「高校数学でわかるボルツマンの原理」 竹内敦 2008年 ブルーバックス

 「高校数学でわかる」シリーズはとても勉強になります。これも読まなきゃというより、なんといってもボルツマンの統計力学ですから、私が読むべき本のだったのです。読み忘れていたのは、ちょうど出版された当時、忙しかったからだと思われます。暇なのも困るけれど、時間があるって言うのも素敵なことですね。検査入院中に1日で読んじゃいました。ちょっと頭が疲れた〜。嬉しい! 以下はこの本の要約と引用です。講義の参考になるように、基礎的な事柄を中心にまとめました。


《1.天を目指す人々》

 1787年、水素気球の実験の4年後に、シャルルは空気の体積(Volume)と摂氏温度tの関係[V=a(t+273)]を見つけました。-273℃を発見しました。ケルビン(K)で書けば[V=aT]。

 ベルヌーイは、気体が分子の集団であれば、気体の熱力学的な性質を説明できると気づきました。質量mで速度vの粒子の運動エネルギーは[E=(mv^2)/2]。温度が高いほど気体分子は壁に激しくぶつかります。圧力が高いということは、周りの空気を押しのけて膨張することを意味します。シャルル以前に、 ボイルは[PV=一定]を明らかにしていました。ボイル・シャルルの法則[PV=RT]。P(Pressure)は圧力。Rは比例定数。

 アボガドロ定数個の原子=原子量(g)。アボガドロ数の水素原子が1gになります。酸素分子O2がアボガドロ数あるときの質量は、16g*2=32gです。

 気体の状態方程式[PV=nRT]。nはアボガドロ定数のn倍の分子量があることを示します(モル数)。Rは8.31J/(mol・K)。

 理想気体には、単原子分子理想気体と、二原子分子理想気体があります。

 水の分子が1molあると、H2Oの分子量にgの単位をつけた量になります。H2Oの分子量は18。水1gの体積は4℃で1僉瓧cc。1molの水の体積は18^3=18cc。

 室温は300K(27℃)。体積比で空気の成分は、窒素が78%、酸素が21%、残り1%はほぼアルゴンです。

 パスカルは、気圧も海の水圧と同じように考えればよいと気づきました。1気圧、海抜0mで、1屬△燭10tの荷重になります。

 上空での気圧や気温を測るのに、水素気球が活躍しています。ラジオゾンデは地表から3万mの高さまでの気圧や気温を地上に送ります。日本国内16ヶ所の気象台から1日2回(世界標準時の0時と12時、日本時間の9時と21時)上げられています。全地球規模の観測が行われています。

《2.夢のエンジン》

 熱エネエルギーを力学エネルギーに変換する機関を熱機関と呼びます。

 カロリーは、1gの水の温度を1℃上げるのに必要な熱量。

 熱量:Qと内部エネルギー:Eと仕事:Wの関係[∆E=∆Q−∆W]。熱Qや仕事Wの出入りは、内部エネルギーの変化に等しい(熱力学の第一法宇則)。

 気体の内部エネルギーは、単原子分子理想気体の場合、「気体分子の重心の運動エネルギーの総和」です。

 自由膨張とは、気体が何も仕事をしないで膨張する場合です。自由膨張では温度は変わりません。内部エネルギーも変化しません。

 気体分子の集団の内部エネルギーは、温度だけに依存し、体積に依存しません。

 1molの気体の温度を1℃上げるのに必要な熱量をmol比熱と呼びます。温度を∆T上げるのに必要な熱量をQとすると、その比∆Q/∆Tが比熱です。

 体積を一定にして温度を変えた場合(定積比熱)と、圧力を一定にして温度を変えた場合(低圧比熱)では、比熱の値が異なります。体積を一定にした場合は、温度を変えても気体は仕事をしませんが、圧力一定の場合は温度を変えると体積が変化するので、加えた熱量の一部は仕事にも使われるからです。

