「5G 大容量・低遅延・多接続のしくみ」 岡嶋裕史 2020年 ブルーバックス

 ブルーバックスの5Gですから、技術面も丁寧に解説してくれるだろうと思ったら、期待以上でした。 以下はこの本の要約と引用です。


■ 電波とは何だろう

 電磁波は、電気と磁気の相互作用によってできる波です。

 家庭でも免許なしに使っていい周波数として、2.4GHz帯があります。イヤホンやマウスの接続に使うBluetoothやWi-Fi、電子レンジはこの周波数を使っています。

 周波数は、低いほど減衰が少なく、遠くまで届きます。波長より小さい障害物を超える、回折も強くなります。一方で、周波数が高い方がより多くの情報を届けることができます。

 光ファイバーは、石英ガラスを最も通過し易い近赤外線を使います。膨大な情報を送信できます。

 波長が短くなると、アンテナも短くなります。アンテナの長さは波長の半分が効率が良いのです。

 ラジオ放送は、搬送波(キャアリア)に音声を混ぜて送ります。

■ 携帯電話がつながるしくみ

 スケジュールも支払いもアポも撮影も購買も移動(経路決定)も、人間の行い全てがスマホを通して行われます。常に持ち歩き、記憶を外部化し、意思決定も外部化する。スマホに行動と判断が集約されています。

 携帯電話は、末端部分(アクセス回線)だけが無線で、無線基地局からは有線通信です。無線は定速で不安定で高額だからです。

 インターネット間や固定電話網など、それぞれのネットワークとの接続は、ゲートウェイがそれぞれの通信手順に合うように変換して行います。

 通信事業者のネットワークの集約が進んでいます。通信ルールがIPに準拠するようになりました。

 発呼の認識や無線基地局の切替(ハンドオーバー)は制御用の周波数(チャネル)は、データ用とは分けられます。パソコンの通信ポートも、データ用と制御用を使い分けています。確実に制御信号をやり取りし、データとの混乱を避けるためです。

 スマホ→無線基地局→下位交換局→上位交換局→下位交換局→無線基地局→スマホ、というふうに接続されます。別の通信事業や固定電話と通信するには、関門交換機を通じて、インターネット上のサーバーとデータの受送信をするにはゲートウェイを通して接続します。

■ 携帯電話の世代とは何んなのか

 電話の音声通信で1秒間に送られるデータ量をビットレートと言います。

 第三世代は、携帯電話の通信プロトコルが世界標準化されました。

■ 国際標準規格が採用されたけど

 通信システムでは、業界標準は起こりにくく、ISO(国際標準化機構)やITU(国際電気通信連合)が標準規格を決めています。3Gシステムは、ITUのIMT-2000に従って構築されています。ISMバンドは、産業・科学・医療のために周波数帯を確保しています。

 Wi-Fiの電波出力は国内では200mWに制限されています。有効なのは100mほどです。200mほどの距離をあければ別のアクセスポイントを立てることができます。Wi-Fiは人が密集していて、あまり動かない場所で、無線基地局の混雑の緩和しています。

 PCMは、実際の音声を収録して発音します。分析合成符号化は、様々な音声を分析して取得し、取得した音声に近い音声を使います。現在の携帯電話では、波形符号化と分析合成符号化と掛け合わせたハイブリッド符号化を使います。

■ スマホの普及にシステムの進化が追いつかない

 3Gから4Gへ移行する時期は、携帯電話がスマホへと移行する時期でもありました。音声通話の回線交換網とデータ通信のパケット交換網が、パケット交換網に統合されました。

 下りの方が需要が多いので、下りに多くの帯域を割り当てます。下り線用のストリーム=伝送路(アンテナ)を複数用意します。

 PANは個人用機器を接続するもの。スマホとイヤホンを結ぶBluetooth、USBは有線のPANです。 LANは構内接続用。PCの有線通信のイーサーネット。Wi-Fiは無線のLAN技術です。WANは広域ネットワーク。携帯電話やインターネットが該当します。

 WiMAXは、LANとWANの中間。有線回線を引きたくない人のニーズに対応しています。携帯電話とは別の契約をしなければなりません。

■ 移動通信システムの解放

 MOEG4は、低ビットレート伝送下での使用に対応しています。

 5Gは、移動通信システムをスマートフォン以外のIoTなどに開放する役割を持っています。

 スマホであれば、1平方キロメートルあたり100万台を収容する必要はありません。小型センサー類はボタン電池で稼働することも考慮しなければなりません。

 5Gではマイクロ波(ミリ波)は、使われていない周波数帯なので余裕があります。基本帯域幅は400MHzに拡張されています。高周波になるほど散乱しやすく、遠くまで届きません。無線基地局の増設が必要です。高い周波数は直進性が強く、障害物に遮られてしまいます。5Gは基地局のアンテナが目視できる範囲でないと通信できないと言われます。ミリ波は、もう少しで赤外線や可視光になる領域です。5Gではスモールセルになります。

 一度に送る情報を小さくすると、遅延を小さくできます。ですが、オーバーヘッドが増えてしまいます。

 クラウドコンピューティングでは、端末とデータセンターの間の通信大量は大きくなります。エッジコンピューティングは「近くに置いて、速く伝える」。動画などは、利用者に近いサーバーから配信しています。

 多種多様な使い方を追求すると、ローカル5Gになります。企業や自治体が独自に運営するシステムです。工場や農地、スポーツ施設やテーマパークなどでの活用が予想されています。

 無線給電の技術も発展するでしょう。ワイヤレス給電の規格、Qi(チー)は一般化してきました。IoTは、無線給電が適している分野の一つです。将来はもっと高出力な給電システムが必要になると思われます。

 ファイブナインは、基幹インフラや命に関わるような業務の可用性。99.999%の時間帯で動作していることを表します。金融や交通や医療や防犯ではこれが求められます。

 7、8、10と苦しいバージョンアップを続けていたWindowsは、メジャーバージョンアップを10で打ち切り、以降はサービスとして提供することになりました。

■ その先にあるリスク

 低遅延-多端末接続が可能になると、高密度でセンサーを設置できるようになります。

 Amazonが利用者を徹底監視していることは利用者が体感しているところです。閲覧した商品について、矢継ぎ早に複数のアプローチで提案され、ついポチしてしまうことも珍しくありません。Amazonの予期配送は、消費者理解に対する自信と、レコメンドを浴びせることで行動を変容させる能力を背景としています。

 Facebookの感情捜査に関する実験。肯定情報に接すると、自らの投稿も肯定的になる。逆もあります。これを精緻化すれば、特定の商品に興味を持たせたり、特定の異性を好きにさせることができるかも知れません。

 私たちは、監視というのは「嫌なもの」と考えていました。でも、現実は違いました。魅力あるサービスや耳寄りな情報に、私たちから手を出す仕組になっています。危険を察知し、回避することも可能です。

 インターネトは社会を透明化し、人々の行動を可視化しました。人々は常に誰かに見られています。間違いを先回りで指摘され、回避できる社会では、自分の意思で何かを決めることが難しくなるでしょう。私たちは、決定を外部に依存する機会が増えています。

 車が人間の移動を外部化し、コンピュータが記憶力を外部化しました。スマホが意思決定を外部化しています。

 快適さを得るためには、自分のことをサービス提供者に知ってもらわなければなりません。求めるサービス水準が高まるほど、差し出す情報は細部にわたるものになっていきます。