「自衛隊の闇組織 − 秘密情報部隊「別班」の正体
石井暁 2018年 講談社現代新書
非公認で行われている日本のヒューミント。陸軍中野学校の流れを汲み、米軍と一体化している。こういう内容の本が23年までに12刷を数えています。「誰が読んでいる?」のという疑問と、日本国民も必ずしも「軍事音痴ではない」と同時に「民主主義を本当に守ろうとしている」という感慨が湧いてきました。
それにしても、共同通信の石井記者の勇気に敬意を表します。 以下はこの本の要約と引用です。尚、この件についてのWEB検索とAI問合の回答は「情報無し」。情報統制が行き届いているようです。
■ はじめに
陸上自衛隊は非公然の情報部隊「別班」を独断で(米国軍の指導の下で)海外展開し、情報収集していた。文民統制(シビリアンコントロール)を逸脱している。首相や防衛相が感知しないまま活動する不健全さは、インテリジェンス(情報活動)の隠密性とは全く異質。指揮命令系統から外れた部隊の独走は、国家の外交や安全保障を損なう。
この記事を配信したのは2013年11月27日。特定秘密保護法はその前日に衆議院を通過していた。
2918年、防衛庁は陸海空3自衛隊のヒューミント(人を媒介とした諜報行動)部隊を、情報本部が一元管理する仕組みにしようとしている。その中核は別班である。
アメリカのCIA(国防情報局)のように、海外にもヒューミントを行う軍事組織は存在する。それらは文民統制が徹底されている。
■ 別班の輪郭
「ホームで電車を待つ時は、最前列で待つな」ディープスロート。「別班」を記事にするには危険が伴った。「痴漢にでっち上げられることに注意しろ」「酔って電車に乗るな」。
小平学校は、情報や語学を学ぶ陸上自衛隊の教育機関だ。
陸上幕僚監部調査部別室(調別)は、シギント(通信・電波・信号などを傍受して情報を得る諜報活動)を実施する。
秘密組織でありながら、別班に本部は防衛相がある市谷駐屯地内に存在する。
別班は、中国や欧州などにダミーの民間会社を作って別班員を民間人として派遣し、ヒューミントをさせている。
日本国内でも在日朝鮮人を買収して抱き込み、北朝鮮に入国させて情報を送らせている。朝鮮総連にも情報提供者を作り、内部で工作活動をさせている。
米中央情報局(CIA)と頻繁に情報交換し、収集・交換した情報は、自衛隊の陸上幕僚長と防衛相の情報本部長に上げている。
非合法な任務の遂行を求められる別班員は、仕事内容を家族や知人に明かすことは許されない。「年賀状を出すな」「防衛大学校の同期会には行くな」。「自宅に表札を出すな」「通勤ルートは毎日変えろ」。他者との関りを断つよう指示される。別班員になると自衛隊の人事システムから消える。
活動資金は豊富。一切の支出には決済が不要。情報提供料名目で、1回300万円までは自由に使え、資金が不足した時は情報本部から提供される。
別班のメンバーは、小平学校の心理戦防護過程の首席修了者の中から選ばれた者。同過程は、旧陸軍中野学校の流れを汲む。
元少尉・小野田寛郎は、ゲリラ戦に従事する中野学校二俣分校の卒業生だった。
青桐グループは、中野学校の流れを汲む調査学校の対心理情報過程(現・心理戦防護過程)の修了者の組織名。メンバーは、別班のほか、情報保全隊・中央情報隊基礎情報隊など公式な部隊に配属されている。非常事態に召集され、ゲリラ戦、遊撃戦を戦うことが使命とされる。
山本舜勝は「自衛隊 影の部隊」を著して以降、別班の関係者たちが自らの経験を語り始めた。
別班の別名はムサシ機関。ムサシ機関(小金井機関)は、朝霞の米軍キャンプ・ドレイクの内部にあった。
1954年、在日米軍の撤退後の情報収集活動に危機感を抱いた米軍極東軍司令部のジョン・ハル大将が、自衛隊による情報工作員養成を吉田茂首相に訴えたのが、別班成立の発端。日米間で軍事情報特別訓練(MIST)の協定が締結され、1956年からムサシ機関となった。日本側のメンバーは、陸上幕僚監部2部付(2部別班)。別班が誕生した。
■ 別班の掟
「民主主義国家・日本にシビリアンコントロール下にない非公然の秘密情報組織が存在することは許されない」「別班を関東軍にしてはいけない」自衛隊幹部。
別班の海外展開先は、露・華・鮮。小平学校の語学教育は、英語のほかはこの3言語の教育を行っている。
別班は、冷戦時代はソ連、中国、韓国に海外拠点を持っていた。その後、ハンガリーやチェコやポーランドにも拠点を持った。ポーランドはロシア情報を収集する拠点。
現地の協力者を使って、情報を収集することが多い。CIA用語で言えば、ケースオフィサー(諜報員)として機能し、現地のエージェント(協力者)に情報収集させている。
