「図でわかる経済学」 川越敏司 2017年 日経文庫

 タイトルに惹かれて入手。大学の講義の参考になること間違いなし!と睨んだとおりに、役に立ちました。それ以上にマーケット・デザインなどについて見落としていた知見を得ることができました。感謝!!! 以下はこの本の要約と引用です(講義用にまとめたので偏ってます)。*印はネット検索結果と私見です。


■ 市場の働き

 アダム・スミスは、「国富論」で集合-自発=「見えざる手」により均衡を実現する市場取引と貿易取引の自由など自由放任主義を擁護し、「道徳感情論」で人々が互いの行動を「同感」によって理解し合うことにより社会の秩序が維持されていると主張しました。

*ケネス・アローの不可能性定理
 3つ以上の選択肢があり、個々の候補者や選択肢についての情報が利用可能である場合、社会的選択のルールは、いくつかの基本的な条件を満たすことができません。
 これらの条件には、個人の選好を尊重する(個人の選好が変わらない場合、社会的選好も変わらないこと)、無作為性(ランダムな選択が選択結果に影響を与えないこと)、民主的決定(多数決に基づくルール)などが含まれます。
 アローの不可能性定理は、完璧な社会的選択メカニズムが存在しないことを示唆し、民主主義やその他の意思決定プロセスにおいて常に妥協やコンプロミスが必要であることを強調しています。

■ 市場の失敗

 情報の非対称性に対処する仕組が「評価(評判)システム」です。

 オークションにおいて開始価格を低く設定すると、多くの買い手を惹きつけて、落札か価格が高くなります。

■ 政府の働き

 1970年代以降、ジョン・メイナード・ケインズの考え方に疑問が生じ、新しい考え方が登場します。これらを広く「新古典派」と言います。新古典派とケインズ派の最も大きな相違点は、(労働)市場における価格調整の働きに関する見方にあります。ケインズは、賃金の下方硬直性などによって市場均衡が実現されないとしました。

 国民所得の三面等価 生産〜支出〜分配
  国民所得Y=消費C+投資I=賃金+(企業)利潤=消費C+貯蓄S
  Y=C+I+(輸出額E−輸入額M)
  資金供給 Y=C+S ⇔  資金需要 Y=C+I ⇒ I=S

 平均消費性向(消費C/国民所得Y)は、国民所得に対してほとんど変化しません。投資Iは利子率rによって変化します。

 ミルトン・フリードマンは、財政政策で所得が増えても消費は増加しないので、貨幣供給量によって経済を安定化させる「マネタリズム」を提唱しました。市場への政府の介入を批判し、貧困対策として負の所得税を提唱しました。新自由主義を擁護しました。

 物価上昇率(インフレ)と失業率との間にはトレードオフの関係があります。

 経済が常に市場均衡の状態にあるかどうかについては、論争が続いています。新古典派は経済は常に市場均衡の状態にあるとし、ケインズは常に需要不足の状態にあるとします。*「均衡」をどう定義するかの問題です。

 人間の認知や行動の限定された合理性(プロスペクト理論)を取り入れた経済理論を行動経済学と言います。

 実験経済学は、様々な制度やルールが与える影響を実験で比較して制度設計=「マーケット・デザイン」にも貢献しています。発展途上国の貧困対策などの比較実験を行う「フィールド実験」も行われています。

 面接を受けられる企業数が多いほど、もっと対偶が良い企業と出会える機会に賭けたくなります。

 国民所得の増加に伴って取引量も増大するので貨幣需要は増加します。利子率が低ければ投機が増えます。中央銀行が貨幣供給量を変化させると、名目利子率が変化し、実質利子率も変化します。

 現在世界の中央銀行は、テイラー・ルールによって金融政策を運営しています。貨幣供給量と利子率のモデル=フィッシャー方程式に、インフレ目標などの政策目標が実現するまで経済政策の変えないコミットメント政策を組み入れた経済政策です。国民所得が低いときには実質利子率を下げます。

*マクロ経済学の数値シュミレーションとカリブレーション
 マクロ経済学の数値シミュレーションは、経済全体の動向や特定の経済政策の効果など、経済の複雑な現象をモデル化します。
 カリブレーションは、経済モデルのパラメータや特性を実際の経済データに適合させるプロセスです。経済モデルが現実の経済状況を適切に反映し、信頼性の高い予測や政策分析が可能になります。
 マクロ経済学の数値シミュレーションにおけるカリブレーションは、経済モデルを実際の経済データに適合させるプロセスです。

■ 経済成長の仕組み

 ロバート・マルサスは「人口論」の中で、消費財(食料)の生産と人口の成長を比較して、人口の方がより急速に増加することを見出しました。マルサスは、人口抑制のために産児制限を提案しています。

 マルサスは、リカード―と並んで古典派経済学を代表する一人。ダーウィンは「種の起源」の中で、自然淘汰の理論はマルサスの「人口論」に影響を受けた。ジョン・メイナード・ケインズは、マルサスこそが自分達ケンブリッジ学派の始祖であると記しています。

 経済成長には、消費規模を拡大する人口の成長と、生産規模を拡大する投資が必要です。貯蓄率が投資率を決定します。技術進歩も経済成長に寄与します。

 経済成長(国民所得Y)=f(技術進歩,資本の増加,人口の増加)

 経済成長率と資本増加率と人工成長率が同じである場合を「均斉成長」。国民一人当たりの消費が最大の率で成長する場合を「黄金成長」と言います。

 国の資本量を人口で割った一人当たりの所得[K/L]。国民所得人口で割った一人当たりのの所得[Y/L]の関係を表すのが生産関数です。

 投資によって資本が蓄積され、それが国民所得を産出します。過去の生産活動の経験や技術開発の蓄積は、資本の蓄積量に比例すると考えられます。資本蓄積が多い国ほど学習経験の蓄積も大きく、技術進歩を促進します。資本蓄積と技術進歩の相乗効果の典型例がシリコンバレーです。企業集積の程度は、その国の資本蓄積量に比例しますので、そこにも資本蓄積と技術進歩の相乗効果があります。

 教育の充実や衛生環境の改善も生産関数に影響を与えます。

 ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーション(新結合)が既存の経営方法を淘汰していくことを創造破壊と呼びました。そして、革新のためには金融機能が重要であると指摘しました。

 フリードリッヒ・ハイエクはあらゆる財の需要を把握して適切に価格を決定するのは不可能であるとして、資本主義と市場経済を擁護しました。価格情報を通じて需要と供給が調整される市場を、情報システムと見做しました。多くの売手と買手が各自、分散して保有している情報を基に下した判断を自動集計した結果を出す効率の良い情報視システムだと見抜いたのです。

 マーケット・デザインは、市場の失敗や市場が存在しない状況で、市場に代わる資源配分機構を設計します。マーケット・デザインの成果の一つがオークションです。携帯電話産業の自由化に伴い周波数を配分する「周波数オークション」。医学部の学生が希望する研修先に配属させる「研修医マッチング」もマーケット・デザインの成果です。