「ＥＵの知識 16版」 藤井良広 2013年 日経文庫
ずっと以前の版を読んだ。情報を更新しなくっちゃ…っという訳で手に取りました。 以下はこの本の要約と引用です。＊はＷＥＢ検索結果です。
■ はじめに
基準･規則を国際標準化する戦略。ＥＵはグローバル社会のリード役です。
■ 岐路に立つ三つのベクトル
ＥＵは、加盟国が増え「規模の経済」力を高めてきました。市場の共通化を深めることで産業の競争力を高める「市場化」戦略をとってきました。12年のＧＤＰは米国を上回っています。
単一通貨ユーロと欧州中央銀行(ＥＣＢ)による単一金融政策の展開。拡大市場での競争が経済合理性によって進むほど、格差が生じます。
財政政策は各国ごと。財政金融一体の経済運営が、各国でもＥＵでもできません。財政政策も共通化･統合化する財政統合論が出てきます。［ＥＵ参加→金融政策統合→財政政策統合→欧州合衆国］さらなる統合論です。
国債(ソブリン債)の格付けが下がれば、ソブリン･リスクが高まり、国債の借り換えが進みません。最悪の場合は債務不履行(デフォルト)の可能性もあります。
2010年、ギリシャ国債の格付けはＢＢＢマイナスに下がります。アイルランドとポルトガルの国債もＢＢＢマイナス以下に下がります。
アイルランドの経済力は「ケルトの虎」と讃えられるほどでした。リーマンショックで、アイルランドの経済は失速します。
ＥＣＢは、国債買入計画を発表し、通貨危機は落ち着きます。しまし、中央銀行が金融機関の不良債権や、国の債権を引き受けると、中央銀行の信頼は傷つきます。
＊アイルランドの最近の経済状況
IMDのWCC(世界競争力センター)が発表した2023年WCR(世界競争力ランキング)では、アイルランドが第１位のデンマークに次いで２番目に競争力の高い経済大国に選ばれました。アイルランドは11位から2位に急浮上し、スイスは順位を1つ下げて第３位となりました。
今回で35回目となるこの年次ランキングと報告書は、世界64ヵ国を対象に、経済文献、国外、国内、地域の情報源、経済界、政府機関、学識者からのフィードバックを用いた総合的な調査の結果選ばれた164の競争力基準というハードデータと、6,400人の上級管理職による92の質問に対する回答を織り交ぜて編纂されたものです。
−経済状況（アイルランド1位）
−政府の効率性（アイルランド3位）
−ビジネスの効率性（アイルランド3位）
−インフラ（アイルランド19位）
アイルランド政府産業開発庁のマイケル・ローハン長官は、次のように述べました。「アイルランドが多国籍企業にとってトップクラスの投資選定先として確立したのも、一貫して安定したビジネスに有利な環境、高い教育水準、優秀な人材を惹きつけ繋ぎ止める力、熟練労働力の柔軟性ゆえです。これらの特性も当たり前に得られたものではありませんが、世界ランキングの上位を維持できるよう、特にデジタル化、持続可能性、イノベーションの分野において、引き続き能力を高めていく必要があります。アイルランドのインフラランキングは若干改善されましたが、この分野もさらなる前進が必要です。アイルランド政府や公益事業者と引き続き緊密に協力し、国家インフラを確実に整備していくことが、現在および将来にわたって我が国全体の企業基盤を支えるうえで不可欠です。これをアイルランド政府産業開発庁の将来計画の主な優先事項としてまいります」。
正規雇用は保護を受ける一方で、若年労働者を中心に非正規雇用者が増えました。日本と同様の労働市場の二重構造です。
ＥＵは景気低迷時に金融政策をとれません。このために財政政策に変調した対策となり、財政赤字を増やしてしまいました。
