「宇宙は何でできているのか」 村山斉 2010年 幻冬舎新書

 評判の高い本ですが、時空の物理を彷徨っていた頃は、一般向け過ぎて敬遠してました。東京大学数物連携宇宙研究機構、つまり「数物」の人。物理学がこんなになっちゃた日本の総本山の長。なので敬遠してしまいました。

 今は、どん詰りの理論物理学の探求から離れて、単に「遊び」になったので、この本を手にとった次第。難解な理論を、逃げずに、なんとか素人にも解るように平易に解説しようとする「速球勝負」の姿勢には関心しました。また、現代物理学の不可解な部分を、素直に「気持ち悪い」と断じる率直さにも感動です。本物の研究者が書くと違いますね。お陰で?、ビッグバン信仰や場の量子論を“少しは”認めてもいいのではないかと思わせるんだから凄い! 以下はこの本の要約と引用です。物理学の基本を中心に、まとめてみました。


《1. 宇宙は何でできているのか》

 宇宙の膨張は加速しています。宇宙は膨張してもエネルギーの密度は変わりません。

 ビッグバンは、銀河が遠ざかっていることから類推されたに過ぎません。ビッグバンを唱えたジョージ・ガモフは、アルコール依存症で死にました。

 宇宙背景放射だけでは、ビッグバンの証拠にはなりません。ビックバン理論によれば「僅かなムラ」があることが予想されました。それはCOBEの観測と一致したのです。ビッグバンは、「マイクロ波宇宙背景放射の異方性」によって「裏付けられた」ことになっています。

 現在の宇宙には、反物質が見当たりません。

《2. 究極の素粒子を探せ》

 「重力が空間を曲げるから引力が働く」と説明したのが、アインシュタインです。空間が曲がるので光も重力によって曲がります。重力レンズ効果による歪を分析すると、暗黒物質の分布が観測できます。

 波長は振動数の逆数ですから、振動数を上げるほど短くなります。波長が短くなれば、より小さなものが見えます(作用します)。電子を加速することで、エネルギーを高め、観測対象にぶつけるのが電子顕微鏡です。加速器も同じ原理です。粒子に高エネルギーを加えて衝突させる加速器は、創成期の宇宙の状態を再現する機械とも言えます。

 自然界に存在する最も大きな元素は、原子番号92のウランです。鉄より重い粒子がどこでつくられたのかよく解っていません。

 物質(電子やクォーク)が存在する空間に別の物質は置けません。物質とはそういうものです。光=力を伝達する素粒子は、重ねて強くすることができます。

《4. 4つの力の謎を解く》

 物体を加速すると質量が増えます。波はエネルギーで、粒子は物質です。波には「広がり」があるので、「位置」や「速度」を正確に測定するのは不可能です(ハイゼンベルクの「不確定性関係」)。コペンハーゲン解釈は、「電子一個がどこにいくのかは予言できないが、行き先の確率は解る」とします。粒子は「波」の広がりを持っており、観測(相互作用)した瞬間に収縮すると考えます。

 物質と反物質は一対一で生じます。スピンとは「角運動量」のことです。スピンが半整数になるのがフェルミオン、整数になるのがボソンです。なぜスピンが整数だと同じところに存在できるのかは、量子場の理論で説明されます。

 標準模型は、電磁気力・強い相互作用・弱い相互作用を全て粒子のやり取りで説明します。量子電気力学は、光子が電磁気力を伝える仕組みを明らかにしました。

 量子電気力学では、荷電粒子の周りに電場が生じるのではなく、光子が交換されると考えます。「場」を量子化する理論です。この光子には実体は無く、「仮想光子(粒子)」と呼ばれます。

 原子と原子が結合して分子になるのも、物体同士がぶつかってすり抜けられないのも、電磁気力の作用です。電気の反発力によって跳ね返るからです。

 仮想粒子が「借りた」エネルギーが大きいほど、すぐに返さねばなりません(時間とエネルギーの不確定性関係)。時間が短いということは、走る距離が短いということ。距離が近い荷電粒子の間では、高エネルギーの光子をやり取りできます。光子の交換を図示するのが「ファインマン・ダイヤグラム」です。「反粒子が時間を逆行する」は、気持ち悪いので、真面目に考えないことにしています。仮想粒子の交換は、眉唾な感じがします。

