「なぜ八幡神社が日本で一番多いのか」 島田裕巳 2013年 幻冬舎新書
それなりに関心を持つ神社に関する本。読んでみると、なかなか興味深い内容のある本でしたヨ。 以下はこの本の要約と引用です（古代を中心に）。
■ はじめに
神道には、開祖もいなければ、経典も教義もない。当初は社殿も存在しなかった。救済のための手段もない。そうした宗教が千年以上続いている。
一つの神社には本殿のほかに境内社がある。摂社は関連性の深い神を祀り、末社は関連性の薄いものを言う。
明治の末期、政府は「神社整理」が行われた。戦前は主要な神社は国によって経済的に支えられていた。経費削減という意味もあった。現在は、維持できなくなった神社が増えている。
■ 日本の神々と神社
誰が何を神として祀ろううと、それは祀る側の自由で、どこかの許可を必要とするわけではない。日本の神の数は増え続けていく。
近代に入るまでは、祭神が無い神社が少なくなかった。人間の都合で信仰のあり方や内容は大きく変わってきた。
日本の神々は、「勧請」によって「分霊」されされる。
古代においては、祭祀を行う際に祭場を設けていた。それが、恒久の施設に発展していく。
神社に神主が住んでいるとは限らない。神社には、修行や研鑽の場としての役割はない。神主は俗人であり、祭祀を行うときにその役割を担う。寺院が僧侶という人のための場であるのに対して、神社は神のための場である。
大規模な神社には、「社家」があり、代々神主を受け継いでいた。神仏習合の時代には、境内内の「神宮寺」に属する僧侶が祭祀を行い管理を行っていたりした。
明治以降は、皇室祭祀のための「宮中三殿」が作られ、天皇を中心に儀礼が営まれるようになった。天皇は神主としての役割を担う。この営みは、天皇の私的な行為として行われる。
神社には主教法人として認証を受けていない街角や屋敷神の「小祠」がある。
■ 八幡 − 外来の荒ぶる神
神社として最も多いのは八幡信仰の、八幡神社･八幡宮･若宮神社など。
宇佐に祀られた八幡神が最初に文献に登場するのは737年。新羅への出兵に関連する。
八幡信仰は、八幡神が応神天皇と習合したことによって広がっていく。応神天皇の母が、妊娠中に三韓征伐を行った神功天皇。
聖武天皇は、国分寺･国分尼寺を統括する本寺に大仏を造立の詔を出す。その際に、八幡神が大仏建立の神託を下したとされる。八幡神が上京して、大仏開眼供養が営まれる。
道鏡は、物部一族の弓削氏の出身。道鏡と深い関係だったのが孝謙天皇（再び天皇の位について称徳天皇）。道鏡は法王(法皇)を授けられる。歴史上この位を授けられたのは道鏡だけ。宇佐の八幡神からの道鏡を皇位に就けるよう神託が下った。称徳天皇が亡くなり、道鏡は流罪になる。宇佐の八幡神には、皇位を左右するような信託の力が備わっていた。
神託を伝える「よりまし」＝シャーマンは女性。シャーマンニズムは、シベリアから朝鮮半島を伝わって広まった。
朝鮮半島からの渡来人が生活する地域に、八幡神が天降った。八幡神は韓国の神であった。「新羅の国の神が渡り来てこの川原に住み着き、名を鹿春の神と言う」。福岡県の香春(かわら)岳があり、その麓に香春神社が祀られている。
八幡神が出現した馬城峯(おもとやま)。御許山の頂上には三つの巨大な石、古代の祭祀が行われた磐座(いわくら)がある。頂上は現在でも禁足地。麓には本殿が無い大元神社が鎮座している。八幡信仰には古代からのものが含まれている。
八幡神は荒ぶる神「武神」だったが、弥勒と習合していく。725年、八幡神の社殿が建てられた時に境内に弥勒寺が建立される。
