「量子力学と経路積分 R・F・ファインマン 1995年 みすず書房

 あの!ファイマンさんの講義録を土台にした量子力学と経路積分のテキスト。名著として名高い本ですから読んでみることにしました。とは言え、数式はかなり難しく解らないものがどっさり。という訳で、概念的な部分だけは外さないように読んでみました。 以下はその要約と引用です。

《1. 量子力学の基本概念》

・二重スリット実験
 xに到達する確率は、穴1を通って到達する確率P1と、穴2を通って到達する確率P2との和である。この推論は間違っている。穴1を通って到達する確率振幅φ1と穴2を通って到達する確率振幅φ2の和となる。

 xにある検出装置に到達する波の強度(振幅の絶対値の2乗)を計算し、その強度を、粒子がxに到達する確率として解釈する。

 2つ以上の選択肢の可能性を持つ過程がそのうち1つの選択肢を決定すると、それぞれの選択肢の間の干渉が消える。粒子が特定の位置と特定の運動量を持つという考え方には限界がある。

 選択肢の意味。1つの意味は排中律の概念と関わっている。もう1つの意味は、組み合わせ、あるいは干渉の概念と関係している(干渉的選択肢)。2種類の選択肢が共に存在することもある。穴は干渉的選択肢であり、計測器は排他的選択肢である。

 パウリの排他律に従う粒子がフェルミ粒子。これらの奇数個持つ複合粒子もフェルミ粒子である。交換によって位相を変えない粒子はボーズ粒子。偶数子のフェルミ粒子からなる系もある。

 ある粒子が1に到達したとき、その粒子がAから来たのか、Bから来たのかを決定することは不可能なのである。

 それぞれの選択肢の振幅を加えることにより、xに到達することの全振幅は[φ=φ1+φ2]である。全振幅の絶対値の二乗をその事象が起こる確率として解釈する。ある事象の振幅は、その事象が起こるいろいろな選択肢の振幅の和である。あるところに到達することの全振幅は、あらゆる可能な経路についての振幅の和をとったものである。

《2. 量子力学の運動法則》

 任意の時間における位置はtの関数である座標xによって与えられるものとする。経路は関数x(t)のことを指す。粒子が初期時刻taに位置x0から出発し、時刻tbに到達するとする。量子力学では、aからbに至る振幅を考え、これを核と呼び、K(b,a)と書く。これは端点ab間の全ての軌道から寄与の和をとったものである。

 古典軌道xは作用Sを最小にする(最小作用の原理)。極値経路x(t)の形は変分法で決定される。

 量子力学では、aからbへ行く振幅は、干渉的選択肢の経路の振幅の和である。作用がhに比較して大きいとする。わずかに異なる近接する経路は、hが小さいために、位相は異なるので、寄与は打ち消し合う。近接する経路は、同じ位相で相加的に干渉する。それゆえに古典力学において経路x(t)のみを考える近似は、作用がhに比較して大きい場合に正当化される。

《6. 量子力学における摂動論》

 摂動展開は、系の運動エネルギーなどに比べて、ポテンシャルが弱い時に有効である。原子によって散乱される電子の運動のような、散乱相互作用の記述に有効である。

《7. 遷移要素》

 時刻t1とt2の間の系の伝播を記述する核Kを用いて関数φを元の波動関数で表すことができる。得られる振幅は遷移振幅と呼ばれ、その絶対値の二乗は求める確率を与える。振幅確率を直感することは困難である。

 系の発展を記述する作用は二つの部分に分離される。[S=S0+σ]S0は単純な経路積分を与え、σは(充分小さい)摂動である。

《8. 調和振動子》

 結晶は、等間隔に「質点」が並び、隣接する粒子はバネで結ばれているという模型で表現することができる。

 シュレーディンガー方程式と異なる場の方程式が存在する。マクスウェルの電磁場の方程式である。パイプオルガンが定在波、すなわちモードを持つように、空洞中の電磁波も振動の基本モードによって記述される。これらの振動も量子化されて、それぞれのモードが基底状態の上にhωnのエネルギー準位を持つ推論することは自然である。

 フェルミ場の粒子は排他律に従う。調和振動子のモードとして量子化される場はボーズ粒子と呼ばれる。

 線形系が他の系と相互作用したり、外力によって駆動されている場合を考える。場を独立な振動子の成分に分解する。それぞれの振動子と外場ポテンシャルや他の系との相互作用を記述する、の二つの問題に分解される。

《9. 量子電気力学》

 可能な最低のエネルギーを持つ電磁場の状態は「基底状態」あるいは「真空状態」と呼ばれ、どのモードにもフォトンが無い状態である。真空は一様な密度の質量として重力場をつくるであろう。

《10. 統計力学》

 大部分の現実の状況では、初期状態を完全に決定できない。系はそれぞれ異なる確率でいろいろな状態に存在し得る。終状態も不確かである。熱平衡における量子力学系はそれかのエネルギー準位にある。

 固体・液体・気体の凝縮の理論は、分子数の巨大性と結びつくと豊富な現象を示す。協同効果に対して定性的説明は得られるが、定量的詳細も魅力的だ。自由エネルギーの式にTに比例する項が現れる。エントロピーに付加的定数が現れる。

《12. 確率論における諸問題》

 ある物理現象のある特定の時間的歴史を得る確率はいくらか。関数の確率を考えることになる。関数f(t)を観察する確率は、汎関数P{f(t)}である。

 経路積分は、座標と運動量が系を記述するのにふさわしい場合に有効である。スピン演算子などを議論できない。