「発達障害の素顔」 山口真美 2016年 ブルーバックス

 ひょっとすると私も発達障害?! 大昔は発達障害と認定される人は少なかったけれど、今では山ほど認定されます。大袈裟に言えば、特別な才能を見せる人間の殆どが発達障害なんです。そんな発達障害の「素顔」を知りたくて読んでみました。 以下はこの本の要約と引用です。

《はじめに》
 筆者は、乳幼児の心と脳の発達を研究する心理学者である。この世界がなぜ、このようにみえるのか、その当たり前のように見える不思議を探っている。
 子供が社会へ巣立つまでの道程で、親は最初の理解者になる必要があるだろう。一人一人の人間の違いを知り、その違いを楽しむ余裕を持つことが必要だ。中でも自閉症は、広く個性として私たちの中にもある。標準のマニュアルで教育することに慣れた人達には、発達障害の人と接するのはやっかいだろうが、人を育てるということはそういうことだ。
 本書では、発達障害の原因を、近年の脳科学と認知科学からわかった成果を基に説明していく。発達障害の問題は、発達の出発点における認知の違いにある。見え方や聞こえ方の違いは、コミュニケーションのすれ違いを生じさせる。

《1.発達障害とはなんだろう》
 授業に集中できなくて、立ち歩く。先生の話を遮り、マイペースに質問する。
 他人の心を知ることは複雑である。始まりは、1970年代チンパンジー研究者プレマックスによる「心の理論」。チンパンジーが、他者の意図を推測できるかどうかを検討した。
 他者の心を推論することは難しい。年長児にならないと正しく推論できない。4歳児の子供には「マキシ課題(誤信念課題)」がクリアできない。
 自閉症は、相手の心が見えない状態にある。他者の心を推論するための4つの要素。志向性検出器、視線検出器、共同注意機構、心の理論機構。志向性検出器は、環境の中から意図や目的を持って自律的に動いている物体を取り出す。視線検出器は、相手が「どこを見ているのか」を検出する。この二つのモジュールを束ね、他者が注目している対象に自分も注目してることに気づくのが、共同注意機構。他者が注目しているものを共に見るという「共同注意」が、他者の理解を紐解く鍵となる。共同注意を基礎に、他者の信念や知識を推論する心の理論機構は成り立つ。
 自閉症の根底には「視点のずれ」があって、「何かが欠けている」のではない。相手の心がわからないというわけではない。

