「自律神経の科学」 鈴木郁子 2023年 ブルーバックス

 自律神経は知らないことばかり。勉強させて貰いました。少し残念だったのは、推測でものを言い過ぎているところが少し。それと記述がとっ散らかっている。面白くしようと?本筋から離れた話が多すぎる …。でも教えてもらって有難うございました! 以下はこの本の要約と引用です。*はWEB検索結果です。


■ はじめに

 自律神経(交感神経と副交感神経と内臓求心性線維と腸管神経)は、内臓の働きを調整している神経です。

■ 神経について

 魚をおろすと、背骨の中にある脊髄から出ている白い紐。それが神経です。1mに達するものもありますが、多くは1mmより短いものです。

 神経一本に含まれる神経線維は数本から何千本。神経線維を肉眼で見ることは難しい。ミエリン鞘は脂質と蛋白質からできています。脂質に富み、高い電気絶縁性を持ちます。自律神経は、運動神経に比べて、情報を運ぶのが遅くなっています。樹状突起は情報の受け、細胞体は情報をめとめ、軸索が情報を出します。

 一酸化炭素(NO)は、神経伝達物質であり、心臓の血流を増やしたり、免疫にも関わっています。

■ 自律神経とは何か

 脳から出ているが脳神経、脊髄から出ているのが脊髄神経。体性神経系と自律神経系。自律神経は、脳と脊髄から出て、全身の内臓に繋がっています。

 「内部環境の恒常性の維持こそ、生命維持の基本である」クロード・ベルナール。

 細胞と細胞の隙間を埋めているのは細胞外液。細胞外液が内部環境です。細胞外液は、細胞が活動するための材料を提供し、要らなくなったものを回収します。体内の水分は、体重の6割。その内の1/3が細胞外液、2/3は細胞内液です。

 ウォルター・キャノンは、「内部環境の恒常性の維持」をホメオスタシスと言い換えました。ギリシャ語の「ホメオ」は「似たような」、「スタシス」は「安定な状態」。「ある範囲」にリズムをもって保たれている。血圧や心拍は、日中は高く、夜間は低くなるリズムがあります。

 体性神経系の求心性神経は感覚神経。遠心性神経は、運動神経です。自律神経系の交感神経と副交感神経は、遠心性神経に。内臓求心性線維は、内臓の状況を知らせます。

 自律神経に繋がっている筋肉は平滑筋と心筋。心筋には、骨格筋と同様に模様があります。骨格筋は随意筋ですが、自律神経系は「不随意神経系」です。

*骨格筋(横紋筋)
1. 速筋線維(白筋)
 速筋線維は収縮が速く、強い力を発揮することができますが、持久力は低いです。短時間で大きな力を必要とする動作(ダッシュやジャンプなど)に使われます。主に無酸素運動で使われ、エネルギー源として主に糖質を利用します。
2. 遅筋線維(赤筋)
 遅筋線維は収縮が遅いですが、長時間にわたり力を発揮できる持久力があります。持久力を必要とする活動に適しています。有酸素運動に適しており、脂質や糖質をエネルギー源とします。
3. 中間筋線維
特徴: 速筋と遅筋の中間的な性質を持つ線維で、適応によって速筋や遅筋のように振る舞うことができます。トレーニング次第で、速筋寄りにも遅筋寄りにもなる特徴を持っています。

 運動神経は中枢からまんべんなく出ているのに対し、交感神経は脊髄か腰髄から、副交感神経は脳(脳幹)か仙髄から出ています。

 運動神経は中枢から出て直接に骨格筋に達します。交換神経と副交感神経は、自律神経節を介して繋がります。中枢から出ている方を節前神経、臓器に至る方を節後神経と呼びます。自律神経節にはシナプスがあり、情報の修飾が可能です。1本の節前神経が、複数の節後神経に継がっている場合、情報を拡散することができます。何本かの節前神経が一本の節後神経に繋がっているときは収束。情報を統合します。

 交感神経の自律神経節は、脊髄のすぐ近くにある交感神経管にあり、1本の節前神経は多数の節後神経に接続しています。交感神経の働きが全身に及ぶのはそのためです。副交感神経の節前繊維は少数の節後線維に接続します。各臓器に特定して働きます。

