「誹風柳多留 二編」 1985年 現代教養文庫
誹風柳多留の第二編。なかなか、味わいのある句が多いです。こんな句が作ってみたいなあと思いますが、無理かな。 そうそう、川柳って歴史に題材をとったものが多いんですね。江戸の庶民は、謡曲などに通じた通人が多かったんですね。生禿が謡ったことがことがない謡曲も結構出てきます。
母の名は親仁(おやじ)のうでにしなびて居
好きな下女家内のこらず相手なり
気の弱い下女あれにさせこれにさせ
かこわれは隣で死ぬと超したがり
川柳では、「かこわれ」は、僧侶の外妾を云う。市中でも人目につかぬ路地などに囲っておくので、隣家に死人が出ると、夜は心細く、気味が悪くて引っ越したくなる。
檜扇(ひおうぎ)で前をおさえる雲の痴話
「雲」は殿上人。現代風にすれば「檜扇でやんごとのなき前隠し」かな。
五右衛門は生煮えの時一首よみ
口上を下女は尻からゆすり出し
婿の癖 妹が先きへ見つけ出し
さあここでたれさっしゃいとごぜの供
徳利(とっくり)を下げてしているところ明け
今の酒屋さんは、徳利ではなくビール箱でしょうから、「ビール箱抱いてしているところ開け」でしょうか。
店賃の早く済むのは囲い者
旦那の仕送りが来るので家賃を期限前に納めるので、大家の受けもよい。
虫売りのむごったらしいらうずが出
「らうず」は売り物にならなくなった商品。なので「虫売りのむごったらしい売れ残り」が現代訳でしょうか。
迷い子の親はしゃがれて礼を言い
「迷子の迷子の与太郎やあい」の声が聞こえてきそうです。
約束を下女はとっくり(ぐっすり)寝てしまい
恋婿の下着はみんな直もの
医者殿は辞世を褒めて立たれたり
蟻一つ娘盛りを裸にし
禿げ頭 よい分別をさすり出し
車引き梶が跳ねるとぶら下がり
癇癪の(むくれ立つ)ような目をする色娘
習うならせめて文殊の無分別
瓜喰うた所に忘れる柄袋
旅をする時には町人も脇差を一本腰にすることを許されていた。掛茶屋で一休みして瓜を食べた。その時に柄袋を払い、脇に置いて、小柄で皮を剥いたが、そのまま出立してしまった。
水引の蛤(ハマグリ)を釣るひな祭り
芳町で(陰間茶屋)女の客は返り討ち
折節は(発情すると)神馬も神楽太鼓打ち
女房のすねたは足を縄にない
人の目を借りて座頭は可笑しがり
人の見ぬ間には達磨も蠅を追い
帆柱の立ったを寝かす舟比丘尼
鬼どもを集めて和尚談義なり
現代語訳は、「姑婆を集めて和尚ご法談」でしょうか。
足の毛を引くが女房の仲直り
温めてくれなと足をぶっからみ(からみつき)
うたた寝の書物は風がくっている
こちとらが上下着るは吉か凶か
何奴のしわざか後家を高枕(子を産ませ)
藤柄(ふじつか)をかいこんで出る大庄屋
大庄屋が一刀を小脇に家を出ていくとはただならぬ事件が起こったのであろう。暗に百姓一揆などを指しているようだ。藤柄は藤蔦で巻いた質素な刀の柄。庄屋は関西、関東では名主と云う。
嫁の屁はかかとの上で野垂れ死に
右々と麦から顔を出してい云い
急ぐのは渡しの銭を握りしめ
当分は昼も箪笥の環(かん)が鳴り
「新婚は夜することを昼もする」というのと同じです。
目には青葉山時鳥初鰹(素堂)
芳町は(陰間茶屋)和尚をおぶい後家を抱き
三杯目怖そうに出す架り人
「居候三杯目にはそっと出し」の原形
それまでは只の寺なり泉岳寺
遠くからつっ突いて見る衣川
衣川:弁慶立ち往生の地
平家方末期の水の塩辛さ
花の山 幕のふくれるたびに散り
子侍扉の乳にぶらさがり
子侍:武家の小間使いの少年