「日本経済の奇妙な常識」 吉本佳生 2011年 講談社現代新書

 日本経済の問題を事実に基づいて論じた本です。非人安倍首相の無明無能な経済政策が日本を破綻させるという、科学の徒にとっては当たり前すぎる「常識」が、権力に媚びへつらい愚衆受けを狙い事実を知り伝えようとしないマスごみや、日銀総裁を始めとする私腹を肥やすことだけにしか関心の無い腐れ役人の、世論操作によって隠蔽されているという事実を確認できます。 以下は、この本要約と引用です


1.アメリカ国債の謎

 アメリカえは、1982年以降経常収支の赤字が続いています。世界一の経済規模を誇るアメリカが輸入超過を続けることは、世界の景気を悪化させないために、世界中から求められています。輸入超過によって流出した米ドルの還流が順調に行われれば、世界景気の維持装置としての米国の消費過剰が維持され、世界の消費不足の処理が続けられます。

 日本政府は外国為替市場を円安に誘導する市場介入を行います。介入で買った米ドルは、米国国債で運用されます。中国は外貨準備高でも日本を抜いて世界一になり、その外貨準備の大部分が米国債です。日本や中国にとって、輸出で稼いだ外貨を米ドル建ての金融投機市場に還流させ、次の年も米国が輸入するようにすることが必要です。そして、中国が米国債を買うのも、対米ドル人民元相場が元高にならないようにするためです。

 1999年から日本銀行は、ゼロ金利政策を実施しました。これらの政策が、日本の景気に影響を与えた証拠はありません。但し、グローバル投機を行うお金を増やす効果があったことだけは確実です。円キャリートレードは、日本の円を借りて金融市場でギャンブルすることです。その結果、米国の住宅バブルを拡大させました。

 グルーバル投機マネーは、世界の資源価格を高騰させます。原油や金や穀物などのコモディティ市場に、巨額の投機マネーが流入しました。新興国の成長が、資源価格を高騰を招いたというのは間違いです。コモディティ市場が国際投機資金に席巻され、投機によって価格が決まる市場になったことは、コモディティ価格と株価の連動性が強まったことからも判ります。原油価格は、98年には1バレル=13ドル以下だったのに、08年には120ドルを超えます。そして、資源国が原油などを売った資金は、米国債を購入に使われます。

2.資源価格高騰と日本の賃金デフレ

 日本は貿易依存度が低い、特に輸入依存度が世界有数の低さです。10%を切る国はほとんどありません。輸入物価の上昇が、消費者物価に大きな影響を与えていません。

 日本政府と日本銀行が行ってきた円高政策(外国為替市場介入)とデフレ対策(金融緩和)はやりすぎでした。そのために、世界の投機マネーを成長させ、米国のバブルとその崩壊を拡大させ、資源価格高騰を激しくしました。

 国際的に資源価格が高騰して、日本国内で激しいデフレが生じました。中小企業の殆どが、資源価格が上昇しても価格にそれを転嫁できないのです。そのコストを吸収するのは、労働者の賃金カットです。雇用者報酬は、97年をピークに下降傾向にあります。その結果、日本の国内物価は下落したのです。

 労働生産性が高まったことで、賃金が変化しなくても単位労働コストが下がります。米国では、時間当たり賃金は常に上昇しています。米国の労働者は、消費者物価の上昇を上回る賃金上昇を得ています。ところが、日本では、単位労働コストの下落傾向が強く、消費者物価の下落以上です。つまり、実質的な生活苦を招く賃金低下になっています。その結果、消費が伸び悩みます。賃金の下落が景気をさらに悪化させます。賃金デフレこそが、日本経済の真の問題です。

 日本の労働者の賃金下落は、立場の弱い労働者の賃金を引き下げることで実現しています。中小企業の首切りや賃下げが激しい中で、大企業は過去最高利益を更新します。日本では、収入が上昇する人よりも、収入が下落する人の方が多数派になってしまいました。年収400万円以下の男性給与所得者が45%という時代になりました。一方で、2500万円超の人は増えています。年収格差は大幅に拡大しています。非正規労働者の増加が低所得者層の増加を招きました。日本経済は、消費不足と賃金デフレの悪循環から抜け出せません。

