「マーケティング分析」 玉城 芳治 1990年 同友館

手堅いマーケティング技術の本を読みたくて手にした古い本です。なのですが・・・、マーケッターが住む世界は、幻想の世界であることを示したものになっています。

例えば、PLC(プロダクト・ライフサイクル)が短くなったことに対応する製品開発と営業活動が求められます。その舌の根が乾かない内に、ブランディングによって付加価値を高めることを訴えます。え!え!そんな矛盾したことを同時にやれなんて!第一、製品のライフサイクルは実在しません。一体何を考えているのだろう?回答は一つしかありません。「何も考えていない」のです。日本のマーケティングの世界って、こういう世界です。言葉だけがフワフワ浮遊しているだけで、何の実体もありません。

それでも、この本は幾つかの手堅い技術が記述されていて、参考になります。


・マーケティング管理の流れ

分析1


・回帰分析

「影響を与える要因を見出し、その要因の予測によって予測する」として、「学童机の需要は、新就学児童数の多寡に影響される」が例に挙げられています。

日本のマーケッターは、分岐要因(制約条件)と相関要因の区別がついていません。市場のあり方を決定する要因は、分岐要因です。学童机の場合なら、分岐要因は義務教育制度や住居空間になるでしょう。需要の量と同期する要因は、新就学児童数ですが、それが相関要因であるのは、上記の分岐要因の下でのシナリオについてです。繰り返しますが、市場の構造を決めるのは分岐要因で、相関要因はその構造の中で目的変数と一緒に動いている変数であるに過ぎないのです。

・地域の需要と販売

「地域需要の分析は、マーケティング分析の重要項目の一つ」です。地域の成果指数は、[販売量(指数)/需要量(指数)]で計測します。

・卸売企業の業態

完全機能卸売
現金払持帰り卸商(キャッシュ&キャリー)
陳列卸商(ラック・ジョバー)
直送卸商(ドロップ・シッパー)
巡回卸商(トラック・ディストリビューター)

・製品ポートフォリオ管理

「プロダクト・ライフサイクルに市場占有率を加味することによって、製品構成を4群に分ける」という認識は正当です。

・プラシングのチェックリスト

 1) 価格方針
価格設定の方針が明確か。
多品種の製品を市場に供給している場合は、全体的な価格設定のチェックは、どこでなされるのか明確になっているか。
価格方針は、市場特性、製品特性、競争特性を配慮しているか。また、企業イメージとの関連は明確か。
法的規制との関連は熟慮されたか。

 2) 基本価格の設定
基本価格の設定にあたっては、需要の弾力性(感度)が考慮されたか。
端数価格の検討はなされたか。
習慣価格が成立している市場への参入の場合には、市場価格を充分に配慮したか。
威信価格を考える必要は無かったか。
コスト・プラス方式を考えたか。その場合、操業度の妥当性はあるか(実績から見て過大、過少ではないか)。
流通マージンの見積については、業界、類似羞悪品などのマージンを配慮したか。
コスト・プラス法をとっている場合、そのマイナス面(競争対応、需要対応)について配慮したか。
競合商品との対比において、自社製品は市価主義、市価以上、市価以下のいずれか。それは何故か。
競合品に比較して高価格の場合、その合理的根拠は明らかか(先発性、プロモーション費用格差、実績マーケット・シェアなど)。
基本価格は製品イメージと対応しているか。
基本価格の決定にはコスト、競争、需要特性がトータルに配慮されているか。

 3) 機能割引
営業費の節減に合理的根拠を持っている「現金割引」は行なわれているか。
数量割引も同様な根拠を持つ。これが行なわれている場合、数量基準は累積的、非累積的か明確になっているか。また適用製品(群)も明確か。
機能割引は販売刺激的な構成(川下に厚く川上に薄い)になっているか。
機能割引(業者割引)は妥当な水準か。高すぎる場合、合理的根拠があるか。低すぎる場合、それは意図的か。
機能割引の算定の根拠は、単なる取引高か、次段階への販売高(出荷高)を用いるか明確になっているか。
機能割引(業者割引)は、物流機能を担当しているかどうか配慮しているか。例えば、在庫・配送機能を果たす業者と、そうでない業者を区別しているか。

 4) 差別価格政策
差別価格政策の可能性が検討されたか。
差別価格政策の基盤は明確か。-用途別/-顧客サイズ別/-季節別/-地域別
差別価格政策は、特に法規制との関連があるが、この点は配慮されているか。

 5) 販促的価格政策
リベート制度を採用しているか。
リベート体系は、-販売報酬的/-販売症例・刺激的/-製品戦略との整合性/支払条件との整合性/-協力度、などが配慮されているか。
アローワンス(手当)制度を採用しているか。その性質は、広告手当/陳列手当/販促手当/売上高基準、のいずれか。その妥当性はどうか。
プッシュ・マネー・システムをとっているか。その効果測定はしているか。

 6) 価格改定
価格改定の手続きは明瞭か。
価格改定の発議者、検討者、決定者、最終認可者とその検討期間は決まっているか。
価格引下げ・引上げと販売予測の関連は確認できているか。
価格引上げについて経路メンバーの通知は適切であるか。
価格引上げに当って、前価格での仕入容認期間を考慮したか。