 カルノーサイクルは、等温過程と断熱過程が関わります。等温過程で膨張した場合の仕事のエネルギーは、外から熱を貰ったことになります。等温過程で外から圧縮されて体積が小さくなった場合は、圧縮の際に外からなされた仕事は、外に熱になって逃げたことになります。

 気体が膨張すると、密度がまわりより低くなるので上昇します。この上昇は温められた空気が、まわりの空気と同じ密度になるまで続きます。空気の熱伝導率はよくないので、この過程は断熱膨張過程で近似できます。暖められた空気の塊は、断熱膨張するので、内部エネルギーが減少して温度が下がります。

 カルノーサイクルは、シリンダーに接するのものが、高温の熱源-断熱材-低温の熱浴に切り替わる構造になっています。

 等温膨張過程で、貰った熱エネルギーを全て仕事に変えるので[∆Q=W]です。等温圧縮過程では、外からされた仕事によって、気体は圧縮されますが、この仕事によって増加するエネルギーはそのまま外に熱として放出されます。

 等温膨張では熱が供給されるのでエントロピーは増大し、等温圧縮では熱が排出されるのでエントロピーは減少しました。

 断熱膨張によってする仕事は、気体の内部エネルギーの減少によるものです。断熱圧縮過程では、外からされた仕事によって気体は圧縮され温度は上がります。

 理想気体は断熱膨張の過程でCV(TH−TL)の熱エネルギーを使い、断熱圧縮の過程でCV(TH−TL)のエネルギーを貰ったことになります。両社の差し引きはゼロ。断熱膨張で使った熱は、そのまま断熱圧縮で取り戻しているわけです。

 熱機関の熱効率ηは、[η=外部にした正味の仕事/高温の熱源から貰った熱]で定義します。[η=1−TL/TH]。熱効率は、高温の熱源と低温の熱浴の2つの温度だけで決まります。また効率は必ず1より小さくなります。高温の熱源と低温の熱浴の温度差が大きいほど、効率の良い熱機関です。

 動物の生命活動の効率は25%ぐらい。

 タービンは、気体が流れることによって回転する羽根車です。

 「摩擦が不可逆過程である」は熱力学の第二法則。

 仕事を熱の移動に変えるのは「ヒートポンプ」。

 全微分は、∆xが非常に小さいと座標(x,y)と座標(x+∆x,y)でy方向の傾きは同じと考えてよいという前提で成り立っています。

《3.エントロピーって何だ?》

 カルノーサイクルに限らず、可逆な過程だけで構成されるサイクルを一周すると、その一周の積分(閉積分)はゼロになります。[∫dQ/T=0]。このQ/Tは熱とは異なる何かの変化を表す量です。クラウジウスはギリシャ語の変化をからエントロピーと命名しました。[dS=dQ/T]この式は可逆過程にのみ成立します。

 エントロピーを[dS=dQ/T]と書けるのは可逆過程のときだけです(定義されています)。1サイクルの間に不可逆過程が入ると、[dQ/T]の積分が負になります(クラウジウスの不等式)。

 可逆過程では、エントロピーは増えたり減ったりします。断熱可逆過程では、エントロピーは変化しません。

 エントロピー増大の法則が成り立つ条件は、断熱過程である、不可逆過程であるの2つ。断熱の不可逆過程が起こるとエントロピーは増える、がエントロピー増大の法則です。エントロピー増大の法則は経験で導かれた経験則です。

 固体では原子の移動は起こらず、熱だけが移動します(熱伝導)。

・熱力学の第二法則の表現
摩擦は不可逆である
熱は高い所から低い所へ流れる
熱から仕事だけを取り出すことはできない
エントロピーは増大する
永久機関は存在しない

 等温過程で外への仕事として使えるのは、内部エネルギーEからTSを引いたもの。[F=E−TS]は等温過程で自由に利用できるエネルギーです(ヘルムホルツの自由エネルギー)。

