「量子もつれとは何か」 古澤明 2011年 ブルーバックス

 量子エンタングルメント〜量子力学でも最も奇っ怪な事。絡み合う量子(波動)と、その重ね合わせ。それは、量子コンピュータの基礎でもあります。素粒子物理の専門家でも「避けて通りたい」この現象が、未来を切り拓く人工知能の核心です。人工知能を追い続けて半世紀以上の私が、いま学生に人工知能を教えています。量子力学を知らない学生たちに人工知能を、真正面から、その基本を教えようと思っている私にとって必読の書でした。大変参考になりました。ありがとうございました。 以下は、この本の要約と引用です。*印は私の感想と見解です。記述にはくどいところもありますが、私自身が「解ったような気分になるおまじない」として繰り返しまとめてみました。


《はじめに》

 量子光学を通じて量子もつれ(エンタングルメント)を説明する。量子力学研究者が避けて通っていた「観測問題」に正面から取り組む

 光(電磁波)は質量を持たず、波動の性質が強い。量子力学の本質は、不確定性原理。これから生まれてくる「重ね合わせの原理」は波動では当たり前のことである。

 従来の量子力学は、一つの量子についての理論だった。複数の量子にまたがった物理量間の不確定性原理を扱うと、物理量が複数確定している状態が生まれる。

《1. テクノロジーの進歩と量子化の必要性》

 位置と運動量のような、共役な物理量の両方を測定することはできない。不確定性原理を力学法則の中に織り込んだのが量子力学である。
*これは、量子に限らず巨視の物体でも同様です。動いている物体はも位置は、瞬間でしか確定することはできません。瞬間に運動量はありません。運動していたら位置は特定できません。位置と運動量は、どんな物体でも同時に計測できません。量子力学だけが「不確定性原理」を大騒ぎする理由は何なのでしょうか?巨視の物体は、観測によって影響を受けないから、異なる時刻で測定しても一つの物体についての計測であると強弁しても大丈夫という理屈は、本当に成り立っているのでしょうか?不確定性原理による「重ねあわせ」は、解釈であって実体ではないのではないでしょうか?

 行列力学においては「交換関係」、[位置の演算子×運動量の演算子 − 運動量の演算子×位置の演算子 = ih]を前提とする。ハイゼンベルクがどうしてこの交換関係に思い至ったのかは不明。

 量子力学に従うと、電子の状態は雲のような存在になる。不確定性原理を認めると「重ね合わせの原理」を認めざるを得なくなる。あらゆる運動量の重ね合わせの状態=不定である。

 量子力学では、測定によって測定対象が変化するという当然の状況を、不確定性原理として織り込んでいる。巨視世界では、測定による変化は無視できる。

《2. 振り子の量子化》

 振り子の動き(単振動)を量子化する。測定による反作用が無視できないスケールの振り子である。重りの位置がぼやけた以外には日常で目にする振り子の運動になっている。

 不確定性原理により同時に決まることがない物理量を「共役」物理量と呼ぶ。「位相」は位置の変化を時間変化を記述する用語である。

 取り得るエネルギーは、[E = hv(n+1/2)]。nは量子数(自然数)で、確定さいたエネルギーを表す。vは振り子の振動数。n=0の時、安定点の周りで、プランクの定数の平方根程度揺らぐ。hvの1/2だけエネルギーが存在する{零点エネルギー}。

 量子とはエネルギーの最小単位のようなもの。量子化された状態は、量子の「足し合わせ」で記述できる。量子化された状態は、複数個の量子が「絡み合った」ものである。

《3. 光の量子化》

 すべての波動は1/4波長分だけ位相が異なるsin成分とcos成分に分けられる。光の電場の場合、sin成分が決まればcos成分が決まらない。sin波とcos波は、片方が山や谷の時、もう片方は零(中間)となっており、互いに干渉しない。振り子において、位置と運動量のグラフは、片方が零ならもう片方は最大になって、電磁場のsin成分とcos成分の関係になっている。電磁波のsin成分とcos成分の間に不確定性原理があっても良い。

 光の電場を量子化すると、電場の大きさとそれを取る時刻(位相)がそれぞれある一定の曖昧さを持っている。但し、平均値は量子化前と全く同じである。

 n=1(光子1個)の場合、運動エネルギーと位置エネルギーが等しくなる辺にしか存在確率は無い。波としての原形をとどめていない。これが光(波)の量子である光子の姿である。量子は、波動であり粒子である。*波動も粒子も「振動」の「表現型」だと考えられます。

 電子や原子核のような実体を伴う量子では、電子や原子核そのものを量子と呼んでも良いのであるが、光の場合、光が電磁波という質量のない波なので、光子といっても分かり易い実体が存在しない。

 位相がバラバラな多数の小波が混じり合った状態は、電場はプラスとマイナスが打ち消しあって平均値は零になるが、「揺らぎ」(自乗の平均)=エネルギーだけ存在する。このさざ波[(1/2)hv]を「真空馬」あるいは「零点エネルギー」と呼ぶことがある。

