「インフルエンザ・パンデミック」 河岡義裕・堀本研子 2009年 ブルーバックス
12月になりました。勤務先の最寄駅では、早速のクリスマスのイルミです。

さて、読書ノートは薬学部で教えているので、季節柄もあり、インフルエンザです。
インフルエンザ研究の第一人者が、鳥インフルエンザの登場や新型ウィルスの流行を受けて、書き下ろした本です。インフルエンザ・ウィルスについて新しい知見を得ることができました。ありがとう御座いました。
“風邪”は、「呼吸器疾患の総称で、単一疾患ではなく、様々な感染症を寄せ集めた「症候群」である。風邪を起こす病原体には、ウィルス由来のものと、細菌由来のもの、そしてマイコプラズマによるものがある。風邪の9割以上はウィルス感染によるものだが、インフルエンザ・ウィルスは全体の1割程度を占めているにすぎない」。
「20世紀以降、インフルエンザウィルスは、1918年のスペイン風邪(H1N1亜型)、1957年のアジア風邪(H2N2亜型)、1968年の香港風邪(H3N2亜型)、の3回のパンデミックを引き起こしてきた」。スペイン風邪は、「約3000万人が死亡したとされる、中世の黒死病(ペスト)をしのぐ、人類史上最悪の疾病となった」。
“ウィルス”は、「ラテン語で「毒素」を意味する」。“インフルエンザ”は、「冬の寒さにより発生するものと考えられ、イタリアで「天の影響」がその名の由来である」。「インフルエンザウィルスのA型とB型は、季節性インフルエンザとして毎年流行を繰り返している」。「パンデミックを起こす可能性があるのが、多くの動物種が感染し、様々な亜型を持つA型インフルエンザ・ウィルス」。
インフルエンザの核蛋白質(NP)は、「RNAを合成するRNAポリメラーゼ(PA、PB1、PB2の三種類の蛋白質)で構成」されています。
A型インフルエンザの種類は、H(HA:ヘマグルチニン)とN(NA:ノイラミニダーゼ)によって表され、「HAには16種類の亜型(H1〜16)が、NAには九種類の亜型(N1〜9)がある」。季節性インフルエンザでは、A型のH3N2亜型の香港型、H1N1亜型のソ連型が代表です。
「ウィルスには代謝機構がなく、エネルギーを合成できない。駆動力を持たないウィルスは、細胞への感染も運任せということになる」。「ウィルスが宿主の細胞に吸着するには、スパイク蛋白質HAが機能することが必要だ」。
インフルエンザウィスルの感染の手順は、以下のようになります。
1)細胞膜表面への吸着
感染は、ウィルス粒子と細胞の衝突から始まる。HAが「鍵」、宿主細胞の膜表面に並んだ受容体物質が「鍵穴」となり、鍵と鍵穴が合致した時のみ、ウィルスは細胞膜表面に取り付くことができる。
2)細胞内への侵入
細胞膜表面にインフルエンザウィルスが付くと、細胞内に取り込まれる。生物は、生命活動の材料を細胞外から取り込む必要があるが、蛋白質のような巨大分子は細胞膜を通り抜けできないので、細胞は自ら大きなくぼみを作って巨大分子を丸呑みする。
3)脱穀
インフルエンザウィルスは、宿主の細胞膜でできたエンドソームに取り込まれている。膜融合によって宿主の細胞質と、ウィルス粒子の内部が繋がり、ウィルスのRNPが細胞膜の中に放出される。
4)ウィルスRNAと蛋白質の合成
インフルエンザウィルスのRNPは、宿主の核の内部に入り込む。宿主細胞の細胞小器官を使って、ウィルスのRNAや蛋白質を作らせる。
5)粒子の形成と放出
合成されたRNP構成蛋白質(NP、PB2、PB1、PA)は核内に移行し、ウィルスRNAと結合し、RNPを形成する。M1とNS2も核内に移行し、これらの蛋白質の助けにより核外へと輸送される。HA、NA、M2は、細胞膜下のRNPを包み込み、細胞膜に茶巾絞りのようなくびれが生じて「ウィルスの子供」が細胞膜表面から遊離しようとする。NAはシアル酸を切断し、ウィルス粒子を細胞表面から切り離す。膜融合能を獲得するためには、HA0が蛋白質分解酵素によりHA1とHA2の二つに切り離されなければならない(開裂)。
「感染した細胞は、ウィルスに代謝機能を乗っ取られた上に、遊離する際に細胞膜を切り取られてしまうため、細胞の維持に必要な物質やエネルギーが合成できなくなり死に至る」。「インフルエンザウィルスそのものには毒性は無く、病原性があるのである」。
「A型インフルエンザは、人、豚、鳥、猫、馬、犬、虎、ミンク、アザラシなど幅広い種に共通の感染症である」「種を超えた感染により、様々な遺伝的バックグラウンドを持ったインフルエンザウィルスが登場している」。「哺乳類に感染するインフルエンザウィリスの起源を辿ると、水禽類の鳥インフルエンザに行き着く」。
