「日本の子供の自尊感情はなぜ低いのか」 古荘純一 2009年 光文社新書

 支援学級の学習支援をしているのでこの本のタイトルに目がいきます。大学でQOLを教えている私としては、この本のQOLの完全無欠の出鱈目さには呆れるばかりですが … それ以外のところは、参考になった部分もあるので …。ありがとうございました。 以下はこの本の要約と引用です。*はWEB検索結果です。


■ はじめに

 家庭にいても学校にいても、メールを交換しても孤独に感じる。幸福感の乏しい子供たち。家庭でも学校でも、依存の対象がいない。居場所がない。日本の小中学生は、世界でも最も睡眠時間が短い子供たちです。

 子育てを行っている世代は、家庭の将来に不安を持っています。低成長時代に生まれた子供たちは、マイナスのメッセージを送り続けられているように感じます。

 子供の存在をあるがままに肯定します。

■ 自尊感情(セルフ・エスティーム)

 自尊感情は「自己に対する肯定-否定の態度」(ローゼンバーグ)。自尊感情は、男性よりも女性の方が低くなっています。現在日本で広く用いられているには5段階評価のもの。

 日本の社会では、他人の目を気にして自己抑制し、自尊感情を高めることができません。つまり葛藤があります。

 海外の報告では、自尊感情が高い子供は、情緒が安定し、責任感があり、社会適応能力が高い、学業成績も良い。重要なのは、逆境に強いことです。失敗に動じない、悪い誘いを断ることができます。

■ 子供の精神面の健康度を測る

 健康とは「心身の状態が良好で、家庭・社会生活が順調」なこと。

 高齢者用のQOL測定尺度の開発を、WHOが行ってきました。ドイツの研究者が、独自に子供版のQOL尺度を開発しました。これを日本語版に翻訳しました。

 縦断研究(一人一人の経緯を複数の時点で調査する)を行いました。

 QOL尺度は、身体、精神、自尊、家族、友達、学校の6領域で構成されています。


 質問事項は、質問に関して、最近一週間の状態として、「いつもそうである」〜「まったくそうでない」の5段階で答えてもらいます。

■ 自尊感情が低い日本の子供たち

 小学生低学年でも、問題を抱えている子供がクラスに3人はいます。実業系の高校では、クラスの1/3が、自尊感情の得点がゼロでした。都内の私立の進学校でも、低かったのです。

 子供の自尊感情が低下する年齢と。鬱病を発症する年齢が似通っています。自尊感情は小学校4年あたりから下がり始めます。

 幼児的な万能感を持っていた子供たちも、現実が解ってくるにつれて、自尊感情は低下していくのが普通です。低下しきると下げ止まりまあすが、日本では、中学生〜高校生と下がりっぱなしになります。

 オランダはユニセフの幸福度調査で、子供たちの幸福度が先進国の中で最も高くなっています。オランダの子供たちは、学校でのストレスが小さく、親と何でも話ができる割合が高い。14歳未満の人口の6割近くが「移民」。オランダには、民主主義の考えが根付いています。

 オランダでは、ワーキング・シェアが定着していて、長時間労働をせずに、家族が一緒にいる過ごします。夕方になると店舗は閉まってしまいます。その分、深夜労働をする人も少ないのです。

 一人一人の子供に対して個別の学習ができる仕組みがあります。オランダでは、一クラスの人数は25〜30人と、北欧諸国に比べると多めです。一斉授業は取り残され感が強くなります。

 公立・私立を問わず、色々な特徴をもった学校があります。モンテッソーリ教育、シュタイナー教育、ダルトン教育、イエナプラン教育、フレイネ教育 …。これらの学校はオルタナティブスクールと呼ばれます。学校と言う場所に、画一なものを求める雰囲気がありません。

 先生は教室に常駐しています。職員室のような事務処理所はあありません。教師は教育に年専念することができます。

 子供に一斉テストを課して、平均点を引き上げるような指導を強いられる日本とは異なっています。

 オランダの日本語学校のQOLは、日本人学校の得点よりも高い。また日本では、親が子供のQOLを低く評価することもありません。子供のことを理解していないことになります。

 家庭や学校において、子供の行動面や学習面の問題には気づきやすいのですが、内面は気づきにくいのです。

■ なぜ子供たちの自尊感情が低いのか

 親自身が、自分の生き方に自信がなく将来に不安を感じています。兄弟や近所の子供との付き合いが少ないほど、親の影響が大きくなります。社会の余裕が無くなっている分、子供をありのままに受け入れる余裕が減っています。