《2.発達の障害を考える》
 発達障害は、発達的に変化するため。摑みどころがないところがある。2歳半を過ぎたあたりで、急峻な発達により平均に追いつく子もいる。
 シナプスは生まれてから8ヶ月まで急峻な発達を見せ、爆発的に増加する。その後、シナプスの数は減り続ける(刈り込み)。結果、遠くの神経細胞同士の連携も進み、トップダウンな思考(全体を見渡せる能力)の獲得を可能にしていく。
 第一次視覚野の発達は、他の脳の領域に比べて早い。それ以外の脳の領域は、第一次視覚野の発達に伴って発達しながら、刈込も行われる。発達障害者では、この刈り込み(能率化)が遅れる。
 視覚野の発達は、思春期まで継続する。それは、社会性の発達とも一致している。認知能力の発達によって、理解する内容が変わる。虐待やいじめによって発達が歪められることもある。その問題が生じた発達時期によって、脳のどこに問題が及ぶかが変わる。
 発達障害の子供は、生後1ヶ月の段階で既に、他者とのアイコンタクトや人との接触、親に対する愛着的な行動が少ない。1歳児では、指差しや他人を見る行動といった、社会的コミュケーションに関する行動が少ない。
 双子児の研究などから、自閉症が遺伝によって左右される部分もあることが示唆されている。
 米国を拠点とするオーティズム・スピークスは、世界最大の自閉症支援団体。
 ヒトの脳は、生れた時は未完成。環境に合わせて学習する持っている。環境からの影響を受けて脳が変化することを、可塑性と呼ぶ。脳は、年齢に関係なく、環境に合わせて適応する。
 発達障害の人は、ものの見方の独自性のために社会関係をうまく作れないことがある。それにより、別の障害=二次障害を残す可能性がある。親からの虐待や友人からのいじめは、持って生まれた障害よりも大きな衝撃を脳に与える。発達にとっては、物理欠如より心理欠如の方が影響が大きい。身体虐待よりも心理虐待の方が精神疾患を引き起こす。
 子供とのスキンシップを密にしないと、発達上の問題が生じる。人の新生児でも嗅覚による母親探しが観察される。母親を見分ける行動は、生後数日で観察される。
 「新奇性恐怖」は、生後8ヶ月に「ひとみしり」として現れる。10ヶ月を過ぎると、母親の反応がポジティブなら、未知のものでも積極的に行動する。感覚過敏が性質にある自閉症児は、新奇性恐怖の克服にさらなる努力が必要とされる。
 見知らぬ人に対して不安を感じる時、偏桃体が反応する。この反応は、4歳から17歳にかけて徐々に低下する。そして、子供のころから青年期にかけて、人々の感情に敏感になり、周囲の言動にピリピリする反抗期に進んでいく。偏桃体の発達は大学生のくらいまで続き、成人になるに従い弱くなっていく。成人になるに従い、情動処理は偏桃体から知的な処理を司る皮質に移行する。子供や青年期の恐怖は、成人とは感じ方も反応のし方も違う。また、恐怖を感じる対象も変わる。乳児では両親の不仲や虐待からの影響を受けやすい。児童期になると友達からの影響が大きくなり、いじめが最も強い恐怖となる。青年期になると異性などへと移っていく。社会性に問題のある子どもは、学童期に信頼できる友人がいるかどうかが、その後の人生の適応度を決める鍵になる。
 大きな恐怖は、不可逆的な衝撃を脳に与える。恐怖の体験は、偏桃体の大きさを変えてしまう。
 虐待を受けた年齢で影響は異なる。3歳から5歳では記憶を司る海馬が減少する。9歳から10歳では脳梁が減少する。思春期以降の14歳から16歳では、自己制御機能を持つ前頭前野を減少させる。
 暴言虐待は聞き取りに関わる聴覚野の髄消化を阻害し、会話や言語や発言の能力を司る左上側頭回に影響を与える。厳格体罰は、感情を司る前頭前野に影響を与え、抑鬱や行為障害を引き起こす。DV曝露は、視覚野の容積を減少させ、視覚野の神経過敏ち過活動が推測される。

