「世界はなぜ月をめざすのか」 佐伯和人 2014年 ブルーバックス

 月探索ブームを解説したブルーバックス。気にしていた本なので、ブックオフで見かけて即入手。読んでみるとやっぱり!でした。以下はこの本の要約と引用です。

《はじめに》

 世界の多くの国が月を目指している。米国やロシアや中国は毎年のように探査機を月に送り込んでいます。近年の月探索によって、開発すべき良い場所が限られていることが明らかになっています。世界は月を開発し、月の資源を利用しようとしています。
 2011年のはやぶさブーム。はやぶさ2が世論の後押しで進捗していくさまは衝撃的でした。今私たちは、宇宙大航海時代の渚にいます。

《序章 月探索ブーム、再び到来!》

 現在に月探索ブームに火をつけたのは、米国の月探査衛星が1990年代の発見でした。

《1.人類の次のフロンティアは月である》

月の特色
・月は大きい
 天体が大きいほど、集積による加熱が大きくなりマグマの海ができます。
・月近い
 月と地球の間の距離は38万km。光が1.3秒で到達する距離です。月は常に同じ面を地球に向けていて、常に電波による通信を確立した状態を保てます。
・月は分化している
 月のように大きな個体の天体は溶解した均質なマグマが固まっていく過程で、異なる組成や性質をもつブロックに分かれています。マグマが冷えていくと高温で結晶化する鉱物が個体になります。鉱物の密度はマグマより高いので、鉱物はマグマの底へ沈んでいきます。小惑星イトカワは、未分化な天体です。太陽系初期の塵が集まって天体を形作ってから、ほとんど変化がありません。
 庭に転がっている石にも鉄が含まれています。石ころから鉄を取り出す経済合理性はありません。
 月には有用資源が濃集しています。地球の場合、水が地下を循環する際に物質を濃集する仕組みもあるので、太陽系の中では最も多様に分化が進んでいます。
 地球の加熱原は、集積と放射線。火山現象も地震現象も、大陸が移動するのも、全ての地殻変動は、地下で発生した熱エネルギーが宇宙へ逃げる過程で発生します。熱源となる放射性元素の量は、天体の体積に比例します。

《2.今夜の月が違って見える》

 月の表面の色を解析するとそこにある岩石に含まれている鉱物の種類や量を推定できます。
 月面は粉体(細かい砂粒)で覆われています。アポロ11号の月着陸船の足に「お椀」が付けられてのは、砂に潜って傾かないためです。この細かい砂粒を「レゴリス」と呼びます。
 月には大気が無いので、小さな隕石も大気に減速されることなく、高速で月表面の岩石に衝突します。そのような衝突が45億年間続いてきたために、月の表面の岩石は粉々に砕かれたのです。月の地面は、片栗粉のように細かい灰色のレゴリスで覆われています。
 「月の沙漠」の「沙漠」は砂丘をイメージしている歌です。
 月の重力は、地球の1/6です。重力と質量は違います。質量は物質固有の量です。重さは重力の大きさによって変化します。重力由来の重さは、低重力の月では軽く感じますが、慣性力(質量)は月でも減りません。アポロ計画の宇宙服は約80圈その慣性力は身体を動かしにくくし、動き出すと止めにくくなります。バーベルを手にもって水平に動かします。月では重さは減りますが、動き出しの抵抗や止めるときの力(慣性力)は減りません。
 熱の伝わり方は、伝道と対流と放射(輻射)。伝道は接触している物体から物体へ熱が受け渡されます。対流は、物質そのものが移動して熱を運びます。放射は、電磁波としてエネルギーを放射し、真空中でも熱が伝わります。
 電子回路に流れる電気のエネエルギーの殆どは熱になります。モーターは電力の多くを運動エネルギーに変換しますが、摩擦や電気抵抗により熱を発生します。探査機の内部の熱は上昇します。大気があれば空冷できますが、月では放射しかありません。
 月面は日向で120℃、夜の側はマイナス170℃。大気が無いために日向から日陰への熱の移動が遅く、日向と日陰の温度差は200℃あります。探査機は太陽電池の電力を得るために、日向に着陸します。月探査機を冷やすのは難しいのです。
 月の1日は地球の4週間。月では昼が15日間続き、夜が15日間続きます。-170℃で正常な動作が保証される電子回路はありません。