応神天皇が弥勒菩薩として下生したという信仰が、宇佐氏の氏神から普遍の神に変貌する。八幡神は皇祖神に祀りあげられた。
宇佐八幡宮から勧請された石清水八幡宮が創建され、宗像三女神も祀られる。石清水八幡宮は伊勢神宮に次ぐ「国家第二の宗廟」になる。そして、源氏が八幡神を氏神としてことで、信仰は広がっていく。源頼朝は鶴岡八幡宮を建立した。徳川氏も八幡宮を氏神とした。
福岡の筥崎(はこざき)宮。筥崎八幡宮は、日本三大八幡宮の一つ。元寇の折に、八幡神の神託により「敵国降伏」を掲げて造立された。
大仏建立のために上京した八幡神は手向山八幡宮に東大寺の守護神として祀られる。各国の国分寺にも八幡宮が勧請されている。空海が賜った東寺にも八幡宮が勧請される。八幡神は菩薩の役割も担う。
神仏習合の時代、人と神との距離は小さく、人が成仏を目指して仏道修行するように、神も修行すると考えられていた。
■ 天神
天神の使いとされるのが牛。菅原道真が生まれた日が丑の日、無くなった日も丑の日だったから。
天神と梅の結びつきは、室町時代の禅僧たちが広めた。道真の子孫と称している加賀の前田家の家紋は梅鉢。受験の季節は梅の季節である。
祟りを鎮めるために祀る
講とは、仏典の講義を行う僧侶の集まり。信仰行事の意味で使われるようになり、世俗の集まりも講と呼ばれるようになっていく。
鷽替えの鷽は道真の愛鳥。鷽は嘘に通じ、道真が讒言によって左遷されたからだろう。
菅原氏は、学問の家として知られ、もとは古代の豪族-河内の土師氏。菅原氏は文書博士を独占する。
道真は異例の出世を遂げ、その頂点に達したときに、突如として失脚する。五位以上が貴族。三位になると公卿(現在の大臣)となり、天皇の生活の場である清涼殿への昇殿が許された。
京では該病(インフルエンザ)が流行。醍醐天皇は右大臣に戻し、左遷の勅を破棄。道真の怨霊の存在が公に認められた。930年に清涼殿が落雷を受け、道真は雷神と習合する。
北野には道真が生まれる前から、地主神として天神社が祀られていた。
道真の遺骸が葬られた大宰府の安楽寺に社殿が建設された。
■ 稲荷 − 絶えず変化･拡大する信仰
銀座の小祠のほとんどは稲荷社。
狐は稲荷社の使い、眷属(付き添うもの)である。
正一位をことさら謳っているのは稲荷社に限られる。神階を強調するのは、稲荷社が成り上がりだからだ。
伏見稲荷は「山城国風土記」に出てくる。渡来人の秦氏が「伊那利」を祀っていた。秦氏は、稲荷のを祀り、稲作を行って富を得た。
伊那利山(稲荷山)には三つの峯がある。磐座(いわくら)で祭祀が行われ、神道の原点に近い形だったのだろう。
神社の古い信仰の形を残しているのは、奈良の大神神社。拝殿の背後の三輪山がご神体。拝殿の奥に三つ鳥居が建っている。古代、磐座に都度に祭壇を設け、神を呼び出して祭事を行った。三輪山の磐座も３ヶ所からなっている。
宇迦之御魂大神は、須佐之男命が櫛名田比売(奇稲田姫)の次に娶った神大市比売との間に生まれた。宇迦之御魂大神が、伊勢神宮の外宮の祭神、御饌の神、五穀を司る女神、豊受大御神と同一視された。
本地垂迹は、神は仏が姿を表したものとする説。稲荷山の三つの峯は、弁財天、聖天、吒天(荼枳尼天)と見做された。荼枳尼天は半裸で、血の入った器や短刀や屍肉を持つ。後に、剣と宝珠を持ち狐に乗った姿で描かれる。稲荷神は白い狐に跨った姿で描かれる。稲荷神は女神であることも老翁であることもある。
真言宗(密教)との関りが信仰を広めた。空海の東寺との間に関係ができた。稲荷信仰を広めたのは、稲荷行者や稲荷勧進僧。稲荷行者は祈祷師。稲荷神が憑依することもあり、お告げを下した。広めたのは、現世利益の信仰。豊川稲荷は曹洞宗の寺院。稲荷信仰は神仏習合の典型な信仰だった。
