「戦略思考のすすめ」 河瀬誠 講談社現代新書

 初心者向けの研修で食べている今猿の本。36の壺を記述していて便利。学部の講義のために読んでみたのですが・・・。以下はこの本の要約と引用です。


《1. 鳥の目で市場を見渡す競争戦略》

 企業は、競争を通じて繁栄していく。競争を排除した社会主義国家は、やがて停滞した。競争とは、他社と棲み分け、自分の居場所を確保(し続けるために移動)すること。

 プラットフォーム競争で生き残る方策は、「勝ち組につく」こと<独占市場>。製鉄や自動車や製紙、通信や銀行のような業界は、生産規模が大きくなるほど生産原価が下がる<規模の経済>。それ以外の業界では、数多くの会社が棲息している。

 カルロス・ゴーンは、日本国内の鉄鋼業界のカルテルを崩し、鉄鋼業界の再編が始まった。

・競争相手は同業他社だけではない
競争環境 同業他社/新規参入/供給先/供給元/代替品
例)書店 ⇔ デジタル書籍(キンドル)/新古書店(ブックオフ)
例)カメラ ⇔ 携帯電話

 規制と許認可制度に保護されている業界では、守りに徹する。大型コンピュータが生き残っているのは、官公庁需要に支えられている日本ぐらいだろう。

・十年後の市場から逆算せよ
 「市場の変化で業績が悪化しました」は、自らの愚かさを公言しているだけ。

事業-商品開発
研究快活を製品開発に結びつける「魔の川」を渡り、試作品を事業化に結びつける「死の谷」を抜け、事業を定着させる「ダーウィンの海」を泳ぎきる。

・自分の居場所を探す
 殆どの会社にとって、競争とは、居場所を見つけて、お客様を掴むこと。

・自分の強みを活かす
 弱みを補強して勝とうとするのは危険。多くの弱みは、強みと表裏の関係にある。弱点がないだけではお客様は振り向いてくれない。

《2. 虫の目で観察する》お客の思いを叶える

 お客様のことを真剣に考え、お客様の本当に分かっている会社は少ない。考えるべきお客様は一人。その一人が喜んでお金を払うような商品を設計する。マーケティングの基本は、一人一人を満足させるコミュニケーションだ。

・会社の意識がお客様のニーズとかけ離れていることを認める
 「開発した商品を提供する」という文脈の中で、買う人や使う人を考えているに過ぎない。ユーザーの生活を想定してもらうと、「お茶の間」と平然と言う。「サザエさん」の世界だけに残っている虚構なのに。

・お客様を主役にした物語を動かす
 お客様の物語の中で、商品は(お客様の問題を解決する)小道具にすぎない。お客様が求めているのは商品仕様ではなく、自分の思いを満たすことだ。

・購買を左右する人を特定する
 家電などは、店員がどれだけ売り込んでくれるかが鍵を握る。販売員への教育や支援が重要。

・ライフステージが同じならば要求は似る
 仕事や家族の条件が同じなら生活要求が似る。

・ブランドの価値を裏切ってはならない

・ブランドには「物語」がある
 語るべき物語がブランドの出発点だ。自分で自分の物語を語れないなら、自分が何をしたいのか考え直したほうがいい。

・ブランドのメッセージに合わせた値段をつける
 お客様が払える上限の値段を付ける。その値段分の価値を説明し、納得してもらう。値下げはしない。

《3. パートナーを見つめる》

・事業パトナーに利益をもたらす
事業社間の取引関係<座組み>

・KPI(Key Performance Indicator)を捉える
 KPIは環境の変化に伴って変化する。
例)加入者数が飽和し、パケット定額が普及した現在のコンテツサービスの利用促進がKPIになっている

・固定費型事業は設備稼働率を平準化する
 生産能力が最も低いボトルネックの能力を上げる<制約理論>

《4. 自分自身(組織)を省みる》

 事業に見切りをつけるのが経営者の仕事。経営者の仕事は、それ以外のポジションとは全く違う。

 米国も成長期には、終身雇用と年功序列が当たり前だった。ソ連の5ヵ年計画や米国の自動車産業は、統制型組織を基盤とした。民主主義とか個性とかでは計画経済は遂行できない。規律と統制が必要な業務は今でもある。

 知識産業では、自立分散型の組織になる。知識産業の人事は、組織ではなく、「人」が出発点になる。知識型組織では、共有するビジョンと事業目的が組織を動かす。組織への信頼、メンバー相互の信頼関係が必要になる。知識型組織が社員に与える最大のインセンティブは、「面白い仕事」だ。

 個人の貢献を成果として測れる場面は多くない。そもそも、個人できない仕事だから組織を作るのだ。

・経営者の仕事は、意思決定をし、それに責任を持つことだ
 責任とは説明責任だ。その説明が関係者を納得させられなければ、役を降りなければならない。説明責任を取るとは、意思決定の理由を明示し、進退を委ねることだ。だから、説明のできないことはできない。国家プロジェクトが失敗するのは、役人が説明責任を取る必要がないからだ。説明責任が無い組織は暴走する。

・経営者は事業の展望と目標を設定する
 事業展望に正しさは無い。儲けも関係ない。
 目標が達成できない事業は切り捨てる。

・執行役員は選択と集中をやり抜く
 「やるべきこと」を並べるのは簡単だ。実際にできることは限られている。重要で難易度の低いこと、大変だが効果の高いことに集中する。