「ウィルスは生きている」 中屋敷均 2016年 講談社現代新書

 私はウィルスは物質、「生物ではない」という説をとっていましたが、この本を読んで説得されました。ウィルスは「生物ではないが、生きている物質である」つまり「生きている分子」とすることにしました。つまり、エネルギー〜素粒子〜原子〜分子〜生命分子〜生命体(生物)という訳です。全ては繋がっているのです。著者は真摯な研究者で、説得力は抜群。恐れ入りました。 以下はこの本の要約と引用です。
 なお、「この本では『ゲノム』を核染色体に持つ核酸配列情報を指すことが多い」としています。その含みとしては「核染色体外のウィルスなどのゲノムも含まれるのでは?」と言いたいのでしょう。どこで線引きをするのか?とても難しい問題ですネ。

《まえがき》
 胎盤の「合胞体性栄養膜」は、胎児に必要な栄養素は通過させるが、非自己を攻撃するリンパ球などは通さず、子宮の中の胎児を母親の免疫システムによる攻撃から守る役割を果たしている。合胞体性栄養膜の形成に必要な蛋白質、シンシチンは人のゲノムに潜むウィルスが持つ遺伝子に由来する。
 ウィルスは純化すると蛋白質や鉱物のように結晶化する。

《序 モンスターの憂い》
 スペイン風邪のウィルスは、アラスカの永久凍土の中に埋葬されている犠牲者から得られた。1997年、ゲノムの全容が解析された。そして、東京大学の河岡義裕がウィルスを合成した。
 ウィルスが変異して新しい宿主への病原性を獲得する現象(ホストジャンプ)は、珍しいことではない。
 ウィルス毒性の低下は、適応変化の結果である。弱毒化したウィルスに感染した宿主が行動する時間が長くなれば、新たな感染の機会が増える。

《1.生命を持った感染性の液体》
 1898年、細菌が通れない濾過器を通り抜ける「濾過性病原体」としてウィルスは発見される。マルティヌス・ウィルヘルム・ベイエリンクは、これを微生物ではなく可溶性の「生きた」分子であると主張した。そして、これをウィルスと呼んだ。アルコールに入れても殺菌できず、沈殿する性質をもつことから生物とは考えにくい。2年間も乾燥させた感染植物標本でも感染性を失わない。
 酵素の正体も謎であった。加熱すると失活するという生物と似た性質を持っていた。1926年に酵素は蛋白質であることが示された。蛋白質には生命活動の根幹となる機能を担うことが示された。
 1944年、遺伝物質の本体がDNAであることが示された。1956年、ウィルスの正体がRNAであることが示された。