 運動神経の末端から出ているのはアセチルコリン。受容体はニコチン受容体。同様に自律神経系の節前繊維から放出されるのもアセチルコリン。受容体もニコチン受容体です。副交感神経系の節前繊維からシナプスに向けて放出されるのはアセチルコリンですが、受容体はムスカリン受容体。

 交感神経の節後線維から出ているのはノルアドレナリン。臓器側の受容体はα受容体とβ受容体。体性神経系よりも、自律神経系の方が神経伝達物質と受容体は複雑で種類も多い。内臓の機能が多彩に調整されることを意味します。

 自律神経系の特徴は、「二重支配」と「拮抗支配」。二重支配は、一つの臓器に交感神経と副交感神経の両方が繋がっていること。骨格筋には、運動神経しか接続していません。

 概して循環器系は交感神経によって機能が促され、消化器系や泌尿器系は副交感神経によって機能が促されます。

 体性神経系は、活動を自分の意志で止めることができます。自律神経は休みなく活動いています(緊張性支配|トーヌス)。

 交感神経と副交感神経のバランスをとっているのは、視床下部です。脳の視床下部はストレスの影響を受けるので、ストレスが大きいと内臓の働きに不具合が現われることがあります。

 二重支配を受けていない器官もあります。汗腺、立毛筋、服腎臓質、皮膚の血管などは交感神経だけ。

 交感神経の活動が高まる生体反応は「闘争または逃走反応」。副交感神経の活動が高まるのは「休息と消化の反応」。

■ 涙や唾液と自律神経

 口の中の触覚や味覚に基づいて唾液が分泌される反射は、無条件反射。唾液分泌中枢は、脳幹にあります。食事の際には耳下腺で作られる消化酵素を含むサラサラした唾液(漿液性唾液)。涙腺と唾液腺の神経支配は似ています。

 情動性の涙を誘発する因子は、発達段階によって様々です。共感に伴って涙を流すかどうかは、個人の体質や文化が影響します。

 瞳孔の大きさは周囲の明るさで変わります。瞳孔の周りの虹彩には2種類の筋肉があります。瞳孔括約筋は副交感神経が繋がっており、収縮して小さくなります。瞳孔散大筋には交感神経が繋がっていて、瞳孔を大きくします。縮瞳が起きる対光反射は中脳が関わっています[網膜−視神経−中脳−副交感神経−瞳孔括約筋]。

 自律神経には、互いの調節を助ける働きがあります。副交感神経が活発になっているときには、交感神経の活動は低下します。

 アルツハイマー病治療薬アリセプトは、コリンエステラーゼの働きを止める薬。サリンの働きに似ています。

■ 汗やホルモンと自律神経

 エクリン汗腺は全身にあり、水を多く含んだ汗を分泌します。馬などの一部の例外を除けば、動物には全身にエクリン汗腺はありません。犬や猫は、足の裏だけにあります。汗腺は交感神経のみが繋がっています。緊張した時など、「手に握る」「冷や汗」になります。

 アポクリン汗腺は、人では腋窩や外陰部などにあり、性ホルモンの影響を受け、脂っぽい汗を出します。細菌によって分解されると、特有の臭いを発生させます。

 体性感覚によって様々な内臓機能が自律神経を介して調節されます(体性−自律神経反射)。反射中枢が脊髄の場合、反射経路は脳を通りません。そのような反射を誘発する皮膚の刺激部位は内臓に近いところに限られます。脳を介さない反射は分節性反射と呼ばれます。反射中枢が脳幹にある場合は、全身性反射です。全身に反応が及ぶことがあります。

 最もよく知られている[体性−自律神経反射]は、射乳反射です。赤ん坊が乳房に吸いつくと母乳が射出されます。

 新生児への快い職刺激は、成長ホルモンやオキシトシンを増やします。オキシトシンによって、乳児と養育者の間に愛着が形成されます。

 体のどこを刺激するとどんな変化があるかは、針灸やマッサージなど東洋医学で利用されています。

■ ストレスと自律神経

 アドレナリはノルアドレナリンはよく似ています。神経伝達物質としての働きと、ホルモンとしての働きがあります。交感神経の節後線維から出ているのはノルアドレナリン。副腎髄質から出ているのは主にアドレナリンです。ノルアドレナリンは主に神経伝達物質として、アドレナリンは主にホルモンとして働きます。