 お父さんと母さんの仲が悪い。仕事が多忙である、ストレスが大きい。ピリピリした雰囲気が家庭に帰り子供に伝わる。

 学校で自分が相手にされない授業を受けている。学校に居場所がない。静かに座っているだけという状況は、無力感を生みます。

 実業高校では座学を避けて、体験学習を行い、その子のよいところを誉める。自尊感情を高めてやる気を起こします。

 家庭でもスキンシップは減っています。昔は思春期にはスキンシップを好まなくなりますが、今では高校生でもスキンシップを求める子供がいます。

 先生たちは今、学校での勤務時間が11時間に達します。先生もストレスに晒されえています。

■ 外来で診る子供たちと自尊感情

 平成19年度から特別支援教育が実施され、発達障害のある子供も、通常クラス等で個々の必要に応じた支援を受けることができるようになりました。

*特別支援教育
1. 特別支援学校
 特別支援学校は、障害の種別や程度に応じて支援が行われる学校です。視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、自閉症などの障害に対応した教育を提供しています。カリキュラムも、子どもたちの特性やニーズに合わせて柔軟に調整されており、生活自立や社会参加に必要なスキルを学ぶことが重視されています。
2. 通常の学校での特別支援学級
 通常の小学校や中学校などに設置されている特別支援学級では、主に軽度の知的障害、情緒障害、自閉症スペクトラム障害、発達障害などに対応した支援が行われます。授業内容や進度が生徒の状況に合わせて調整され、少人数制での学習が行われることが多いです。
3. 通級指導
 通常の学級に在籍している生徒が、週に数回、特別支援の先生から支援を受ける「通級指導」もあります。これには、発達障害や軽度の学習障害、言語障害のある生徒が対象です。通常の授業に参加しながら、特定のスキル(社会的スキル、コミュニケーション能力など)や学習の支援を受けることができます。
4. 教育支援センター・特別支援教育支援室
 一部の地域には、教育支援センターや特別支援教育支援室があり、家庭や学校と連携しながら支援を提供しています。ここでは、保護者への相談や教員へのアドバイス、障害特性に応じた教材の提供などが行われます。
5. 放課後や地域での支援
 放課後や休日に、地域の福祉サービスや支援団体が学習支援や生活スキルの指導、社会参加の促進を行うこともあります。放課後デイサービスや地域支援施設などで、学校外の環境でも継続的なサポートが提供されます。

 注意欠陥多動性障害の子供は。授業中は静かにするという原則は理解しています。些細な刺激があると気をとられ、動き出してしまいます。まずは、環境調整が必要です。刺激を減らすために、一番前の席にする。廊下や窓側は避けて、真ん中にする。周りに刺激を与えやすい生徒を配置しない。隣の子と距離を離して、手が出る距離に置かない。教師に近い位置にする。

 自分は他の子供と違って変わっていると思う、と感じ始めた時が、本当に支援を必要とする時期です。

 障害があっても、周囲に理解されて適切な対応がなされていれば、自尊感情は低下しません。

 軽度の発達障害の子供は、生涯に気づかずに厳しく対応されること自尊感情が低下する要因となります。

 特別支援学校を希望する子供と親は、人間関係における不都合やつらさをわかってもらうことで、学校の人間関係で辛い思いをしたくないとも言えそうです。通常学級では維持できない自尊感情を維持しやすいのです。

 子供は多動で衝動的です。小さい子供は恐怖感や不安が強い時期でもあります。不安の強い子供は、心配性であると自覚しており、我慢するものと思い込んでいます。被暗示性が強く、些細なことでも信じ込んで継続し、中断に抵抗することがあります。不安から逃れるために、かたくなに押し通してしまうことで、集団生活に制限が加わります。

 身体疾患や精神疾患が無いにもかかわらず、一定の期間体重増加がない場合、摂食障害を疑うべきです。

 本人をあるがまあまに受け入れ、あるがままの自分を肯定できるようにsる。主体性を回復させます。あるべき自分を崩せないことも多いのですが、その姿勢を変えるのは本当に大変です。

 子供の鬱状態を示唆する表現。「よく眠れない」「食べてくない」「お腹が痛い」「寝ても疲れが取れない」「だるい」「どっちでもよい」「どうせ … 」。そして「ふつう」「別に」「微妙」など。攻撃的な言動「うざい」「いらいらする」「むかつく」も抑鬱状態を表している場合があります。

