「宇宙物理学入門」 桜井邦朋 2007年 ブルーバックス
宇宙物理というよりも「天文学」の入門書。観察の方法が丁寧に説明してあって嬉しい。 以下はこの本の要約と引用です。
■ 宇宙物理学の誕生
天文学の歴史は、人類が築いた文明の歴史とともにあり、きわめて古い。ストーンヘンジを建設した古代人たちは、この列石を利用して太陽や月の天空上の運行を観察し、暦の作成や季節の推移を予測していたと推測されている。
17世紀の初めに望遠鏡が発明されてから、天文観測の対象が大きく変わり、観測も精緻化した。ニュートンのよって定式化された法則により、天文力学が成立した。
ファラデーは、元素の気体が放電時にその元素に特有な発光をすることを確かめた。熱放射の理論がプランクによって生み出されたのは1900だった。熱放射とは、温度を持つ物体表面の温度に応じた放射特性を持つ波長の連続した電磁波のことである。
■ 宇宙に見られる現象
物理学では星といえば恒星のことを指す。太陽のように単独で存在している星はむしろまれである。
球状星団は銀河の球状の領域に分布し、散開星団は銀河の円盤領域に分布している。散開星団には青白い色の星を持った者が多い。寿命の短い大質量星が存在している。太陽は重元素を多く含んでいる。散開星団に属する星々の重元素量は太陽と同程度である。散開星団の星々は球状星団の星々より後に形成されたと考えられている。散開集団に属する星々を種族�機�球状星団に属する星々を種族�兇畔�類する。
天の川銀河の中心部には、太陽の260万倍の質量があるブラックホールが見つかっている。
太陽と太陽系の惑星の元素組成は、軽い元素を除けば、互いによく似ている。地球は、質量が小さいので、重力が弱く、水素やヘリウムの軽い元素を大気中から失ってしまった。 木星や土星は大きな質量を持つので、水素とヘリウムを大量に含んでいる。水素とヘリウムを別にすれば、太陽と太陽系の惑星の元素組成は似ているので、これらの天体は一つの星間ガス雲から形成されたと推測される。太陽系の資源物質だと想定されているのは炭素質隕石である。
■ 星の性質
地球から見た星の動いた大きさ(角度)の半分が年周視差。年周視差が１秒角(1/360度)だったときのその星までの距離を１パーセク(30兆8千億�辧�3.3光年)とする。絶対等級は、太陽から10パーセクの距離に星々を置いたと想定したときの明るさである。
絶対等級Ｍ＝みかけの等級ｍ＋５−５log距離ｄ
年周視差は小さいので、太陽から100パーセク程度までの距離しか求められない。しかし、距離が分かっている星で見出された関係を使うと、星の温度の情報と見かけの星の明るさから、星の温度の情報と見かけの明るさから星までの距離を決めることができる。
最も強い光の波長と大気の温度の間には逆比例の関係がある。光の波長λと温度Ｔとの間に、［λ･Ｔ＝0.29��･Ｋ］の関係がある。星の光の強さの波長分布から、星の大気の温度(有効温度)が推定できる。
プランク放射、星々の光の強さの周波数特性が分かれば、星までの距離がわからなくても、星の大気の温度を決めることができる。
熱放射の線スペクトルは、特定の波長の光が暗くなったり(吸収線)明るくなったり(輝線)し、波長は元素によって決まる。吸収線の見え方によって星を分類したものがスペクトル型である。各型はさらに10段階に分けられている。太陽はＧ２型に分類されている。
Ｏ型：電離ヘリウムの線がある｜有効温度は４万５千Ｋ
Ｂ型：水素とヘリウム｜２万９千Ｋ
ＨＲ図は、星々の表面温度と真の明るさとの関係をグラフに表したもの。熱放射では単位面積当たりの放射量が温度だけの関数で決まる。星の光度と表面温度が分かれば、星の半径を知ることができる。
二つの天体が共通の重心の周りを公転しているとき（ケプラーの第三法則）、二つの天体と軌道と公転周期を観測すれば、二つの天体の質量の和が分かる。重心から測った気道の半径の比が二つの天体の質量比の逆数になるので、それぞれの天体の質量を得ることができる。
■ 星の構造
星はガスの塊である。星が潰れないように支えているのは、ガスが外側に拡がろうとする圧力である。遠心力も重力に抗う力となる。重力を支えるためにできた温度の差によって、中心から表面に向かって流れていくエネルギーが、表面から宇宙空間に放射される。
太陽の光球を観測すると、対流の渦（粒状班）が見られる。星々の中で外層に対流が生じているのは、太陽のように大気の温度が相対的に低い星の場合である。
散開星団を作る星々の中では、水素核同士が融合されてヘリウム核を合成する陽子･陽子連鎖反応と、既に存在する炭素･窒素･酸素の三種の原子核を触媒として進むＣＮＯサイクルの二つの過程が起こっている。相対的に質量が軽い太陽の中心部の温度は1400万Ｋほどなので、陽子･陽子反応が卓越している。
水素核、つまり陽子をエネルギー源として利用している星々の中心部には、水素核が豊富に存在している。このように水素核をエネルギー源として星々は、最も安定した状態にある。このような星々は主系列星と呼ばれる。
明るさの変化が短い周期で起きるセファイド型の変光星は、変光の周期と真の明るさ(絶対等級)の間に決まった関係がある。変光星の光度-周期の関係を利用して、変光の周期から真の明るさを、見かけの明るさと比較して、その星までの距離がわかる。星団や銀河までの距離が、セファイド型変光星を観測することで推定できる。
■ 星の進化