 長引く強いストレスは、共通の生体反応=汎適応症候群(ストレス状態)を起こします。胸腺・リンパ組織の萎縮、胃・十二指腸潰瘍、副腎の肥大。慢性のストレス下では、副腎皮質からコルチゾール(糖質コルチコイドの一種)などの副腎皮質ホルモンが多く分泌され。副腎が肥大するのです。

 コルチゾールはストレスホルモンともステロイドホルモンとも言われます。コルチゾールの働きは、血糖値を上げること。炎症や免疫を抑える作用もあり、血糖値を高め。過剰な炎症を抑えることで、生体がストレスに耐えられるようにしています。

 胃液の主成分は塩酸(胃酸)。コルチゾールが分泌を促し、胃潰瘍が発症し易くなります。現在の胃潰瘍の原因は、ピロリ菌感染、アスピリンやボルタレンやロキソニンなど非ステロイド性抗炎症薬が多いようです。

 オキシトシンは不安を和らげ、ストレスを抑えます。乳汁分泌作用や分娩促進作用などの女性特有のホルモンではありません。男性でも同じように分泌されています。分泌される因子は、マッサージなどの蝕刺激、親しい人との会話や共感など。愛情ホルモンとも呼ばれます。オキシトシンには神経伝達物質としての働きもあります。

■ 喜怒哀楽と自律神経

 刷り込みを発見したのはコンラート・ローレンツ。愛着行動は、対人関係の基盤となり、その後の情動形成に関わっていきます。

 新生児の情動には、興奮と快と不快しかありません。5歳までに大人と同じ17種類の感情を持ちます。情動は身体の生理反応を伴います。

 視床下部は長さ6mm重さ4g。自律神経、ホルモン、運動神経の3つの協調調節が行われます。生体の恒常性維持に最も重要な役割を果たします。

 動物には、好き嫌い、怖い嬉しいなどの感情があります。快を感じる場所(報酬系|快中枢)は、視床下部の外側部。嫌悪系(懲罰系)は、内側部にあります。大脳辺縁系は情動脳。大脳辺縁系で統合された信号が視床下部を制御します。報酬系は大脳辺縁系と大脳新脂質と脳幹にもあります。

 偏桃体は恐れに関与しています。交感神経活動を促し、副交感神経を抑える部位があります。偏桃体では、外部からの刺激が報酬系か嫌悪系のどちらに相当するかを判断すると考えられています。怒ると心拍数た体温は上がり、嫌悪すると心拍や体温は下がります(「血の気が引く」)。

 血圧や心拍は自立機能。呼吸は運動機能です。肺を広げるのは随意筋。呼吸は運動神経によって行われます。安静時の呼吸の筋肉は、横隔膜。横隔膜神経がつながっています。呼吸の自動制御は脳幹の延髄で行われています。内臓求心性線維が、肺の状況や酸素の不足などを延髄に伝えます

 横隔膜を休めるためには、息を吐く時間をしっかり作ってあげます。「深くゆっくりと吐く」が推奨されます。

 光の届かない洞窟で暮らすと、体内時計の周期は24時間より少し長く、概日リズムが毎日少しづつ遅くなります。朝陽を浴びることで、体内時計が補正されます。

 視交叉上核で作られた概日リズムは、神経やホルモンを介して全身に届けられます。血中のアドレナリンとノルアドレナリンの濃度は、午前3時で最も低く、午前9時で最も高くなります。コルチゾールの分泌も朝早い時間に増えます。メラトニンは睡眠ホルモン。体温を下げ体内リズムを補正する作用もあります。

 消化器には独自の体内時計があります。朝陽と朝食と睡眠が体調を整えます。

■ 内臓の情報を伝える自律神経

 脳幹から出ている副交感神経は、眼動神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経。体性神経線維と自律神経線維の両方を含みます。動眼神経は、瞳孔を収縮させる副交感神経を含み、運動神経として眼球の運動を調節します。

 仙髄から出ている副交感神経は、骨盤神経。直腸や膀胱や生殖器なあど骨盤腔内の臓器の調節に関わっています。首から下、お腹までの臓器を支配しているのは、迷走神経。脳神経の中で最も長い迷走神経は枝分かれが多く、胸部と腹部の内臓に網の目のように延びています。

