「肥満遺伝子」 蒲原聖可 1998年 ブルーバックス

 懐かしい本です。遺伝に検査の会社をやっていた時に読みました。リンゴ型/洋ナシ型 … 本当に懐かしい!今こうして、冷静に読み直して … 感慨深いものがあります。最新の情報をネット検索で付け加えながらまとめてみます。


《はじめに》で、この本が書かれた、というよりは、肥満遺伝子が話題になった背景が述べられています。「1994年、肥満遺伝子が発見されました」「肥満遺伝子は、レプチンを産生しています」「レプチンは、体内に蓄積された脂肪と視床下部の食欲中枢を結ぶシグナルです」。

 脂肪細胞には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞があります。「白色脂肪細胞は、肥満そのもの」「過剰摂取したカロリーを脂質(トリグリセリド)に変換し蓄えます」。「褐色脂肪細胞は、エネルギーを消費します。脂肪を分解し熱を産出して体温を維持する機能を持っています」。

 「肥満とは、脂肪細胞が過剰に蓄積した状態をいいます」。「母親が肥満であれれば、75%の確率で子供も肥満になる」「ミトコンドリアの機能(ATP産出)の個人差が、エネルギー消費の差を生じ、その結果、肥満あるいは痩せという体質が生じます」。 「体重を一定に保つように、遺伝子によって目標体重(体脂肪の蓄積量)が設定されている」というセットポイント説が有力になっています。

 「視床下部にある腹内側核(VMH)に、セットポイントが設定されている」「食欲は、脂肪の蓄積量を制御するための表現型である」「食欲は、遺伝情報によって定められる」。従って、「セットポイント以下の体重を維持することは困難です」「それぞれのセットポイント体重が、その個体にとっての正常体重であり、それを維持するために食欲が制御され、代謝調整が行われる」のです。

 「消化管の吸収効率に個人差があり、それが肥満の要因であるという説は否定されます」。「単位面積あたりの消費カロリーは同じで、代謝の個人差はありません」。

 「1994年、ロックフェラー大学のジェフリー・フリードマンが、肥満遺伝子のクローニングに成功した」「レプチンは、ギリシャ語の「痩せた」意味のレプトスから命名された」。

 「レプチンは、エネルギー消費増大作用を持つ」「食欲を抑制し、エネルギー消費を増大させる(グルコースの産出と代謝を促進する)作用を通じて、体重を減少させます」。「レプチンは、視床下部に存在するレセプターを介して作用していると考えられている」。

3つのレプチンの発現を増加させるホルモン
・膵臓から分泌されるインスリン
・副腎から分泌されるグルココルチコイド
・卵巣で生産されるエストロゲン

レプチンの発現量を減少させるもの
・βアドレナリン作動系
・精巣で産出されるアンドロゲン

 「レプチンの作用は、全身の様々な臓器を介して行われます。レプチン自身の分泌も、ホルモンなど体内の様々な因子から調整を受けています」。「体脂肪の割合と血中レプチン値に正の相関が認められました。体脂肪が増加すると、脂肪細胞から分泌されるレプチンが増加します。レプチンは、視床下部にあるレセプターと結合して、作用を発揮します」。

 「人の肥満が高レプチン血症であることは、レプチンは正常に分泌されていること、レプチンが正常に作用していないことを示しています」。「人での肥満は、レプチン抵抗性が原因です。つまり、レセプター以降の機能に異常があります」。「レプチンレセプターは、様々な部位に発現しているが、高水準に発現しているのは、食欲中枢の存在する視床下部だけです」。

 食欲は、「視床下部の摂食中枢と満腹中枢の相互作用によって制御されています」。

神経性食欲伝達機構
・胃や肝臓などから中枢へ、迷走神経を介して送られるシグナル
 食べ物が胃壁を伸展すると食欲が抑制され、胃の収縮は食欲を刺激します。肝臓のグルコース受容器で感知される内臓からの情報は、迷走神経を通って延髄の尾側結束に入力され、LHA(摂食中枢)やVMH(セットポイントが設定されている視床下部にある腹内側核:満腹中枢)に伝達されます。
・血液中を流れる体液(グルコースなど)による中枢へのシグナル
 糖類は、快感を誘発し、摂食行動を促します。

 「満腹中枢(VMH)には、グルコース濃度に応じてニューロン活動が上昇するグルコース受容ニューロンが存在します。摂食中枢(LHA)には、グルコースによって抑制されるグルコース感受性ニューロンがあります」。「飢餓や空腹時に増加する遊離脂肪酸は、グルコース受容ニューロンに対して抑制作用を持ち、摂食を促します。グルコース感受性ニューロンは、インスリン受容部位を持ち、インスリン投与により放電頻度が増加します」。