《2.丸刈りのパラドクス》
 どんな生物の細胞にも存在する主要構成要素は、細胞膜、DNA/RNA、リボソームである。アミノ酸を順番に結合するリボゾームは3Dプリンターのようなものである。
 ウィルスはゲノム核酸と共にウィルス粒子を形成する。ゲノム核酸を蛋白質できたキャプシドで包んでいるのがウィルスに共通する基本構造である。
 ウィルス粒子には、球状や棒状や紐状など様々なものがあり、細菌に感染するバクテリオファージのようにユニークな形をしたものも存在する。ウィルスには大きな多様性がある。
 ウィルス粒子を包むエンベロープ持つものは、エンベロープも含めてウィルス粒子という。ウィルスは感染した細胞から細胞外に出るときに、宿主の脂質膜(細胞膜や小胞体膜など)を剝ぎ取ってこの構造を作る。エンベロープは、宿主の細胞膜との同質性を利用して融合させ、宿主細胞に侵入するための構造だと考えられている。最外部に細胞膜がある動物細胞への進入時に有効な構造であり、エンベロープを持つウィルスは動物ウィルスに多い。エンベロープはリン酸脂質からなる細胞膜で出来ているので石鹸に弱い。ノロウィルスにはエンヴェロープを持たないので、石鹸の効果は無い。
 ウィルスは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNAなど様々な種類の核酸をゲノムとして持ち、形態も線状であったり棒状であったりする。
 RNAも遺伝情報を複製して子孫分子を作ることが可能であり、そのまま遺伝情報の発現にも用いることができる。植物ウィルスや菌類ウィルスでは、殆どがRNAウィルスである。
 DNAウィルスは、細菌ウィルスの殆ど。動物ウィルスでも少なくない。ゲノムサイズの大きなウィルスは例外なく二本鎖DNAウィルスである。RNAウィルスで最大級のゲノムを持つのはSARSの原因となるコロナウィルス。ゲノムサイズは3万塩基ぐらいである。ゲノムサイズの増大に伴って、遺伝情報の安定性が求められる。RNAは科学的な反応性が高い。その特性により酵素としてふるまうリボザイムRNAも存在する。また、RNA複製酵素はDNA複製酵素に比べてエラー率が高い。
 細胞性生物は、二本鎖DNAをゲノムとしたことで、ゲノムを大きくすることが可能になり、より多くの遺伝情報を用いる方向に進化したと考えられる。
 様々なタイプのウィルスが生物ゲノム=核内の染色体DNAに存在し、内在性ウィルス様配列(EVE)と呼ぶ。DNA型もRNA型も、細菌から高等真核生物に至るまで幅広い生物種のゲノムに存在している。
 EVEと似た存在に転移因子がある。転移因子は、トランスポゾンや挿入配列などの遺伝因子総称。転移因子は病気を起こさず、一定の長さの配列がゲノムDNA上を動く。DNAトランスポゾンは、DNA配列がそのまま転移する。レトロトランスポゾンは、転移の中間体にRNAを使用する。
 移転因子は、1950年ごろ、バーバラ・マクリントックによってその存在が提唱された。
 転移因子とウィルスの境界線を引くことは難しい。違いはレトロウィルスはenvという遺伝子を持つことだけ。envは、エンベロープを作るための遺伝子である。両方とも、自身のRNAから逆転写によってDNAを合成し、それを宿主のゲノムDNAに挿入する。様々な生物のゲノム配列を見ると、envが変異したレトロウィルスが多数見つかる。
 分子生物学でウィルスの進化を考えると、レトロウィルスとLTRレトロトランスポゾンの共通祖先が、昆虫と哺乳類の進化に合わせて分化した後に、それぞれのグループの中でレトロウィルスになったりLTRレトロトランスポゾンになったりしたことを示している。
 転移因子の中には、ウィルスとは異なるものも存在している。
 キャプシドを持たない(蛋白質で包まれていない)ウィルスも存在する。植物や真菌、卵菌類の細胞質には、外来のものと考えられる種々のRNAが高頻度で存在する。病気を起こさない無病徴ウィルスが植物や真菌には多数存在する。
 多くの真菌は他の個体と菌糸を融合させ、遺伝子の交換を行う。ウィルスも宿主の細胞を壊して外に出なくても済む。キャプシドを持たないウィルスは、そのようなウィルスに多い。その多くがキャプシドを持つウィルスと近縁であることが判明した。キャプシドを失ったウィルスと考えられる。
 同様に、細胞質にずっと存在し、増殖し得る核酸性の因子としては、プラスミドがある。プラスミドは染色体DNAとは独立して自律的に複製を行う。病原性もキャプシドもないウィルスとプラスミドには本質的な違いは無い。プラスミドにはDNAウィルスと同祖であるものも存在している。
 ウィルスと転移因子とプラスミドは、ひとつながりである。