《4. 湯川理論から小林・益川理論へ》

 湯川理論が中間子の重さを予言できたのは、その力の「到達距離」が短いことが解っていたからです。電磁気力は無限の到達距離を持っていますが、「強い力」が働く距離は原子核の直径程度と考えられます。それは、その力を伝える粒子が重いことを意味しています。エネルギーが大きいということは質量が大きいということなのです[E=mc^2]。

 宇宙から降り注ぐ粒子の殆どは陽子です。宇宙から降ってきた陽子は、上空の窒素や酸素の原子核とぶつかってパイオンになります。そして、壊れたパイオンが、ミューオンとなって地上にやってきます。

 高エネルギーの大型加速器が建設され、一瞬だけ生まれて消える粒子がたくさん作られました。「ハドロン」は「ベタベタと張り付く」とい意味。ミューオンやニュートリノなどは、レプトン(軽粒子)です。しかし、重さで粒子を別けるのは適切ではありません。

 質量が大きい粒子は、軽い粒子になりたがります。エネルギーが少ない方が安定するからです。陽子の寿命は宇宙よりも長いと言われています。

 クォークには「色」があります。常に「白」になるように振る舞います。ですから、クォークを単独で取り出すことはできません。「色」の概念を提唱したのは南部陽一郎です。電磁気力を伝える光子は電荷を持たないので、光子が光子を作ることはありません。グルーオン(糊)には、「色荷」があるので、グルーオンがグルーオンを吸ったり吐いたりできます。

 クォークとクォークの距離が離れるほど、クォークのエネルギーが小さくなるほど、力が強くなります。近い距離では力が働きません。閉じ込められているクォークが、自由粒子のように見えます。

 弱い力は、放射線崩壊を引き起こします。太陽の中では4つの水素原子のうち2つが中性子に変わってヘリウム原子になり、陽電子とニュートリノが放出されます。弱い力はとても短い距離しか届きません。ですから重いと予測されます。中性子のベータ崩壊を引き起こすのは、Wボソンです。

 量子力学では、空間反転を「パリティ変換」と呼びます。「パリティ」という粒子の属性には、保存則に従わない現象があります。弱い力はパリティの保存則を破る。弱い力に反応するのは「左巻き」の粒子だけ。弱い力にだけ反応するニュートリノが全て「左巻き」ということも分かりました。反ニュートリノは右巻き。これを鏡に映したニュートリノだと考えれば、対称性は保たれている(CP対称性)。このCP対称性も、少しだけ敗れています。

 クォークに3つの世代があると、CP対称性の破れが説明できます。3点以上あれば二次元の図形が描けます。三辺の長さが異なる三角系の場合、どの辺を軸にしてひっくり返しても、同じ形にはなりません。もう一度ひっくり返せば重なります。平面上を移動させている限りは重なりません。これがCP対称性の破れです。3つだとひっくり返す前と違う世界が作れます。

 弱い力が遠くに届かないのは、それを運ぶウィークボソンが重いからです。電磁気力を運ぶ光子は質量がないので、どこまでも飛んでいけます。電荷を持たないヒグス粒子にぶつからない光子は反応できずに素通りできる。ウィークボソンは、ヒグス粒子にぶつかって重さを得ます。電子もヒグス粒子にぶつかって重さを得ると考えられています。ヒグスと衝突した時のエネルギーが、素粒子の質量になります(ヒグス機構)。

《5. 暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎》

 標準模型では説明できない謎が次々と出てきます。どうして十億分の二だけ物質の方が多かったのでしょう。CP対称性の破れでは、説明できません。今の標準模型には綻びがあるのです。まず、ニュートリノと反ニュートリノの振る舞いに違いがあるか無いかを調べる必要があります。ニュートリノが反ニュートリノに変わるかどうかも問題です。反物質が物質に少しだけ入れ替えることができれば、物質しか無いことも納得できます。ニュートリノは電荷を持っていませんので、保存則とは矛盾しません。

 膨張が加速する宇宙はどうなるのか?誰にも解りません・宇宙は引き裂かれてしまうのか?はたまた「泡」が生まれるのか?アインシュタインの相対論が間違っているという研究者もいます。

《あとがき》

 この本は、朝日カルチャーセンター新宿教室での講義をアレンジしたものです。