肥大化した欧州の金融機関。ある加盟国から免許を受けた金融機関は、域内の他の加盟国市場で自由に業務展開を認められます。一方で、金融機関の活動を監督する体制は国単位のままでした。結果、母国監督当局の制御能力を上回るリスクを金融機関が負ってしまったのです。
経済通貨同盟(ＥＭＵ)への取組み。金融機関監督の統合（銀行同盟）。財政枠組みの統合。経済政策枠組みの統合。
共通通貨圏内では、為替変動がありません。経済格差の調整は、域内貿易の自由化、労働移動の自由化によって行われます。
■ ＥＵの機関と機能
・欧州議会
ＥＵの国会。ＥＵ市民が直接選出し、共同立法権を持ちます。
議員は国単位で選出されますが、選出された議員は域内横断の政党グループとして行動します。２０の委員会が設定されています。
・欧州委員会
ＥＵの政府。行政を執行し、法案の発議権も持ちます。ＥＵ法の監視も行います。
各委員会は分野ごとに設置されますが、政策の決定に際しては委員会全体で連帯責任を負います。
欧州委員会の活動は、法州議会がチェックします。
・欧州理事会
欧州理事会はＥＵで最高の権限を持ちます。理事会の常任議長は「ＥＵ大統領」と呼ばれます。
・閣僚理事会
政治調整の場で実質の権限を持ちます。加盟各国の議会を経た意思を閣僚理事会で調整してＥＵの総意を形成します。理事会で合意した政策を、各国議会に下ろして、各国の法規を共通化する手順をとるためです。
・欧州中央銀行(ＥＣＢ)
ＥＣＢは、ＥＵ主要機関からも、各国政府からも独立した機関です。各国中央銀行は、ＥＣＢが決定する金融政策を、自国の金融市場で実践する執行機関です。
・ユーロ･グループ
ユーロ参加国の財務相･経済相で構成されます。
ＥＵの意思決定方式は、全会一致、加重特定多数決、単純多数決です。共同体全体にかかわる政策決定については、全会一致の決定を基本にしてきました。特定多数決は、人口基準(65％以上)と構成国基準(55％以上)。但し、加盟国人口の35％以上、４か国以上の反対があると可決できません。手続き面の決定は単純多数決で決めます。
法案は欧州委員会が準備し、委員会は発議の前に影響事前評価や様々な意見聴取を行います。
合意が得られた決定は拘束力によって４つに分けられます。規則は、全加盟国に適用され、各国の国内法よりも優先します。指令は、その内容に沿って国内の法律や規則などを改正する必要があります。決定は、特定の加盟国や個人や法人を対象にした政策決定に適用されます。勧告･意見は、拘束力はなく、自主的な対応を求めます。
ＥＵと加盟国の管轄権。ＥＵの管轄権が優先する領域=関税、市場ルールの制定、金融政策、海洋生物資源の保全、共通通商政策、共通外交安全保障政策。加盟国との共有権限領域=域内市場、一定の社会政策、経済･社会･領土結束政策、農業、消費者保護など。ＥＵが加盟国の支援･調整･補完行動をとる領域=健康、産業、文化、観光、教育･青少年･スポーツ･職業訓練、市民保護、行政協力。
補完性原則：ＥＵが実践することは個々の市民や国家では対応できないことに限る。比例制原則：ＥＵとしての政策対応は、ＥＵ基本条約の目標達成に必要な範囲を超えてはならない。
加盟国に、建設的棄権という選択肢を設けました。共通外交安全政策(ＣＦＳＰ)の政策に反対の立場加盟国が「棄権」を宣言すると、当該国はＥＵの決定に縛られず、ＥＵも当該国の反対に縛られずに政策決定ができます。宣言する加盟国或いは人口比が1/3を超える場合は採択されません。
多数の賛成を得られなくとも、ＥＵを強化する「強化協力」規定。加盟国の1/3以上の賛成があれば、統合を推進することができる。
・欧州司法裁判所
ＥＵ各機関の活動の正当性をチェックします。各加盟国がＥＵ基本法を順守しているかどうかチェックします。
