「仮想通貨とブロックチェーン」 木ノ内敏久 2017年 日経文庫

 どうしても気になったので再読です。日経文庫で再読って初めてかも。それぐらい、気になるテーマ。ブロックチェーンはリバタリアン(自由至上主義者)のパンク(反逆)が生み出したものだけれど、それは民主主義としての自由を実現したのか?中国のような新獣市場主義に飲み込まれる存在なのか。この本の記述を信用するなら、結論はノー。残念ながら、倫理無き獣市場を増長させる存在になりそうです。残念至極ではありますが、それも現実。受け入れざるを得ません。ですが、希望はあります。人工知能による人間を介在させない集中管理を、倫理観に溢れた人々が設定する可能性です ← その可能性はゼロではと私は信じたいと思います。

 以下はこの本の要約と引用です。


《序章 そもそも貨幣とは何か》

 ビットコインは2009年に登場した。決済手段となるためには、人々が貨幣として認識(=信用)すればいい。

 メソポタミアの初期農耕文明では、宗教的権威が農民の貢納をクレジット(帳簿)に記載しました。ギリシャ・ローマ・インド・中国の古代文明は貴金属を使った鋳造貨幣(トークン)が主流になります。大航海時代には、割符や元帳などのクレジットで遠隔決済を行いました。トークンとクレジットは、近代銀行業の預金通貨を生み(信用創造)、通貨が情報化されました。クレジットの経済は、台帳を管理する組織が全取引を掌握して信用取引を保証します。日本国内のマネーストックの9割が預金として存在します。

 日銀券は、日本銀行の債務証書です。貨幣は、譲渡可能な債務です。法定通貨(国家が発行するソブリン通貨)は、強制通用力=支払いで必ず受け取らなければならない強制力を持ちます。

 貨幣が登場すると貧富の格差を産み出します。ゾロアスター教・ユダヤ教・キリスト教・イスラム教は、債務や暴力からの救済と平等に関するモラルの中かから現れました。

 マルクス主義は、貨幣を無くさなければ社会正義は実現しないと主張します。貨幣を廃止し、人と人の直接の関係に置き換えると、見知らぬ人同士の暴力性が剥き出しになります。毛沢東やポルポトによる弾圧と虐殺がその例です。現代の資本主義も貨幣の扱いには手を焼いています。

 金融緩和は銀行などを国民の税金で救済します。失業者と貧困者は救済されません。

《1. 仮想通貨はあやしい存在なのか》

 世界には銀行制度とは無縁な人々が50億人以上居ます。その人々が利用する仮想通貨のウォレット(電子財布)は、国境を国境を超えた送金に利用されています。

 ブロックチェーン(分散台帳/公開台帳)は、P2P通信を前提とするワイル共有型のデータベース技術。オニオン・ルーターは、合法非合法を問わず、あらゆる種類の機密通信に使われています。ビットコインが登場するまで、自分の身元を明かさずに麻薬が買える決済手段は存在しませんでした。マネーロンダリングは社会秩序を破壊すると認識されています。

 ビットコインは、フリードリッヒ・ハイエクが夢見た私的通過。ソブリン通貨の価値低下に対する自衛手段として広まりました。中国人民銀行は、ビットコインの扱いを禁じました。

《2. 革命的システムのからくり》

 サトシ・ナカモトは、2010年「私には別にやることがある」とのメッセージを出し、姿を消しました。

 マイナーは、取引が正当なものであることを示す確率的な証明を行います。いわば、ネット上の公証人です。不信を前提とするネットワークにおける合意形成問題として提案され、経済動機によって管理者無しで稼働しています。アダム・スミスの「見えざる手」=利己的な経済動機によって一般福利をもたらす仕組み、と同様です。マイナーは完全に無意味な計算だからこそ、報酬のためだけに動かず、別の理由で攻撃を受けることが無い、とサトシは考えました。ビットコインは、21000万個で発行が停止されます。サトシは金本位制に思い入れを持っていたようです。

