「日本人のための英語学習法」 松井力也 2015年 講談社学術文庫

 英語が大大大の苦手な私ですが、中学生に英語を教える羽目になることがあり … とほほ (*_*; てなわけでまず、中学生向けの英和辞典を買ってお勉強。

 すると、辞書を見ていて躓いたのが「過去分詞」。完了形や受動態で用いられます。そして、形容詞的な使い方では、“A broken window”のように単独で述語にはなりません。補助動詞(have, be)などと組み合わせて使います。

 また、「現在分詞(-ing)」は、進行形の動詞、形容詞として名詞を修飾、補語として主語や目的語を説明、分詞構文で副詞的な働き、という役割を持ちます。

 私が中学の時は、単に完了形や受動形や現在進行形って教わったような気がします。ChatGPTに聞いたら、「過去分詞が現在のように日本の中学校で体系的に教えられるようになったのは、1970年代ごろと考えられます」だって。知らない訳だわ (*_*)。勉強しなくっちゃ!!!

 てな訳なんですが … どこから勉強したらいいか。そうしたら目に飛び込んできたのがこの本。

 中学生の頃にこういう本と出合っていたら … 私の英語嫌いも少しは軽症になっていたかも。英語を勉強し始めた子供たちに少しでも、「異文化としての英語を理解する」ことを指導できたらいいな〜。この本は何度も読んで、頭に叩きこもうと思います。ありがとうございました。 以下はこの本の要約と引用です。


■ まえがき

 日本語を母語とする者からすると、英語は理解しずらい言語です。簡単に習得する方法はありません。あればとっくに共有されている筈です。初期の段階では、単語や文法を詰め込む時期が続きます。そうした退屈な作業に対する耐性が語学への向き不向きであると言ってよいのではないかと思うほどです。

 「英語が使える日本人の育成」を合言葉に、学習指導要領もめまぐるしく改定を重ねてきました。

 読む・書く・聞く・話すの英語の実践は、単語と文法という基礎が身についていなければできません。

 外国人にとって日本語が特殊であるのと同様に、私たちにとって英語は特殊な言語です。微分積分をマスターする人が一部であるように、英語だって難しいのです。

 本書で私が目指したのは、日本人にとっての英語への違和感の根本を明らかにすることです。

■ 英語と日本語は相性が悪い

 外国語を習得しようとする場合、母語を手掛かりとせざるを得ません。単語を母語に対応させて理解せざるを得ない。

 言語間の相違は、世界の認識のし方の違いです。

 waterは水。日本語では湯と水は別のものです。英語話者にとっては、温度の違うwaterでしかありません。マレー語ではさらに氷も「水」に含まれます。

 identityには該当する日本語がみつかりません。fishやsheepがなぜ単数でも複数でも同じ形なのか解りません。shoesなど対になった物が複数形なのも奇妙です。

 言葉の数だけ異なった世界観があります。言語を共有するということは、一つの世界を共有するということです。

 「英語を日本語に置き換えるのではなく、英語を英語のまま理解しなさい」英語教師はこのように言います。英語は英語のままイメージで捉えます。

 一つの語に対しては、一つのイメージしか与えるべきではありません。takeには51の訳例があります。takeには51の意味があるということではありません。ネイティブにとってtakeはあくまでもtakeです。日本語の「取る」でも同様。英語に置き換えるには様々な動詞が用いられます。

 takeは、「〇を自分の領域に入れる」。〇は人・物・時間・労力・事柄など多様。辞書にはこう説明されています。

 mustには過去形がありません。現在、差し迫っての必要を示しています。助動詞mustを理解するには、私たちにとって未知の発想を身につける以外にありません。

 英語の単語にとって、品詞という概念は重要ではありません。品詞間の移行もかなり自由です。

 英単語は、それぞれが単語として独立しています。切り離されて並んでいます。語と語をつなぐのではなく、語と語を並べて文にします。

 日本語の「私はご飯を食べます」では、動作の主体と動作が、「は」「を」の助詞で結びつけられ、それぞれの語の関係を説明しています。日本語の文の生成は、その重要な部分を助詞に依存しています。語順は変えることができます。

 英語の生成の基礎は語順です。語は並置されているだけで、その関係性は、それぞれの語の位置関係によって把握されます。英語は主語と述語を並置する言語である以上、主語はどうしても必要です。

