「三体問題」 浅田秀樹 2021年 ブルーバックス
物理学に興味を持つ者なら、誰でも一度ははまったことがあるだろう三体問題。私などは何が何だかさっぱりでしたが、この本を読むと、やっぱり難しいな〜という感が深まりました。
ところで、巨視世界では、ニュートンの動力学によって何でも解ける、と勘違いしている方もいます。ですが、物体が三つ以上になると、その運動を記述することはできません。
本当の運動法則はどこにあるのか?謎は深まるばかり!
私の考えでは、人間(というよりこの地球上の生物)の知能は、二体間の相互関係=マトリクス、もっと言えば線形独立な関係しか記述できないようにできているのではないか、と妄想しています(間接証拠や状況証拠はありますが、科学の事実の直接証拠がありませんでので、ビッグバン妄想と同様の「妄想」です)。
地球上の生物の神経回路は、二つの事象の間の関係を網の目のように並べた(マトリクスの)ような回路から、「えい!」と、間違いを承知の上で、主観で断定する=決断するしかできません(きっと)。三体問題なんか考えていたら、何も決断できず飢え死にしてしまうからです。
三体問題は数値計算、つまり、スーパーコンピュータで力尽くでガリガリ計算して、近似値を求めるのが現状です。しかも、世界最速のスーパー古典コンプーターを駆使しても、大したことはできません。
地球上の生物の生物の「線形代数」は、限られた資源と動力で、環境を判断し行動を決断するには、簡便という以上の妥当な仕組なのだと思われます。「良い加減」は、「いい加減」なのではなく「良い按配」なのです。
人間の神経が、古典(=ノイマン型の)コンピュータのような動作をするなら、消費エネルギは、どんなに少なく見積もっても現在の100倍以上必要です。つまり、今より百倍食べて、消化して、栄養を供給しなければならない!のです。そんなことができたら、生物ではなく化物です。
量子コンピュータは、古典コンピュータの消費電力の千分の1以下の消費電力です。人間の神経回路と同様に、とてつもなく省エネなのです。「理屈-道理にがりがり計算」するのではなく、「パッと感取」します。その機構は必ずしも明らかではないとしても、この「パッ」こそが、量子コンピュータが人工「知能」に近しいものである証拠でしょう。
さて、「三体問題」を人間が解くのは不可能だと、私は妄想しております。解けるとすれば、人工知能です。人間は、人間の想像を超えた方法をも可能にする人工知能に教わって、より高い知能に到達するとこができると期待しています。そう、棋士の藤井氏のように。
以下は、この本の要約と引用です。*印は私の見解です。
《まえがき》
運動方程式を解くことで、任意の時刻での物体の位置が予想できます。「三体問題」は、オイラー、ラグランジュ、ポアンカレ、の挑戦を跳ね除けてきました。
N体問題が解ける条件は「可積分性」です。三体問題は、可積分性を満たしません。このことから、自然の多様性を説明する「カオス」の概念が発見されました。
本書では、電磁気力を無視し、万有引力のみを扱います。
《1. 解ける方程式》
[1+x=3]となる未知数xを求めることを、方程式を解くと言います。有限の回数の操作で方程式の解を見つける方法を「解法」よ呼びます。
条件を見定めて解に接近する手順=逐次解(ちくじ解)などのを求める近似法がある場合もあります。
《2. 解けない方程式》
5次方程式のだ円解のように、ある問題が解けるか解けないかということが、前提とする条件や手法に依存することがあります。
《3. ケプラ − の法則とニュートンの万有引力》
惑星の語源は、ギリシャ語の「放浪者」です。プトレマイオスは、英語ではトレミー。最初のPは発音しないからです。
加速度という概念は、ニュートン以前には存在しませんでした。加速度は速度の変化を表します。平均速度ではなく、瞬間速度です。有限の時間の長さを「零」に近づけます。インド発祥の“0”は、数直線上の点0です。対して「零」は、「僅か」という意味も持ちます。この零に近づける操作を「極限」と呼びます。この極限によって、速度を定義します。