 1本の迷走神経の中には、求心性と遠心性の両方向性の自律神経線維が含まれています。迷走神経の大部分が求心性繊維です。例えば、食物によって胃や十二指腸が刺激されると、迷走神経求心性線維によって情報が脳幹まで運ばれます。その結果、迷走神経遠心性繊維によって消化管の運動が促されます。

 胸腹部の内臓感覚は主に迷走神経を通る内臓求心性繊維によって、痛みの情報は主に交感神経を通る内臓求心性線維によって中枢に運ばれます。

 血圧や血中の酸素濃度や体液の塩分濃度など、内臓感覚の殆どは無意識です。意識できる内臓の感覚は、満腹感や空腹感、喉の渇き、内臓の痛みなど。

 肛門にある括約筋。内肛門括約筋は自律神経支配、外肛門括約筋は運動鵜神経支配です。直腸に便が溜まると仙髄に伝えられ、反射性に骨盤神経遠心性繊維が直腸を収縮させ、内肛門括約筋が緩んで便が出ます。

 便が大腸に留まる時間が短ければ便は緩くなり、長いと水分が抜けきり硬くなります。

 排泄時にはリラックスします。消化も排便も副交感神経で促され、リラックスしないと円滑に進みません。

 副交感神経の働きを抑える抗コリン剤を服用すると便秘になります。抗ヒスタミン薬(風邪薬やアレルギー治療薬)、抗鬱薬、鎮静催眠薬、降圧薬などでも便秘になることがあります。

 血圧をモニタリングしている圧受容器は、首の頸動脈と心臓の大動脈にあります。立ったり座ったりしても血圧が変わらないのは、圧受容器によって血圧が瞬時に調整されているからです。立ち上がると血液が下半身に溜まり、反射が遅れると起立性低血圧が起きます。

 血中の酸素濃度をモニタリングしている低酸素受容器(化学受容器)も、頸動脈と大動脈にあります。酸素が少ないという情報が延髄に伝えられると、延髄の呼吸中枢から換気を増やす反射が起こされます。肺の膨らみをモニタリングしているのは、肺伸展受容器。迷走神経求心性線維を経由して延髄に伝わり、吐く指令が出されます。

 脱水は午前中に起きやすいので、朝の水分補給は欠かせません。

 外気温に対する反応。寒いところに出ると皮膚の血管につながっている交感神経の活動が高まり、血管が収縮して、手に皮膚の血流が減り冷たくなります。同時に、体内で熱を生み出して体温を上げようとします。高齢者は自律神経の反応性が低下しています。

 腸の蠕動運動。腸管神経系は脳や脊髄につながっていません。それだけで臓器を動かせます。腸管の筋肉と筋肉の間にあるアウエルバッハ神経叢(筋層間神経叢)は、主に蠕動運動。腸管の粘膜下のマイスナー神経叢(粘膜下神経叢)は、消化液の分泌や吸収に関わっています。

 腸管神経系は、自律神経に接続することで、間接に脳や脊髄とつながります。腸の中の免疫細胞や腸内細菌とも連絡を取り合っています。また、腸の情報は、血液を介しても脳に伝えられます。

 免疫細胞の7割以上が腸にあります。消化管の全長は9mぐらい、その殆どを占めているのが小腸です。

 迷走神経を刺激すると、様々な疾患の改善につながると期待さてます。腸から脳につながる迷走神経を日常に刺激しているのが腸にいる腸内細菌叢(腸内フローラ)です。繊維質を餌にし、酸素も殆ど無い大腸で暮らしています。腸内細菌が作っているビタミン類は、神経伝達物質を作る過程で必要なものです。腸内細菌がいないと、ストレスに弱くなります。

 脳腸相関に腸内細菌を絡めた考え方を[腸内細菌叢-脳-腸関連]と呼びます。

 「病は腸から」はヒポクラテスが残した言葉です。

■ 自律神経から考える心身を整える方法

 「自律神経失調症」の定義は曖昧。正式な病名ではありません。

 自律神経症状の治療法は、ストレスの除去と生活習慣の改善が基本です。

 欧米では、検査で異常が認められない身体の症状に「医学で説明がつかない症状(MUS)」あるいは「機能性身体症候群(FSS)」の病名が使われています。認知行動療法などの心理療法が主体です。

 抗菌薬の使用が、腸内細菌叢の多様性を失わせている可能性があります。薬が6つ以上になると、不調になる老人が増えるそうです。