「新折々のうた1」 大岡信 1994年 岩波新書

 再読です。我家は私の仕事の関係でず〜と朝日新聞なので、リアルタイムで「折々のうた」を読んでいました。懐かしい。 以下に特に気にいった「うた」を書き留めてみました。


■ 春のうた

もろこしのむさむさ坊主ひげ坊主さしたる事も言わじとぞ思う 一休宗純
 室町の禅僧中最も有名な人は一休。破天荒な人だった。「だるまの絵に」と題するこの歌もたぶん偽作。こういう作にこそ一休像が生きている。

鞦韆(ブランコ)は漕ぐべし愛は奪うべし 三橋鷹女

■ 夏のうた

鳴神の鳴らす八鼓ことごとく敲(たた)きやぶりて雨晴れにけり 正岡子規

白うさぎ雪の山より出でて来て殺されければ眼を開きおり 斎藤 史

■ 秋のうた

落葉がひらひら舞いおちる
アリさん集めて傘にする
風でも雨でももう平っちゃらさ 洪 維佳

いづかたの雲路と知らばたづねましつらはなれけん雁の行方を 紫式部
 どこの空を飛んでいるならわかるなら尋ねて行きたいものだ、列(つら)からはぐれてしまったと聞く雁の行方を。紫式部は、人生の悲哀哀愁を詠とき、心に染みる歌を作った。

■ 冬のうた

躁鬱の「うつ」のはじまり出勤の電車いっぽんまずやりすごし 小高 賢
 壮年男性歌人の歌にこの種の歌が増えているのは、現代短歌の特徴である。

冬の牡丹の魂で咲く 武玉川
 「武玉川」は、付け句だけを独立させた。

岩の上に旅値をすればいと寒し苔の衣を我に貸さなん     小野小町
世をそむく苔の衣はただ一重貸さねば疎(うと)しいざ二人寝ん 遍昭
 岩の上(石上寺)で旅寝をするのはひどく寒いことでしょう。岩にはえる苔さながらの苔の衣(僧衣)一枚お貸し下さい。
 世を捨てた僧の苔の衣はただ一重。でも貸さないのも薄情だ。さあ、一枚の衣の下で二人で寝ましょう。
 小野小町の好色伝説の下地を作った?

火燵(こたつ)にはいかにあたるぞ蛸の足 浜田酒堂

うくすつぬ童子唱(とな)えてえけせてね今日の終わりの湯の音のなか
一生のお願いといふが口癖の子の他愛なきお願いを聴く 今野寿美

この冬は得過ごさじと思いしに命なるかなまた春に逢う 日加田 誠

われの一生(ひとよ)に殺なく盗なくありしこと憤怒のごとしこの悔恨は 坪野哲久

絨毯は空を飛ばねど妻をのす 中原道夫

ひとりにて暮せば時間にこだわらず区切りよきとき飯食う寂し 佐藤志満

男じゃといわれた疵(きづ)が雪を知り 杯風柳多留