 日本での台風から1週間後、ハワイでは規則正しいうねりが入る。細かい周期の波は消えやすく、波長の長い波だけが残るからである。たくさんの光子(いろいろなnの状態)が規則正しく足し合わされれば、電磁波の形になる。

 (光の)波のsin成分とcos成分は、2つのベクトルの回転として表現できる。不確定性原理により、sin成分とcos成分は同時に決まることはない。この揺らぎこそが光子なのである。

《4. レーザー光と量子揺らぎ》

 帯電した粒子(電子)が周期的に振動するから、その周波数(振動数)と同じ電磁波(光)が電磁誘導により生成される。

《5. 量子エンタングルメント》

 量子エンタングルメント=重ね合わせの状態。二つの量子(系)では、二つの物理量、例えば片方では位置、もう片方では運動量、さらに言うと。二つの量子の相対位置(距離)と運動量の和を、不確定性原理に依らずに決めることができる。二つの物理量を量子別個に決めなければ、量子力学に矛盾せずに同時に決めることができる場合がある。量子力学では、片方の量子の測定の影響がもう片方の量子に及ぶ量子ペアが存在しても良い。二つの量子が離れているために、一種の遠隔作用となっている。二つの量子はエンタングルしていると呼ぶ。片方を決めれば自動的にもう片方も決まる関係になっている。

 重ねあわせは、波動の干渉のこと。光子を波動と考えれば、当たり前のことになる。量子エンタングルメント多面的な相関。量子に波動性があるからである。量子エンタングルメントは波の性質である。

 量子エンタングルメントとは、hぶ立つの量子(系)で二つの物理量が確定している重ねあわせの状態である。重ね合わせの状態は、量子(系)の波としての性格の発現である。

《6. 量子光学を用いてEPRペアを生成するための準備》

 (実体を持たない)一つの光子のが振幅はそのままで波長(振動数)半分(波長が二倍)の光子に分裂することができる。

 光と物質の相互作用を考える場合、量子と原子核はバネで繋がれたように振舞う(雲のようになった軌道の範囲内で動く)。最も存在確率が高くなる空間上の軌道が存在する。

 光が強いとは、波で考えると、波動の振幅が大きいこと。光子という粒子で考えると、光子の数が多いことである。このことと、光子のエネルギーが大きいということは違う。周波数が二倍になると、光子のエネルギーも二倍になる。

 入射光が強すぎると、電子と原子核を結びつけているバネは伸びきってしまい、歪んでしまう。その振動により放射される光は、歪んだ波動となる。

 二倍の周波数の光子が割れて二つの光子対(ERPペア)=エンタングルした光子対が生成される。光のパラメトリック過程と呼ぶ。

 電気回路で行ってきたことを、光の周波数で行っているのが量子光学。但し、周波数の違いは桁外れである。

《7. 量子光学を用いてERPペアを生成》

 固定端反射と自由端反射。固定端反射では、入射した波の位相は反転し、自由端反射では入射した波の位相は保存される。

《8. 量子光学を用いた量子エンタングルメント検証実験》

 量子エンタングルメントとは、例えばERPペアのそれぞれで位置を測定すると同じ値が得られ、運動量を測定すると符号が反対の値を得ること。

 波は4分の1だけ位相の離れた二つの波の足し合わせで書ける。これらはcos成分・sin成分と呼ばれ、位置と運動量と同じ意味を持ち、この二つは不確定性関係にある。しかし、。量子エンタングルメントでは、二つの量子(系)にまたがった二つの物理量が確定している。

《9. 単一光子状態の生成》

 質量のある量子では、粒子性は本来持っている性質である。単一光子はエネルギーが光子一個分に定まっていて、そのために位相が定まらない状態である。

 波である電磁波を、光子何個というように数えられる。量子力学の正しさが検証される。

《10. 量子テレポーテーション》

 量子テレポーテーションとは、電気回路の技術を、光の周波数で行っているだけ。AM信号は電磁波のcos成分の振幅変調信号だけからなり、FM信号はsin成分の振幅変調信号とみなせる。量子光学では光のcos成分とsin成分は共役物理量である。FM信号とAM信号も共役関係になる。

 電子テレポーテーションは、送信者が持っている量子の状態を|ψ>を、(量子エンタングルメントにより)受信者の量子で再現することである。共役物理量であるAM信号とFM信号の情報と量子の状態|ψ>は等価である。量子エンタングルメントは、二つの量子(系)で、二つの量子(系)にまたがった物理量が二つ定まった状態である。

《11. 多量子間エンタングルメントと量子エラーコレクション実験》

 確率100%で起こる物理現象など存在しない。コンピュータが間違えないのは、エラーコレクションを行っているからである。計算後の値を測定して多数決を取るということである。

 量子コンピュータの場合は、計算の途中は重ね合わせの状態になっており、途中で測定を行うとそれが壊れてしまうから、通常のエラーコレクションは行えない。しかし、量子エンタングルメントの性質を用いると可能になる。

 エラーから守りたい量子(情報)を補助入力とエンタングルさせ、補助入力のみを測定することによりエラーを検出することができる。

 多量子間エンタングルメントは、量子コンピュータの本質である。しかし、3つ以上の量子(系)のエンタングルメントについては、まだよく解っていない。