「生物誕生」 中沢弘基 2014年 講談社現代新書

 生物の誕生と進化についての、熱力学第二法則についてのブリゴジーヌの新しい解釈と、科学の事実に基づく、地球と生命の進化論です。目から鱗。鳥肌が立つような新鮮な理論が述べられています。感動しました。 以下はこの本の要約と引用です。


《はじめに》

 生命の誕生に至るまでの「分子進化」を、地球進化の物理(地球科学)から解き明かします。

《1. ダイナミックに流動する地球》

 海の中でアミノ酸などの生物有機物どうしが結合して大きくなることは困難です。水の中では、大きな分子は分解反応の方が卓越します。

 生命の起源のような「総合科学」は発達しづらいことが指摘されます。

 20世紀前半でも、地球は海も大陸も動かない冷えて固まったものという見方が残っていました。

 陸地の大部分は、マグマが冷えて固まった火成岩と、岩石が風化して海や湖の底に沈殿して、再び固まった堆積岩でできています。

 深部で暖められたマントル物質が上昇して改嶺となり、冷えた海嶺は海洋地殻となって海底を移動し、海溝に至って再びマントル内部に下降します[プレートテクトニクス]。

《2. なぜ生物が発生したのか、なぜ生物は進化するのか?》

 マントルの対流は、地球内部の熱を外部に放出する機構です。地球はその誕生以来46億年間、熱を宇宙空間に放出し続けています。

 ある種が「巨大化し特殊化して絶滅する」が進化の一般則です。より高度な組織化が、生物界の一般則です。

 エントロピーは熱拡散の非可逆性を論理化したものです。水が氷(結晶)である場合のエントロピーは、気体の場合よりも低くまります。生物体は「負のエントロピー」を食べて生きています。

 分子と生物の進化=組織化の共通の必然性。生物進化の反応系=地球は。熱を放出し続け、エントロピーは減少します。

 創成期の地球は、衝突エネルギーで溶けて均質です。熱の放出に伴って温度が下がり、重い金属元素は核に、軽い鉱物はマントルに、最も軽い軽元素は水や大気になって地表に凝集します。層構造に秩序化したのです。熱の放出が続く限り。地球の構造は複雑に組織化されます。その結果が有機物質の生成であり、生命の誕生なのです。

 生物の誕生と進化は、地球のエントロピーの減少に応じた、地球軽元素の秩序化と言えます。

《3. 究極の祖先とは? 化石の証拠と遺伝子分析》

 シアノバクテリアは、光合成によって酸素を生み出すバクテリアの総称。藍色細菌とも呼ばれます。現在でも、ストロマトライトは西オ−ストラリアの日光の届く浅い海で生成しています。最も古いストロマトライトは27億年前のものです。

 球菌と見間違えるような小胞組織が非生物的に生成することは、生命の発生に必要な小胞組織が、非生物的にできることを示しています。

 真核生物は膜で覆われた小器官を有します。原核生物と細菌とバクテリアは同じものを指します。分子生物学は、原核生物を古細菌と真正細菌に分けて生物三界説を提案しました。

 蛋白質を比較した研究では、古細菌は真核生物に近縁で、真正細菌の方が系統樹の根源に近いという結論も得られています。原核生物には、非ダーウィン的に進化する機構があります。原核生物は、細胞内共生という進化の機構があり、進化の前後関係がたどれなくなります。遺伝子が先にあって、その変異によって形質の異なる子が生じ、それらの自然淘汰によって進化する、というダーウィン的進化とは異なる進化の機構です。

 ミトコンドリアは、融合によってDNAの一部が宿主のDNAに転移しました(DNAの水平転移。
)。

 細胞レベルで融合して、個体になる共生は、原核生物に限られた現象です。真核生物になると、核膜に覆われた細胞小器官に組み込まれていますので、容易に融合できないのです。遺伝子分析によって生物進化系統樹を遡るのは、真核生物までということになります。

 親の性質を間違いなく子に伝える遺伝子は、安定な物質でなければなりません。有機分子は、軽元素が共有結合したものです。人間の場合、焼かれれば「徒野の煙」となる水と有機分子が95%、灰となって「土に還る」金属の酸化物は5%です。

《4. 有機分子の起源 − 従来説と原子地球史概説》

 地球は均質な全球溶融体から、核・マントル・地殻・海洋・大気の層状構造にになり、さらに大陸ができて。マントル内部も3次元に複雑化し続けています。H・C・N・O・P・Sなどの軽元素の多くは、海洋と大気に濃集し、共有結合で繋がった有機分子となって秩序化し、さらに結合や融合を繰り返して大きな組織体である生命体となりました。今もなお進化は続いています。

 「生命は物質の運動のひとつの形態です」オパーリン。分子も進化するとオパーリンは考えました。

 45億年前、地球表層の温度が徐々に下がり、水蒸気が凝集して海が出現しました。

《5. 有機分子の起源とその自然選択》

 アンモニアはアミノ酸の前駆体でです。炭素があればアミノ酸自体も生成されます。40〜38億年前、隕石の後期重爆撃により、金属鉄を含んだ隕石の海洋衝突によって、多種多様な有機分子が大量に生成しました(有機分子ビッグバン)。

 生命体を構成している有機分子は、全て親水性で粘土鉱物に親和的です。揮発性の有機分子は光化学反応で酸化分解します。不揮発性の有機分子は海中に分散します。疎水性のの有機分子は、油ですから相互に凝集して水面に浮遊し、紫外線などによって酸化分解します。残るのは、深い海に留まった水溶性の有機分子だけになります。粘土鉱物に吸着した微粒子は、相互に凝集し、大型の粒子になり海底に沈殿します。