《3.感覚の発達》
 発達障害者の体験談は、健常者とは異なった感覚を持ち、こうした感覚の違いに違和感を感じていることを示している。自分の感覚に振り回されていることは発達障害者で共通している。対人衝突は、周囲がどれだけ受け入れているかによって個人差が大きい。支えとなる人物の存在は、大きな鍵となる。
 ウェッブには自閉症の感覚世界を疑似体験できる映像がある。その映像の「ざわめき」の大きさに驚かされる。大きい音にパニックになり、彼らの置かれた状況が伝わってくる。
 健常者は雑音を意識に上る前に遮断する。自閉症者はこの遮断ができない。反対に、人の声が聴きとりにくい。
 出生時にはあらゆる言語を聴き分けられる能力を持つ。生後10ヶ月になると母国語だけを繊細に聴き分けるようになる。こうした聞き分けを自動でできないと、周囲のざわめきが話し相手の声と同じ水準で聞こえてしまう。人の声が聞き取れなくなり、言葉の遅れにつながる。
 両耳から入る音の時間差を勘案して音源を定位することも難しい。選択聴取が困難になる。詳細時間構造=音を時間構造の単位にまとめて分析する仕組みが弱く、音の高低の聞き分けができない。会話の語感がわからないため、ニュアンスが伝わらない。
 発達障害者は、蛍光灯の60サイクルの点滅が見えてしまう/無視できない。
 知的機能には問題がないが読み書きができないディスクレアの一種、アーレンシンドロームでは、特定の色の眼鏡をかけると、読めるようになる。彼らには、止まっている文字が動いて見える。
 錐体細胞からの神経信号は外側膝状体で、色と形、そして動きの2つの情報に分けられて視覚野に送られる。色と形は外側膝状体の小細胞で、動きは大細胞で処理される。アーレンシンドロームでは、小細胞に伝達されるはずの色が、動きの信号に混同されて伝わってしまう。問題となる色は人によって異なる。
 言語の聞き取りでは、素早く音素を識別する必要から処理速度が速い。聴覚性のディスクレアでは、音素を順番に聞き取れない。
 感覚処理の偏りが人それぞれ違う。これが発達障害の理解をややこしくしている。
 処理できる情報量が小さければ、統合するのは難しくなる。処理容量(ワーキングメモリ)は変わる。10歳になれば大人と同じレベルの量を記憶できる。注意欠陥多動性障害では、処理容量の増加が少ない。狭い注意の範囲で、先生と黒板に注目することができない。ディスプレイのような限られた部分に集中することはできる。コンピュータ学習をクリアできれば、症状は改善される。
 注意欠陥多動性障害児では、単一の属性の「特徴探索」に比べると、複数の属性の「結合探索」の誤答率が高い。自閉症児では、結合探索が早い。周囲に惑わされずに一点に注意を向けるから、パズルを解くことは得意だ。
 自閉症児は、一度集中すると、注意を制御できなくなる。黒板の狭い範囲内しか注意が向けられない。雑音を遮断できないからだ。
 自閉症児はシナプスの刈り込が少ない。顔を見ているとき、近くの神経細胞同士の結合が多く、離れた結合が少ない。
 雑音の遮断は、蓄積された知識や記憶を使って行われる。同じ文化を共有する「共通認識」が生じる。あらゆる判断基準は、文化や社会に根差した先入観、多数派かどうかが問題となる。このトップダウン処理は、社会の維持には便利だが、誤った判断に陥る可能性もある。自閉症者は、先入観無しに判断する。自閉症者は理系向きとか数学に強いという評価がある。
 我々は感覚のありのままを受けとめとめるのではなく、必要だと判断した情報だけを切り取って解釈している。
 全体を把握する理解と、部分を積み重ねる理解では、理解する内容が全く違う。自閉症者は、統合が苦手だ。笑いながら皮肉を言ったり、苦しい話を笑って話す場面の意味が理解できない。
 発達障害者は、狭い範囲で高い感度で感じる、雑音を遮断する濾過器が働かない、トップダウン(上方指示型/先入観)処理が利かない、という特徴がある。

《4.脳から見た発達障害》
 視覚情報には、下部側頭皮質へと続く腹側経路と、後頭部頭頂皮質へと続く背側経路の二つの経路がある。背側経路は動いているものを見ることに、腹側経路は形を観察することに関わっている。背側経路と腹側経路は独立して存在し、障害も独立して生じる。
 先に発達する背側経路は腹側経路の発達を促す。新生児では、先に発達する皮質下が皮質の発達を促す。生後3ヶ月までは、皮質下だけが機能している。
 乳児の眼球は小さく未発達のため、網膜には、ピントが合わない映像が届く。網膜は周辺部が先に発達し、錐体細胞の完成は遅い。3歳になっても網膜の中心部の錐体細胞は大人の半分にしかならない。。網膜からの情報処理に注目すると、外側膝状体の構造が成人と同じになるのは生後9ヶ月、大脳皮質では11歳である。生後2ヶ月以下の乳児では、目の中心で見ること、意識してみることはできない。新生児の顔を見る行動は、皮質下によるものと思われる。
 視力の発達には、刺激による学習が必須である。動いているものへの反応は皮質下だけが働いている時期から生じるものであり、形よりも動きの知覚は先行して発達する。乳児は補完知覚が不完全で、見たとおりに知覚する。主観的輪郭を知覚できない生後3ヶ月児でも、欠けた部分を連続して動かすと主観的輪郭が知覚できる。チンパンジーでも同様である。視覚経験を学習として定着するためには、動くなどの「関わる行為」が必須である。
 動き回るには、背側経路で「空間」を見極め、対象と自分との距離を捉えることができるからこそ可能になる。風景を見ることに特化した海馬傍回場所領域が損傷を受けると、風景がわからなくなって迷う。空間を見ることは、背側経路だけでなく、腹側経路に近い領域も関わる複雑な過程である。腹側経路では錯視が起こるのに対して、背側経路では起こらない。動きながら見ると、錯視は起こらない。
 発達障害児には、運動が苦手な子が多い。自身の身体の動きや、身体感覚そのものが希薄である。

