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「ネオウイルス学」の狙い
河岡義裕東大医科研特任教授  2021年4月3日

 地球上には、10の31乗という膨大な数のウイルスが存在すると言われています。ウイルスは生態系の構成要素として進化を続けています。

 ヒトをはじめとする生物に病気をもたらす「病原体」としての側面だけでなく、自然界で役立っている側面にも光をあてる。生物に与えるさまざまな影響やそのメカニズム、ひいては自然界におけるウイルスの存在意義を解明するのが「ネオウイルス学」です。

 植物が育たなくなる。我々が病気になる。人間が家畜を飼うようになって、その家畜が病気になり、その原因を調べてみるとウイルスが見付かる。「病気を起こすウイルス」として注目され、ウイルス学は発展した歴史があります。ウイルスという言葉自体、ラテン語の「毒」を意味する、virusに由来しています。

 しかし、そうした側面のみとは限りません。ウイルスが感染することによって、環境により適しやすくなる植物があります。ウイルスがクロモゾーム(染色体)の中に組み込まれることにより、その動物がそのウイルスに対して抵抗性を示すようになる現象もあります。プランクトンが異常繁殖するのが赤潮ですが、それをコントロールするウイルスも見付かってきました。

 腸内細菌など生体に必要な細菌があるのと同様に、生体に必要なウイルスがある。「ネオウイルス学」はこれから発展する分野です。

 1997年のH5N1型インフルエンザ、2003年のSARS、2009年の新型インフルエンザ、2012年のMERSなど、数年おきに新しい感染症が流行しています。その中で何が世界的に変わってきたか。それは中国がものすごい勢いで、研究に力を入れ始めたことです。2005年頃からアメリカに追い付かんばかりの研究費を投資し始めたほか、世界中で活躍している中国人研究者を呼び戻しただけでなく、諸外国の研究者を好条件で招聘するようになりました。

 今回の新型コロナウイルス感染症について、中国での基礎、臨床研究が先行し、数多くの論文が一流誌に掲載されたのは、新型コロナが中国・武漢から感染が拡大したという事情もあります。ただそれだけでなく、彼らが基礎、臨床研究力をつけていたからです。

 その後、欧州や米国にウイルスは伝播しました。彼らがいち早く臨床研究に着手できたのは、過去の感染症の教訓を生かし、パンデミック等の有事の時には、いつでもすぐに臨床研究ができるような体制を作り上げていたのです。

 ワクチン開発についても、スタート時に、仮に日本が米国と同じ金額の研究開発費を付けても、同じスピードでワクチンの研究開発が進むはずはありません。それまでに研究開発が行われていないため、ヒトで臨床試験を行う体制(製剤の作製技術や施設の整備)ができていないからです。平時の積み重ねがないと、いざという時に研究ができないのです。