《6. アミノ酸からタンパク質へ − 分子から高分子への進化》

 専門家でも「太古の海は生命の母」の非常識から逃れられないようです。代謝や遺伝の機能を獲得した生物が、穏やかな水の中で進化してきたのは確かです。ですが、分子の進化が穏やかな水の中で進化した根拠はありません。

 アミノ酸や核酸塩基が生成したとしても、海水中では大量の水に希釈されて、反応に必要な濃度になりません。

 海底の堆積物は、加重により圧縮されます。地下に埋没すると、高温になります。古代の地球は現在よりも高温でした。高圧下の還元環境では、有機分子は脱水重合してより高分子になったと考えられます。

 生体を構成するアミノ酸はL体、糖はD体です。生物有機体が鏡像異性体の片方しかないのか?その手がかりも得られていません。

《7. 分子進化の最終段階 − 個体・代謝・遺伝の発生》

 プレートが海溝からマントルに沈み込む時、プレートに載った海洋堆積物の一部は上部のプレートに剥ぎ取られて、島弧に乗り上げる格好で付加します。ここが生命誕生の場となります。現在も、原核生物の3分の2は地下にいると推定されています。

 堆積物の中にある高分子は、様々な熱水に遭遇します。熱水と接触し続ければ加水分解したものもたくさんあったでしょう。何らかの膜で囲まれた小胞の中に退避できた高分子が生き残ったのは確かです。生命機能の中で、最初に発現したのは、代謝や遺伝ではなく、個体の成立であったことになります。

 小胞は熱水に運ばれ、破裂したり再形成されて、他の分子を包含することもあります。それらの融合によってより安定な構造に進化したでしょう。小胞融合は、化学反応とは異なる分子進化の機構です。小胞融合による蛋白質や遺伝子の生成は、生命機構の発現の第二段階です。

 自己複製により同じ個性を有する「種」が成立します。それ以前に、代謝する=エントロピーの代謝機構を持つ「無遺伝子生命体群」が存在したと推定されます。生命体を多量に複製することで効率よく軽元素の総エントロピーが下がりました。

《8. 生命は地下で発生して、海洋に出て適応放散した》

 27億年前の地球大変動とともに浅海に出て「適応発散」し、地球の大気に酸素を加えました。

・地球軽元素進化系統樹

 46億年前、微惑星の集積によって地球が創生され、その凝集エネルギーで全地球は溶融し、表面はマグマの海になりました。その高熱で大気は水素を失い、二酸化炭素と窒素と水になります。

 43億年前、地球は熱を宇宙に放射し、温度が下がって水蒸気が凝集し、全地球を覆う海洋が出現しました。エントロピーの低減による地球秩序化の一環です。

 40億年前、地球の熱放出の一環であるマントル対流によって、新たな海底が海嶺で発生して海溝からマントルが沈み込む、プレートテクトニクスが機能し始めました。地球内部の熱を表面に運ぶと同時に、地球の構造をより複雑に秩序化する機構です。

 40〜38億年前、太陽系の軌道に乱れが生じ、軌道を外れた小惑星や粉砕物が隕石となって頻繁に地球に衝突しました(後期重爆撃)。地球にはまだ陸地はなく、隕石は海洋に衝突し、地球の水および大気と激しい化学反応を生じました。
 隕石の海洋衝突で生じた超高温の衝撃後蒸気流が冷却する中で、多種多量の有機分子が創生されました。
 上空で生成された有機分子はは雨に含まれて海洋に回帰し、揮発性有機分子と非揮発性有機分子は、表面上に出て酸化酸化的大気と強い紫外線に曝され、酸化・分解しました。有機分子のうちの海洋に溶解できる親水性の生物有機分子だけば残り、粘土鉱物に吸着・沈殿して海洋堆積物中に埋没されることで自然選択されました。
 海洋堆積層中に埋没した生物有機物は、その後の堆積物の続成作用によって圧密・昇温環境に曝され、脱水重合して高分子化することで残りました。

 40〜38億年前、海洋堆積物はプレートテクトロニクスによって移動し、プレート端にいたって一部は歪曲や断層などを生じつつ島弧の付加体となり、ほかはサブダクション帯を経て再びマントル内部に沈み込みます。
 その堆積層に含まれていた高分子は、多量に発生した海水起源の熱水やマグマ起源の熱水に遭遇して加水分解します。しかし、小胞を形成して内部に退避した高分子は残ることができました(個体の成立)。
 個体は小胞どうしの融合によって他の高分子を取り込み、エントロピーを小さく保つとともに小胞体にすでに取り込んだ蛋白質の片鱗の触媒作用で重合し、巨大分子化を果たしました。そして蛋白質を形成し、代謝機能を獲得した個体は(無遺伝子生命体)、熱力学第二法則を逃れて熱水環境を生きながらえました。

 38〜37億年前、無遺伝子生命体が小胞融合によってによって核酸塩基や核酸の片鱗を取り込み、RNA/DNAを形成して自己複製(遺伝)機能を獲得し、同種を増殖して種を創出しました。
 代謝機能と自己複製機能を備えた個体の生成は生命誕生です。地下生物圏が成立しました。

 27億年前、全マントルの熱対流が開始され、地球地場の強度が増大されたことを契機に、シアノバクテリアが浅海環境に進出して増殖し、生物の海洋での適法放散の端緒を拓きました。放出された酸素により、地球大気は酸素を含むことになります。

 生命体が発生した後、原核生物の時代に、細胞内共生や細胞融合によって、その後は遺伝子の揺らぎによる遺伝子多様化機構によって進化してきました。