 英語の単語は、つながっているのではなく、並んでいる。この日本語との違いが私たちの理解を阻んでいます。

■ 名詞・代名詞がわからない

 英語の名詞は冠詞を必要とします。

 英語の名詞は「物」を指示します。boyは存在物としての「少年という物」を指示し、aやtheが付くことによって、はじめて名詞として完成します。

 日本語の名詞は「事」を指示します。「少年」は、赤ん坊が成長して老人になっていく、そういった関係性や連続性の中で「少年というコト」を指示しています。

 冠詞のaは、数詞oneが語源です。英語の名詞は、数量をつけた形で認識されます。水は数えることができません。

 英語は世界を「モノ」で捉え、日本語は「コト」で捉えます。

 Didn't you have breakfast?英語は「ないモノはない」。食べたのならyes、食べなかったならnoです。肯定/否定ではなく、有/無を示します。はい/いいえは相手の言ったことが正しいかそうでないかを表しますが、yes/noはあるかないか示します。英語では、行為や現象もモノのようにある/なしで判断されます。

 日本語は、世界の存在を前提として、全てをその関係系の中に組み入れ、その関係の中で把握します。

 英語は、在る無いという絶対物で捉えます。日本語のように「無いことも有る」という関係を許容しません。

 日本語の住所は、〇県〜と外側から示します。英語は逆。自分自身を中心にして外側を発見していきます。名前の表し方も、日本語は所属である姓が先。

 住所も名前も分数の表し方も、日本語と英語では逆。世界観の違いです。

 一人称、二人称、三人称という考え方は、英語においては明快です。

 日本人は、自分や相手を指すのに、「私」や「あなた」以外の言葉を使うことの方が多いようです。「あなた」を目上の人には使いません。「先生の言うことがわかりますか?」のように、「先生」を一人称のように使われます。

 日本人は、その場における相手との「関係」それ自体を自称詞、他称詞として用います。日本語には、恒常に自己を規定する純粋な人称代名詞はありません。日本人は、その場の関係性において相対の位置を規定します。

 英語の人称詞においては、対話の相手との関係性は、無視されます。英語では、話者自身を指す語はI、相手が誰であろうとYouです。

 日本語では「私」という名詞につく「は」「が」「の」「を」などの助詞の使い分けで「私」の文中での働きが決まります。英語では、I、My、Meにように、語自体が替わります。

 Iは動作の主体。その後に動詞を必要とします。英語の世界で動きを与えることができるのは主語だけ。英語の世界認識は、動作主=主語を起点として始まります。

 英語では、動作主が世界中心。英語話者の会話は異なる世界のぶつかり合いです。英語話者は、一人一人が対立して存在しているという自己認識を持ちます。

 動きを生み出すものは、無生物でも主語となります。世界に動きをもたらすものは、モノもヒトも関係なく主語です。

 This house has two bedrooms.日本語は、「寝室が二つある」という世界のありようを世界の内側から記述します。英語は「寝室を持っている」という形で主語であるこの家と対峙し、それを客観的に記述します。そういう意味では、日本語には、主語が存在しないと言ってしまってもいいのかも知れません。

■ 動詞がわからない

 英語の動詞は「モノ」に近い。英語では、行為も在る/無いで判断されます。「モノ」のように人に与えたり貰えたりできて、名詞にも移行できます。

 原形が、主語と結びつけられずに用いられるのは不定詞です。It's fun to learn English.

 動詞の原形は、形を変えたり、〜sや〜edや〜ingなどが付くことによって、具体を指示するものになります。

 主語の人称によって語形が変化するbe動詞。自分自身Iと対話の相手you。話し手と聞き手以外は、その場に居合わせたとしても、会話の外側にいる第三者です。話者「私」における、自分自身という存在認識がamです。三人称のisは、客観的で、間接的な生々しい存在に在り方を表します。

 古い時代の英語では、多くの印欧語がそうであるように、全ての一般動詞において人称による屈折語尾の変化がありました。現代英語では、三人称単数現在のsにその痕跡が残っています。

 英語話者は、常に「自己」意識を持ち、「自己」以外の存在を対立的に認識してます。

 英語の時制は、過去と現在の2種類しかありません。未来は、willやbe going to といった表現で表します。

 動詞の過去形が用いられるのは、過去時制と仮定法過去です。

 I had lunch with Tom yesterday.
 If I had enough money,I would buy this camera.

 共通しているのは、今とは心理的に離れたところにある(だろう)という「非現実感」「心理距離」です。

 I was wondering if you could help me.