・欧州会計監査院（ＥＣＡ）
・欧州オンブズマン
オンブズマン制度はスウェーデンの行政監査官制度がモデル。欧州市民からの苦情を受けてＥＵ機関を調査する機関です。ＥＵ機関は日本の役所に比べて効率がよいとされていますが …。
・欧州経済社会評議会(ＥＥＳＣ)
ＥＵのステークホルダーの代表機関。経営者･労働者･その他のグループ構成されています。
・欧州投資銀行(ＥＩＢ)
ＥＵの長期資本供給の中心。
・欧州投資ファンド(ＥＦＩ)
中小企業やベンチャー企業を支援します。
・欧州地域開発基金(ＥＲＤＦ)
加盟国、地域間の格差是正、構造改革を支援する。
・欧州復興開発銀行(ＥＢＲＤ)
ＥＵ機関ではありません。東欧諸国が資本主義へ移行する改革を支援します。
■ ＥＵの歴史と発展
「ヨーロッパ」の呼び名は、ギリシャ神話のフェニキアの王アゲールの娘オイロペに由来します。ゼウスは、美しいオイロペを誘拐し、欧州各地を駆け回り、クレタ島に連れ去ります。それらの地域をオイロペと呼ぶようになりました。
ローマ帝国は東西に分裂し、カロリング朝フランク王国のカール�祇い�西欧を支配します。ローマ教皇からローマ皇帝の帝冠を授けられ、神聖ローマ帝国となります。神聖ローマ帝国はその後、ドイツに継承されます。フランスのドイツの権力争いはこの時代から始まります。欧州域内の統一への動きに影響したのは外敵。イスラムへの対抗です。
欧州統合が本格化するのは第二次大戦後。フランスのジャン･モネは、二度の世界大戦の要員となった独仏間の石炭資源と鉄鋼業を国際共同管理下に置き、欧州連邦の基盤を描きます。欧州石炭鉄鋼共同体となりました。経済面の共同化は進展しますが、軍事面の共同化はなかなか進展しませんでした。
ＥＥＣに対抗して、英国主導でスウェーデン･ノルウェー･デンマーク･スイス･オーストリア･ポルトガルの欧州自由貿易連合(ＥＦＴＡ)が発足。ＥＦＴＡ諸国のＥＵ鞍替えに対して、ＥＵは「政治的寛容さ」で受け入れました。89年のベルリンの壁崩壊で、政治的中立を重視てきたスウェーデン･オーストリア･フィンランドが、ＥＵ加盟に踏み切ります。
＊現在の欧州自由貿易連合
加盟国は、アイスランド、スイス、リヒテンシュタイン（とノルウェー）。ＥＦＴＡ加盟国は、ＥＵとの間で自由貿易協定を締結しており、ＥＵとの経済的な結びつきは強い。ＥＦＴＡ加盟国間では、工業製品に関する関税は完全撤廃されており、自由な貿易が行われている。スイスとオーストリアは中立政策を採っており、軍事同盟に加盟していない。
ＥＵのベクトルは、拡大と進化。独仏枢軸は機能してきました。独仏の結束力が弱いと新たな危機が生れます。両国のリーダーシップでＥＵをまとめていけるかかが問われています。
市場統合は、人･物･金･サービスの自由な移動の確保が目的。商品の仕様･規格･基準や、医師･弁護士･教員などのサービスの資格基準も影響します。
東欧諸国は政治的にも経済的にも行き詰ってのＥＵ参加でした。ＥＵの拡大は、ＥＵの体制に変革を迫っています。
域内の経済格差。労働コストの安さのために、日本も含め多くの企業が中東欧諸国に進出しています。主要欧米企業は、アジアなどに生産拠点を展開しています。
ＥＵ加盟基準。政治：民主主義、法の支配、人権。経済：市場経済、競争力と適応力。アキ･コミュノテール：ＥＵが積み重ねた法体系の受け入れ。
人類史上初めて鋳貨が製造されたのは、紀元前７世紀のギリシャ。ローマ帝国では、弊制の統一が行われました。単一通貨は、ビザンチン帝国のコンスタンチノーブルが陥落するまで持続します。
マーストリヒト条約が調印され、経済通貨同盟(ＥＭＵ)が成立します。政治同盟(ＥＰＵ)と共通外交安全保障政策(ＣＦＳＰ)と司法内務協力(ＣＪＨＡ)も位置付けられました。