 ギブスの自由エネルギーは[G=E−TS+PV]。等温等圧の場合の自由エネエルギー最小の原理に関係します。

 平衡状態の条件は、[T1=T2]と[P1=P2]と[N=N1+N2]、そして「化学ポテンシャル」が等しいこと[μ1=μ2]。平衡状態での分子数の配分は[δS1/δN1=δS2/δN2]。ここで[δS/δN=-μ/T]で定義するμを化学ポテンシャルと呼びます。化学ポテンシャルは[G=Nμ]。分子一個のギブスの自由エネルギーです。

 大きな系の中に入った小さな系。ある系がエネルギーのやりとりが可能な大きな環境系の中に置かれ、環境系は断熱されている場合。環境系は熱量∆Qをある系に与えても貰っても温度は変わらないとします。どの条件を一定にするかで、平衡条件が変わります。

一定にする量 変化の向き 平衡の条件
E,V ∆S>0 Sg最大
S,V ∆E<0 Eが最小
T,V(等温等積過程) ∆F<0 Fが最小
T,P(等温等圧過程) ∆G<0 Gが最小

 個体の場合は、外界との熱のやりとりをしながら等温状態で進行する場合が多いので、等温等積過程が適用されることが多くなります。化学の世界では、温度と圧力が変化しない条件(等温等圧過程)で化学反応が進む場合が多いので、ギブスの自由エネルギーが最小になることが平衡条件の判定条件となります。

《4.気体分子運動論》

 気体の衝突の運動量の変化は力積に等しい。気体分子から受けた壁の力積は[2mvx]。結果として、1molの気体分子の内部エネルギーは[E=(3/2)RT]。分子一個当たりの運動エネルギーは[(3/2)kBT]。

 ある物体の運動を表すのに必要な座標軸の数を「自由度」と呼びます。

 酸素分子の空気中の速度は、音速より速い483m/s。

 経験に基づいて組み上げられた熱力学の物理関係が、原子や分子の運動として理解されるようになりました。統計力学と熱力学は、用いる対象によって「都合も良い」方を使います。

《5.統計力学》

 気体分子のエネルギー分布=マクスウェル・ボルツマン分布が対象とするのは、ニュートン力学で扱える粒子。

 同じエネルギーに状態が複数あるのは、「動いている方向が違う分子は別の状態にある」と考えるからです。

 気体分子の場合の数。最も場合の数が多い組み合わせが、最も高い確率で現れる組み合わせです。最も場合の数が多い組み合わせを見つけるために、ラグランジュの未定乗数法を使います。定数が決まっていないので未定乗数法と呼びます。

 マクスウェル・ボルツマン分布は[Ni∝e^-Ei/kBT]。

 ボルツマン分布は、気体分子の運動だけでなく、電子はフェルミ・ディラック分布に従いますが、半導体の中の自由電子の動きを表す場合にも近似として使います。

 電子や光子が区別できないというのは、そう仮定したフェルミ・ディラック統計やボース・アインシュタイン統計の考え方で、電子や光子の分布が説明できるので、そう認めざるを得ないのです。

 分子間に相互作用のない理想気体を冷却すると、ある温度以下では、最もエネルギーの低い状態に多数の粒子を集まります(ボース・アインシュタイン凝縮)。

《6.ボルツマンの原理》

 ボルツマンの原理の関係式[S=kB*logW]。エントロピーSと場合数Wを結ぶ関係式。。エントロピーの統計力学表現。エントロピー増大の法則は、「ある系が場合の数の多い状態に向かって変化していく」という意味を持っています。Nが大きくなると中心が尖ったガウス型分布になります(中心極限定理)。「安定な状態に変化する」のがエントロピー増大の法則の意味です。

 エネルギーが一定で、かつ、周りから孤立している系をミクロカノニカル集団。その分布をミクロカノニカル分布。外部との熱のやりとりがあって温度が一定である系をカノニカル集団。外部と熱と粒子のやりとりがある系はグランドカノニカル集団、と呼びます。カノニカル分布は、正準分布と訳されています。英語のcanonの語源はギリシャ語の定規です。ミクロ〜グランドは、それぞれの分布の適用範囲の広さを表現しています。