「生物は重力が進化させた」 西原克成 1997年 ブルーバックス
古い本ですが、当時は話題になった本でした。ブックオフで見つけたので本で見ることに。骨も内容もある好著でした。有難う御座いました。 以下はこの本の要約と引用です。*印は生禿の感想です。
《はじめに》
バクテリアは1万5千Gに耐えられる生物である。*大絶滅は多細胞生物の殆どを絶雌させるが、単細胞生物の少なくない種は生き残ります。
特定の環境の下で適した行動様式は、獲得形質として次の世代に伝わる(用不用の法則)。
《1. 突然変異と自然淘汰で進化は説明できない》
ダーウィンの進化論では、突然変異が起こり、自然淘汰によって群全体に広がる構図になっている。脊椎動物の進化を考える限り、ラマルクの用不用の法則の方が適切である。全ての動物について、ある器官の頻繁な使用は、この器官を発達させる。「獲得形質の遺伝」が否定されているために、「用不用の法則」までも否定されている。
木村資生博士は「分子進化の中立説」を提出した。突然変異と言うのは、言い換えれば奇形である。奇形の子供が生まれてもうまく育つ可能性は低い。突然変異では進化は説明できない。突然変異が、相当数の個体に現れることが必要だが、そんなことは起こる筈は無い。
サザエは波のよる力を受けないと、角なしになってしまう。これを五代くらい続けると、角の生やし方を忘れた個体がでてくる。
獲得形質は「遺伝」に依らずとも、次の世代に伝わる。親の行動様式が子供に受け継がれるだけで、親が獲得した形質は子供に伝わる
《2. 形と器官は重力に対応して進化する》
ダーウィンは、畜産課や育種家と交際し、人為淘汰(選択)を自然淘汰に置き換えて考えた。ダーウィンが参照したのは主に植物。動きの少ない植物では、重力対応の進化は起こりにくい。
脊椎動物の原型は、脊索という組織を持つ原索動物。ホヤである。ホヤの生まれたてはオタマジャクシのような形をしている。幼生のホヤが岩に着かず、そのまま成長すると魚の原型になる(幼形進化)。有尾変態は、特定のイオン濃度の下では尾を短縮するアポトーシスの引金が引かれなくなり、有尾のまま時期が来ると内蔵系が変態を開始する。脊椎動物の初めの一歩は、海水中のカルシウムイオン濃度などの外的要因(環境)によるものである。
重力環境下で泳ぎ回るホヤは、頭を前にして進む(頭進)。頭部に位置していた腸などの臓器は、慣性力により後ろに動いていく。体自体も長くなってくる。脊椎動物では、口と肛門はさらに離れる。腸が分化して、新しい器官ができる。
体内の液体の大部分は水溶液であり、電解質を含むから、電荷が偏っている。同じ運動によって一定の個所を刺激すれば、その箇所の細胞の遺伝子の発現様式が変わり、器官の分化が起こる。全ての細胞は、体のどの部分にもなり得る能力を持っている。進化は、一億年を要する過程である。
海水中を泳ぐホヤは、摂取したカルシウムイオンとリン酸が結合し、軟骨の鱗がアパタイト化して硬い表皮となる。ホヤから進化した骨甲類が、外骨格を獲得し、その下に造血層を形成した。
ホヤの皮膚は口の中まで陥入していた。甲羅がアパタイト化すれば、口の中の甲羅のアパタイト化する。これが歯の原型である。餌による力学刺激で、周りの甲羅とは違う様相を呈していったのである。泳ぎ出したホヤは、軟骨でできた歯と、分化しかけた顎を獲得した。
ホヤから円口類が出てくる頃になると、背と腹の違いが明らかになってくる。腹側に神経があり、背側に血管がある。
三億年前のデボン紀に、ホヤの子孫は一億年かけて水中から上陸した。鰓呼吸から肺呼吸へ、体内の骨格は硬骨となり、脾臓にあった造血器官は骨髄腔に移動した。陸に上がったのは、軟骨魚類の鮫。鮫が陸に踏み迷うとき何が起こるかを観察すれば、進化の謎はすぐに解ける。
硬骨魚類は、軟骨魚類がデボン紀に水陸両用の生物となる一億年間を経た後、海に回帰したもの。肺は浮袋に変化している。デボン紀は地球の激変期で、海が浅くなり汽水ができ、洪水と旱魃が繰り返され、多くの海中の生物が絶滅した。多くの古代鮫が汽水に閉じ込められ、それが干上がると、鮫は水を求めて陸を渡った。今でもアフリカや南米では水を求めて大量の魚が陸を移動する。肺魚などは土中に繭を作って、水なしで肺呼吸をする。