《3.月がわかる8つの地形》

 月の明るい部分を高地、暗い部分を海と呼びます。月の高地は、隕石衝突に晒されて山岳地帯のような起伏の激しい地形となっています。海は広大な、平らで滑らかな平原です。流動する溶けた溶岩で覆われていたためです。海は表側に集中しています。
 海も巨大なクレーターです。海の形も円形を組み合わせたような形になっています。巨大クレーターの内側を溶岩が埋めたものが海です。
 クレーターの直径が巨大になると、クレーターの中央に中央丘ができます。中央丘には、地表と異なる岩石が露出しています。
 リンクルリッジは海地域によく見られる地形です。リンクルは皺、リッジは尾根。リッジは地殻変動によってできた大地の皺だと考えられています。
 地表が引き延ばされる時の割れ目がグラーベン(地溝)です。グラーベンは、地殻変動の激しい海地域によく見られます。
 月の蛇行谷は、マグマによってできたと考えられます。月のマグマは、サラサラと流動的であるとみられています。
 月には、火山によってできた火口クレーターもあります。

《4.月科学の基礎知識》

 月の半径は、地球の1/4。火星や水星と変わらないほどの大きさです。
 月の公転周期と自転周期は同じ、27.3日。同じ面を母星に向けている衛星は珍しくありません。多くの衛星は自転と公転の周期が同期しています。同期は衛星の重心が偏っていたり、形状が球から離れていたりするほど起きやすくなります。起き上がり小法師のように、惑星の重力に引かれやすい部分ができるためです。
 地球の内部構造は、地震観測によって推定されます。月の内部構造も同様ですが、設置された地震計が4ヶ所しかないので、漠然としかわかっていません。
 1969年、人類は月に立ちます。アポロ計画に使われたサターンVロケットは、人類史上最大のロケットです。月への往路は、指令・機械船と着陸船が繋がった状態で。月周回軌道で、月着陸船が切り離されます。月着陸船は、月周回軌道に戻り、指令・機械船とドッキングします。再打ち上げの際に、帰りの燃料を積んだ宇宙船を打ち上げる燃料を節約するためです。さらに重い宇宙船を打ち上げるロケットもさらに巨大なものになってしまいます。
 米国とソ連が持ち帰った700坩幣紊隆篝个砲茲辰董月の表面が何の岩石でできているかがわかってきました。岩石中の放射性元素から、岩石ができた年代が測定できます(放射年代)。
 アポロ計画は、1972年にアポロ17号を最後に中止されます。ベトナム戦争の費用負担が原因と言われます。また、ソ連は宇宙ステーションの開発を宇宙戦略の柱とします。
 1994年、米国はクレメンタイン探査機を打ち上げます。米国の一連の探査と日本の「かぐや」は、月全体を観測しました。アポロが持ち帰ったのは月の一部の地域のものです。遠くにある対象を、光や電波ななどの手段で観測することを、リモートセンシングと呼びます。クレメンタイン探査機は、可視光線と近赤外線の色データから月全体にどのような岩石が分布しているかを調べました。
 日本の南極観測隊は、月からの隕石を大量に収集しています。氷漬けで保存されているため、有機物の保存状態も良く、資料として質が高いものです。国立極地研究所が隕石を分配する仕組みを整備しました。イトカワの試料を分析している研究者のほとんどは、南極隕石で育った隕石研究者です。
 月も地球も深い所にはカンラン石。近くの大部分は斜長石があります。火山に多く含まれるのは輝石。チタン鉄鉱は月の特産品です。酸素の資源としても注目されています。機動戦士ガンダムの装甲板は「ルナチタニウム合金」であるという設定です。
 月の明るい部分は斜長岩。近くが斜長岩でできている天体は、太陽系では月だけかもしれません。月の暗い部分は玄武岩です。
 マグマオーシャン仮説は、軽い斜長石が浮き上がって地殻を形成したというもの。高地は45憶年前に固まった斜長岩地殻がそのまま残っている地域です。レゴリスが形成されました。海地域は、高地よりも新しい地形なので衝突クレーターが少ないことから、海のように見えるのです。
 月の起源について、多くの研究者が支持するのが「ジャイアントインパクト説」。地球生成初期に火星サイズの天体が衝突し、撒き散らされた破片が再集積して月ができたとします。衝突によって発生した熱でマグマの海を作ることができます。
 地球の地質年代は、生物の化石によって決められます。月には風や水による浸食が無いので、クレーター形成期の放出物が保存されます。そこで、衝突現象の痕跡をもとに、地質年代を区分します。面積当たりのクレーターの数をサイズごとに比較します。長い間露出している地面はクレーターが多くなります(クレーター年代)。