 「セトロニンの作用経路を活性化すると、食欲を抑制します」。「中枢性食欲抑制剤は、アドレナリン作動性とセトロニン作動性があります」。

 膵臓から分泌されるグルカゴンとボンベジンについて、「グルカゴンは、血糖を上昇させます。空腹時に血糖が低下するとグルカゴンの分泌が増加します。ボンベジンは、食欲を抑制します」。

ペプチドホルモンのニューロンペプチドY(NPY)は、「視床下部のARCにある神経細胞体で産生され、PVN(傍室核)などに放出されます」。「NPYは、食欲を亢進させます」。「NPYは、交感神経を抑制することにより、エネルギー消費を減少させます」。

 「生体内には、血糖(血液中のグルコース)濃度を一定値以上に維持するための機構が存在します」。「インスリンは、代謝調節、細胞増殖、細胞分化促進作用を持るホルモンです。膵臓のβ細胞から分泌されたインスリンは、血中を通って、脂肪細胞や筋肉細胞のインスリンレセプターと結合します。そして、血中のグルコースが細胞内に取り込まれる結果、血糖が低下します」。「インスリンレセプターは、脂肪細胞や筋肉細胞、脳内に発現しています」。「インスリンは、グルコースを脂肪細胞に取り込ませることにより、肥満傾向をもたらします」。

 「コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)は、主にストレス反応に関与するホルモン。摂食を抑制し、エネルギー消費を増大させ、体脂肪を減少させる作用もあります」。「急性のストレス時には、CRHの発現が増加します」。「ユーロコーティン(ペプチドホルモン)は、CRHと同様に、食欲を抑制し、エネルギー消費の増大に関与し、体脂肪蓄積を減少させる作用を持っています。ユーロコーティンは、脳幹部と視床下部に多く発現しており、CRHとレセプターを共有しています」。「副腎から分泌されるグルココルチコイドは、ステロイドホルモンの一種で、視床下部性CRHの発現を抑制します」。

 レプチンとインスリンの視床下部へのフィード−バックは、「体脂肪が増加すると、その蓄積量に比例して脂肪細胞からレプチンが、また、膵臓のβ細胞からインスリンが分泌されます。NPYが抑制される結果、食欲が抑制されます」。「食欲抑制によって体脂肪が減少すると、レプチンとインスリンの分泌も低下します」。

 エネルギーバランスのホメオスタシス(恒常性)は、「各個人において、レプチン値に基づいてその体脂肪の蓄積値が予め決定されています」。「体重は、遺伝情報として規定されたレプチン値が関係しています」。

 「妊娠・出産には、エネルギー源として脂肪が必要です。レプチンは、体脂肪量を脳に知らせるホルモンです。レプチンが定値であると、脳の方で、体脂肪の蓄積が妊娠には不十分であると判断します。レプチンは、胎盤の細胞でも作られています」。

 エネルギー倹約遺伝子は、「余剰エネルギーを蓄え、飢餓に備える」。「脂肪を蓄えるためのエネルギー倹約遺伝子」です。

 脂肪細胞には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の二種類があります。「白色脂肪細胞は、エネルギーを蓄積して肥満をもたらす」「褐色脂肪細胞は、体温を一定に保つために、脂質を分解して熱産生します」。「食事後に自律神経系を介して熱産生が起こります(食事誘導性熱産生)」。「褐色脂肪細胞は、成人では、胸部や腹部の大血管周辺に分布しています。褐色脂肪細胞による熱産生は、ミトコンドリア内膜に存在するアンカップリング・プロテイン(UCP)という膜タンパク質の働きです」。

 「脂肪細胞での脂質分解や、褐色脂肪細胞や骨格筋組織での熱産生などは、アドレナリン作動系であるカテコールアミン類によって活性化されます。β3アドレナリンレセプターが、褐色脂肪細胞での熱産生を媒介していると考えられています」。

 「脂肪は、熱産生や貯蔵に用いられるエネルギーが低い。つまり、脂肪は簡単に蓄積されます」。また、「糖質に比べて、脂肪は満腹感を得にくい」「高脂肪食を摂って肥満になり、レプチンに抵抗性を示し、高レプチン血症を呈します」。

