「男性論」 ヤマザキマリ 2013年 文春新書
「テルマエ・ロマエ」のマリさんの本なので、手に取っちゃいました。 以下はこの本の要約と引用です。*印はWeb検索の結果です。
■ はじめに
現代のイタリアで、ほかの国でも、湯船に浸かることはなかなか叶いません。リラックスのために湯船に浸かる文化を持つのは、日本だけだと思います。
■ 漫画的日常
私は今、14歳年下のイタリア人ベッピーノと暮らしています。
イタリア人には、他人に気を使い、相手を立てる価値観がありません。みんながみんな口から泡を飛ばして喋っているコミュニケーション人種です。
■ 古代ローマな男たち
紀元前757年、都市国家ローマが建国されます。王政で始まり、紀元前509年に共和制に。紀元前27年には、皇帝アウグストゥスは治世する帝政になります。紀元後190年頃から内乱の時代に。395年には東西に分割。東ローマ帝国は、ビザンチン帝国へ変化し、ルネサンス時代まで存続します。
「テルマエ・ロマエ」は第一話が、紀元128年の設定です。帝国が最大版図を広げたトライアヌス帝の死去から約10年。皇帝ハドリアヌスの時代です。
トライアヌス帝は、抜きんでてリーダーシップを発揮しました。地中海を取り囲む形で、領地を広げていきました。
ハドリアヌス帝は、戦争よりも文化を愛する皇帝として名を残します。パンテオンの設計者でもあるのです。21年の治世のうち、視察の旅に13年を費やしました。領地拡大から方向転換を図った平和主義者です。族長たちと話し合い、ローマ市民権を与えたり、和解調停案を提示したり、保守保全を重視します。
ハドリアヌス帝はギリシャ文化に傾倒します。髭をたくわえ、少年愛に溺れたり。戦う将軍たちからは嫌われました。
古代ローマを支えたのは、被征服民である奴隷たちです。帝政期になると、主人からの解放される機会も与えられました。お金で身分を買うこともできたし、属州出身の傭兵も、任期を終えればローマ市民権がもらえました。
ギリシャ出身の奴隷は、教育者や家庭教師として受け入れます。医者や弁護士のような技術専門職は全部ギリシャ人に任せます。
あまりボーダーを意識しません。国境も身分も。
*ディアスポラ
ある民族集団が故郷を離れ、世界各地に散らばっている状態、またはその集団のことを指します。
古代ギリシャ人が地中海沿岸に都市国家を築き、その子孫が各地に散らばっていた状態。古代イスラエル王国の滅亡後にユダヤ人が世界各地に散らばったことを指します。アルメニア人は、オスマン帝国時代の大虐殺をきっかけに、世界各地に散らばりました。中国系の人々は、世界各地に大きなコミュニティを形成しています。ディアスポラの人々は、それぞれの故郷の文化を持ちながらも、新しい土地の文化と融合し、多様な文化を形成します。
ネロ皇帝は、ローマの大火をキリスト教徒の放火として大迫害を行いました。
ローマ帝国は、ギリシャを踏襲して弁論術を重視しました。それは、現代の教育にも影響を与えています。
■ ルネセンスを起こす男たち
ヨーロッパ全土がキリスト教に席巻され、古代ローマの寛容さや多様性が取り払われた中、神聖ローマ帝国のフェデリーコ2世(フリードリッヒ)は、神聖ローマ皇帝を父に、ノルマン朝シチリア王女を母として生まれます。シチリア王国は、ノルマン人(バイキング)によって築かれた王朝。フェデリーコは、あらゆる学問に興味を示し吸収します。9ヶ国後を操り、乗馬や槍術が巧みな麒麟児。
フェデリーコは、キリスト教から飛び出して、教会から独立したナポリ大学も創設します。文化や人種を超えた外交術で敵をも味方にしていきます。
宗教のボーダーを超えるフェデリーコを教皇は破門します。その後、フェデリーコはエルサレムに遠征。キリスト教とイスラム教の間に無血の平和条約を締結させます。
破門を解除されたフェデリーコは、ローマ法を基本とした合理的で体系的な法律を導入します。王侯も聖職者も庶民も、みな等しく法が適用される世の中で平等に生きていくべきであると考えます。
フェデリーコは、教皇から「反キリスト教者」とされ、息子の反乱など様々な苦悩に巻き込まれます。
ルネサンスの黄金期に活躍したラファエロ。お金の力が強大になった時代でした。ラファエロはそうした商人を相手に商売をやって、人気を博していきました。当時のフィレンツェでは、ダ・ビンチとミケランジェロが活躍していました。ラファエロは、注文請負で肖像を描くようになります。依頼は殺到し、多数の聖母子像を手がけました。美人画としての聖母を描き、売れっ子画家になります。
