「ID-POSマーケティング」 本藤貴康・奥島晶子 2015年 英治出版

 ID-POSの発明し、ID-POSの分析システムを構築した者の一人として、このタイトルの本を見ておかなくっちゃネ!というような軽い気持ちで読み始めたのだが … この本お薦めです。

 中学卒業レベルの数学で充分、かつマーケティングの知識が無くとも、分析の勘所を平易に解説している。素晴らしい!!!高度な分析をしたいのならともかく、月に200万円程度をふんだくるフツーの今猿ならこんなもんで充分でしょう。Python(パイソン)のような易しいプログラミング言語でも書けます。集合演算のような大学で数学をキチンとやっていても、難しいような演算を要する高度な分析は「切れ味抜群」ではあっても、フツーのビジネスマンには説明するのが大変。分析手法を問われると困ることになります。だって、説明しても理解されないんです。その点、この本のような簡易な手法なら誰にでも理解できます。

 こんなに易しい、しかも実務に役立つID-POS分析が普及しているのは、30年以上の年月によって、実践に役立つやり方が蓄積されてきた、ということなんでしょう。

 誰でもできる、誰にでも理解される。だから「とりあえず」結果が出せる、というのはとても大切なことです。 以下はこの本の要約と引用です。


■ ID-POSで何がわかり、何が変わるのか

 商品に焦点をあてた分析はPOSデータでも、PI値による分析など、ある程度は可能です。

 ポイントカードは、スーパーマーケットが70〜80%。地方都市や競合店舗が少ない地域では90%を超える店舗も珍しくありません。

 データ分析を目的とした場合、ポイントカード利用率が70%を超えていれば、非会員の購買傾向も含めた分析結果として知見を得られます。

 商品カテゴリーによっては会員率が異なります。男性比率の高い避妊具や男性用化粧品などは、50%に落ち込むこともあります。

 ポイントカード登録時の個人情報登録は、性別と生年月日が限界です。少なくとも、9割以上の生年齢情報を確保します。

 ファミリーカードに、個人を特定できる属性情報を付加します。*少なくとも、カードに枝番を付します。属性は購買履歴で識別できます。

■ 短サイクル時代のマーケティング概論

・マーケティング・プロセス

 マーケティングは、「市場」に対する「活動」。

 短期売上に基づいた業績評価が普及しており、リピート促進策を継続して推進する企業は少ないのが実情です。

 マーケティングは、価値を提供する業務プロセスを全体を統括します。ブランド・マネジャーが、唯一のマーケティング実務担当部門です。マーケティングの「責任と権限の配置」は、大きな問題です。

 セグメンテーションは、提供する価値に対する消費者の反応に基づきます。ID-POSの活用機会になります。

 ターゲティングの設定。最大の需要者層がターゲットになるとは限りません。

 ポジショニング。顧客が認識する価値を明確化します。

 マーケティング・プランニングにおいて、最も重要なフェーズは「ターゲット(接近)顧客の設定」です。的確な接近客層に、的確な流通経路と情報経路で接近します。

 コンビニエンスストア(CVS)では、短い期間でアイテムの改廃が行われます。1年間で7割以上の商品が入れ替わります。それが商品のライフサイクルの短縮にも影響しています。菓子カテゴリーでは、売れても売れなくても商品は入れ替えられることがあります。CVSでは多くの商品領域で、商品の育成はできません。

 健康食品のように時間をかけてリピート客を獲得していく商品では、早々と棚割りから外されてしまいます。商品を育成するためには、パッケージで価値を伝えます。

・マーケティング・リサーチ

 リサーチには「仮説」が必要。生活者ニーズに対する「見当」です。

 ビジネス・チャンスは、生活者のニーズが存在する場所でしか発掘できません。その兆しは、購買行動にあります。

 商品カテゴリーの特性。図はSMのもの。同じ化粧品でも、SMとDG'sでは、選び方が変わります。多様な商品が比較できるDG's、比較検討(シーキング)欲求が高くなります。キューピーのマヨネーズやミツカンの食酢など、消費者の選択肢が限定されているカテゴリーもあります。

 ブランド・コミットメント(執着|忠実)の強さは、ブランドの高い評価を意味しないことがあります。低価格が購入の決定要因となっている場合もあります。

 ID-POSには陳列についての情報は含まれません。陳列の効果を検証するには、A/Bテストや、陳列場所の情報を含むJANコードの貼付が必要になります。一緒に購入した商品カテゴリーを参考にして推測します。

・セグメンテーション

 どんな消費者にどんなニーズがあるのかを検討します。

 DG'sやSMの利用者は女性が多く、CVSは男性が多い。ファミリー・ユースでは価格感度が高い。パーソナル・ユースの価格感度は低い。

 花王の「サクセス薬用シャンプー」は安定したリピーターを獲得しているロングセラー商品。サクセスは、男性用育毛剤のブランド。実際には40台以上の女性にも浸透しています。