＊ＥＵの進展
加盟国の多様性を尊重しつつ、ＥＵとしてのまとまりを維持する方法を見つける必要があります。各国でポピュリズムが台頭し、ＥＵ懐疑論が強まる中で、ＥＵの理念を国民に再確認させる必要があります。
経済統合: 単一市場の完成、ユーロの導入など、経済統合は大幅に進展しています。しかし、ユーロ危機以降、財政規律の強化や経済政策の統一といった課題が浮上しており、さらなる議論が求められています。
政治統合: 政治統合は、経済統合に比べて遅れており、加盟国間の意見対立がしばしば見られます。欧州議会選挙の結果や、Brexit（英国のEU離脱）など、政治統合の進展を左右する様々な要因が存在します。
防衛協力: EUは、共同安全保障・防衛政策（CSDP）を推進していますが、防衛分野における各国の主権意識が強く、統合は進んでいません。
■ 分野ごとの政策展開
《政治･外交･内務協力》
共通外交安全保障政策(ＣＦＳＰ)では、米国依存のＮＡＴＯ体制からの変革も迫られています。ＣＦＳＰの決定は全会一致が原則。利害調整は容易ではありません。
2003年、ＥＵが軍事作戦を行う際に、ＮＡＴＯの能力と装備を使うことで合意しました。共通防衛政策(ＥＳＤＰ)の欧州軍とは、各国から軍事力の提供を受け、多国籍軍を編成する形です。
＊共通防衛政策(ＥＳＤＰ)
ＥＵの共通防衛政策は、近年、地政学的な緊張の高まりや、ロシアのウクライナ侵攻といった事態を背景に、その重要性が増しています。従来、加盟国間の主権意識が強く、統合が遅れていた防衛分野ですが、近年は以下のような動きが見られます。
・進展と強化
2022年、ＥＵは「戦略的コンパス」を採択し、2030年までにＥＵの安全保障・防衛能力を強化するための具体的なロードマップを示しました。加盟国が自発的に参加し、防衛能力の向上や共同プロジェクトの実施を目指す常設構造化協力(PESCO)が強化されています。軍事装備や部隊の迅速な展開を可能にするためのインフラ整備や、各国間の相互運用性の向上などが進められています。欧州防衛産業の競争力を高め、技術主権を確保するための取り組みが加速しています。サイバーセキュリティの強化に力を入れる必要があります。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、ＥＵはウクライナへの軍事支援を強化しており、防衛政策の連携が深まっています。
・課題と今後の展望
防衛政策は国家の安全保障に関わる問題であり、加盟国間の意見対立は依然として存在します。特に、軍事支出や核兵器といった問題については、各国間の立場が大きく異なる場合があります。ＥＵは、北大西洋条約機構(NATO)を通じて米国との緊密な関係を維持していますが、トランプ政権下での米国の「アメリカ・ファースト」政策や、ウクライナ危機に伴う欧米関係の変化は、ＥＵの防衛政策に影響を与えています。ＥＵは、米国への依存を減らし、独自の防衛能力を構築することを目指していますが、その実現には時間がかかることが予想されます。
・今後の展望
防衛予算の増額: 各加盟国が防衛予算を増額し、共同プロジェクトへの投資を拡大することが求められます。
防衛産業の統合: 欧州防衛産業の統合を進め、規模の経済効果を享受することで、競争力を高める必要があります。
《財政･金融･通貨政策》
安定成長協定は機能していません。中期財政計画(ＭＦＦ)は予算ではなく、歳出を予想し、財務規律を担保するための枠組みです。
ＥＵの財源は、関税収入と、各国付加価値税(ＶＡＴ)の一定割合(0.3％)。関税収入は、各国が徴収してＥＵに拠出します。各国のＧＮＰの一定割合に応じた国別分担金制度も導入されました。