「ウィルスは、細胞分裂とは比較にならない速さで増殖するため、短期間に変異を蓄積する」「インフルエンザウィルスは、他のウィルスに比べても並はずれた伝播力を持つので、多くの人が同じウィルスに対し免疫ができる。その結果、免疫を逃れることができる遺伝子変異の入ったウィルスが選択的に生き残る」。
「季節性インフルエンザウィルスは、連続変異を繰り返しているため、抗原性は小規模に変化しているものの、免疫はある程度は有効である」。インフルエンザウィルスの不連続変異は、「RNA分節の構成が異なる複数のウィルスが同時に一つの細胞に感染した場合に起きる」。「HAとNAが別の型に置き換わり」「抗原性の異なるインフルエンザウィルスが生まれる」。「雑種(ハイブリッド)ウィルスは、鳥由来インフルエンザウィルスと人由来インフルエンザウィルスに多重感染した豚の体内で誕生する」(遺伝子再集合)。
「ウィルスが増殖できる臓器の種類と増殖速度の違い」が病原性の強さを規定します。「高病原性の鳥インフルエンザウィルスは、鶏の脳を含む全身の細胞で増殖する」「ウィルスが増殖できる組織が多いほど、宿主がダメージを受ける」。「低病原性鳥インフルエンザウィルスのHAは、呼吸器と消化器でしか開裂されない」。
“ワクチン”は、「毒性を弱めた病原体や、病原体の一部などを摂取することで、生体に免疫を作らせ、感染を未然に防いだり、感染後の症状を柔らげる効果がある」。
生ワクチンは、「病原性を弱めた生きた病原体に感染し、免疫記憶が生まれる」。「病原菌が体内に侵入すると、生体は病原体を標的とした抗体を血液中に生産する。抗体を産出するのはB細胞(Bリンパ球)である(体液体免疫)。病原体を覚えたB細胞の一部は「免疫記憶細胞」となる」。「細胞の内部に潜り込んだウィルスに対しては、細胞傷害性T細胞(Tリンパ球)。細胞内で産生されたウィルス蛋白質の一部は、細胞の表面にあるMHC(主要組織適合抗原)に提示され、生体内で「感染した細胞」として認識され、細胞傷害性T細胞により攻撃される(細胞性免疫)。ウィルス蛋白質の一部(抗原)を覚えたT細胞の一部は「免疫記憶細胞」になる」。「予防効果は高いが、副作用もあり、日本で認可されたものは無い」。
不活化ワクチンは、「化学薬品などで感染能力を失わせたウィルスや細菌、あるいはその蛋白質の一部をもとに作製する」。「不活化ワクチンは、生きたウィルスではないために、感染は起こらない。従って、細胞性免疫を誘導しない」。
「日本では、1976年〜86年に、小学生に通う学童に、インフルエンザワクチンの定期接種を行ってきた」。「1987年、定期接種が任意接種になると、ワクチンの接種量も激減、これと連動して、死亡者数、超過死亡者数が増加した」。「インフルエンザへの感染者の大部分が、小学生や中学生などの子供達であり、学童へのインフルエンザワクチンの集団接種は、社会全体のインフルエンザウィルスの総量を減らすことにより、高齢者をインフルエンザから守っていたと考えられる」。「アメリカなどでは、日本で行われたインフルエンザワクチンの集団接種を、公衆衛生の成功例として評価しており、若年層へのワクチンの集団接種を推奨している」。
「パンデミック前に流行の型を予測することは難しく、流行後にインフルエンザワクチンを製造するのでは時間が掛かりすぎる。抗インフルエンザ薬や、学級閉鎖や集会の自粛などの公衆衛生手法を組み合わせる」。
「抗インフルエンザ薬は、インフルエンザウィルスに共通する感染・増殖機構を阻害するので、異なる亜型のウィルスに対しても同等の効果を示す」。ノイラミニダーゼ阻害剤には、経口剤のタミフルと吸入剤のリレンザがあります。「現在は、その場でインフルエンザ迅速診断キットを使って感染の有無を診断し、感染が確認されたら抗インフルエンザ薬を処方してくれる」。
「初めてインフルエンザに罹る小児は、免疫が無いため、ウィルスが増殖しやすく、耐性ウィルスが発生しやすいと考えられる」。「大人でも新型インフルエンザウィルスに対する免疫はないためウィルスがよく増殖し、耐性ウィルスが発生しやすい」。「2007年には、タミフル耐性になった季節性のソ連型インフルエンザウィルスが、世界各地で確認された」。
風邪って馬鹿にしているとえらい目にあいますからね、
用心にこしたことはないと思います。
馬鹿は風邪をひかないと云いますが、
生禿はここ数年間、風邪の症状はありません。
でも油断大敵ですから、気をつけます。