「小売店長の常識」 木下安司&竹山芳絵 2005年 日経文庫
用語がバラバラで、他の学問領域からの借り物の概念には、どうしようもない勘違いが多い、というマーケティングの教科書にはありがちな傾向をこの本も示します。内容は、7-11出身者の手になるのだが…、普通。流通の程度が低い日本では、これが普通なんだろうと思われます。生禿がこの本に求めたのは、「日本の流通の程度を再確認する」ですから、目的は果たせました。
・小売業は変化対応業
そもそも世の中は「変わるもの」と捉えます。「関心事は(明日のではなく)今日の天気であり「雨だな」と思えば傘を出します」。先読をしない代わりに「後読みが速い」。「変化にいち早く対応する」。予測は外れるからしない。動きを素早く感知する仕組を持ち、早く動く体制を作るが、本部と店長の仕事です。
・仮説-検証
仮説とは「自分はこうではないかと考える。何故なら、こんな理由が考えられるから」という自分の意思(*1)を示すことをいいます」。セブン節ですね!仕入のPDCに『想いを入れる』これは慧眼です。
*1 字の間違いが気になります
「意思」が「意志」になってました。明らかに間違いです。日経文庫ともあろうものが!それともアメリカ生まれの7-11は、日本語が通用しない世界の会社なのでしょうか。
FSPについての「全ての顧客を平等に扱うことは、店にとってコスト高になり、顧客ロイヤリティの観点からは見直されなければならないのです」は、仮説-検証の精神に反します。著者はセブンの検証結果(事実)を知らないのでしょうか、知っていて読者を騙そうとしているのでしょうか?
・顧客ロイヤリティと従業員ロイヤリティ
「顧客ロイヤリティの高い店は、従業員ロイヤリティが高い店です」は、大昔からそうです。「店長は、顧客の顔と名前を覚え」も、そうです。間違いありません。
・「SWOT分析を通じて、店長と社員の情報共有化が図られる」は出鱈目!
何と云うことでしょう!その地域の生活感覚を持った店員さんとSWOTですか。あり得ません。そんな現実感の無いことをやって悦に入っている店長が居る店は潰れると思いますが・・・。
・内発的に動機づけられて働く仕組作り?
結構なことなんですが、聞いた風な理屈が並べられているだけで、何の方向感もありません。どうしたんでしょう?これで、セブンが、モチベーションとかインセンティブの仕組が無いことが分かりました。 ← 無いのは問題ではありません。必要としないということだと思われます。
仕事の指示をする時には、1) 目的を示す、2) 全体の中での位置付けや関連を知らせる、3) 結果を知らせ、仕事の成果を理解させる(称賛する)、を心掛けるべしと書いてありますが、まとまりの無い書き様は、実体験に基づかないことが丸見えです。
『やって見せ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらずば人は動かじ』(山元五十六)ですが、さらに付け足せば『やって見せ、言って聞かせて、させてみて、褒めて任せて、信じ用いる』です。任せて、そして、信用する。そこまで行かなければ、人は用いられないし、人は自ら動かない、と考えます。
店長が、自らの店舗運営を自己評価するモノサシがあります。それは、「今年、従業員から『貴方のようになりたい』と言われたことがありますか?」という質問です。従業員を内発的に動機づけることができる店長かどうか、を厳しく問うものです。模倣による強化は、社会的学習の中で最も有効なものです。少なくとも、今までに一度もそう言われたことが無いなら、店長としてというより、ビジネスマンとして誰からも尊敬されたことが無いと言うことです。
「自らを動機づけられない上司は、部下を動機づけられない」のは間違いないことですから、「崇高な理想を掲げ」て頑張って下さい。 ← この本を馬鹿にしてます?イイエ!おちょくってるだけです。
・定型業務をきちんとこなす事が、オペレーションの中心課題
業務を定型化し、標準手順化にし、そして手引書の改善を現場の社員の課題とします。
・当り前のことを当り前に
「短い時間の中で、良く知らないお客様に対して、出来ることは限られています」「セルフ販売の店は、接客時間は短いものです。…、基本用語をきちんと使いこなす必要があります」。
・顧客参加型の魅了向上?
現場を離れて、今猿暮らしをすると、平気で嘘がつけるようになるということです。
・消費者ニーズの変化
「消費者ニーズは急に変化する訳ではなく、…少しづつの変化には無頓着」にならざるを得ません。
長期の変化に気づくには、(絶対)記録を録り、定期的に時系列の傾向を確認する、或いは、場所による違いを見つけます(市場には、物によって違いますが、早く動くと所と遅く動く所があります)。
・顧客に飽きられる?
本来的な価値を持たない新奇性を付加し、サービス水準を落としてでも陳列などを変化させたことが、セブンの高い収益性の要因の一つだと言う証拠はどこにあるのでしょうか?むしろ、鈴木さんの間違った思い込みを実践したことによるマイナスをカバーして余りある『基本に忠実な』実行力の凄さだと考えるのが普通でしょうネ(変えるとお得意さんは短期的には反応しますので、瞬間風速的には「良い結果」が出るでしょうが)。セブンの最大の欠点は、瞬間芸でありすぎること、自らの強さが習慣芸であることを、あまり自覚していないことでしょう。
・主通路は180センチ
60センチ×(すれ違いう2人+溜まっている1人)=180Cm。セブンはこの基準を守っていませんが…。まあ、どの本にも載っているので、目安と言う事で…。目くじらを立ててはいけませんが、どの本にも書いてあるから書いておこうと言う程度の乗りの本だと言うことが判りました。
・ゾーニング
入口近くの集客ゾーン
選べて嬉しい選択ゾーン(関連陳列や推奨商品、売場案内)
高額で説明を要する商品の目的買いゾーン(ゆっくりと選べる奥に)
お客様が全ての商品に注意を向けることは無いので「重点商品を明確にする」ことが大切です。
・注目度を上げるには、使用する状態で展示する
衣料品では身に着けている状態、住関連ではシーン別の部屋で。目は、右から左に、上から下に動くので、目線に沿って陳列を構成します。
・選び易さは、欲しいものの中から、好きなものを選択すること
商品の分類が、お客様の消費-購買の区分と一致している。お客様の考える使い方でまとめて並べられている、というように陳列します。
大半のお客様は、案内図や天井から吊るしたパネルを見ずに、関連のある商品の付近を探します。買い易い売り場づくりには、お客様の商品間関連の認知地図が必要です。
・値下げの把握
値下げが、どの部門-曜日-売場で何時発生しているか、その要因は何か、を把握します。
価格の購買に対する感度(価格弾力性)が高い商品の売価を下げることで、お客様に「安い店」を印象付けます。
・計数管理
人時生産性:従業員一人一時間当たりの粗利益
販売額=営業日数×入店客数×買上率×買上点数×商品単価
購買額=訪店客数×来店頻度×購買率×購買点数×商品単価
客単価=客動線長×立寄率×検討率×買上単価
交叉比率=粗利益/売上高×売上高/在庫高=粗利益率×商品回転率
・品揃え
売れ筋を増やす=NBが多くなり、価格競合に陥る可能性があります。
・品切れと廃棄ロス(機会損失と廃棄損失)
品切れは、客離れを引き起こします。「10個発注して品切れが発生したら、思い切って20個発注して売行きを調べる」は、現場の知恵に溢れたやり方です。