《5.コミュニケーション能力は顔と視線から》
 顔認知は腹側経路の最終段階で処理される。形の認知の特殊な形式ともいえる。顔認知には、大量の学習の成果である。あるパタンを大量に学習すると、そのパタンの特徴が認識できるようになる。顔を区別するのと同じ、紡錘状回顔領域が活動している。自閉症や発達障害の人の中には、顔を見ることが苦手な人がいる。
 顔認識には、生得的な側面も強い。目と鼻と口の位置さえ保たれていれば、新生児は顔に注目する。二つの目と口らしきものがあれば、顔と認識してしまう。こうした顔検出は顔の「一次処理」と呼ばれている。一次処理は顔を探し出すだけ。顔を区別することはできない。髪型が変わると母親の顔ですらわからなくなってしまう状況は生後4ヶ月まで続く。
 二次処理は、よく知っている顔を見た時に起きる。顔を区別する(誰かを認識する)のは、全体の雰囲気で識別して、部分で識別しない。二次処理は、全体処理をベースに行う。長い間会わなくても、その人を認識できる。二次処理ができるのは、ひとみしりが始まる生後8ヶ月前後である。
 自閉症になりやすい子供の特徴は、視力が良すぎることである。視力が良く生まれた新生児は、細かい部分で顔を見る癖がつき、顔全体を見ない傾向がある。自閉症者は口元ばかり見る傾向があある。顔を見る時に活動する筈の脳波が、顔以外の物体を見たときに観測される。
 視線を合わせることも、視覚能力の一つ。相手の目を見る行動は生まれついての能力である。目は、顔の中でも一番目立ち、赤ちゃんがまず注目するところだ。横長の楕円の白目に小さな黒目というのは、人間特有で、視線がどこに向いているかがわかりやすい。
 視線を出発点としたコミュニケーションスキルは、成長と共に発達していく。生後4ヶ月になると、「こちらを向いている目」と「そっぽを向いた目」を区別し、こちらを向いた目の顔に注目する。視線の方向を区別するようになる。生後4ヶ月から7か月の赤ちゃんは、視線の合わない顔を無視し、視線の合った顔だけを記憶する。
 目と目を合わせたコミュニケーションでは、母子がともに成長する。母子双方が顔を見る時間は、月を経るごとに増えていく。母親の子育てスキルの遅れは、子供の発達の遅れに連鎖する。視線方向に関する感度が弱いことが自閉症者の特徴であり、結果として、他者の意図を理解し難い特性につながる。
 視線から、コミュニケーションが発達していく。親と子が見つめ合えるようになった後、生後6ヶ月になると、視線追従が生じる。生後9ヶ月になると、親と子の共同注意、他者との世界の共有が始まる。
 相手の視線から自分の背後以外の位置を特定して注意を向けられるのが生後12ヶ月。自分の背後にも注意を向けられるようになるのが、生後18か月。やがて興味の対処は、視線の先から指の先へと移行する。母親の指の先に注目することから始まり、やがて自分から指差しができるようになる。
 共同注意をしている時間の長い子ほど、子供が注意を向けている対象に母親が追随する傾向が高い子供ほど、言語の理解と産出が優れている。共同注意のスキルは、その後の言語発達を予想する力がある。
 共同注意は、自閉症児では観察されない。共同注意から言語発達への変遷は、生後10ヶ月から見られる。18か月になっても共同注意が見られないことが自閉症診断の基準の一つになっている。自閉症児にとって、人と目線を合わせられないことが、言葉を獲得する上で大きなハンデとなっている。
 外国語の学び始めのときには、相手の口元に注目する。口元を見ることで、聞き取りができるようになる。自閉症者は、相手の顔に目を向けるのが苦手なため、言語獲得が進まない。
 顔認識では、生後半年迄は、言語と同様に、猿の顔も人の顔も区別することができる。生後9ヶ月を過ぎると、人の顔だけを区別するようになる。言葉と顔の認識能力の発達は共存している。
 発達障害者の中には、言葉も音楽も耳にしたことをそのまま喋ることができる人がいる。