 過去形を用いることで、現実の現在から距離のあるところに置いて謙虚さを示しています。

 英語においては、その事実が発生する「時」と、それを指示する語形が対応しています。

 現在なのか、過去から現在に継続しているのか、過去なのか、さらに過去のある時点までなのか、語形で分かるようになっています。

 日本人は、時間を飛び越えて過去のことでも現在形?を用いたりします。日本人は、未来の話をするときは未来に、過去について語るときは過去に、自己を同調させます。

 英語はまず自分の位置を確かにします。その視点は常に現在に固定されて動きません。

 Be動詞。「である」「になる」は、コピュラ(連結詞)、学校文法ではイコールのbeと呼ばれます。「いる/ある」「存在する」は、存在のbeと呼ばれます。存在動詞が、コピュラの働きを兼ねるのは、多くの言語で見られます。beの中心義は「存在する」です。be動詞は、主体として、テーマとして存在することを表します。

 He is … Heが主体として存在する、であることを示しています。Heはisを得ることによってその存在の足場を得て定着します。

 分詞には、語尾がing形をとる現在分詞と、edの形をとる過去分詞があり、いずれも動詞を形容詞的に用いようといういうのがその基本的な役割です。名詞を修飾したり、主語や目的語について説明を加える(分詞)働きを担います。動名詞や分詞は動詞ではなく、名詞や形容詞として機能します。

 He is swimming. 彼の存在 → 泳いでいる=彼は泳いでいる状態にある。swimmingは形容詞あるいは動名詞です。

 過去分詞は完了を表します。現在分詞は、その動作が現在に属することを表し、過去分詞はその動作や状態が過去に属する/完了していることを表します。

 受動態は、[be動詞+過去分詞]という形をとります。受動態は、行為者と行為の対象が必要になります。

 世界に生じる動きには必ず原因があり、原因こそが主語なのです。感情や心理を英語で表現すると受動態になります。同様に「傷つく」も自らが行う行為ではありません。

 [何かが → どうにかする → 何かを]。この対象の側から行為を見ると、働きの対象として存在するだけですから動詞はbeしかあり得ません。

 完了時制は[have + 過去分詞]の形で、完了・結果・経験・継続の4つの用法があります。

 完了時制は、初めから英語にあった表現ではありません。完了時制は英語に特徴的なものですが、元来は英語にもありませんでした。現在完了は現在時制、過去完了は過去時制です。

 I have the work finished.
 I have finished the work.

 過去分詞は、動作・状態が完了していることを指示する語形で、それが所有のhaveと結びつくことにより、結果的に完了を表すようになりました。

 I had finished the work. 確認しますが、過去完了は過去時制です。

 英語の動詞も動作や状態を即物的に指示します。それ自体は何ら付加的なイメージを持っていません。日本語に置き換えようとすると、イメージの違う訳語の選択に迷います。

 英語の動詞は、前置詞や副詞と組み合わせ、句動詞としてその用法を広げます。英語にとって重要なのは、語の選択ではなく、語と語との組み合わせです。

 turn out が「判明する」の意味で用いられるのは、くるりと回って外に出ることで見えるようになるというイメージでしょう。句動詞には辞書に載っていないような用法が無数にあります。

■ 前置詞がわからない

 モノとモノとの位置関係を指示するのが前置詞の役割です。複数のモノがある場合に、それらがどのような位置関係にあるのかを示します。英語は全てがモノ的です。その観念の操作において、空間的なイメージに投影、転写しやすいことを意味します。

 inは、空間や領域の内部に位置することを指示します。

 I have found a friend in him.彼の中に友達を見出した → 私は彼と友達になった。

 He is lacking in common sense.彼は常識という領域で欠けている → 彼は常識に欠けている。

 atは空間内、時間内の「一点」を指示します。

 I met her at the station.

 inかatかは、その場所の広さによって決まるのではなく、そのイメージのされ方によって選ばれます。atは場の広がりではなく、点としてフォーカスします。

 Look at me.

 He is good at English.

 時間を指す場合も、ある一時点をを抽出します。at midnight は本来は「夜中の12時」を指します。

 onは「表面との接触」です。off は on の反意です。onは「乗っている」「支えられている」イメージです。

 電車やバスに乗るのは get on the train、車に乗るのは get in the car が普通です。大きいものには乗る、車はその中に入るというイメージ。

 depend on は「頼る」。He is on the duty.彼は勤務中=職務に接している状態。

 onが時間に用いられるのは、on Mondayなど、特定の曜日や日付の場合。カレンダーで見えるような独立した単位です。

 英語の前置詞は、視覚的なイメージでその指示内容をシンプルにとらえます。

 We went swimming in the river.川で泳ぎ・に・行く。in this way この方法で。

 日本語の「〜で」は手段や道具の全般を表しますが、英語は扱うモノのあり方やサイズによって前置詞が変わります。英語はモノの位置関係やありようを問題にします。

■ あとがき

 アイデンティティを持ち、独自精を持つことが美徳とされる。英語話者はそのような文化の中にいるのです。

 言語とは文化そのものであり、言語の学習は異文化理解そのものです。日本語と英語は、置き換えることはできません。