 7) その他
セールスマンから価格が高すぎるという声があがっていないか。
取扱店から「儲からない:という声があがってきていないか。その声は地域別、小売タイプ別などで偏りがないか。
ロス・リーダー(おとり商品)にされていないか。
取扱いを中止した店はないか。
流通マージンを引上げた競合他社はないか。

・チャネル意志決定 − 直接販売か間接販売か

需要の特性:買い手の数、規模、分布
製品の特性:単価、売り手のサービスの必要性
流通経路の特性:利用可能な流通経路
自社の経営との適合性:人者金、ノウハウ

・販売経路の機能

販売/促進機能
情報機能:市場動向に関するフィードバック
物流機能:陳列、在庫、品揃え、配送
金融機能:販売代金の回収、売掛金管理、信用管理など
顧客サービス機能:販売後、販売前
小売店支援機能

・市場占有率

=(取扱店数/業界総取扱店数)*(1店当り取扱高/1店当り総取扱高)
=マーケット・カバレッジ×店舗内占拠率

・人的販売分析の為のチェック・リスト

 1) マーケティング目標
経営目標や経営方針が明示されているか。
長期のマーケティング目標は明示されているか。
長期マーケティング目標達成のための戦略ははっきりしているか。
環境変化に対応する戦略になっているか。
国際化に対応する社内の国際感覚は充分か。特に、トップ層において。
主力製品の製品ライフサイクルについて充分に理解されているか。
新製品開発体制は確立しているか。また、これまでの成果はどうか。
衰退商品に対する政策は明確か。
成熟期製品の延命策は考慮されているか。
トップのリーダーシップは?

 2) 営業体制
流通機構の認識と変化は把握されているか。
適切な販売ルートが設定されているか。
販売店の状況を掴んでいるか。
自社製品の訴求点は明確か。
地域別、得意先別に競争状況は明確になっているか。競合他社、担当者、競合上の相対的地位、主要競合他社の戦略と戦術など。
新規開拓は適切に進捗しているか。
得意先管理は充分に行なわれているか。
販売活動効率の低下は見られないか。
販売目標と実績のギャップの原因がつかめているか。

 3) マーケティング情報システム
情報の重要性について社内の認識は一致しているか。
誰が、どのような情報を集めるか決められているか。
誰が、どのように貯蔵するか決められているか。
誰が、どのような情報wを、いつ、どのように更新するか決められているか。
ユーザーのニーズは掴まれているか。
消費者のニーズは把握しているか。
市場の質的な側面(5W1H)と需要量は分析されているか。
セールス活動効率向上のための情報が判明し、的確に集められているか。
情報の活用度が点検されているか。
情報の廃棄が考えられているか。基準と担当は明確か。

 4) セールスマン管理システム
セールスマンの基本的職務は明確になっているか。
セールスマンの行動基準は明確になっているか。
個人別目標設定は明示されているか。
個人別目標と全社的マーケティング目標との連動性は適切か。
セールスマンの評価規準は明確か。
セールスマンの動機付けは充分に配慮されているか。
モラール向上策として何がとられているか。
セールスマンの不満が的確に掴めるシステムになっているか。
不満の解消策は何か。
個人生活への思いやりはあるか。
セールスマンの活動が雑務により阻害されていないか。
セールスマンの人員育成改革はあるか。
セールスマンの行動計画が立てられているか。社内統一のフォーマットが確立しているか。
報告システムが確立しているか。それはセールス活動のコントロールに役立って居るか。
上司の支持、支援が適切に為されているか。
上司が新人セールスマンに同行し、OJT指導ができているか。
得意先の重要な人物は明確であるか。その人物との人間関係は確立しているか。
新規開拓リスト、予定開拓先に関する情報、競合状況などが情報としてセールスマンに提供されているか。
目標と実績がグラフ化され、進捗がわかるようになっているか。

 5) その他
社内での営業部門の位置づけは適切になされているか。
開発部門と営業部門の連携は良いか。
製造部門と営業部門の連携は良いか。
営業部門とその他の部門の連携は良いか。
販売経路のメンバーとのコミュニケーションは良いか。
トップとミドルおよび第一線とのコミュニケーション・ラインは繋がっているか。都合の良い情報だけ上がっていないか。

・広告費占有率

「製品のライフサイクルが成熟期にある製品については、広告費は占有率維持の手段となる。広告費は需要拡大のためには役に立たないが、自社のマーケットシェアの維持の為には削ることはできない。競合他社が一斉に広告を中止すれば自社も広告費を削減し得るであろうが、これは現実には起こりえない」。実際に広告出稿を止めてみても、売上は低下しなかったことにより、今日的な事情は大幅に変化しました。

・回帰分析

「何らかの関係のある変量を見出して、その変量の予測値から販売予想をする」という説明は流石に古い本だけあって真っ当です。

生禿なりに回帰分析の手順を整理すると、以下のようになります。

 1) 目的変数を定義する
 2) 関係のある要因(説明変数)のデータを集め、散布図を描く
 3) 両変数が正規分布している事を確認する
 4) 直線関係を確認し/直線関係となるように変数変換を行ない、相関係数を求める
 5) 説明変数間の関係を確認する(同時か、順序か)
 6) 群化すべき/束にすべき説明変数があれば合成変数を生成する
 7) 回帰方程式を設定する
 8) パラメターを推定する

・目標設定のための総合

「販売予測と目標売上との間のギャップを埋めるのが戦略課題」です。

分析2