・マーケティング・ミックス

 化粧品でも、リピート率が高いのはシニア層。

 レオナルド・ディカプリオがプリウスからテスラのロードスターに乗り換えた。ブラッド・ピットやアーノルド・シュワルツェネッガーもロードスターを購入。環境意識が高いと見られたい富裕層を訴求客層(象徴客層)とし、ステータス・シンボルとしての価値も訴求しました。アラブや中国などのステータスを意識する市場へと繋がりました。

 訴求客層のマインドのどこに価値を伝えるかを明確化します。

 最寄型小売業=SM、DG's、CVS。CVSで、コーヒー・お弁当・週刊誌を20時以降に購入する30代男性は、単身世帯だと想定できます。商品の価格帯や特性で生活特性を推測できます。22時以降の来店が多ければ「疲れている」「運動不足」の可能性も考えられます。

 ドミナント・チェーンでは、同一チェーンの店舗を複数利用している場合があります。期間内併売によって店舗利用の傾向が捉えられます。

 30〜50代の「化粧品カテゴリーの購入額が月5000円以上の女性」は、ホームケア商品も定期的に購入する傾向が強い。歯磨きペーストも高機能商品をリピート購入し、寒い時期には保湿系入浴剤を購入する傾向も強い。50代は制度化粧品をリピート購入する傾向が強い。同様の購買傾向を持つお客様に、レシート・クーポンによって需要喚起できる可能性があります。

■ ID-POSの指標と分析手法の基本

・買上率とリピート率(再購買率)

 近年は、短サイクルを前提としたセグメント・マーケティングが現実的なアプローチです。

 商品分類ごとに売上を企業間で比較するには、JICFS(JANコード商品情報データベース)の分類を使用します。

 買上率=特定商品の購入人数/購入人数(ユニーク)

 1ヶ月間の卵の買上率が70%だとすると、30%の人は卵を一度も買っていないことを意味します。卵と牛乳は殆どの世帯で購入される食料品。不買率が30%に達するということは、その店舗の課題の一つです。単身シニア世帯が多い立地では、10個入りでは多すぎます。

 ドラッグストアやホームセンターでは、園芸やペットのような特定領域については、分母に特定領域の購入人数を用いることがあります。

 PI値はレシート千枚ごとの購買商品の金額や数量を集計したもの。POSデータで商品購買を分析する指標です。

 1回だけの購入では、お試し価格による販促に意味はありません。

 リピート率は、「対象期間中の延べ購入回数に占める再購入回数の割合」と定義します。対象期間を、そのカテゴリー内で最もよく売れるアイテム(量目)の消費期間の2倍とします。男性用髭剃りの場合は、本体と替え刃の両方を合わせたリピート率を見ます。

 リピート率=(延べ購入回数−ユニーク購入人数)/延べ購入回数

 耐久消費財では、リピーター率を使用します。

 リピーター率=2回以上購入者数/ユニーク購入者数

・購買特性(併売分析)

 併売リフト値により、併売する商品に注目して購買傾向を分析します。買上点数の向上のための分析に利用されます。来店客全体と特定の商品を購入客の購買を比較します。

 全体の買上率=各商品(領域)のユニーク購入人数/全体のユニーク購入人数
 条件付き買上率=特定商品を購入した人の対象商品の購入人数
         /対象商品のユニーク購入人数
 併売リフト値=条件付き買上率/全体の買上率

 条件は、特定商品を買った人だけでなく、様々な条件が設定されます。この値により、併売傾向などの購買傾向を識別できます。分析結果により、販促だけでなく、ターゲティングや陳列も検討します。

 分析上注意すべきなのは、その傾向が主体要因なのか環境要因なのかということ。環境要因は、売場が近いから買い易いなど。個人の傾向なのか、性年代の傾向なのかにも留意します。

 ジャパンゲートウェイの「メルサボン」の分析では、「メルサボン」以外のボディシャンプー購入者と対比しています。値が高いのは「美しく装う」ものです。「香りのするものが好き」「働く女性」「皮膚が弱い(自意識としては)」「ダイエット志向」なども見てとれます。「皮膚が弱いためボディシャンプーを購入していなかった来店客にも訴求できる」という仮説が導けるかも知れません。

・ブランド(暖簾と銘柄)