宇宙空間の分子雲が、それ自身の重力で収縮する過程で、星々が群れを成して誕生する。収縮の過程で分子雲が千切れて、その各々の分子雲から星が生まれる。
熱核融合反応に寄与するのは、高熱高密度の中心部の水素核だけである。中心部の水素核が不足する。中心部の温度が１億Ｋ以上に上がると、ヘリウム核同士の融合反応が進み、ベリリウムが合成される。ベリリウムは不安定だが、小さな確率で炭素核が合成される。そして、酸素核の合成が進む。炭素核同士、酸素核同士の融合は、ヘリウム核が少なくなって中心部の収縮が進み、温度が８億Ｋから20憶Ｋほどに上がると起こる。このような融合反応の結果、ネオン･ナトリウム･マグネシウム･ケイ素･リン･硫黄･などの合成が進む。
星の質量が太陽の８倍以上大きくなると、コバルト核や鉄核への変換が発生し、鉄族の原子核を主成分とした中心部が形成される。
質量の小さな太陽と同じくらいの質量の星は、主系列星から始まって、赤色巨星、ヘリウム核燃焼後の漸近巨星分枝を経て、外層部の大気ガスを周囲の空間へと放出しながら移動し、惑星状星雲を形成する。その後、白色矮星となる、
エネルギー源となる原子核の種類が変わるたびに、中心部の収縮と、外層部の大気の急激な膨張が起こる。中心のヘリウム核の熱核融合反応が終わって、ヘリウム核燃焼が始まると星は膨張し、やがて脈動を始めて星の最外部の大気が外側の空間に放出される。この後、中心に残った白色矮星は冷えていく。
質量が太陽より８倍以上ある星々は、大爆発(超新星現象)を起こす。鉄族の原子核によって中心部が形成されると、核エネルギーを解放する熱核融合反応は起こらないので、中心部は冷えて収縮する。収縮の過程で原子核が破砕され、ヘリウム核や陽子･中性子に壊れる。この過程で生成された電子ニュートリノは外部空間へ飛び出していく。中心部の収縮による加熱により、外層部のガス物質は膨張し、大爆発として観測される。
加熱され膨張していくガス物質は、鉄族の原子核や陽子･中性子などとの間で原子核反応を引き起こす。鉄族の原子核は中性子と融合反応を起こしてさらに重い原子核を形成していく。ベータ崩壊を繰り返しながら、超ウラン元素まで合成する。
鉄族の原子核からなる中心部は、大爆発のとともに周囲に飛び散っていく。残った中心部の物質は、中性子からなる超高密度の芯を形成する。中性子からなる超高密度の中性子星が誕生する。
重力により収縮すると、自転は速くなる。高速で自転する中性子星は、磁気の運動によって電場を生じ、陽子や電子の加速を引き起こす。加速された粒子群は、Ｘ線やガンマ線や電磁波などの放射線源となると考えられる。中性子星は脈打つ星、パルサーと呼ばれる。
■ 星の終末
重量崩壊した天体は、重力場が強い。強い重力場では、光の速さは遅くなる。光の波長も伸びる。星の近くを光が通過するときには光が曲げられる。
ブラックホールが連星を成した場合には、相手の星の大気がブラックホールへ落ち込んでいく。このガスの加速から生じるＸ線やガンマ線を観測することにより、ブラックホールを間接的に見つけることができる。
■ 星々の集団としての銀河
太陽系は、銀河系(天の川銀河)の中に含まれている。そうしたことが認識されたのは、20世紀になってからのことである。
球状星団の星々は太陽に比べて遥かに古い。
天の川銀河にも大マゼラン雲･小マゼラン雲などの伴銀河がある。天の川銀河とアンドロメダ銀河と伴銀河は、互いの重力で束縛された銀河の集団（銀河群）を構成している。
天の川銀河の円盤状の領域は、千億個もの星々で構成されている。この領域には、ガスやチリが何本かの腕(アーム)に沿って分布している。大質量で寿命が短いＯ型やＢ型の星々は銀河の渦状腕で誕生している。
銀河の分布を調べると、銀河の密度の高い領域が糸状に拡がり、糸の交わったところに銀河団が存在している。銀河の空間分布に見られる網目構造は、小さなスケールでは宇宙における物質の分布が偏ったものであることを示す。
■多波長天文学と高エネルギー現象
大気圏外を飛行する観測衛星により、様々な電磁波を観測することが可能になった。第二次大戦中に開発されたレーダー技術が、宇宙観測に転用され、電波天文学が誕生した。
太陽は光球の外側に広がる大気、コロナに覆われている。コロナの温度は100万Ｋ。太陽の光球の温度は６千Ｋしかないが、その外側に高温な大気が広がっている。現在でも未解明である。太陽のように100万Ｋにも達する高温の大気を持つ星々はＸ線で輝く天体となっている。
ガンマ線源は、超新星やパルサーなど。ガンマ線バーストは、当方的に到来する。天の川銀河外起源である。宇宙線は、陽子やヘリウム核などの重い原子核からなる高エネルギー粒子群。宇宙線が加速される機構も未解決のままだ。
■ 宇宙の進化とその歴史
銀河が我々から遠ざかっていることはハッブル以前にもわかっていた。後退速度は、光のドップラー効果から導かれた。
宇宙は現在、一様かつ等方に膨張を続けている。重力の作用が強い銀河内の星々の間の空間は拡大していない。銀河と銀河の間が拡大している。
一点にまで凝縮した宇宙の誕生時の空間は、無限大のエネルギーを持っていなければならない。加速しつつ膨張する宇宙という描像に懐疑的な人もまだいる。
■ あとがき
宇宙物理学で支持されている理論も、近い将来に全く違うものになるかもしれない。
太陽や地球がなぜ磁気を持つのか、宇宙線はどこで生成されるのかという未解決の課題もある。