税制は各国の主権にかかわるもの。税政策は「協力」であり、共通税などの「調和」ではありません。一方で、統合市場の効率を高めるには、国ごとの法人税や所得税に大きな開きがあることは好ましくありません。西洋諸国の税負担は高く、ＥＵ全体の税負担率(対ＧＮＰ比|社会保険負担除く)は38.8％。
税制の最大焦点は、法人税です。法人税の引下げは企業誘致政策の一つです。
＊単一法人課税ベース案
・経緯と現状
ＥＵ加盟国は、経済規模や産業構造がそれぞれ異なるため、法人税制度のあり方について様々な意見を持っています。特に、高税率国家と低税率国家の間には大きな隔たりがあり、合意形成が困難な状況が続いています。
これまで、共通統合法人税課税ベース(CCCTB)など、様々な提案がなされてきましたが、いずれも加盟国間の合意を得るには至りませんでした。近年では、デジタルサービス税や最低法人税率といった、より限定的な範囲での国際的な税制協調が進められています。これらの動きは、単一法人課税ベース案への影響も考えられます。
・導入が難しい理由
法人税は、各国が自国の財政状況や経済政策に合わせて独自に設定する重要な税目です。これを一律にＥＵレベルで決めることは、各国にとって大きな国家主権の侵害と捉えられる可能性があります。
ＥＵ加盟国の経済構造は多様であり、単一の課税制度で全ての国に対応することは非常に困難です。税収をどのように配分するのかという問題も、大きな課題となっています。
・今後の展望
ＢＥＰＳ(税源侵食と利益移転)対策やデジタル課税といった、国際的な税制改革の動きが、ＥＵの法人税制度にも影響を与える可能性があります。
全面的な導入は難しいとしても、特定の分野や企業を対象とした、より限定的な形の共通課税制度が導入される可能性も考えられます。
単一通貨ユーロの評価。ユーロの最大のメリットは、為替手数料の消滅です。
欧州中央銀行(ＥＣＢ)の金融政策の手段。公開市場操作(オペ)は市中銀行との取引を通じてインターバンク市場の資金需要、結果として金利を誘導します。常設ファシリティは、ＥＣＢが金融機関に資金提供する仕組みです。預金準備制度は、銀行が保有する資産の一定割合をＥＣＢに預けます。
ＥＵの決済システム=ＴＡＲＧＥＴは、各中央銀行の共通プラットフォームです。
《企業･産業･貿易･競争》
ＥＵが最大の貿易相手国になる国は世界で80に達し、米国の20ヶ国を凌駕しています。貿易紛争に対して、ＥＵはＷＴＯのルールを踏まえた貿易防衛政策(ＴＤＰ)を展開します。
ＥＵは、アフリカ･カリブ海･太平洋諸国向けにＥＵ市場を開放する経済パートナーシップ協定(ＥＰＡｓ)を結んでいます。ＥＵは、アフリカ･中東･南米など30ヶ国と自由貿易協定(ＦＴＡ)を結んでいます。独立後もＥＵの旧宗主国と関係を保つ国が中心です。
人･物･金の移動のコストを低下させるために、運輸･通信･エネルギーのインフラ強化を進め、欧州横断ネットワーク(ＴＥＮｓ)を整備しています。
研究･教育ネットワーク(ＤＡＮＴＥ)はＥＵだけでなく多くの国々と相互接続しています。
一つの国で欧州会社(ＳＥ)を登記すれば域内で自由に活動できます。労働者の経営関与は、関係企業の全労働者から選ばれた代表が、経営機関と交渉して合意します。労働者の経営関与は浸透していません。
ＥＵの環境規制はグローバルな基準になっています。新化学規制(ＲＥＡＣＨ)は、全製品･サービスを対象とした基準です。
温暖化問題とエネルギー問題は表裏の関係にあります。化石燃料に依存しない低炭素社会への移行。このための投資は欧州産業にとって新規投資機会となり、雇用を創出し、研究開発の重要性を高めます。