ニュートンは、極限をとる操作を「微分」という概念にまとめました。後世に、「イプシロン-デルタ(ε-δ)論法」によって曖昧さなく説明されました。
*上記のように、ニュートンの微分法は、平均値の「極限」です。極言すれば、あくまでも近似として、実際の物理にに適用すべきものです。対して、ライプニッツの微分法は「無限小」解析です。数理の根幹が異なります。リーマン幾何の連続体の定義も、「無限小」に基づくものです。無限小は「物の理(ことわり)」として「実在すべき概念」なのか?議論の分かれるところです。私は、形式数理としての「無限小」は許容しますが、それを「物の理」に適用する場合には、それが妥当することを実証しなければならないと考えています。
*また、ニュートンが後に、自ら開発した微積分を使わず。ギリシャ時代からの円錐幾何に戻っているのは、「厳密解」を求めたからだと考えています。そして、円錐幾何は、一般相対性理論で復活を遂げます。ギリシャ円錐幾何は「天動説」に基づく天文学。相対論では「地動説」も「天動説」も区別はつきません。ニュートンは、相対性の問題に悩んでいたとも伝えられます。ニュートンという変り者。興味は尽きませんね。
二つの物体に働く力が「中心力」ならば、その軌道が閉曲線になるのは、その二つの間に働く力が、距離の正比例する場合か、二乗に反比例する場合に限られる[ベルトランの定理]。電荷の力(クーロン力)と質量の万有引力は、中心力の代表例です。距離に正比例する力は、調和振動子に働く力です。
《4. 三つの天体に対する解を探して》
二つの天体を考えたとき、その軌道は楕円になります。二つの天体の距離が無限大の場合は、解として放物線や双曲線が可能になります。また、二つの天体が直線上を移動して衝突する「衝突解」もあります。空間の1点から物体が分裂して、2つに割れて直線上を遠ざかります。
天体の位置を求める操作を「解く」と呼び、天体の位置を表す時間についての関数が「解」になります。
物体の位置・速度・加速度は、親・子・孫の関係になっています。位置を時間で微分して速度、速度を微分して加速度です。運動の第二法則は、物体の位置に対する微分方程式です。そして、三体問題について、「その加速度になる位置の関数」を見つけるのは簡単ではありません。
《5. 一般解とはなにか》
三体問題が解けないのは。運動の定数の個数が足りないことに関係しています。全ての特殊解は、一般解に含まれます。 … 確実に解を作り出すのが、積分です。積分の厳密な定義を与えたのは、ベルンハルト・リーマンです。
運動方程式[F=ma]を[a=F/m]に変形し、2回積分すれば、物体の位置は求まります。しかし、二つの物体の距離は、両方の位置が定まらなければ分かりません。ニュートンは、太陽は(原点0に)停止しているとして(相対座標系)、惑星の位置のみを未知としました。また、極座標(r,θ)を用いて変数の数を減らして計算します。時間に関する微分を角運動量θに関する微分に置換えことが可能です。この微分方程式は、未知量rしか含まず。その未知量は角度座標θに関するr(θ)の関数です。
運動エネルギーや角運動量が保存されますから、「運動の定数(保存量)」が解を導く条件になります。
惑星の太陽からの距離が、角度座標θに関する不定積分r(θ)の形で関数として得られます。これが、「二体問題:に関する厳密解です。一般解を最初に求めたのは、ヨハン・ベルヌーイです。これにより、「求積法」によって一般解を得ることが可能になりました。
「三体問題」では、位置を表す未知数が極座標を用いても6 つまでしか減らせません。また、三体の角運動量の保存を一本の数式に抽出できません。
《6. 強者どもが夢の跡》
ラグランジュ形式では、ある物理の理論を記述するための関数[ラグランジュアン]を始めに仮定します。この関数から「一般化運動量」を作ることができます。「運動量」は、物体の質量と速度の積で定義されます。