商人が祀った稲荷は、三井の三囲(みめぐり)神社。
千本鳥居の起源は判っていない。江戸時代の初期には稲荷山に千本鳥居もお塚も無かった。明治に入って行われた神仏分離。伏見稲荷では、新号が稲荷大明神に統一された。独自の神を祀った人々が、山中に勝手に石碑を立てた。お塚が増えたのは稲荷行者の存在もある。お塚を建てることは神社に規制される。そこで鳥居が奉納された。今では鳥居は１万基を超えた。
現在は新しい鳥居を奉納する際に、古い鳥居は取り去られる。奉納される数が多いので、１週間もしないで取り去られるものもある。
初詣という習慣が成立するのは、鉄道会社が乗客を増やすために宣伝するようになってから。
初午は、稲荷の神が稲荷山の峯に鎮座したのが、711年の最初の牛の日だから。初午に参拝した人は、「しるしの杉」を授かる。平安時代中期に熊野詣が盛んになった頃に、熊野に向かう人々がその生き返りに伏見稲荷に寄り、境内の杉の木を折て身につけ、道中の安全を願ったことに由来する。
■ 伊勢
古事記が太安万侶によって献上されたのは712年。
天照大神を祀る神社は、神明社･神明宮･皇大神社など。天照大神の弟は素戔嗚尊。
太陽神は、ギリシャのアポローン、エジプトのアテンやラー、イランのミスラ、インドのスーリヤ。
瓊瓊杵尊が降臨するときに八咫鏡が授けられ、そこに天照大御神の魂が宿っているとされた。
天照大御神は、はじめ天皇の住む宮殿に倭大国魂とともに祀られた。天照大御神が倭姫命に対して「この神風の国は常世の浪の重浪(しきなみ)が帰(よ)する国なり、傍(かた)国の可伶(うま)し国なり」。常世は、海の彼方の古代の理想郷。
伊勢神宮がいつ創建されたか明らかではない。最初は、内宮しかなかった。
近代になるまで、天皇が伊勢神宮に参拝することはなかった。古代の天皇で伊勢に行幸した天皇は、持統天皇。行幸すれば農事を妨げると強硬に反対されるが強行した。次に参拝したのは明治天皇である。
天皇が行幸しない代わりに、斎宮の制度が設けられた。
遷宮は他の神社でも行われる。住吉大社･鹿島-香取神宮では20年に一度。出雲大社や上賀茂神社は、屋根の葺き替えなどが行われる。20年に一度は屋根を葺き替える必要がある。死と再生を象徴するものでもある。
日本書紀などには遷宮の記述は無い。11世紀後半に記録があり、そのころに成立したようだ。
応仁の乱の後、85年間は内宮の正殿は消滅していた。
現在の正殿は、神明づくり。屋根の千木と鰹木、大きな棟持柱を特徴としている。古い絵には棟持柱は無く、社殿の柱は朱塗りになっている。一般の社寺と同じ形態である。そして、仏法の守護神である四天王が描かれている。かつての伊勢神宮の境内には真言宗の法楽舎があった。伊勢にも神宮寺があった。
伊勢神宮への参拝を広めたのは御師。平安時代の中期、御師は貴族の奇岩や奉幣を取り次いだ。御師を媒介として、「伊勢参り」が大衆化していく。外宮と内宮の間の古市には遊郭が立ち並ぶ。古市に行くことが伊勢へ行く目的だった。
伊勢神宮への街道に住んでいる人々は、お蔭詣りをする人たちに食や銭を布施した。江戸時代には何度かお蔭詣りブームが起きた。
明治時代になると、「お伊勢さん」ではなく、皇祖神を祀る場所となる。
■ 出雲 − 国造という現人神
出雲大社は日本一大きな神社。大社造は大きな階段と高床が特徴。
本殿の内部に入ることができるのは、出雲国造(くにのみやつこ)と呼ばれる神職だけ。出雲大社の本殿の中にはさらに社がある。何が祀られているかは分かっていない。本殿は祭祀を行う場所である。国造は祭祀の対象になっていた。現人神でもある。
