「小腸の上皮細胞にあるナトリウム・カリウムポンプ」などの能動輸送によって、「膜の中のキャリアーの助けで濃度勾配に逆らって輸送される」。
「薬が血液に乗って身体を循環するときに、肝臓を通過する」「肝臓で薬は代謝分解される」。一方、座薬は「直腸に分布している血管は肝臓を通らないので、直接全身を循環する」。なるほど!お尻にズブッと効くんですね〜。
「殆どの薬は、肝臓の小胞体に存在するチトクロームP450などの酵素によって代謝分解される」。「腎臓からの薬の排出には、糸球体濾過、尿細管での再吸収、尿細管からの分泌の3つのプロセスがある」。「脂質に溶けやすい薬は、容易に再吸収されて、体内(血液中)に長くとどまる」。
=薬の飲み合わせが起こる二つのメカニズム=
1)薬Aが薬Bの血中濃度などの体内濃度を高める結果、薬Bが有効な濃度を超えて危険な副作用が起こる濃度領域に入ってしまう。逆に、薬Aによって薬物Bの濃度が低くなり、有効な濃度領域に入らず治療に失敗してしまう。
2)薬Aは薬Bの作用部位に直接働いて薬Bの感受性を強めてしまう。
薬の感受性を強弱させる仕掛けは、「薬Aが、薬Bと作用部位との結合を促進して副作用が強く現れたり、副作用部位への移行を増大させて副作用を起こり易くする」もので、「二種類の薬が同じレセプターに作用する」場合と、「お互いにキャリアーを奪い合って輸送が低下してしまい、その臓器内の薬の濃度が増えてしまう」場合などがあります。
「最も一般的な「薬の飲み合わせ」は、チトクロームP450の抑制に基づくもので、薬の代謝分解の抑制が関係した副作用の病症のほとんどは、この酵素に関係したものである」。「薬Aが薬Bの代謝分解酵素の活性を増大しすぎると、薬Bの必要な血液中濃度が低下してしまい、薬の効果が得られず治療に失敗する」。
「消化管から吸収される薬の量や吸収の速さは、食べ物や飲み物によって影響され、増加したり、低下したりすることがある」。食後に飲む薬は脂質に溶けやすい薬で、「食事をとらない状態では胆汁の分泌量が少ないため、この薬を飲んでも血液への移行量は低い」からです。
「老人の薬物療法においては、肝臓・腎臓の機能の低下によって体内への薬の蓄積性が増大し、薬に対する感受性も増してくる」。また、「肝臓や腎臓の障害など、体内からの薬の代謝分解や排泄が遅れると、血液中の濃度や脳内濃度が増大する」。
「薬の代謝分解を担っているチトクロームP450の種類が分れば、どの薬との併用が問題になるかを予測することができる」。「薬の飲み合わせを起こすのは、代謝分解のプロセスに関するものが多いので、肝臓の中の薬の動きを知っておくことが必要」。「薬が脳内にどの程度入っていくかを、PETで測定することができるようになった」。
そして、薬の飲み合わせを防ぐコンピュータシステムも開発したそうです。要注意なのは「他の病院や診療科で処方された薬のチェック(処方監査)」です。「医薬分業により、患者は薬歴監査などのサービスを受けることができるようになった」「薬剤師に服用歴をとってもらい、持ってくる処方箋をチェックして薬の飲み合わせを防ぐ」ことができます。ですから、「かかりつけ薬局(かかりつけの薬師)」を持つことが推奨されるのです。
薬剤師の仕事は、医師の書いた処方箋に従って薬を出すだけではなく、患者の使用する全ての薬を把握する『かかりつけの薬師(くすし)』として、医師の書いた処方箋のチェックことが求められています。