 日本国民の自殺者数は、98年にいきなり3万人を超え、その後は3万人以上が続いています。自殺者数は、失業と強い相関があります。

3.暴落とリスクの金融経済学

 国債を安全資産とすれば、他の金融資産の金利は、リスクプレミアムを上乗せして決まります。金利の上昇は、国債価格の下落を意味します。予想インフレ率が上がると、金利が上がり、国債価格が下がります。景気が悪化すると、国債価格は上昇します。

 株価と商品相場が、04年以降に連動性を高めました(コモディティの金融商品化)。

 リスク管理手法の普及は、暴落時には暴落のダメージを増幅します。本来はリスクを減らすデリバティブが、リスクを増大させます。金融投機で儲ける技術は、見かけ倒しでしかありません。一定以上の損失を防ぐ基本原則は、「損切り」を徹底するしかありません。

4.円高対策という名の通貨戦争

 貨幣の価値は、購買力で測られます(代表が、ビックマック購買力平価)。物価が上れば、貨幣の国内価値が下がり、為替レートも安くなります。

 2011年に、1ドル70円台は適正な水準でした。それなのに輸出産業から悲鳴が上がったのは、日本企業の国際競争力が低下していることを示しています。日本国内の市場の低迷が基礎体力を奪っているからです。しかも、日本の製造業は、円より過小評価されている元も中国やウォンの韓国と競合しなければなりません。

 経常収支黒字国の通貨は、通貨高になります。日本銀行は、金融政策に失敗し続けました。日本政府の行った市場介入は、日本の輸出産業の利益になりさえすればよいというものです。世界の主要国が、自国の通貨安を競うようになると、通貨戦争がエスカレートし、軍事力による戦争になりかねません。現代の世界経済は、通貨戦争に突入しています。

 米ドルが基軸通貨であるのは、米国の民間銀行に世界の銀行が預金しているから決済しやすいことが根本にあります。

 所得の内、「消費されなかった部分」が「貯蓄」。貯蓄の部分だけお金が余り、物も同じだけ余ります。企業が貯蓄を全て借りて投資を行えば、物も金も残らず使われます。生産設備への投資は、生産能力の拡大をもたらし、消費拡大を可能にします。

 近年の日本のように、消費不足の不況は深刻になりやすいのです。政府が借金をして買うとか、海外へ売るとかします。経常収支の黒字が拡大します。景気を考えると経常収支黒字を拡大したいと願ってしまう。そして、稼いだお金を従業員に還元せず、内部留保として溜めこんでしまう。だから国内では物が売れず、海外に売るしかない、という悪循環から抜け出せません。

 お金が国外投機に向かえば、物の面の円高要因と同じ規模で円安要因が生じます。対外投資は、短期では、国内と海外の金利差に左右されます。日本の金利が低いために、円安になり易い。一方で、金利差は物価上昇率を反映して、円高を生じさせます。結果として、(リスク管理の徹底が変動を増幅することもあり、)円高は急激なものとなりやすいのです。

 日本の企業部門の貯蓄過剰体質を解決しないと、日本経済は復興しません。海外に進出している日本企業は、「国内」ではなく、「国民」経済で考えます。日本の自動車産業の企業では、従業者の半数が国外の現地法人で働いています。もはや、日本企業と呼んでいいのかどうか疑問です。グローバル企業には、国籍という概念が合わなくなっています。

 国内消費市場の成長が国家の経済力になります。消費は成長する生産を支えます。根本の問題は国内にあります。本当に肝心なのは、労働者の賃金を上げることです。物価よりも賃金を政策目標にすべきです。

5.財源を考える

 消費税が「外税」方式であれば、自動的に消費者に転嫁された筈です。ところが、日本政府は、内税方式に変更しました。企業が値上げをしないと、転嫁できない訳です。価格転嫁できないとすれば、労働者の賃金カットでしか吸収できません。消費税を増税するなら、価格転嫁を徹底させるべきです。

 日本政府の破綻という事態を想定して、どう備えるかを考えるべきです。財政が破綻しても、政府としての機能を果たし続ける責任があるのですから、「破綻処理プラン」を持っておくべきです。財政破綻をさせて負の遺産を整理してしまった方がいいのではないか。本当に問題なのは、今の政府だからです。