「脳内麻薬」 中野信子 2014年 幻冬舎新書
ドーパミンに関する本。読まなきゃです!中野さんの本だけど … まあ、いいっか〜。 以下はこの本の要約と引用です。
■ はじめに
何かを成し遂げた時、ドーパミンが分泌されています。
■ 快楽の脳内回路
人生のよい部分が全てドーパミンに関係しています。
長期間の努力を要することは、始めるときが一番大変です。習慣づけてしまえば次第に楽になります。
脳内の快楽は、食欲や性欲よりも強く、子育てを放棄し電気ショックをものともせずに、報酬回路を活性化させ続けます。
アドレナリンやノルアドレナリンは、ドーパミンから作られます。ドーパミンは、脳の中だけで働く神経伝達物質です。
1つの神経細胞は1種類の伝達物質しか放出しません。受け取る側の神経細胞は、多数の神経細胞から、様々な伝達物質を受け取ります。
報酬系の中心は、ドーパミンを分泌するA10。A10は、中脳の腹側被蓋野(VTA)から出ています。受け取るのは、前頭連合野、偏桃体、側坐核、帯状回、視床下部、海馬です。
A10に刺激を送っているのは、前頭連合野と側坐核。側坐核から伸びている神経はVTAにGABAを送り込みます。VTAはA10神経を使ってドーパミンを送ります。側坐核がドーパミンを受け取ることが快感の中心です。
好ましい経験は、海馬に蓄えられ、同じ状況が来たときにより速いドーパミン放出が起こるようになります。
体調1mmほどの線虫の300本しかない神経細胞の中にも、報酬系の基となる回路があります。
ドーパミンが大量に分泌されると過剰な興奮が生じます。幻覚が見えることもあります。ドーパミンが不足すると、無気力になります。
痛みは体が発する危険を知らせる信号です。痛みのストレスが新たな苦痛を産むこともあります。
苦痛を和らげる物質がオピオイド。エンドルフィン類、エンケファリン類などの総称。「オピ」はアヘンを表す「オピウム」から来ています。オピオイドは鎮痛薬として用いられます。モルヒネはギリシャ神話の夢の神「モルフェウス」に由来します。モルヒネは、覚醒剤のようにドーパミンの作用を強めるのではなく、神経に直接作用します。
意識としての痛みは脳で起こります。痛みの感覚は全身の神経から伝えられます。これらの受容体にオピオイドが届くと、その神経は痛みの刺激を伝えにくくします。
脊髄には脳から痛覚抑制系の神経が伸びています。オピオイドは痛覚抑制系の神経を活動させます。
有酸素運動を始めて10分ほど経つと楽になります。呼吸や循環が運動に追いついた、ウォームアップ状態です。その人の限界に近いペースで30分以上走り続けると、ランナーズ・ハイが訪れることがあります。限界に近い運動を続ける苦痛を和らげるためにオピオイドを分泌します。β-エンドルフィンが、間脳をから中脳中心灰白質に分泌されます。エンドルフィンは「エンド」=「体内で生じる」と、「ルフィン」=モルヒネの「ルヒネ」の合成語。モルヒネの6.5倍強いもの。何度も繰り返すと中毒=ランニング依存症になります。
脳内麻薬でも麻薬と同様に依存を招く可能性があります。
■ 脳内麻薬と薬物依存
依存症は最も患者数の多い病気です。依存しているとき、脳の中にはドーパミンがA10神経から分泌され、海馬に記憶されます。このようなことが起きる物質や行為は、全て依存症の対象になる可能性があります。依存症は脳自体の病気です。
ドーパミンとは逆の作用をするセロトニンなどの抑制性の神経伝達物質が過度な興奮を抑えてくれます。
依存症になると、依存する対象への経験が増えます。アルコール依存症では、飲酒の量と頻度が増えます。ドーパミンを放出し受容する神経細胞が変化します。脳細胞に元に戻れない変化が生じます。些細なきっかけで、依存状態に逆戻りします。
依存症は、長期増強・長期抑制によって生じます。ラットにコカインを与え続けると、A10神経に対してGABAを放出して抑制する神経に、長期抑制が起こります。そして、A10神経が放出するドーパミンを受容する側の反応が鈍くなります。耐性ができて、より大量の薬物を求めるようになります。
依存症には3つに分けられます。物質への依存(ニコチン/アルコール/薬物/食べ物など)、プロセス(行為)への依存(ギャンブル/インターネット/セックス/買物/仕事など)、関係への依存(恋愛/宗教/DV/虐待など)。
アルコール依存症は、最大の患者数の依存症。慢性で進行性がある「一度かかると完治することがない」病気です。エタノールの作用は、中枢神経に対する抑制作用です。GABA神経を抑制します。衝動や感情の抑制が効かなくなり、さらには意識や運動も抑制されて酩酊状態になります。