国造は、出雲と紀伊(日前新宮･國懸神宮)と阿蘇(阿蘇神社)が、古代から受け継がれている。大化改新以前は、国造は土地を支配し祭祀を行っていた。政治権力を失って祭司となった。
出雲の国造は千家と北島家。千家が本家。国造は生涯、屋敷の中にある「斎火殿」の神火を灯し続け、この神火で調理したものだけを食べる。家族であってもそれを口にできない。
新たに国造となるものは、古代から伝えられた火鑽臼と火鑽杵を持って国造館を出発し、八束郡にある熊野大社（北島家では神魂神社）へ向かう。熊野大社の鑚火殿で神火を鑽り出す。先代の国造の遺体は赤い牛に乗せて運び出され、出雲大社の東南にある菱根の池に水葬される。火継式で思い当たるのは、天皇家の大嘗祭である。
出雲大社の祭神は、大国主神。偉大なる国の王の意味。葦原中津国の支配者。
大国主は多くの異名を持つ。大国は「だいこく」、シヴァ神の化身マハーカーラに由来する大黒天と習合する。
大国主は、海からやってきた先魂奇魂(さきたまくしたま｜大物主)を三輪山に鎮座し、協力を得て国造りを完成する。大国主の魂は大和の三輪山-大神神社に祀られている。
高天原の天照は使者を送り国譲りを要求する。
出雲大社の祭祀を担うのは、天穂日命。これが出雲の祖先神だろう。古代において出雲国造は新任時に、都に上って天皇に対して寿詞(よごと)を奏上した。１年後、国造は再び都に上り、奏上と献上を繰り返す。服従の儀礼である。
古代の出雲は、鳥取･福井･石川･富山と広島を文化圏とした。
大国主と大物主は、別の神だったものが習合した。そして、出雲と大和に祀られる。
三輪山の大和にも、出雲にも、伊勢にも、磐座の信仰があった。磐座は古代の信仰。神道のもともとの祭祀の形態を示している。
出雲大社の本殿の高さは48ｍ。現在の倍あった。杉の大木３本を組んだ巨大な柱が発見されている。出雲大社は過去に何度も倒れている。
９世紀から17世紀まで、祭神は素戔嗚尊とされていた。後に、復古神道の傾向が生れ、祭神は大国主神に戻され、仏堂や仏塔は壊された。
出雲に神々があつまるのは、縁結びをするためとされた。御師たちの働きにより「縁結び」が広められた。
大国主命は、石川県の気多大社は大己貴命(おおなむちのみこと)として、東京都の大國魂神社は大国魂大神としてとして祀っている。
■ 春日
春日大社の祭神は、複数の神が合体した「春日の神」。武甕槌命、経津主命、天児屋根命、比売神、天押雲根命。いくつもの祭神が祀られている神殿は「相殿」。
天児屋根命は、天の岩戸に鏡を差し出した神の一つ。中臣連の祖神とされる。中臣鎌足を祖とする藤原氏にとっては氏神。比売神は天児屋根命の妻。天押雲根命はその子。
武甕槌命と経津主命は、大和朝廷の日本征服に貢献した神。武甕槌命は鹿島神社から、経津主命は香取神社から勧請された。両社は西の流海(安是湖)を隔てて対岸に向き合っていた。
「大鏡」には、鹿島が鎌足の出生の地とされる。その息子、不比等。藤原氏の流れをくむ公家は多い。
春日大社は、隣接する藤原氏の氏寺興福寺と一体の関係にある。藤原氏は氏神と氏寺を使って(神領として)大和の国を自らの支配下に置いた。それが藤原氏の財政基盤となる。
756年に書かれた図によると、春日大社の背後の御蓋山(御神体)の前には「神地」。建物は無い。社殿がいつ建ったのかは判らない。寺院の影響で、神社にも社殿が建てられるようになったのであろう。
平安時代、神は人々の生活に影響を与えた。仏法には荒ぶる神を鎮める力があった。
