《5. 認知と思考》

 チンパンジーは数を数え、道具を使い、鏡を見て自分だとわかります。象徴図形を識別することもできます。他社の心を理解して振舞うことができます。協力したり騙したりもします。関心の中心が今なので思い悩むことはありません。

 (笑いにみられる)呼気の断続は、攻撃性の表出です。それを、自分たち以外の第三者に向けて放出し、無害化する中で、相互の連帯を強めと推測されます。相手から笑いを向けられる=笑われるのは気持ちの良いものではありません。

 霊長類のコミニュケーションは、表情や音声を使います。ニホンザルは群れの中で順位が成立しています、劣位のサルは、葉をむき出して口を左右に広げ、優位なサルに見せます。「キキっ」と聞こえる音声を出します。服従の意思があると解釈されています。

 ニホンザルは森の中で、「クー」という音声を頻繁に出す「クーコール」を鳴き交わします。見通しの悪い森の中で、お互いの場所を確認するための音声と考えられています。

 人では、鏡に映った自分がわかる年頃に、共感や他者の視点の理解が可能になり始めます。チンパンジーでは、鏡を見て自分がわかるためには、他社を見る、他者と関わる経験が必要なことが示されています。

 ヒトでもチンパンジーでも生後二ヶ月頃まで、新生児模倣が見られます。自動的に起こる新生児模倣のかわりに、社会的に関わるようになります。チンパンジーは、行動の目的や因果関係注意を向けやすいようです。「ものまね」の欲求は、ヒトならではなのかもしれません。

 三種類の錐体視物質は、光の吸収波長が単波長・中波長・長波長に対応します。青緑赤と呼ぶこともありますが、視物質の吸収波長のピークも青緑赤にはありません。魚類・爬虫類・鳥類の多くは、四種類の視物質を持っています。

 哺乳類の大部分は、二種類の錐体視物質しか持たない「赤緑」色盲です。哺乳類が二億年前に爬虫類から分岐した頃、地球は恐竜の全盛期でした。恐竜は昼間に行動し、視覚に依存した生活をしていましたが、哺乳類の祖先は夜間に行動することで生き延びていました。哺乳類の祖先たちは視物質の遺伝子のうち二つを失ったのです。霊長類の祖先も二色型から出発しました。

 原猿類は長波長の遺伝子をX染色体上にしか持ちません。錐体視物質は、常染色体上に載っているS視物質遺伝子と合わせて二種類です。一部の原猿類では、メスは日本のX染色体を持っているので、メスの一部(視物質遺伝子が異なる場合)は三色型になります。オナガザルと類人猿では、視物質遺伝子はヒトとほとんど同じです。

 音源を定位する能力は、頭部が大きいほど、左右の耳が離れているほど高くなります。また、頭部の小さいサルほど高い音を定位できます。

 ヒトでは、相手の意思を理解する能力(心の理論)が発達する4〜5歳になるまで、欺きの概念を理解するのは難しいと考えられています。2〜3歳児は、人助けをするのが得意です。ついた嘘に辻褄を合わせるには高度な心の理論が必要です。

 ヒトの赤ちゃんは、頭がこれ以上大きくなると産道を通れなくなるので、未熟な状態で生まれると言われます。哺乳類のうち、巣穴で子供を産み育てるネズミやリスなどは、裸で目も開いていない未熟な状態で生まれます。ウシやウマなどの離巣性の種では、生まれて間もなく歩きます。巣を作らない多くの霊長類も、出産直後から目が開いていて、毛も生えていて、母親につかまる能力を持っています。ヒトの場合、無力な赤ん坊を両腕に抱えて育てなければなりません。母親と赤ん坊はその場に留まり、他のメンバーが獲得した食物を分けて貰うようになります。特定の男女で、育児や採集を分担することで、長期に継続する配偶関係が維持されます。

 サルの脳の溝は個体差が少なく、同じ位置に同じ脳溝があります。ヒトの場合は個人差が大きく、脳溝の位置や形がかなり違います。

 白目は、まぶたを開けた時に露出する黒目以外の部分(強膜)です。ヒトの白目が白く見えるのは、強膜の繊維が光を散乱させるからです。ヒト以外の霊長類の目には、白目がありません。ヒト以外の霊長類で目に色がついている要因はわかっていません(色素にはコストがかかります)。ヒトは視線によるコミュニケーションを獲得しました。