RASGRF2遺伝子が、アルコールによるドーパミンの放出を制御しています。RASGRF2に変異のある少年はアルコール依存になりやすいようです。
ニコチンは脳幹網様体・大脳辺縁系に働きます。量が少ないと興奮性に、多いと抑制性に働きます。ぼんやりしているときはゆっくり煙草を吸うと頭を活性化させ、イライラしているときに吸うと気分が落ち着きます。作用は10秒程度で現れ、長持ちしません。
麻薬は、[ケシ→アヘン→モルヒネ→ヘロイン]、[コカ→コカイン]、[大麻→マリファナ]、[マオウ→覚醒剤]、[その他の植物]、[化学合成麻薬(LSD、MDMAなど)]に分けられます。
コカインはアルカロイドの一種。アルカロイドは生物が生産する化学物質で、カフェインやモルヒネなど約500種の物質が含まれます。「コカ・コーラ」にも、かつては微量なコカインが含まれていました。ジークムント・フロイトも、コカを鬱病や無気力を防ぐ薬として服用を勧め、患者をコカイン中毒にしてしまいました。
コカインは、ドーパミンの回収を妨げます。トランスポーターを阻害して、脳を興奮状態にします。
覚醒剤は、アンフェタミンまたはメタンフェタミンで、マオウ(麻黄)を原料としています。かつては禁止されておらず、日本でも「ヒロポン」という商品名で販売されていました。覚醒剤はコカインよりも強力で、A10神経に強く働きドーパミンの放出を増大させ、回収を阻害します。大量のドーパミンが脳に溢れた状態をもたらします。不眠症、食欲不振、血圧上昇、幻覚や妄想が起きます。
コカインや覚醒剤には、耐性と依存性があります。依存症には精神依存と身体依存があります。覚醒剤には耐性を作りやすい性質と強い精神依存があります。コカインや覚醒剤がもたらす快感は、ドーパミンがもたらす快感です。
アヘンはケシの実から採れます。ケシは世界中に生えている植物。日本にも帰化植物であるアツミゲシが見られます。人類の文明の早い時期からケシの栽培が行われています。メソポタミア、アッシリア、バビロニア、エジプトにはアヘンの利用を示唆する伝説が残っています。古代ローマ時代には、皇帝から市民までアヘンに親しむようになります。五賢帝の一人マルクス・アウレリウス・アントニヌス帝はアヘンの常用者。アラビア医学ではアヘンを下痢止めの薬として使っていました。ルネサンス期以降、アヘンは再びヨーロッパの記録に登場します。
中国史にアヘンが登場するのは、シルクロードの交易を通じてアラビアからもたらされてから。アラビア人はアヘンを薬品として取り扱ったので、中国でも中毒による被害は顕著ではありませんでした。
英国は中国からお茶を輸入していました。絹のある中国には英国の綿布は売れず、大幅な貿易赤字になっていました。東インド会社は、英国からインドに綿製品を、インドからアヘンを中国へ、中国から英国へお茶をという三角貿易を行います。
19世紀にアヘンからモルヒネが分離され、ヘロインが合成されます。モルヒネは鎮痛剤として普及し、南北戦争では40万人のモルヒネ中毒患者を出しました。ベトナム戦争では、2割の米兵がヘロインに蝕まれました。
現在、アヘンはアフガニスタンが主な産地になっています。
カビやキノコの菌類は、動物に近いゲノムを持ちます。キノコの化学物質を作り出す能力は生物の中でも飛びぬけています。
マジックマッシュルームは、幻覚性のキノコのグループ。中南米のインディオが古くから「神の肉」としていました。1960年代のヒッピー・ムーブメントの中心人物だったハーバード大学のティモシー・リアリー教授が世界に紹介しました。
幻覚成分はシロシビン、シロシン。セロトニンの受容体に作用します。物が歪んで見える、距離や大きさの変化、色彩の変化、視覚と聴覚の「色が聞こえる」などの共感覚。
ハルマラに含まれるのは、モノアミンを分解するMAOの阻害物質。
DMTには幻覚作用があります。MAO阻害物質と一緒に摂取します。DMTによる幻覚の半数が、地球外生物に遭遇したというもの。DTMは、熱帯・温帯地域のかなりの植物に含まれ、ヒキガエルや人を含む哺乳類の松果体から検出されます。
サボテンのペヨーテ(烏羽玉)には、モノアミンの一種であるメスカリンが含まれます。メスカリンは人間の脳にも少量存在し、神経伝達物質として使われています。モノアミン(ドーパミンやセロトニン)と構造が似ているために、それらの受容体に結合します。幻覚物質は神経伝達物質に似ていて、それらの受容体に結合します。
