「ロウソクの科学」 マイケル・ファラデー 昭和37年 角川文庫

 敬愛するファラデーの最も有名な本です。高校生以来の再読です。内容はすっかり忘れていました。それでも、ファラデーの自然哲学者としての姿勢への敬意は変わりません。以下にこの本の最も印象に残った部分を要約しました。

 とは言え、この本は引用したり要約したりするべき本ではありません。講演者のものの見方と考え方を行間から感じ取ることが大切です。物質と生命の循環。その根源は、エネルギーの遷移と調和です。物質は本源ではなく、力が先にあったとするファラデーの信念(信仰)です。


《1. 一木のロウソク − その炎・原料・構造・運動・明るさ》

 ロウソクの頭のカップは、全側面をたちのぼってロウソクの外壁を冷やしている、上昇気流のおかげで形作られています。炎に燃料を供給しているのは表面張力です。炎を引き上げているのも気流です。

 炎の瞬間の形は、見えているものとは違います。たくさんの炎が次々に現れるために、全てが同時に存在するように見えるというだけです。

《2. 一本のロウソク − その炎の明るさ・燃焼に必要な空気・水の生成》

 気体と蒸気は違います。蒸気は凝結します。ロウソクの燃料物質は、蒸気になって立ち上ります。

 炎を伴わない燃焼があります。火薬は炎を上げ、鉄粉は炎を作りません。水素と酸素を燃やすと熱が出ますが、弱い明かりしかでません。

 ロウソクの炎にこもった熱は、蝋の蒸気を分解して、炭素の粒を分離します。その粒が熱せられて、光りながら空気中に飛び出します。全ての明るい炎は、何か個体の粒を含んでいます。全ても燃えるものは、炎の中に個体の粒を出して、美しい炎を放ちます。

 ロウソクの燃焼の結果としてススが出ます。そのススが燃えて別の生成物になります。

《3. 生成物 − 燃焼からの水・水の性質・化合物・水素》

 可燃性の物質が燃焼によって水を作ります。… この気体が水素と名付けられたのは、他の物質と結合して水を作るからです。

《4. ロウソクの中の水素 − 燃えて水になる/水のもう一つの成分/酸素》

 酸素は、水素に比べて重い気体です。水素と酸素を混ぜて火をつけると爆発します。

《5. 空気中に存在する酸素・大気の性質・その特性・ロウソクのその他の生成物・二酸化炭素・その特性》

 二酸化炭素は、燃えません。少ししか水に溶けず、酸でもアルカリでもありません。私たちの感覚器に訴えません。石灰岩は、二酸化炭素を含んでおります。すべての貝殻や珊瑚は、この気体を大量に含んでいます。二酸化炭素は、非常に重い気体です。

《6. 炭素・石炭ガス・呼吸及び呼吸とロウソクの燃焼との類似・結び》

 酸素はその中に炭素が溶け込んでも、その体積を変えません。最初の体積はそのままで、酸素がただ二酸化炭素になるのです。炭素が普通に燃えるときには、いつでも二酸化炭素が発生します。炭素は灰を残さずに、酸素の中に溶け込んでいきます。

 私たちの体の中で起こっている、生きた種類の燃焼。呼吸作用。砂糖はロウソクと同様、炭素・水素・酸素の化合物です。

 全ての植物は炭素を呼吸します。呼吸と燃焼は類似しています。全ての造化は、結び付けられています。

《解説》

 本書は、1861年のクリスマス休暇に、ロンドンの王立研究所で催された連続六回の講演に記録です。ファラデーはこの年を最後として研究所を去り、6年後にこの世を去りました。

 王立研究所は、自然科学によって生活を改善しなければならぬというルンフォード伯の提唱によって、1793年に設立されました。クリスマス講演は、マイケル・ファラデーによって始められました。

 マイケル・ファラデーは、1791年、貧しい鍛冶屋の次男に生まれ、小学校に通う年頃で製本屋の小僧となりました。主人リーボーは、彼が仕事の合間に製本しかけの本を読むことをあたたかい目で見、彼に与えた屋根裏部屋で化学の実験をすることを励ましたのです。テータムという人が毎週一回、自分の家で開く講演会に、兄の好意によって会費に当てる一枚の銀貨をもらい、リーボーの許しを得て通いました。

 製本屋を訪れた客であったダンスに勧められて、彼は王立研究所にハンフリー・デービーの公開講演を聴きに出かけました。ファラデー22歳の時に、デービーの実験助手になり。半年間ほどデービー夫妻の随員としてヨーロッパ大陸旅行に出かけました。

 ファラデーは自然の声を聴きます。いろいろな場面で事物相互の関係=自然はばらばらなものではなく、ひとつの全体として彼に語りかけました。二つの磁極の間の相互作用に対して、空間に磁力線を想定するという奇想天外な着想もここから生まれたのです。

 彼は子供が好きでしたが、自分に子供はありませんでした。