海外で情報収集を行う軍人は、大使館の駐在武官、外務省の外交官として活動する情報幹部、民間人として情報収集する情報幹部。日本の場合、駐在武官は「防衛駐在官」と称し、防衛省から外務省に出向する形をとり、外務事務官と自衛官の身分を合わせ持っている。
別班員たちは、2〜3人のグループに分かれ、それぞれのグループは都内にアジトを構えている。別班は完全に縦割りで、班長ら幹部以外は全体像を知らない。班員は、他のグループのメンバー、任務を知らされていない。本部へは別班長に呼ばれた時以外、出入を禁じられていた。
警察庁の非公然情報組織、ちよだ、さくら、ゼロ。
「班員たちはプレッシャーを受けて、半数は適応できずに壊れた」「非合法なことはできない辞める隊員もいた」。
■ 最高幹部経験者の告白
別班は陸上幕僚長の指揮下ではない。政府とか内閣情報調査室とか外務省、そして米軍の指揮下にある。
民主党政権は、日米間の秘密合意を調査し、密約を認定した。米軍各搭載艦の通過、寄港を事前協議の対象外とした核密約。朝鮮半島有事の際、日本から出撃する米軍の戦闘作戦行動を事前協議の対象外とする朝鮮半島有事の密約。重大な緊急事態の際に沖縄への核再持ち込みを認めた沖縄核密約。
■ 自衛隊制服組の独走
特殊作戦群は、テロ・ゲリラ攻撃への対処などを想定した、陸上自衛隊唯一の特殊部隊。海上自衛隊には、特別警備隊がある。
特殊作戦群の隊員は、空挺(パラシュート降下)資格とレンジャーの資格を保有し、外国語・射撃・破壊工作・心理戦の訓練を受けている。
特殊作戦群の隊長以外は非公表。式典などでは隊員は目出し帽をかぶっている。部隊の装備、訓練内容、運用実態など明らかにされていない。
別班と特殊作戦群の間に人事交流がある。PKO派遣などの際に、現地情報の収集や現地での人脈を構築するために、2007年に新設された現地情報隊も、別班や特殊作戦群と一体運用する構想だった。
特殊作戦群は、敵地への侵入、攻撃目標の偵察、海外での人質救出、海外での要人暗殺。ヒューミントの能力が欠けていた。別班を特殊作戦群と一体運用する構想が浮上した。
三矢研究は、旧統合幕僚会議が朝鮮半島有事を想定し、自衛隊と米軍の共同防衛や緊急立法について、秘密裏に行っていたシミュレーション。制服組の暴走と批判された。
2012年に第二次安倍内閣が発足。念願の憲法改正を睨みながら、安全保障関連の政策を次々と実現しようとしていた。最も重要な法案の一つが「特定秘密法案」だった。米国との情報共有を図るために必要とされた。
「海外要員は自衛官の籍を外し、他省庁の職員にして行かせる。万が一のことがあっても、公務員として補償するためだ」。
記事を配信する三日目に前に、防衛省・自衛隊に事前通告した。海外に展開している別班員が現地の治安当局や情報機関や軍に逮捕・拘束されることを避けたかった。
「事前に通告してくれて、ありがとう」制服組高級幹部。
防衛大臣小野田五典は「過去と今、そのような機関はない」と、別班の存在自体をを否定した。
「独善的な国益感を持った分子が、私的インテリジェンスを行って、国家権力を簒奪している。文明的な民主主義では考えられない。日本のインテリジェンスの恥である」元外務省主任分析官-佐藤優。
防衛庁・自衛隊では重要な情報が漏れた場合、関係する部署の隊員・職員に公用・私用の携帯電話とパソコンを提出させて調査をしている。
自衛隊の海外展開を念頭に、特殊作戦とインテリジェンスを連携させる。米海軍のシールズを目標としている。現地情報隊も別班や特戦軍と一体運用する構想。
海上自衛隊のヒューミント部隊は、市谷基地に所在する情報業務群基礎情報支援隊基礎情報第二課。横須賀の米海軍の情報部隊と緊密。航空自衛隊は、目黒基地内の作戦情報隊情報資料群情報第二課。横須賀基地の米空軍第五情報部隊と一体。情報を提供する先も第五情報部隊。
3自衛隊のヒューミント部隊はバラバラ。統合情報部に統合情報三課を新設。同課が一元管理し、各部隊の調整役を務める。対象は、陸自の現地情報隊や特殊作戦群や基礎情報隊、海自の基礎情報支援隊や空自の情報資料部も含まれる。国連平和維持活動(PKO)に自衛隊が参加することを想定している。
別班を中核にヒューミント部隊を一元化することは、文民統制を無視する重大な問題である。
非合法な仕事は人格を破壊する。「別班生活は、精神的にやられるか、どっぷりはまるかのどちらか」「どんな時でも、自然な笑顔を作れることは人間として寂しい」「国が正式に認めた組織を作って欲しい」別班OBたちの言葉。