水中から地上へ、6倍になった見かけの重力(1G)への対応。空気中での呼吸へに対応が必要だった。また、水中の生物は血圧が低い。浮力に相殺された1/6の重力の環境では、尾と鰭と鰓を動かせば、それだけで心臓脈管系を血液とリンパが巡る。心臓のポンプは大きくなる必要は無い。
いきなり1G環境におかれると、自分の体重が重くのしかかってくる。尾と鰭を動かしても、血液は体中を巡らない。血圧を上げさえすれば、自分の体重を支え、血液を巡らすことができる。のたうち回ればよいのである。鮫は呼吸ができないから、のたうちまわらざるをえなかった。血圧が上がったために鰓で空気呼吸ができるようになる。鮫は鰓でも数時間は空気呼吸できる。
軟骨が硬骨になり、造血機能が脾臓から骨髄へと移る。血圧が上がると、体の中を流れる血液と血管壁をはじめとする周囲臓器との間に生じる流動電位が高まる、生体内では、血圧は変動電位に翻訳されている。電流により軟骨は硬骨に変わる。流動電流により、局所の細胞の遺伝子の発現を招くのである。鮫がのたうち回った結果である。
アパタイトの存在下で軟骨を形成していた間葉細胞の遺伝子の引金が引かれ、造血細胞及び増骨細胞に分化する遺伝子が発現する。骨髄腔はアパタイト(リン灰石)やDNAの複製に必須のリン酸とカルシウムイオンが大量に存在する。
生体は液体でできているから、体に加えられた生体力学刺激は、液性の流動に翻訳され、さらに流動電位に変換される。この電流と酸素、リン酸、カルシウムなどの栄養との複合で、各器官を構成する細胞の遺伝子の発現が起こる。
体の使い方が変われば、遺伝子の発現のし方が変わり、骨を含む臓器が変化する。鰭であった骨に関節ができるたのは、骨が折れたことに由来する。しれがやがて間接になる。機能が変われば形が変わり、形が変わればその使い方もさらに変わっていく。日光猿軍団の猿は骨格が人間に近づいている。背骨がまっすぐになり、足まで人と同じようになってしまう。
波と顎(咀嚼器官)の獲得の過程は複雑である。原始哺乳類は、なんとか噛みながら餌を食べていた。これを続けて、セメント質・歯根膜・固有歯槽骨ができる。デンタルインプラントは、爬虫類の歯にすぎず、歯の破壊が必ず起きる。
脊椎動物に限って考えれば、進化は生体力学的な対応によって起こる。
《3. 遺伝によらず変化は次代に伝わる》
行動様式は次世代に伝わる。環境因子が同じなら、次の世代にも同じような変化をもたらす。遺伝子は(数百万年後に)形態や機能の変化を後追いする。遺伝と進化は別物である。
実験で山椒魚を卵胎生ににすることができる。出産の引金は水の有無にある。胎盤の獲得も、生体力学対応で行われる。胎生と言う機構がたやすくできてしまう。
眼は脳の飛び出した部分で、外肺葉性である。眼が見えるのは、光刺激によって網膜を形成する細胞群の遺伝子の引金が引かれ、一連の連鎖反応が作動する。光が無ければ、遺伝子の発現は止まる。環境因子によって遺伝子が発現する。
《4. 進化の全体像》
代謝は、生体内の物質変化の総称である。免疫系の本質は、細胞レベルの消化である。体は常に作りかえられなければならない。新陳代謝が生命活動である。
前歯と犬歯と臼歯(奥歯)を未完成の状態で入れ替えると、入れ替えた場所に生えるべき歯になる(場の理論)。
ゾウリムシは、眼に当たる光点や呼吸器や、消火装置から排泄装置まで持っている。形も大きく、遺伝子も二重構造になっており、ミトコンドリアも備えている。この段階でできた遺伝子が、多細胞系に集合した生物を作った時に、それぞれの器官を作る細胞が、決まった刺激が引き金となって分化誘導されて、器官が形成される。原生生物が完成すれば、多細胞生物の進化は用不用の法則で説明できる。
アメーバーと我々の体の中の白血球は区別ができないほど似ている。我々の体の中には、遊走性のアメーバーに似た白血球やリンパ球が共存している。
個体発生と系統発生の間には密接な関係がある。「個体発生は系統発生を繰り返す」。幼生成熟でヘッケルの反復説は成立する。
個体発生の過程を、卵や母体内で過ごす動物では、外的・内的環境は全て体内で再現されている。
《5. 力学対応進化学の医学への応用》
胎児では自己と非自己を区別する機構が無いことが知られている。移植による拒絶反応が起こらない。主要組織適合抗原がないのである。鮫にも自己・非自己を識別しない。ヒトの主要組織適用抗原はHLA(ヒト白血球抗原)と呼ばれ、白血球の膜に存在する。
胎児は、羊水に浮かんでいる。出産後に1Gの刺激を受けて、骨髄や造血などの遺伝子が発現する。