鹿は春日神の使いとされる。武甕槌命に出雲への派遣を伝えたのが鹿の神だった。
649年に鹿島-香取神宮に神郡が設けられた。他に神郡を設けられたのは伊勢神宮だけ。「延喜式」で神宮の名を与えられているのもこの３社のみ。
鹿島-香取には「要石」がある。鹿島神が春日大社に祀られた初期には、春日大社は鹿島神宮の遥拝所だった。後には、天児屋根命が主神になっていく。
■ 熊野
最初に熊野御幸を行ったのは907年の宇多上皇。花山上皇は、那智で修業し、その後に西国三十三所霊場の旅へ出た。西国三十三所の始まりとされる。初期の熊野御幸では、海路や伊勢路が用いられた。
熊野詣が盛んになるのは平安時代に浄土信仰が流行してから。神仏習合の信仰が中心であった。
神仏習合の時代、神社のある場所は浄土と見做された。那智では、浄土教信仰の延長上に、「補陀落海渡」が生れた。
熊野の神は「熊野権現」。権現の「権」は、実に対する仮のもの。仏が化身して神として現れたもの。
熊野権現は、熊野本宮大社(本宮)･熊野速玉大社(新宮)･熊野那智大社。古くは祭神の間に関係は無く、起源も異なる。
熊野権現を勧進した各地の神社は、十二所神社･十二社神社と呼ばれることがある。熊野神が12柱の祭神から構成されているからである。
神仏分離の際にも、那智の観音堂は残された。それは青岸渡寺として再興され、近代以前に信仰体制を保っている。
熊野三山の信仰がどのような形で成立したかは分っていない。初期の段階においては、本宮と新宮はあったものの、那智は存在しなかった。本宮と新宮と言われるのは1082年以降。
一遍にとって熊野権現は重要。証誠殿の祭神の本地仏は、阿弥陀如来である。一遍が熊野の向かったのも、そこが浄土だからだ。熊野は修験者が三林修行を行うに適している。密教では、山岳修行を通じて霊力を得る。権現と言う信仰対象は修験道と繋がる。蔵王権現は、吉野の金峰山だが、各地で蔵王権現が祀られている。
熊野の信仰は、神道･仏教･修験道が盛り込まれた。補陀落浄土と見做され、観音信仰の霊場となった。
後白河法皇は、生涯に34回も熊野御幸を行った。熊野の信仰が全国に広がったのは、仏教と融合し、浄土教信仰や観音信仰と結びついたからだ。
熊野神社が発行した熊野御王符(牛王宝印)は、起請文の料紙として用いられた護符。誓いを破ると神罰を受ける。
■ 祇園
葵祭は、賀茂御祖神社(下鴨)と賀茂別雷神社(上賀茂)の祭礼。かつては賀茂祭と呼ばれた。賀茂別雷命は雷神であり、祟る神である。京都では雷は恐れられていた。祇園祭は、怨霊を鎮めるための怨霊会として始まった。
810年以降、伊勢神宮の斎宮と同様に、斎院が設けられた。平安時代以降21年に一度の式年遷宮が営まれるようになった。
山鉾巡行は「付け祭」。本来の賀茂祭は大神輿。
祭神は、素戔嗚尊と妻の櫛稲田姫命とその子供たち。八坂神社の祭神である。八坂神社という名称は、明治以降のもの。それ以前は、祇園社･祇園天神社･祇園感神院などと呼ばれた。祭神も明治以前は牛頭天王、さらに遡ると牛頭天王は天神として祀られていた。天神は「神」と同義であるとも言える。平安時代の京都には、いたるところに天神が祀られていた。それが別の神と習合することで、異なる信仰を形成した。
牛頭天王は由来が明確ではない。記紀にもインドにも無い。渡来人が祀った神でもない。天神･牛頭天王･素戔嗚尊･武塔天神･蘇民将来が習合している。
平安時代末期には、牛頭天王は道教の神である東王父と西王母の子。武塔天神とも言い、八王子はその子とされた。武塔天神の話として蘇民将来が出てくる。災厄や疫病から逃れるという信仰が生み出された。八坂神社の境内には、蘇民将来を祭神とする疫神社が祀られている。