《5.かぐやがあげた画期的な成果》

 かぐやには、蛍光X線分光計、ガンマ線分光計、マルチバンドイメージャー、スペクトルプロファイラー、地形カメラ、レーダーサウンダ、レーザー高度計、衛星電波源、リレー衛星、磁力計、プラズマイメージャ、粒子線計測器、プラズマ観測器、ハイビジョンカメラなどが搭載されました。
 2003年統合されたJAXA。かぐやはロケット打ち上げを民間委託(三菱重工)した最初の打ち上げでした。もともとH-兇六杏重工が製造していたので、現場はそれほど変わっていません。
 高度100kmで、1年半以上にわたって月の軌道を周回したかぐやは、2009年6月に月の表側に制御落下されました。
 かぐやは、高純度斜長岩を発見しました。様々な鉱物を観測・推定する手法が次々と開発されました。

《6.月の資源をどう利用するか》

 月を開発するのは、月より先のフロンティアを目指すからです。
 石ころの体積の殆どは、酸素元素で占められています。大気の無い月では、取り出しコストが高くても欲しい資源です。
 月の地軸の傾きは小さく、年間に白夜のある地域はありません。日照時間が80%以上ある地域は5ヶ所しかあありません。このうち、地球と直接交信できる表側に位置するのは2ヶ所です。
 永久影領域は、北極と南極のクレーター内部に集中しています。水の氷がある可能性があります。水は、飲み水にもなるし、ロケット燃料(液体酸素と液体水素)にもなります。
 原子力電池は放射線物質が出す放射線を電気に変える仕組みの発電装置。何十年も使えるものも可能です。土星探査機カッシーニや、木星探査機ガリレオには原子力電池が搭載されています。
 かぐやが月の縦穴構造を見つけました。日本でも富士山の麓には溶岩トンネルがあり、風穴と呼ばれています。縦穴に潜ると、溶岩トンネルの保温効果で温度差が緩和されます。宇宙放射線を防げます。
 太陽風の96%は水素原子なので、レゴリスを加熱すれば水素を取り出せます。チタン鉄鉱から酸素を取り出すと、鉄とチタンも抽出することができます。
 地球の観測にも月は適しています。大気が無いので光学式の望遠鏡で揺らぎの無い像が観測できます。電波望遠鏡は、電離層が無いために観測域が広がり、夜の間は太陽の伝播の影響を受けません。