 10歳ぐらいが、自尊感情が揺れ動く、サポートの重要な時期。

 自傷行為は思春期に出現することが多く、平均14歳前後。虐待の経験や暴力場面を目撃した経験が多い。服薬治療を受けると、薬物を大量に飲む傾向があります。

 辛さに共感し、あるがままに認め、見守ることが重要です。

 自殺を防ぐには、歪んだ認識の下で行う危険な判断や行動を「先延ばし」にし急がない。

■ 学校現場で子供の心の問題をサポートする

 学校は、学校関係者にほぼ全ての対応が委ねられ、学校関係者が認めなければ関係者以外が立ち入ることはできませんでした。学校関係者が学校を自分たちの聖域と考えたり、他機関に伝えることは個人情報の保護に違反すると考えたり。しかし、学校関係者だけで解決することは困難になっています。

 学校の先生が気になる児童・生徒は男子が多い。行動面での問題が起こしやすいのは男の子です。女の子は、心の悩みに気づかれ難く、独りで悩んでいる多いと思われています、

 小学生低学年では、家庭でのしつけができていない子供が目につきます。小学生中学年では、自分の能力に限界を感じる子供が増えていきます。

 授業が成立しなくなると、一部の保護者がすぐに学校に不満を述べにやってきます。

■ 社会・教育病理現象と自尊感情

 経済開発協力機構(OECD)による学習到達度調査(PISA)において、日本の順位は下がり、成績下位層が増えています。

 親の収入が多い方が学習意欲があり学力も高い傾向が明らか。学習意欲が高い子供は少数派となりつつあります。

 自分の道を切り拓いていくのは少数でしょう。

 「早寝早起き朝ご飯」は、重要なことです。

 子供は10歳ごろから、自分はどうあるべきか、どういう行動をとらねばならないか、という価値規範を持つようになります。

 帰国子女が、ネットトラブルに直面します。米国では「メールはただの文字」「あとで話せばいいではないか」という感覚です。

 ADHDの子供は、自尊感情が傷ついていなければ、天真爛漫な明るさがあります。集団の中で、衝動行動を取る子供は、虐待を受けている可能性も考えてみるべきです。

 不登校は、学校に行くことに拘りがあるにも拘らず、学校に行けない状態です。不登校は、生真面目な子供たちに残された最後の手段。休んでもいいことを保証してあげることが大切です。

 引きこもりは、6ヶ月以上自宅に引きこもる。精神障害がその第一原因とは考えずらい人のことです。思春期は、自尊感情が下がりますが、青年期に回復します。

 イギリスでは、ニートを雇用問題として取り上げます。

 ゲームは、友達を話をしたり、ぶつかりあったり、人間形成の過程を経験しないで育っていく子供が増えています。

 日本は人口比で少年犯罪が少ない国。

 長期間引きこもりの人は、医療・教育・福祉などの機関から支援を受けられていません。

 年齢が低いほど短期間で薬物(煙草や酒を含む)依存症状が出ます。

 若年の妊娠の背景には、家庭に居場所が無い寂しさがある場合が少なくありません。

■ 子供とどう関わったらよいのか?

 10歳までは、自尊感情を伸ばす(褒める)
 思春期は、自尊感情を低下させない
 思春期以降は、自尊感情を回復する

 基本は、肯定も否定もせず、話を聞くことに集中する。いくつかの選択肢を提示するだけで十分です。特に10歳ごろまで。子供たちは話を聞いて欲しいことが多いのです。特に、10歳代の子供が大人に相談するのは、切羽詰まった状態が多いのです。

 自分が好きなこと、優れてることを自覚し、それを軸に、自分ならではの価値を見出し、アイデンティティを確立していきます。

 子供自身が将来を考えられるようにサポートするのが大人の役割です。

 まずは、お母さんが自尊感情を持つこと。お父さんがお母さんを肯定すると、お母さんの気持ちは変わります。

 若いお母さん、相談相手のいないお母さんには、ねぎらいの言葉をかけることが、子育ての喜びを感じることにつながります。

 近年は、子供が生まれて初めて子供に接する人が増えました。

 度が過ぎた夫婦喧嘩は子供に不安を与えます。児童虐待防止法では、配偶者間暴力のある家庭で育った心理虐待を受けたと見做します。

 普段子供を誉めておくと、叱られたことの重大さに気づきます。叱るのは「強く短く」が原則。失敗の原因になる環境を調整します。

 子供は言葉で説明するのが苦手。食欲がない、眠れない、不安である、疲れる … 子供の身体メッセージを受け流さないで下さい。

 自尊感情は、自分の限界を知ると低下します。

 日本小児科学会は、2歳までは「メディアフリー」で、3歳以降も「一人で」テレビ画面を見せない。内容についての会話を持つことを推奨しています。

 即レスが友達間の常識。睡眠時間が削られます。

 子育ては「手際よく・計画的に」が通用しません。