 相対市場シェアは、自社を除くシェア第一位企業(銘柄)との比較。トップシェアを持つ企業は1以上の値になります。

 アクラスの「ノーシン」の買上率が高いのは高齢者。アクラスは「ノーシンピュア」を販売し、生理痛に悩む若年女性を獲得しています。

 エスエス製薬の「イヴA」の性年代別の買上率は、解熱鎮痛剤の買上率と同様です。銘柄として「穴」や「危険」は当面ありません。過重労働や人間関係、ストレスを抱えながらも休めない、少しでも早く治したいニーズに対応する「イブクイック」。男性を中心とした頭痛薬市場を広げました。

 新しい銘柄によってターゲテイングやポジショニングを再構築します。

・競合を見つめる(遷移購買分析)

 流入流出分析は、購買行動の流れを分析します。

 殆どの商品を選択する時間は、それを購入する直前の極めて短い時間であると言われています。

・流出分析

 継続が低い場合は、流出先の銘柄を確認します。流出防止策が必要です。

・流入分析

 カテゴリー新規客の定義は、当該カテゴリーを一度も購入していない/一定期間買っていないのどちらか。

・期間内併売分析

 基礎化粧品は、銘柄別に陳列されていることが多いので、ライン使いのアプローチがし易い領域になります。

 基礎化粧品は、単品ごとに機能評価して購入する人が増えています。銘柄横断のビューティー・アドバイザーを育成するDG'sがあります。

・集合分析

 どれとどれを併売しているのかを確認します。上得意客に絞って分析すると「見え易く」なります。

 ベビー領域はオムツを中心とする市場。オムツだけの購入も多い。多くのDG'sでは、ベビー用品と紙オムツは隣接していません。

・売上の因数分解

 採算の取れる商圏人口を持つ立地は、人口が減少する地方都市においては限られています。人口密度の高い地域ではオーバーストアになっています。

 大塚製薬の「OS-1」。商品認知率は7割、過去1年間の飲用経験率は5割程度。一人当たりの購入数量は4.8。スポーツドリンク全体と同様です。OS-1は、緊急時や発熱時としての認知がほとんど。1回の購入個数は3個。熱中症対策が意識された/させた時の訴求が有効です。

 商品単価が高い場合、購入のハードルを下げるために、試用アイテムを投入することがあります。

 買上率を高めるのか、購入頻度を引き上げるのか、購入数量を増やすのか、を明確にしてプロモーションを設計します。

・購買機会(トライアル・リピート分析)

 期間を設定し、その商品を初めての購買を「トライアル」、2回目以降を「リピート」とします。

 殆どのシーズン品は反復購買がありません。初回購入が上がるタイミングを確実に捉えなければなりません。

 降温商品は最低気温が、昇温商品は最高気温が「ある値」を超えた時に、よく購入されます。DG'sの来店頻度は、平均して月に2〜3回です。

 シニアの購買行動では、年金支給日(偶数月)に購買が活発になります。大容量のビタミン剤や健康食品は偶数月によく売れます。

 来店時刻は、50代までのピークは夕方、60代では11時、70代以降では10時の構成比が高まります。

■ ID-POSによる仮説主導マーケティング

・ポジショニング

 「コカ・コーラ」の性年代別の買上率は、10〜40代で高く、年齢とともに支持されなくなります。キリンビバレッジの「メッツコーラ」は、罪悪感を持たずにコーラを味わえる特保商品として参入。「コカ・コーラゼロ」との違いは特保かどうか。2008年から40歳以上に対したメタボ検診によって生活習慣病を意識する人が増えました。「体脂肪の吸収を抑える」という効能を訴求するプロモーションが購買を刺激しました。。

 「舌苔(ぜったい)をとって口臭を抑える」江崎グリコの「BERO」。買上率は[若年層>シニア層]、反復率は[シニア層>若年層]。若年層には、機能説明よりも「きれいな舌のためのケア」の方が良かったのかも知れません。シニア層には、入れ歯用品など、口臭予防を意識させる売場での展開も考えられます。シニア層の視認領域は低い(シルバーライン)ので、店頭陳列の工夫も必要です。

・プロモーション

 ポジショニングは、消費者の頭の中の銘柄の位置に対する働きかけ。マス広告は、店頭で商品を視認した時に思い出させます。テレビCMと店頭POPの連動は、店頭商品政策(ISM)の入口でもあります。

 SMとDG'sの中核客層は女性、CVSは男性。最寄型小売業態の同質化は進みます。

 DG'sの「発毛・養毛剤」。男性の新規来店客の買上率が通常顧客の2倍。「リアップ」は、第一類医薬品。扱い店舗であることを示すファサードの幟は有効です。

 小売業の視点では、購買頻度が高く、上位集中度も高い商品は、EDLP販売によって、顧客の来店を誘引できます。メーカーの視点では、自社商品が支持されているチェーンEDLP政策を広めることで、安定した売上を確保できます。