国境を超えたネットショッピングなどに伴う紛争解決のため、各国間で消費者保護協力(ＣＰＣ)ネットワークを構築しました。
ＥＵの貧困と差別を象徴するのがロマ問題です。ロマは欧州地域で千年以上の歴史を持つ民族です。地域によって、ジプシー･マヌーシュなどの名称で呼ばれる移動民族です。ロマの子供の10％は初等教育を受けていないとされます。
ＥＵの政治経済の対外関係の主軸は米国です。2013年、米国ＥＵ間のＦＴＡ「大西洋貿易投資パートナーシップ」を提唱しました。
＊大西洋貿易投資パートナーシップ(ＴＴＩＰ)は、現在交渉が事実上停止している状態です。2017年のトランプ政権発足後、米国は保護主義的な政策に転換し、TTIP交渉に消極的な姿勢を示すようになりました。ＥＵ内でも、ＴＴＩＰに反対する意見が根強く、加盟国間の合意形成が困難でした。ＴＴＩＰ交渉の停滞は、世界的な保護主義の台頭を加速させる要因の一つとなりました。ＴＴＩＰ交渉の失敗は、ＥＵと米国との関係悪化の一因ともなったと考えられています。
ロシアは2012年にＷＴＯに加盟しました。ロシアにとってＥＵは最大の貿易パートナーです。
＊2012年のロシアのＷＴＯ加盟は、EUとの貿易関係に大きな変化をもたらしました。ロシアはＥＵへの輸出製品に対する関税を引き下げました。また、関税障壁と呼ばれる、輸入手続きの複雑化や技術的な規制など、貿易を阻害する様々な障壁が撤廃されました。これにより、貿易の円滑化が促進されました。ＷＴＯ加盟後、一時期はＥＵとの貿易量が増加する傾向が見られましたが、その後は、ウクライナ危機や新型コロナウイルス感染症の影響など、様々な要因によって変動しています。
ＥＵは、ロシアからの天然ガス輸入に大きく依存しており、エネルギー安全保障の観点から、ロシアとの貿易関係は複雑な側面を持っています。ウクライナ危機以降、両国間の関係は悪化しており、貿易にも影響を与えています。ウクライナ情勢の動向や、エネルギー市場の変動など、今後のEUとロシアの貿易関係は、依然として不確実性が高い状況にあります。ＥＵは、ロシアへのエネルギー依存を減らすため、他の地域からのエネルギー輸入を拡大するなど、貿易の多角化を進めています。
ＥＵと中国の経済関係は拡大しています。ＥＵの最大の輸入国は中国です。中国製品による経済摩擦は続発しています。
＊中国とＥＵの貿易関係の展望
両国の経済は深く結びついており、完全なデカップリングは現実的ではありません。人工知能、半導体、５Ｇなど、先端技術分野での競争がますます激化すると予想されます。グローバルなサプライチェーンは、地政学的なリスクやパンデミックの影響を受け、再編が進んでいます。両国間の政治的な対立を緩和し、建設的な対話を通じて協力関係を構築することが重要です。
日本企業は製品輸出からＥＵへの直接進出に切り替えました。また、日本からＥＵへ、投資資金が流れています。日欧の経済人が一堂に会する「日ＥＵビジネス･ラウンド･テーブル」が毎年開催されています。
＊現在の日本とＥＵの関係
・経済関係
2019年、日ＥＵ経済連携協定(ＥＰＡ)が発効し、両国間の貿易・投資関係が大きく進展しました。関税の撤廃や規制の緩和により、企業のビジネスチャンスが拡大し、両国間の経済交流が活発化しています。グローバルなサプライチェーンの多様化を進める中で、日本とＥＵは互いを重要なパートナーとして位置づけています。特に、半導体や自動車産業など、両国が強みを持つ分野での協力が深まっています。
自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、両国はインド太平洋地域における協力関係を強化していくことが期待されます。