《3.宿主と共生するウィルスたち》
 トウモロコシやイネ科の害虫アワヨトウという蛾の幼虫。カリヤコマユバチは、アワヨトウの幼虫に産卵管を差し込んで数十個の卵を産みつける。孵化すると宿主から養分を接種し、孵化から10日後に成熟幼虫がアワヨトウの体内から出てくる。
 カリヤコマユバチの幼虫が体外に出てくる時期になると、本来は夜行性のアワヨトウは昼間に植物の葉に移動して静止する。その葉の上でカリヤコマユバチの幼虫がアワヨトウの体表を破って出てくる。その間、アワヨトウの幼虫は動かない。体液も出ないし、絶命もしない。
 脱出する直前にカリヤコマユバチは脱皮をする。この脱皮殻を利用して自分の周りを覆う脱出用のカプセル構造を作る。頭が出たところでカプセルを破り脱出する。殻は開口部を塞ぐ蓋になる。アワヨトウはその場を離れて死ぬ。微生物が繁殖して、カリヤコマユバチの幼虫が汚染されるのを防ぐためだと言われる。
 モンシロチョウの幼虫に寄生するアオムシコマユバチでは、死にかけの宿主が糸を吐いてコマユバチの繭を作る手伝いをする。クモヒメバチに寄生されたギンメッキグモは、寄生蜂の蛹のために蜘蛛の巣を張って死んでいく。その網は通常の30倍の強度を持つ。
 上記の関係に重要な役割を果たすのが、ポリドナウィルス。昆虫にも寄生者から身を守るために、異物を排除する自然免疫がある。寄生蜂の卵のような大型の異物に対しては、顆粒細胞とプラズマ細胞が撃退する。ポリドナウィルスは寄生蜂の卵と一緒に注入される。ウィルス粒子内のDNAを核に移行させ、寄生のゲノムDNAと入り込む。その役割の一つは、宿主の免疫反応を抑制すること。宿主の細胞性免疫の中核である顆粒細胞などに結合し、免疫細胞としての機能を破壊する。顆粒細胞のアポトーシスも誘導する。さらに免疫機構を阻害する蛋白質も利用する。
 もう一つのポリドナウィルスの役割は、宿主の変態の阻止。蛹になり体表が固くなると脱出できない。昆虫ホルモンの異常を引き起こしている。
 ポリドナウィルスには、自己複製のための複製酵素やウィルス粒子を作るキャプシド蛋白質などの遺伝子が無い。増殖に必要なRNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)やキャプシドやエンベロープ蛋白質の遺伝子は、寄生バチのDNAにコードされており、ポリドナウィルスはそこから供給される蛋白質により寄生バチ細胞で増殖する。それらのゲノムは昆虫由来のものではなく、DNAウィルスのヌディウィルスに由来する。ポリドナウィルスは、ゲノムに入り込んだ後、宿主のDNAの一部を取り込む。独立したウィルスとしてではなく、昆虫の「分子兵器」として寄生バチゲノムに溶け込んでしまった。
 ほぼ全ての植物が相互依存あるいは偏利な共生関係を持っている。植物にリン酸や水を供給する菌根菌や、宿主を食害から守るエンドファイトが知られている。ウィルスと真菌と植物の三者の共生現象はありふれたものである。
 動物でも、潜在感染していたウィルスや内在性レトロウィルスなどが天然ワクチンのような働きをしている例も少なくない。ウィルスなどの病原体に反応して動物細胞が産出するインターフェロン生産が増え、マクロファージが活性化される。これも一種の共生関係と言えるだろう。

《4.伽藍とバザール》
 「伽藍とバザール(市場)」は、コンピュータ・ソフトウェアの開発様式の違いを表す。体系的な開発と、オープンアーキテクチャの開発を対比した言葉。生命進化は市場型で起こっている。
 哺乳動物の胎盤形成には、シンシチン以外のレトロウィルスやトランスポゾンの遺伝子が関与している。シンシチンはenv遺伝子に起源を持つ。env蛋白質はウィルス粒子のエンベロープに存在し、感染のターゲットとなる細胞の細胞膜と融合させて細胞内へと侵入していく。ウィルスのエンベロープ膜はもともと宿主細胞の細胞膜。つまり、二つの細胞の融合なのである。シンシチンが細胞融合を起こして、合胞体性栄養膜を作れるのは、evn蛋白質が細胞膜を融合させる機能を持っていたからである。免疫抑制作用もevn蛋白質がレトロウィルスの感染を助けるために宿主の免疫機構を抑制する作用を持っていたからである。
 病原微生物には、ウィルス、細菌、真菌、原虫など様々なものが存在する。抗体はその違いを認識して、特異に結合する。その識別には、抗体分子の可変部が出来上がる過程で、配列の組換えが関与している。獲得免疫の心臓部は、転移因子由来である。
 ヒトゲノムの遺伝子領域は1.5%。ウィルスや転移因子は45%。少なくともその一部は、遺伝子発現を制御する配列としての機能を持っている。
 その一つが、DNAからRNAが転写されるための遺伝子配列=転写開始部位。哺乳動物で発現しているRNAの18%が、転移因子に由来する配列を利用して転写を開始している。
 1999年のフォード・ドリトルの「生命の樹」には多くの水平な線が描かれており、「網」のような形状をしている。2011年に発表されたポパとダカンでは三次元になり、さらに入り組んだ網となっている。それは遺伝子の「水平移行」を表している。