物体の位置を表す関数と一般化運動量を表す関数の論じたのがウィリアム・ハミルトンです。ハミルトン力学の基本量は、一般化座標と共役運動量(一般化運動量)です。ハミルトンは、この一般化座標と一般化運動量を決める方程式を見出しました。対象とする系のある時刻での物理状態(位置と速度)は2N次元の位相空間における点として表現されます。物体の全エネルギーは、物体の位置と運動量の二乗和の形に表されます。 … この数式は、横軸が位置、縦軸が運動量における楕円(二次曲線)を意味します。
運動の定数は、位置と速度の組合せが時刻で変わらない定数で表せることです。ハミルトン力学においては、運動の定数が存在する場合、一般化座標と一般化運動量の組合せが、時刻で一定な定数となることを意味します。これにより、位相空間内に存在できる領域が制限されます。独立な運動の定数がN−1個あれば、物体の物理状態は位相空間内の[2N−(2N−1)=1次元]に制限されます。
ノーベル賞が制定される際に。スウェーデン国王兼ノルウェー国王のオスカル2世の賛同を得て、スェーデン・アカデミーによるスェーデン国王の公式儀式となりました。スェーデンとノルウエーの分離後も、ノーベル賞の授与機関は変更されませんでした。
アンリ・ポアンカレは、運動する物体の初期条件が異なれば、ある一定の時間の範囲なら物体の位置を決定できるが、長い任意の時間の後では、その物体の位置を決定できないことを証明しました[カオス理論]。ポアンカレの定理は、一様収束する無限級数の解が存在しないことを示すものです。
《7. 三つの天体に対する新しい解が見つかる》
電子計算機によって、数値解を得ることが可能になりました。
計算機には「無減小」はありません。無限小で定義される「微分」を「差分」に置き換えます。「刻み幅」が大きければ、ただの割り算なので、「平均」を求めただけになります。また、数値計算を繰り返すと数値計算による誤差積み上がってしまいます。
《8. 一般相対性理論の登場》
電磁気の波=電磁波によって電磁気の力は伝わります。宇宙空間には振動すべき物質は存在しません。加速運動する天体のまわりの幾何構造が時間変化し、重力波が放たれます。
天体間の引力を表す「アインシュタイン・インフェルト・ホフマン(IEH)方程式」は、「遅い運動」と「弱い重力」についての近似式です。
最小作用の原理からニュートンの運動法方程式を導くことができます。一般相対性理論は。物体の運動。物質を直接に規定するものではありません。四次元の幾何が、万有引力の正体だとするのです。質量0の電磁波も曲がった幾何構造の中を進みます。
アインシュタイン方程式は、マクスウェル方程式に似ていますが、非線形偏微分方程式になっています。電磁波も重力波もエネルギーを運びます。
《9. 一般相対性理論の効果を入れた三つの天体の軌道》
一般相対性理論は、天体に働く重力に関する算法になっています。一般相対性理論の「二体問題」に対する厳密解は得らていれません。
現在稼働している重力波望遠鏡は、米国のLIGO、欧州のBirgo、日本のKAGRAです。
《10. 天体の軌道を精密に測る》
ニュートンの計算は、太陽の位置が固定され、惑星の質量が小さいとした近似計算でした。
天体の位置とは、我々から見た方向のことです。距離は表していません。季節によって見える方向の違い=「視差」から、三角測量の方法で距離を算出します。1989年、欧州宇宙機関(ESA)は、宇宙望遠鏡「ヒッパルコス」を打ち上げました。大気による散乱がなく、精密な測定が可能です。但し、ヒッパルコスで測定できる範囲は、太陽系の近傍です。2013年には、ヒッパルコスの後継となる「ガイア衛星」が打ち上げられました。
2009年、NASAが宇宙望遠鏡ケプラーを太陽周回軌道に投入されました。「食」現象を利用して惑星の大きさを推定します。