牛頭天王が祇園社と結びつくのは、釈迦の僧坊「祇園精舎」の守護神だからだ。祇園社は最初、観慶寺の境内に祀られた。
祇園祭は、免罪で亡くなった死者の霊をなだめる御霊会として始まる。御霊はその祟によって疫病や天災をもたらす。祇園御霊会では、神輿の渡航は行われていない。平安時代は、御霊信仰が盛んだった。社会が安定していくと祭神は性格を変えていく。
博多祇園山笠は、櫛田神社の祭礼。室町時代に祇園社から勧請した。大阪の岸城神社の岸和田だんじり祭りも有名。牛頭天王社と八幡社を合祀した神社である。
素戔嗚尊と稲田姫命を祀る氷川神社。摂社の門客人神社は、元々は荒脛巾神社と呼ばれた地主神。そこに出雲系の人々がやってきた。八坂神社で素戔嗚尊を祀るのは明治に入ってからのこと。氷川神社とは別のものである。
■ 諏訪
諏訪信仰は、諏訪神社を中心とした信仰。鹿児島県の南方神社は、諏訪大社の祭神である建御名方神の「ミナカタ」に由来する。
上社の本宮と前宮と、下社の秋宮と春宮に分かれる。祭神は、建御名方神と兄の事代主神とその妻たち。御柱祭は、式年遷宮である。御柱祭の正式名称は「式年造営」である。
建御名方神は大国主の子。武甕槌命が国譲りを迫ると、事代主神は承諾したが、建御名方神は武甕槌命と力比べをする。建御名方神は負けて逃げ出し、諏訪湖に至る。
諏訪神社の祭神は「諏訪明神」。その正体は「ミシャクジ」とも。「石神」あるいは、道の分岐に祀られる「寒の神」。道祖神、性神、守屋神、農耕神、風水神などの性格を持つ。諏訪地方では「ソソウ神」と呼ばれる蛇神としての性格が強い。御柱が蛇体である可能性もある。
諏訪神社でも上社前宮を除くと幣拝殿しかなく、本殿を持たない。古代には、諏訪明神には社殿が無く、鳥居だけがあった。諏訪七石と呼ばれる巨石がある。それは茅野の御座石神社に存在している。諏訪神社の神体山は御山は守屋山と続いており、守屋山こそがご神体であるとも言われる。山頂には、守屋神社奥宮があり、そこに磐座がある。
４月15日の「御頭祭」。鹿の頭が神前に献じられる。鹿肉の塊も神餠として捧げられる。神と人間の共食儀礼が営まれる。本来は、狩猟のための儀礼「御射山御狩神事」と呼ばれた。その時代には、神職が八ヶ岳の山麓へ登って仮屋で行った神事だった。
大祝(おおほうり)は、祭礼組織の筆頭。神氏と金刺氏（総称して諏訪氏）だけが就くことができる。二つの氏族は外から来た人。土着の洩矢神を祀る守矢氏が、大祝の下の神長官の位を占める。
諏訪氏は平安時代以降武士化していく。諏訪明神は軍神として信仰を集めた。
諏訪明神は狩猟の神でもある。仏教が禁じる狩猟や肉食を許す「鹿食免」の札と「鹿食箸」の箸を参拝者に授与する。諏訪神社だけが肉食を許すことができた。
■ 白山 − 修験道の山神
白山信仰は、白山をご神体とする信仰。白山比�弯声劼虜弯世惑鮖拡胱彗膺澄�かつては白山本宮と呼ばれ、むしろ寺院。白山権現と呼ばれた。創建は奈良時代の泰澄。
愛宕信仰の中心、京都の愛宕神社を建立したのは役小角と泰澄。ともに伝説上の人物である。北陸地方の修験道の信仰では、あらゆることが泰澄と結びつけられている。開山が登場するということは、その信仰が仏教に近いものであることを示している。白山は天台宗との関係を深め、白山天台と言われた。
日吉信仰/山王信仰は、滋賀の日吉大社を中心としたもの。祭神は大山�弯澄�この神を勧請した神社には日枝神社もある。大山�弯世蓮�天台宗の延暦寺の地主神である。鎌倉後期になると、日吉七社の由来を天台教学に基づいて説いた山王神道が唱えられるようになる。