《6. 生理と病気》

 野生動物にとっては、消化管寄生虫と皮膚ダニに対する防衛システムは重要です。寄生虫やダニが排除されるとともに、花粉症やアトピーなどのアレルギー疾患が急増しました。

 体を動かそうと思っても思うように動かせないことを「麻痺」と言いいます。リハビリで、麻痺の起きていない神経で代替したり、麻痺の起きた部分の機能を回復したりします。

 大脳皮質から脊髄に直接情報を伝達する新経路を皮質脊髄路と言います。それ以外は、脊髄の介在ニューロンを中継します。この直接シナプス結合の有無が、精密把握ができるかどううかに関わっています。直接シナプス結合に関わる軸索の殆どは、一次運動野のニューロンから出ています。

 グリア細胞は神経細胞や他のグリア細胞と情報を交換し、シナプス形成の位置の決定に関わっています。生後、神経活動が盛んになると、シナプスから脳由来神経栄養因子が分泌され、活動の強いシナプスだけが残ると考えられています。

 蛋白質の合成につながらないノンコーディングRNAが多いことがわかってきました。蛋白質の翻訳を制御する働きを持つものがあります。脳に関連する遺伝子は、免疫系の遺伝子などと比較すると、変化が小さいことが知られています。

 精巣(睾丸)が最も大きいのは、複雄複雄のチンパンジーやマカク。テナガザルなどペア型種で最も小さくなります。ゴリラなど単雄複雌群の種は中間です。チンパンジーは、毎日十数回の交尾射精が周年可能です。。ヒトの精巣の大きさは単雄複雌型に近く、ペア型よりいくらか大きく、両性で浮気する可能性があります。

《7. 遺伝とゲノム》

 ヒトと線虫のDNAに大きな違いはありません。遺伝子のコピーが生じ、それが偽遺伝子となると考えられます。その数は二万で、機能している遺伝子の数とほぼ同じです。

 突然変異が女性より男性の方が多いと予測されています。Y染色体上にある因子に蓄積した変異は、X染色体上にある因子に蓄積した変異の1.57倍でした。

 RNAに転写されたものが逆転写によって再度ゲノムに挿入されたDNA(レトロボゾン)など、転移因子に由来する配列がゲノムの半分近くを占めます。

 ミトコンドリアは、直径1ミクロン以下の糸状で、そのネットワークは細胞中で分裂したり融合したりして、動きながらを形状が変化します。

 真核生物が細胞膜から核を作り、DNAを包み込んだ。葉緑体の祖先の原核細胞が、嫌気的な地球環境で、光合成能を獲得して、地球の酸素濃度を上昇させた。ミトコンドリアの祖先の原核生物が登場し、酸素を使う呼吸能を獲得し、エネルギーをATPに変換できるようになった。真核生物(単細胞)が、ミトコンドリアの祖先の原核細胞を取り込み、共生関係が生じた。

 ミトコンドリア固有のDNAは(mtDNA)は、共生関係が生まれる際に、真核生物の核に入り込まなかったDNAで、複製や発現に関係する蛋白質をコードする遺伝子は核DNAにあります。

 mtDNAの変化は病気に関係していて、生活習慣病や老化とも関わります。また、ミトコンドリア内膜の電位変化が細胞死(アポトーシス)の制御に関係します。

 mtDNAは核DNAより進化速度が速い。無性的に複製されます。ミトコンドリアは酸化反応が盛んなためにmtDNA分子が壊れやすい。DNA修復機能が働かないからです。

 ヒト科四属は、ヒト属、チンパンジー属(チンパンジー・ボノボ)、ゴリラ属、オランウータン属。ヒトはチンパンジーとボノボの共通祖先から、540万年前に別れました。ヒトはチンパンジーと最も近縁です。

ヒト科の系統

 染色体とは遺伝子が収まっている物質と定義されます。染色体の形を決めるのは、染色体の対を分裂時に分ける動原体(セントロメア)の位置です。

 フェロモンは、動物から分泌され、同種の個体に特異な反応を引き起こす物質、と定義されています。ヒトや類人猿や挟鼻猿類では、フェロモン受容体遺伝子は、偽遺伝子で機能しているものが少なく、フェロモン受容は機能していないと予想されます。サルのフェロモン物質は発見されていません。

 フェロモンらしい現象はあります。女性が共同生活をしていると月経周期が同調する(寄宿舎効果)。脇の下のアポクリン腺から分泌される物質の中に、原因となる物質が含まれているようです。フェロモンが嗅覚と異なる神経回路で処理されているとしたら、意識されずに受容している可能性もあります。

 ニホンザルは、オナガザル科マカか属のサル(マカク)の日本固有種です。下北半島が世界の野生霊長類の分布の北限にあたります。ニホンザルは尾が短いのが特徴です。尾の長さは緯度に創刊して小さくなる傾向があります。

《8. 霊長類研究所》

 京都大学附属霊長類研究所は、愛知県の犬山市にあります。今西錦司をはじめとする研究者たちが、名鉄の支援を受けて、日本モンキーセンターが1956年に設立されました。