 遺伝子は他種の生物同士でやりとりされることがある。特に、原核生物では頻繁に起こってきた。原核生物の遺伝子の1割以上が、他人から譲り受けたものとなっている。
 水平移行には、ウィルス/ファージが関わっている。多くの病原性細菌の毒素合成遺伝子はウィルス/ファージによって、細菌に運び込まれたと考えられる。抗生物質の耐性遺伝子を、ファージが持ち込むことで宿主が耐性化する例もある。
 シアノファージと呼ばれるDNAウィルスは、様々な宿主の遺伝子を取り込んでいる。それが宿主の中で、別の独自の変化を遂げる。宿主遺伝子を代替し、光合成能力を高めていることがある。
 シアノファージが持つ光合成関連遺伝子が、シアノバクテリアの進化に役立ってきた。ファージを介して、光合成遺伝子が異なったバクテリア種に移行した例が見つかっている。遺伝子配列の組換えが起こり、遺伝子進化が加速されたと考えられる。
 GTAは小型のDNA断片である。GTAの配列は宿主細胞のゲノムDNAに由来する。GTAにはゲノム全域からランダムにDNAが取り込まれ、それが他の菌株に受け渡されることで水平移行を促進している。GTAは水平移行するためのオルガネラ(細胞小器官)として機能している。
 GTAを作るための遺伝子は、宿主ゲノムに侵入したファージがベース。そのファージ遺伝子が宿主に利用され、宿主DNAを細胞外に輸送する装置となった。原核生物では、遺伝子を水平移行する装置が広く維持されている。

《5.ウィルスから生命を考える》
 3劼鯆兇洪竺い猟譴硫爾凌百メートルの地下に、古い細菌が存在し、それらの大部分は地球表面とは異なるタイプの小さな古細菌である。これら古細菌の大部分はエネルギー源が極端に乏しい環境に適応している。極めてゆっくりと生命活動を行っている。数約年に一度しか細胞分裂をしないのではないかと推定される。最初の生命体が生れた時も、状況は同じだろう。生物がいないのだから、他の生物の有機物を接種する機能は持たなかったろう。初期生命体が増殖するにつれて、彼らの死骸や排泄物が増える。そして、有機物のエネルギーを利用して生きる生物が出現するだろう。
 代謝は、外部から物質を取り入れ、それを利用し、排泄するまでの一連の化学反応。ヒトは生命に必要な代謝系の全てを保有していない。アミノ酸合成系のいくつかを欠いている。大腸菌などの細菌や植物は全てのアミノ酸を合成することができる。ヒトは自己の維持に必要な代謝系の一部を外部環境に依存している。
 リボゾームは生命の必要条件だと考えられている。宿主からリボソームを作る蛋白質を借りるか、リボソームごと借りる共生菌もいる。寄生することでしか生きていけない生物は多い。ファイトプラズマは、ATP合成酵素を失った細菌である。タンパク質合成や生体膜におけるATP合成を外部環境に依存することもあるえるのだ。生物として単独でそれを保有することは必須ではない。
 生命は物質から進化してきた。物質と生命は連続している。
 初期生物においては、外部環境が彼らの代謝系そのものであったと考えるのが自然である。「生物が持つべき代謝系」は定まったものはない。退行進化した細胞内で暮らす細菌のように、利用できる環境がああるからそれを利用しているだけだ。
 「生命の根源の営み」は「ダーウィン進化」である。ジェラルド・ジョイスは、「生命とはダーウィン進化する能力を持つ、自続的な化学システムである」とした。ダーウィン進化論は「試行錯誤を行い、成功体験を蓄積していくサイクルを繰り返す」ということである。情報の観点では、得られた有用な情報は受け継いだ上で、新たな変異を加えるいる(有用情報の蓄積)。
 DNA複製酵素がなくとも核酸の複製は起こる。粘土物質との結合により、その物質の安定性が増加する。自然条件下でも物質の進化が起こる可能性はある。複製と進化という「進化の論理」を内包する物質の代表がDNAとRNAとTNAとPNAである。TNA(トレオ核酸)は、四炭糖を骨格とした核酸/RNAの前駆体となった可能性がある。PNA(ペプチド核酸)は、自然界では発見されていないが、単純な化学反応で生成するペプチドは、核酸と蛋白質による生命システムを一つの分子で体現している。