 「肥満は、病態を改善しにくい疾患の一つです」。「私たちの体の脂肪は、生存し、子孫を残す上で、必要なものです」。「免疫系を正常に保つ上で、脂肪が必要です」。

 「肥満に合併症を伴うと、肥満症と診断されます」。「臨床で問題になるのは、腹部に蓄積した脂肪です」。

 「リンゴ型は、お腹から上に脂肪のたまる上半身肥満」「洋なし型は、腰から下に脂肪が蓄積した下半身肥満」です。「上半身肥満は、内蔵型肥満と皮下脂肪型肥満に分類されます」。「ウエストヒップ比によって診断された上半身肥満には、糖尿病や高血圧などの合併症が多いとされます」。「内蔵型肥満は、糖代謝異常、脂質代謝異常を高頻度に発症します」。「内蔵型肥満は、家族集積性が高く、遺伝要因が示唆されます」。「レプチンは、皮下脂肪より内臓脂肪で多く発現しています。内臓脂肪は、蓄積しやすく、燃焼されやすい特性があります」。

 「内蔵型肥満では、抹消組織でのインスリン抵抗性が認められます。肥満になると、脂肪細胞でのトリグリセリド(中性脂肪)の蓄積量が増加し、血液中での遊離脂肪酸が高値になります。遊離脂肪酸が高値になると、抹消組織でのインスリンレセプターの機能に障害を生じます。インスリン抵抗性の増大に対して、膵臓のβ細胞は、さらに多くのインスリンを産生することで対応します。やがてβ細胞は疲弊し、インスリン分泌不足に陥ります」。

 痛風は「風があたっても痛い」病気。「原因は、高尿酸血症」「高尿酸血症が続き、尿酸塩が関節に沈着すると痛風発作を起こします」。「肉類を多く摂取すると尿酸値が高くなります。アルコールの過剰摂取によっても高尿酸血症が起こります」。

 「胆石の成分は、主にコレステロールです。肝臓から産出されるコレステロールが多くなり、胆汁中に溶けきれなくなると、結晶化し、コレステロール石となります」。「食事制限によるダイエットをすると、胆石ができやすくなります。減量中には、胆汁酸に比べて、コレステロールの産出が増加します」。

 肥満の治療法には、食事療法、運動療法、薬物療法、外科療法があります。

 「食事療法は、栄養内容だけでなく、間食や夜食、欠食、早食いなどの食事習慣の改善も含みます」。「食事の内容や習慣を改善しても、体重のセットポイントは変更できません」。しかし、「食事療法はあ、誰でも行うことができる方法です」。「食事療法の基本は、低カロリー、低脂肪、高食物繊維」。

 健康な食事は、かつての厚生省から出された指針『一日に30種以上の食材を食べる』=多くの食材をバランスよく食べる、に尽きると想われます。

 「カロリー制限をすると、私たちの体は、少ないエネルギーで生活できるように基礎代謝を低下させます」。「年をとれば、基礎代謝が減少するため、太りやすくなります」。また、「運動によるカロリー消費で減量することは困難です」。

 「カロリー制限に抵抗性の肥満は存在しません」が、「食欲の強い肥満者に、食事療法を継続することは不可能である場合が多い」のも事実です。

 肥満の薬物療法に用いられる抗肥満薬をネットで検索しました。
・食欲中枢に作用する食欲抑制剤
 食欲を抑制するように、脳の神経伝達に働きかけます。
 マジンドール、フェンテルミン、ジエチルプロピオン、フェンジメトラジンシブトラミン、ベンズフェタミンなど。
・消化管に作用する消化吸収阻害剤
 食べてしまった脂肪の吸収を抑えます。
 オーリスタット、アカルボース、ボグリボースなど
・脂肪組織や筋肉に作用する薬剤

 「マジンドールは、交感神経の緊張を高め、消化吸収能の低下、脂肪分解や褐色脂肪細胞での熱産生を促進すると考えられています。投与基準は、BMIが35以上となっています」。「フェンターミンは、ノルアドレナリンとドーパミン作動系に作用し、食欲を抑制します。フェンフルラミンは、セロトニン作動系に働き、満腹感を促します。*主に高血圧性緊急症の制御、特に褐色細胞腫によるものに用いられます。シブトラミンは、セロトニンとノルアドレナリンの分泌を促進します」。「食欲抑制剤の使用(乱用)には、問題が山積しています」。

 「オリスタは、脂肪分解酵素の膵臓のリパーゼを阻害します」。「β3アドレナリンレセプター活性化剤は、脂肪細胞に作用します」。