《6.社会脳と社会性の認知》
 相手の顔を見られるかどうかは、社会性の能力を決める。それを実現する脳の領域は複数に分かれている。物の形を認識できない者は、人の顔ならわかる場合がある。顔を処理する脳の領域に障害を受けても、顔以外の物体は認識することができる。
 顔は全体のパタンとして認識され記憶される。腹側経路の発達が早すぎた自閉症児は、部分に注目してしまい、全体をパタンとして認識できない。
 顔認知処理は、紡錘状回顔領域、上側頭溝、偏桃体、が関わっている。上側頭溝は視線や表情を読み取るときに活動し、偏桃体は情動価の強い恐怖表情に反応する。顔の記憶には、それらの周辺の領域も関与している。記憶に残りやすい顔は、魅力的な顔と信頼感の無い顔。笑顔の人の顔は優先して覚える。前頭葉にある眼窩前頭皮質と記憶に関わる海馬が働く。眼窩前頭皮質は、金銭的な報酬に関わる時に活動する。危険な人物の記憶には、島皮質かた海馬の相互作用が関わる。島皮質は、顔や人物のネガティブな情報の処理や、社会的・精神的に傷つく感情の処理、罰の処理に関与している。
 偏桃体に問題があるウィリアムズ症候群の患者は、社交的で誰かれなく話しかける。恐怖心に関わる偏桃体が弱く、恐怖が起きにくい。また、共感性が高い。
 顔認知に関わる脳は分業されていて、その周辺に共感性といった社会性の別の能力がある。社会性は、顔を見ることからはじまって、共感できること、怖いという感情を持つこと、他人の心の動きを理解できること、模倣できること … これらの能力は、活動する脳の部位もそれぞれ異なっている。
 社会性に関わる脳の部位には、偏桃体ネットワーク、メンタライジングネットワーク、共感ネットワーク、ミラーニューロンシステムネットワークから構成されている。メンタライジングネットワークは、心の理論のように、相手の状況を推測して理解する能力に関わる。ミラーニューロンシステムネットワークは、真似をすることによって他者とのつながり支える。動作がシンクロするのが特徴。
 身体を基準としたミラーニューロンシステムは、目の前の人の痛みや苦しみに反応するとしても、相手の世界は自分の延長でしかない。相手の文脈で対応するためには、相手の気持ちを推論する必要がある。
 レビー小体型認知症の患者は、過度に顔に反応する。顔ではないのに顔に見えてしまう。幻覚や幻想が生じやすい。あちこちに見える顔から存在しない小人や幽霊が見える。こえは特殊な事ではない。誰でも、怖がっているときには幽霊が見えたりする。
 コミュニケーションスキルにも文化の違いがある。目を見て話すのは欧米人。日本人は視線を合わせることは相手に失礼と感じる。表情を読むとき、日本人は目に注目するが欧米心は顔全体を見る。欧米人は口を大きく動かす。日本人は大袈裟な表情をしない。相手の繊細な表情を読み取ろうとするがために、目に注目する。表情の区分も東南アジアと欧米では異なる。東南アジアでは表情の区分が曖昧である。
 自閉症の理論に、部分にだけ注意を向けることに着目した、バロン=コーエンの「システム化仮説」がある。自閉症者は世界を見るのではなく、世界が動く規則に従い予測する。関心の幅が狭く、常に同じことへの要求が強い。自閉症者と健常者の間に明確な境界は無い。
 自閉症者は、あらゆる事例をサーチして、あらゆる可能性を考える。情報処理に時間がかかる。先入観で判断を絞らない。機械的な処理を行う。
 生後24ヶ月になると健常者は「ふり遊び」をするようになるが、自閉症児では少ない。自閉症者は「だまし」の理解が遅い。健常児は、9歳になると他者を傷つけない振る舞いを学ぶが、自閉症児では12歳になってもこの域には達しない。
 自閉症は自閉症スペクトラム障害とも呼ばれ、わずかな傾向を持つ人たちは多い。偏差値の高い理系の大学には、自閉傾向の学生が見られる。

《あとがき》
 発達障害には診断基準も含めて、これから解明すべきことがたくさんあります。