カクテルは、数種類の薬物を混合して摂取するもの。単独の薬物では得られない効果があります。
元の物質から変化させて使用するものを合成麻薬(ケミカルドラッグ)と呼びます。覚醒剤も自然の動植物から抽出することなしに合成されますから合成麻薬に含まれます。
LSDは半合成ドラッグです。イネ科の植物に寄生する麦角菌。血管を収縮させる効果があります。LSDは色々な分野への応用が試みられました。「精神を開放する」治療にも使われました。ポップカルチャー「サイケデリック」の流行を生み出しました。
MDMAは合成ドラッグ。意識の変化だけを起こします。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療薬として用いられました。セロトニンなどの放出量を増やします。副作用が強く死亡例や後遺症も見られます。
ケタミンは動物用の全身麻酔薬。体外離脱や臨死体験ができるドラッグです。大脳皮質だけに作用し、悪夢や幻覚が体験されます。
合成ドラッグは、医薬品の製造過程で偶然に発見されたり、別の目的で使われていた医薬品が転用されたもの。精神の病を治療する薬を開発する限り、意図しない効果を発揮する可能性は常にあります。
パーキンソン病では、ドーパミンが不足し、アセチルコリンが多くなっています。運動神経の興奮については、アセチルコリンが促進、ドーパミンが抑制。ブレーキが利かなくなって手足が震えます。
薬剤性パーキンソニズムという「病気」は、薬が作り出しています。こうした作用を持つ薬は多くのタイプがあります。
向精神薬は、広い意味では中枢神経系に作用する化学物質を全て含みます。
鬱病は、セロトニンやノルアドレナリンの放出量が少なすぎることによると考えられています。抗鬱薬が使われます。不安障害には、抗不安薬が使われます。
現在の睡眠導入剤には、メラトニンが使われます。
抗精神業薬は、主に統合失調症の治療に用いられます。大脳辺縁系におけるドーパミンの過剰を抑えるため、ドーパミン受容体を阻害します。
向精神薬の副作用は、意図しなかった場所での神経伝達物質の増減。その症状は何らかの精神疾患と類似しています。どれが本来の症状なのか、副作用なのか、離脱症状なのか見極めにくくなります。
■ そのほかの依存症 〜 過食、セックス、恋愛、ゲーム、ギャンブル
ストレスには、急性/慢性/外傷性があります。人間関係などに起因するのが慢性ストレス障害です。慢性ストレスは食欲を増進し、肥満を招くと考えられています。摂食障害は拒食症と過食症がありますが、バランスの崩れという点では同様です。
脳は自分の体重を知り、制御しています。だからこそ、体重の急激な増減があれば何らかの病気が疑われるのです。体重調節の役目を果たしているのは視床下部です。脳は脂肪細胞から分泌されるレプチンの濃度を知り、高ければ食事の量を減らし、低ければ食事の量を増やします。
胃や腸にあるセンサー細胞は、摂取したカロリー量を測ります。視床下部と腺房核にその情報がホルモンを介して伝わります。制御はオレキシン(空腹ホルモン)とCRH(満腹ホルモン)で行われます。
A10神経を中心とする報酬系も食欲制御に関わっています。食事中はドーパミンが放出されています。脳の中にドーパミンが溢れると食欲はなくなります。過食はドーパミンの量が満足できるまで食べ続けることから来る症状のようなのです。ドーパミン受容体の数は、肥満体質に人の方が少なくなっています。ドーパミン受容体の一つであるD2を作る遺伝子の変異が認められます。
ドーパミン受容体の少ない人は、依存症になる傾向があります。
ストレスを与えられた動物は、食事の量が増えます。
セックス依存症は、ビル・クリントンやタイガー・ウッズで知られるようになりました。性行動は自慰やポルノ視聴などの性活動も含めます。
セックスの快感にもA10を中心とする報酬系が関わります。オーガニズム中にはA10の根元にあるVTA領域と、ドーパミンを受容している神経細胞が強く活性化しています。
殆どの動物は雌が妊娠可能な時期にしか性衝動が起きません。快楽を得るためだけのセックスは人類だけかも知れません。
恋愛依存症は、人間関係への依存に分類されます。物質依存や行為への依存は、当人に自覚があります。関係依存では、当人に依存の自覚がありません。
セックス依存と恋愛依存は共通点が多く、同じものと扱いもされます。対人関係の希薄さを恋愛とセックスのどちらで紛らすかです。