《7.月以前、月以降のフロンティア》

 太陽を中心に地球が回っているというモデルは、紀元前280年にアリスタコルスによって提案されていました。宗教が障壁となってその考え方は受け入れられませんでした。
 産業革命時に運河を作る技師であったウィリアム・スミスが「地層累重の法則」を発見し、化石による年代決定法を定め、地質学を作りました。スミスによる新しい世界観の提示が、チャールズ・ダーウィンの進化論を導きました。
 1912年のタイタニック号沈没事故によって、遠方の氷山を発見する装置が開発されました。音響探知機、ソナーの原型です。
 プレートは海嶺で生成され、年間数センチの速度で移動し、海溝へ沈んだり、他のプレートと衝突したりします。記録された古地磁気の方向から、地殻変動を知ることができます。現代では、GPSによって、大陸の動きが実測できます。
 1929年、松山基範博士が地磁気逆転を発見します。地球の磁場は一定ではなく、変化し続けています。地磁気の発生の源は、核の液体部分の対流運動だと考えられています。
 「ザ・ブルー・マーブル(青いガラス玉)」は、アポロ17号の宇宙飛行士が撮影したものです。2050年には、恒久の月基地が建設されているでしょう。
 国連の「月協定」には、「月の資源は誰にも所有されない」と宣言されていますが、これを批准しているのは月探査船を持たない13ヶ国だけです。
 リモートセンシングデータは、何があるかがわかっている場所の情報をもとに、同じものがあるほかの場所や、今まで見つかっていないものがある場所を描き出す手段です。リモートセンシングデータと実際の試料との関係がわかっている天体は、月とイトカワとリュウグウと地球です。火星も岩石を加工・分析する探査車が活動しているので、近い情報は得られます。
 都市の建設には、火星の方が有利です。地球の1/100の気圧でも大気があり、極地方や地下には二酸化炭素や水が存在します。大気あることで熱設計が簡単になります。
 小惑星には、ほとんど金属鉄でできているものや、有機物を多く含むものなど、様々な種類のものがああります。小惑星の場合はもともと金属鉄の状態で存在しているので、製鉄過程が簡略になります。
 火星の次は、木星や土星の衛星です。土星最大の衛星タイタン。表面温度が-180℃。液体のメタンやエタンが作る川や海があり、多様な有機物が合成されていると推測されています。
 太陽系の辺境まで人類のフロンティアが広がるのがいつのことになつのかは、人類の種族としての精神や社会システムの成熟度の問題です。

《8.今後の月科学の発見を予想する》

 今後の月探査は、着陸や試料採取が主流となります。

* SELENE-2計画
 SELENE-2計画は、現在、実施されていないようです。SELENE-2計画は、日本初の月面軟着陸を行う計画であり、誤差100mという高精度での軟着陸を目指していました。また、着陸機やローバーによる地質学的、惑星物理学的なその場観測を行い、月の表層や内部構造について調査を行うとしていました。

《9.宇宙開発における日本の役割》

 2013年の国際宇宙探査ロードマップは、国際宇宙探査協働グループによって作成されました。参加しているのは、イタリア、フランス、中国、カナダ、オーストラリア、ドイツ、EU、インド、日本、韓国、米国、ロシア、ウクライナ、英国。
 ウクライナ情勢をめぐって米国とロシアは緊張関係にありますが、国際宇宙ステーションに関する協力関係を維持する努力がされています。
 中国は、国際宇宙ステーション計画に参加していません。中国はロシアと連携関係を深めて、月探索計画を進めています。2005年には、自国で二度目となる有人飛行ロケット「神船6号」を打ち上げ、自国だけで宇宙ステーションを運用できる能力を示しました。2013年には、月着陸に成功しました。
 宇宙ロケット技術を持っている国の中で、他国を攻撃するための弾道ミサイルを持っていないのは日本だけです。
 かぐやもNASA方式で、データを公開しています。世界の様々な探査プロジェクトで共通化の努力がなされています。
 2014年現在、国際宇宙ステーションへのアクセス手段は、ロシアのソユーズロケットだけになってしまいました。H-僑造蚤任曽紊欧蕕譴詬∩船「こうのとり」は、国際宇宙ステーションへの物資供給に貢献しています。
 二足歩行ロボットのメリットは、人型をしているので、人間用に作られた環境えそのまま活動できることです。四足歩行などの多足歩行ロボットは、無人観測に活用されるでしょう。岩石がゴロゴロ転がっている場所でも活動できます。米国は、軍事用ロボットに多額の予算が投じられ、開発をリードしています。

《終 月と地球と人類の未来》

 地学の研究対象は、実験室で再現できる空間・時間のスケールにおさまりません。