レオナルド・ダヴィンチは、作家主義で経済のことなど気にせず、パトロンのところで好きなことだけをやっていました。
ヴァチカン宮殿の「アテネの学堂」はフレスコ画。ラファエロはほとんどやり直しの跡がありません。肖像のモデルとなったのは、プラトンはダ・ビンチ、ヘラクレイトスはミケランジェロ、ユークリッドはブラマンテ。
肖像画は、依頼主が不細工でもあまりに美化すると依頼主は激怒します。素敵な特徴を見抜いて、本人が気に入っているポイントを描きとります。モデルの対峙せず、誰を描いても同じ顔になったダ・ビンチ、どんな人を描いても筋肉もりもりにしてしまうミケランジェロ。自分のパターンしか描けない絵描きが少なくありません。
ラファエロは、アシスタントとともに仕事をする今の漫画家のように、弟子たちを数十人抱える画家工房の長でもあります。多数の弟子が育ちます。
本当の謙虚さというのは、本当のプライドが無いと出てきません。
私は、42歳でようやく「講談社児童まんが賞」を受賞して仕事が軌道にのります。来る仕事は断りません。
大きなプロダクションを抱え、専属のアシスタントを雇って仕事を進めることに成功した漫画家は、手塚治虫さんも水木しげるさんなどほんの少数です。
一つでも作品が売れると、余裕もなく創作を続ける現在の漫画システムは良いよは言えません。
■ 変人論
スティーブ・ジョブス。ウォズニアックと知り合い、アップルを創設。威圧的で、排他的、唯我独尊、金儲け主義 … 嫌な奴だっかもしれない。自分のやり方に従わない奴は容赦なく排除していく。部下たちが去っていくのもよくわかる。
「空気を読める人」は、自分が今いる場所の価値観や規範に、その都度に順応していく。多様性を受け入れることは簡単ではありません。「変人」が何事かを成し遂げたとき、世間はレッテルを「天才」に変えます。
■ 成熟した「いい女」とは
表では「空気を読む」ことを求められるあまり自分を押し殺し、裏のしかも匿名のネット社会で「本音」と称して聞くに堪えない言葉をまき散らす。恐ろしさを感じます。
日本のアニメ。妖女的な表情の、おっぱいは大きくてパンティの見えそうなピチピチの服。いい体で何でもさせてくれそう。一筋縄ではいかない大人の女である峰不二子とは対照的。男性が大人になれば、女性も解放されると思われます。
日本の女性は、女性らしさをアピールするひらひらした洋服を着ています。男性がセクシャリティだけで女性を見ているからです。ヨーロッパでは、ひらひらを着る女性は滅多にいません。
世の男の多くが、庇護すべきか弱い女性か、母親のような優しい女性のどちらかを求めています。
甘えた声を出し、可愛い表情をする。「媚び」は、イタリア女にも、ブラジル女にも、スペイン女にも、ポルトガル女にもできないことです。まして、アングロサクソン系には絶対に無理。自立精神もりもりの女性は、不自然にも見えますが。
イタリア男性のED率が高まっていることが社会問題になっています。ストレス社会になったことが原因とも言われています。女性のパワーに男性が委縮傾向にあるとも言われています。
■ ボーダーを超える
自分にはここしか居場所はない、は自分自身への暗示です。与えられた場所でよりよく生きる、は美徳でもありましょう。
今の日本の社会は、出る杭を打ち過ぎています。突出する意気込みを喪失させています。
ものの見方はひとそれぞれ。基準は自分以外が決定するもの。自分自身が教養を身につけたら、他人の基準に沿う必要などなくなります。
漫画という文化が「マンガ」となり、クールジャパンが海外に浸透した今。曖昧な日本独特の出版契約のあり方を見直すべきです。
イタリアの強さは、みんなが自分好きであることです。自分の鏡を持ち、自分で自分を慰めることができます。
他人の感覚を自分のものにできる人、他人に寄り添える人はカッコいい。
日本人は、苦労話が好物。総じて人情物が愛されます。
・古代ローマ史
紀元前
757年 都市国家ローマ建国(王政)
509年 エトルリアの王を追放し、共和制始まる(共和制)
202年 ハンニバルを破り地中海の派遣を手中に
49年 カエサル、ルビコン川を渡り、内乱が始まる
27年 オクタヴィアヌスが初代皇帝に(帝政)
紀元後
79年 ヴェスヴィオス火山の噴火でポンペイが埋没
313年 ミラノ勅令によりキリスト教を公認
375年 ゲルマン民族の大移動開始
392年 キリスト教がローマの国教に
395年 ローマ帝国が東西に分割される