恋人の写真を見たときには、VTAとA10神経を中心とする報酬系が活性化します。恋人の写真を見ると社会性を担っている前頭連合野の活動が低下し、客観判断が飛んでしまうことを示しています。恋愛とセックスのドーパミンの放出そのものには差がありません。
恋愛初期の感情の昂ぶりが持続するのは2年以内。中には10年経っても変化しないカップルもいます。
恋愛依存は、恋愛経験のない人には起こりません。恋愛感情を得るために浮気をしたり、恋人を探し求めたりするようになれば依存症です。
依存性人格障害は、親離れできない人。親が死ぬと、他の人を見つけて従属します。
利他従属は、誰にでも親切で優しく、頼まれれば嫌とは言えない。賞賛や感謝を貰う嬉しさの虜になっています。
世話型依存は、お母さんが子供の世話を焼き、成果を出すことで報酬系が活性化しています。その子は依存性人格障害になる危険があります。
共依存は、ダメ夫と献身妻の組合せ。我儘な子と耐える母親なども。このような家庭に育つ子供は、両親からのまともな愛情が受けられず、情緒不安定になる傾向があります。
ミュンヒハウンゼン症候群。嘘を吹聴して周囲の関心や同情を得ようとする症状です。
ゲームに嵌るのは、熱中するように設計されている、つまりドーパミンを分泌させるように設計されているからです。賞賛と達成感を積み重ねて大団円を迎えます。薬物を使わない麻薬のようなものです。オンラインゲームは、生身の参加者からより大きな社会性の賞賛が得られます。
スイッチを押すと時々餌が出る鳩の実験。餌がでないようにしても、一日中スィッチを押し続けた。餌が出たり出なかったりするスリルが鳩にスィッチを押させた。
「当り」「惜しい」を操作したスロットマシンの実験。「惜しい」ときが最も報酬系の活動が高い。レバーを自分で押したときの方が満足度は高い。
ゲームやギャンブルの依存症は、依存症としては軽い部類に入ります。自分で依存を克服する人が多いからです。株式や投資の場において、ギャンブルに対する耐性を持った人たちが活躍しているのも事実です。
■ 社会報酬
人が金銭報酬を得るときも、社会報酬を得るときも、線条体が活性化します。社会報酬は、承認/評価、信用/信頼/尊敬、友人関係/有名。
承認/評価で効果が高いのが「Iメッセージ」。「あなたは素晴らしい」よりも「私は感動した」の方が価値が高い。
社会報酬と金銭報酬と生理報酬で活性化する部位は同じ、線条体です。
社会報酬と金銭報酬が相反するとき、人は社会報酬、つまり公平感の獲得も視野に入れて行動します。相手が拒否できない場合、分配者は相手に与えないと相手の多くを与えるという両極の行動のどちらかを取ります。相手が拒否できる場合は、受け手にそれなりに与えて妥協点を探ろります。
金銭報酬は、視野を狭め集中させます。単純作業に向いています。社会報酬の動機づけは、知性課題に向いています。
生活満足度には、所得より同じ集団内での所得順位が相関します。
愛情があるからセックスするのか、セックスすると愛情が形成されるのか。動物の浮気の研究から、「セックスによって愛情が深まる」ことがわかりました。
体重に占める卵巣の重さの割合。雄同士の闘争に勝ってハーレムを持つゴリラは0.02%、他の雄とも交尾雌に自分の子を生ませようとする精子競争のあるチンパンジーでは0.3%。
バソプレシンは、抗利尿ホルモン。セックスの最中の雄の脳内で分泌され、相手に対する愛着を形成します。特定の雌としか交尾しないプレイリーハタネズミは、腹側淡蒼球にバソプレシンの受容体Vlaが多い。浮気者のアメリカハタネズミでは、外側中隔に多い。腹側淡蒼球は報酬系と関り、性交の報酬が大きく、雌に忠誠を尽くすようになります。
雌は側坐核に分泌される愛情ホルモンのオキシトシンが、雄への愛着に作用します。
バソプレシンの受容体が少ないと、無慈悲な行動をとる傾向が強くなる。自己本位な行動をとる人ほど、AVPR1A遺伝子の長さが短く、バソプレシンの効果が低い。長い人は、他者に分け与える傾向が強い。
猿の前頭葉F5領域にあるミラーニューロン。人は他社の立場に立つ能力、他社に共感する能力があります。店員の笑顔を見た客は、幸せな気分に共感します。また、人は笑顔になるとストレスが軽減されます。顔の表情筋が働き、脳の報酬系が刺激されます。
人の特徴「生きている意味」を求める。利他行動は多くの生物に見られます。群れを作り、社会性を持つことで生き延びてきた種である。
幸福感の高い人は死亡リスクが低い。幸福感と健康には相関がある。
セロトニン不足は鬱病や不安神経症の原因になる。他人との結びつきや幸福感を感じるとき、脳内にはセロトニンが分泌される。