白山信仰には曹洞宗も関わる。白山権現は永平寺の守護神。白山権現と蔵王権現の信仰に差異はない。現在は修験道は仏教の枠組みの中で捉えられている。
立山は連峰の総称。立山は、阿弥陀如来の仏国土である極楽浄土。雄山がその象徴とされた。地獄谷など地獄も設定され、極楽と地獄を兼ね備えた「山上他界」と捉えられた。
富士山を神格化したのが浅間神社。火が放たれた産屋で出産した木花咲耶姫命と同一視される。富士講では、富士塚を造り参拝した。
秋葉権現を祀る秋葉信仰は、もとは修験道。江戸時代から火伏の神として信仰を集める。静岡県の秋葉山本宮秋葉神社。愛宕権現も火伏の神として知られるが、京都の愛宕神社は明治以前は白雲寺として知られていた。
■ 住吉 − 海の神
海は神の住まう世界。海の神として、住吉、宗像、恵比寿、金毘羅、貴船、弁天、厳島などがある。
大阪の住吉大社。749年に住吉社造営が記録されている。住吉大社では、現在でも式年遷宮が行われている。式年遷宮が行われるのは歴史の古い神社に限られる。住吉造は、神社の古い形を残している。
黄泉の国から帰った伊弉諾尊が穢れを清めて、底筒男命(そこつつのおのみこと)、中筒男命(なかつつのおのみこと)、表筒男命(うわつつのおのみこと)の安曇連(安曇氏)の祖神(墨江の大神)が生れた。祭神は、神功天皇も含めて四柱。
安曇氏は、古代の最も有力な海人族。発祥は、福岡県の安曇郷(新宮町)と志珂郷(志賀島)。志賀島には志賀海神社が祀られている。祭神は住吉三神と同じ。
安曇氏は全国に移住していく。長野の安曇野も安曇氏に由来する。安曇野にある穂高神社は安曇氏との関係が深い。祭神は綿津見神。例大祭は「御船神事」。
住吉大社の「御田植神事」は、実際に田植えを行う。摂社には、大海神社や志賀神社がある。
神功天皇は、八幡神と習合した応神天皇の母。宗像大社は八幡神の発祥の地である宇佐神宮と同じ北九州にある。
宗像大社では、沖津宮に田心姫神(たごりひめのかみ)、中津宮に湍津姫神(たぎつひめのかみ)、辺津宮に市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)が祀られ、この三宮を総称して宗像大社と呼びます。
沖津宮は沖ノ島にあり、島内には古代に遡る数多くの祭祀遺跡がある。最も古い信仰を伝えるものと言われている。祭司は巨石の上や岩陰などで行われた。祭司は大和朝廷によるものである可能性が高い。沖ノ島は今でも女人禁制。男性でも、年に一度、200人に限定される。島で見たことは口外してはならなかった。
宗像三女神を祀る厳島神社。厳島の名は、市杵島姫神に由来している。市杵島姫神は、全国に市杵島神社がある。市杵島姫神は弁財天と習合する。弁財天は、水辺で音楽を奏でる姿で描かれるサラスヴァティ―に由来する。財が財産に通じることから財宝神としても信仰された。さらに、中世において宇賀神とも習合した。宇賀神は、穀物の神-倉稲魂命に由来する。蛇がとぐろを巻いている姿で描かれる竜神でもある。
大国主命の子である事代主命は魚釣りを行う。漁業の神としての恵比寿と習合し、中世になると商業の神としても祀られるようになる。恵比寿信仰に関する神社の中には、島根の美穂神社のようにえびすの語を含まないものもある。
金毘羅宮は、明治になるまで象頭山松尾寺金光院という真言宗の寺院だった。金毘羅の源流は、クンビーラ。ガンジス川の鰐を神格化したもの。
■ おわりに
御霊神社は、関西を中心に祀られる。崇道天皇(相良親王)など祟神である御霊神を祀る。