 「赤玉子4個入り」は、若年男性とシニアに買われます。シニア層では男女ともに「産直 赤卵10個入り」が「玉子10個入り」を上回っています。品質を重視しています。「赤玉子4個入り」の同時購買分析を見ると、「おかゆ」「鍋焼きうどん」「風邪薬」「ミニドリンク」が買われています。風邪対策をテーマとした店頭販促が考えられそうです。

・リピートを起点とする店頭販促

 ビタミン剤の売上ABC分析。ABCの区分は、7-2-1割です。リピート商品では陳列を工夫しても売上促進は困難です。小売業は以下に留意します。
 Aランク-高リピート商品は、決して欠品させない
 Aランク-高リピート商品は、探しやすい場所に(少しづつ)移動する
 Bランク-高リピート商品は、トライアルを促進する
  視認性向上、試買価格設定、店頭試用 …
 Cランク-高リピート商品は、上得意客の来店誘因かも知れない

 高いリピート率は、新規顧客を獲得する努力が不足している可能性もあります。生産数量が制約されている場合、営業条件によって店頭展開が進まない場合もあります。

 防虫剤を箪笥に放り込んだまま。買替していない人も少なくありません。このような買替されない可能性の高い商品のリピート率計測では、消費期間を長めにとります。

 防虫剤の場合は、衣替えの時期だけでなく、大掃除シーズンや梅雨時に訴求します。

 期間の設定によってリピート率の意味が変化します。1年間でリップクリームを2本以上購入する人は3人に1人しかいません。リップクリームを1年に一本しか買わない人にとっては、常にトライアルです。同じ銘柄を毎年買っていてもリピートではありません。

■ 店舗のロイヤル・カスタマーを育てる

 ドラッグストアで年間12万円以上の上得意客が、継続購買(≠反復購買)している商品は売場から外してはいけません。陳列場所も移動してはいけません。やむを得ず移動する場合は、そのお客様にお伝えします。

 上得意客には「特別な接客」をします。特別な価格で対応してはいけません。

 前年からの継続率は77.1%。22.9%は来店しなくなっています。店内で不快な経験があると、来店しなくなります。評判の良い店が近隣に出店した場合も離反が増えます。競合店が強い商品領域から切り替えられます。

 来店客層を見極めて、ファミリー・ユースの売価訴求、パーソナル・ユースの付加価値訴求を強化します。

 お客様のロイヤルティ化のテーマは「来店目的」です。様々な来店目的があるからこそ、購入が拡大します。幅広い来店目的を持たせること=利用カテゴリを広げることが、ロイヤルティ促進です。

 お客様から相談されたときに、的確なアドバイスができたなら、そのお客様のロイヤルティはアップします。

 買い続けている商品と買わなくなった商品を識別します。特定の商品を買うにしても、「〇円以下なら買う」という基準があります。

 DG'sで新規顧客(非会員顧客)の購入傾向が高いのは、緊急・子供・介護・調剤。どれも不安を伴う相談商品です。探しやすい陳列と同時に、適切なアドバイスがストア・ロイヤルティに直結します。

 新生児用品購入者の定着率は高い。長期定着のためには、ベビー以外の商品領域へのプロモーションが必要です。

 ベビー用品は、新規顧客を吸引するカテゴリーです。ベビーカテゴリーにも、相談商品と汎用商品があります。家計の事情から、特にコモディティは価格に敏感になりがちです。

 ビューティケアやヘルスケアなど「個人の悩み」から入った顧客は、購入領域が広がり易い傾向があります。

 50代から介護用品の買上率が上がっていきます。シニア対応はDG'sだけの課題ではあありません。「健康ステーション」を標榜するローソン。調剤チェーンとのフランチャイズ契約を推進するファミリーマート。

 化粧品や医薬品は、顧客と店員のコミュニティ機会が生まれやすい商品。その機会を活かせるかどうかが課題になります。

 繁華街の店舗は、来店人数が多く、一回当たりの客単価が低い。郊外の店舗では、来店人数は少ないが客単価が高い傾向があります。

 新規顧客のリフト値分析により、新規顧客の買物特性を見ます。一般に買上率は低く、買上点数は少なくなります。緊急性需要の品目が上位にランクされます。4月なので、新生活に必要な領域もあります。

 売場に慣れていない新規顧客でも、「目にとまりやすい」陳列を工夫します。

 最初に買った商品による購入領域の違いを見るために、上得意客になったお客様が新規の時に何を買ったかを集計します。

 猫フードはリピート率でも上位にランクされます。猫をペッとして飼うシニア世帯が増えています。煙草や酒類などの嗜好品の購買を習慣化できれば、継続来店の目的となります。視認性の高い売場展開が必要です。

 DG'sも、パンや牛乳やヨーグルトなどへのラインロビング(品揃えの拡張)によって、SMやCVSから顧客を奪っていると言われています。