《終 新しいウィルス感と生命の輪》
 パンドラウィルスは1μmを超える巨大なウィルス。最近に近いサイズである。キャプシドの内側に脂質膜が存在し、その内部にウィルスゲノムである二本鎖DNAが含まれている。キャプシドは三層からなるエンベロープに包まれ、キャプシドの外側の一部に開口部がある。代表的なパンドラウィルスのゲノムサイズは247万塩基対。多くの古細菌よりも大きい。通常のウィルスのゲノムサイズは1万塩基対、遺伝子は10個以下。
 パンドラウィルスは、巨大ウィルスが共通して持つ、DNA複製酵素、RNA合成酵素やヘリカーゼ等の遺伝子も保有していた。そして、遺伝子の93%がこれまでに知られているどの生物とも有意な類似性が無かった。分子系統解析上は、真核生物・真正細菌・古細菌の3つのドメインのどれにも属さず、新たな4つめのドメインを構成すると提唱されている。キャプシドを持つ生物とリボソームを持つ生物に二分すべきという提案もある。
 反対論者は、ウィルスは代謝を行わない。細胞から独立して進化できない。ウィルスには共通した祖先が無く系統的に進化していない(これに対しては異論もある)、などを主張している。
 巨大ウィルスは遺伝子を溜め込んで生物に近づいているようにも見える。パンドラウィルスと近縁なクロロウィルスは、クロレラなどに感染するウィルス。そのゲノムにはたくさんの膜輸送蛋白質(イオンチャネル等を含む)がコードされている。クロロウィルスはキャプシド内に膜構造を持っており、そこで膜輸送蛋白質が機能すれば細胞膜としての機能が始まることになる。
 1960年代にジェームズ・ラブロックによって「ガイア仮説」が提唱される。地球が一つの生命体のように自己調整機構を備えているとし、ギリシャ神話の大地の女神ガイアに因んでそう呼んだ。
 個体という概念に疑問を持つことがある。植物は挿し木が可能。接ぎ木の場合は異なったDNA情報を持つ異種が同一株となる。植物には異質倍数体という現象がある。二つの植物が融合し、染色体は両者の合わせたものになる。細菌や真菌も、個体という概念が成立しない。「個体」は高等生物に特有の現象なのかもしれない。
 個の意識は、脳という組織が他との物理的な交わりに乏しい生命体に固有のものである。生物としてのヒトは、他から独立していない。生命に独立性があるとしたら「我思う上に吾在り」という「観念」だけではないのか。
 生物は、物質的には独立しておらず相互に依存し、進化の中で他の生物との合体や遺伝子の交換している。生命の存在の様式は「生命の輪」である。ウィルスは、生命の輪の無くてはならない重要な一員である。

《あとがき》
 実際にウィルスを扱うと、それは「生きている」としか思えない。宿主との関係においては、ウィルスは細菌と同じ振る舞いをする。
 人としての生と、ヒトとしての生は別のものである。人としての生は二次的な生である。