 ビットコインでは、重大な危機が訪れた時の民主的な協働が問われます。善意の助け合いに依存した分散システムの統治(ガバナンス)の虚弱性が問題になります。

 現在は、強力な計算力と安い電力を確保できる少数の巨大採掘者だけがビットコインを獲得しています。旧世界と変わらないものとなっています。

 私通貨ビットコインの価値は、ソブリン通貨と交換できるという信頼に基づいているという自己矛盾に陥っています。

《3. ビットコインを取り巻くルール》

 通貨には「所有と専有の一致」というルールが適用されています。お金を持っている人をお金の所有者とみなすことで、そのお金を安心して受け取ることができます。

 日本国は、仮想通貨の取引所を金融庁の監視下に置きました。プライベート型やコンソーシアム型の仮想通貨には管理者が存在します。

 ある記録(台帳)が、不動産登記のように社会的に承認されるためには、責任をもつ権威者が必要ですう。

《4. ブロックチェーン2.0》

 分散台帳を使えば、情報の安全かつ迅速な更新・管理が効率化されます。銀行とフィンテック企業との競合は激化しています。銀行の経費の1/3はシステム関連費用です。金融業界では、プライベート型やコンソーシアム型の分散台帳がコンセンサスになっています。

 日銀の口座を持つのは金融機関に限られています。しかし、日銀がソブリン仮想通貨を発行すれば、日銀が金利と貨幣量の両方を直接に操作することが可能になります。中央銀行がソブリン仮想通貨を発行すれば、預金通貨が消滅して、民間銀行は壊滅します。米国では、フィンテック企業が台頭し、銀行の中抜きが加速しています。クラウドファンディングで資金調達することも一般化しています。

 貨幣の本質は負債(債務)であり、結局は社会における信頼関係=信用です。安定したソブリン仮想通貨への世界的な集中が見込まれます。

 日本でも、耕作放棄地や無所有者となっている不動産の管理に、分散台帳を使う動きがあります。鹿児島県の農地の4割が相続未登録です。農地の集約化を阻害しています。

 仮想空間で経済価値をやりとりするには、利用者の身元を証明するIDが必要です。デジタルIDによる認証のプラットフォームが期待されています。本人の同意を前提とする個人情報の保護と管理が可能になります。

 分散台帳を利用すれば、自立分散型組織、経営者のいない解釈も作れます。

《5. 仮想通貨のアキレス腱》

 現在のブットコインのブロックの容量は小さく、拡張する必要があります。

 全参加者が納得する合意を目指せば、時間と手間がかかります。誰の指図も受けず(虚弱な統治構造の下で)合意形成を目指すのは、ある種の自己矛盾がちきまといます。

 金融危機に際して中央銀行が「最後の貸し手」として無制限にお金を貸し付けることができることが、通貨の安全性を保つために必要だと言われています。貨幣を重視するマネタリズムのフリードマンは、ケインジアンの貨幣の供給量の裁量を、経済を攪乱させるとして批判しました。

 マイナーに十分なインセンティブを与え続けることができるのか?そして、寡占化するマイナーも課題です。

 ビットコインのマイニングには膨大な電力が必要です。環境的にも経済的にも効率が高いとは言えません。

《終章 お金の未来》

 お金にまつわる言葉の多くは、社会の紐帯や公平を表しています。債権bondは絆、信託trustは信用、株式equityは公平、証券securityは安全、クレジットcreditは信頼される名声。

 貨幣が使われるのは共同体の周縁です。家族の食事や世話は「お金では買えません」。信用原理が共同体に侵入するとき、古き良き贈与体制は崩壊します。貧富の差が生まれ、共同体の結束力は弱まります。

 経済人類学者のポランニーは、利潤動機によらない公正の原理として、贈与の応酬に基づくアルカイック社会に理想郷を見出しました。