「子供の貧困供 阿部彩 2014年 岩波書店

 母子家庭で育った私は、現業を引退したら貧しい家庭に育つ子供のために「何かしたい」と決めていました。子供が好きだし、里親になりたかったのですが、女房が難色を示したため断念。ボランティア募集のサイトを検索して見つけたのが、学習困難児のための学習支援のボランティアでした。この本でも指摘しているように、「本当の支援」はやっぱり「里親になる」ことなんですが … せめて … 今のボランティアを続けましょう。少しは役に立つかもしれないから。「勉強ができる」が目標ではありません!少しでも「自分を肯定する」ことが増えるように努力します。

 研究者の著作なので、現実感が薄く上っ面の感は否めないが、取り組み姿勢は評価できます。参考にもなりました。ありがとうございました。 以下はこの本の要約と引用です。*はWEB検索の結果などです。


■ はじめに

 2013年に「子供の貧困対策推進に関する法律(子どもの貧困対策法)」が可決された。

 子供の貧困に対する解決法はわかっていない。

■ 子供の貧困の現状

・就学援助費の受給率
 貧困状態の世帯に属している子供たちの指標の一つ。

・相対的貧困率
 多くの先進国の貧困基準として採用されている。子供の貧困率は、相対的貧困世帯に属する子供の比率。

 子供の貧困は、リーマンショック以降の新しい社会問題ではない。より大きなトレンドとして、子供も国民全体も貧困になっている。景気変動に影響されたものではない。

 貧困状況に育った子供は、学力が低く、健康状態が悪く、大人になっても貧困である傾向が強い[貧困の連鎖]。

 日本の子供の貧困率は先進国の中では極めて高い。一人親世帯の貧困率は突出して悪い。母子世帯の貧困率が特に高いためである。

 日本の貧困の特徴は「ワーキングプア」が多いこと。その背景には、低賃金の非正規雇用の存在がある。

 学歴や職業階層の世代間継が強まっている。戦前から高度成長期にかけて、親と子の階層の世代間継承は弱まる傾向にあった。その後は逆方向に向かった。現代の日本においては、「機会の平等」は存在しない。日本の貧困率は上昇傾向にある。

 発展途上国では、一人当たりGDPの上昇により、貧困層の生活水準も引き上げられる。しかし、先進国においては当てはまらない。国全体が経済成長しても、最貧層の所得は上がらず、ますます社会の底辺に押し込まれていく国もある。最貧層の所得が上がった国は、勤労所得が上昇したのではなく、政府からの現金給付が上昇したのである。日本は、GDP比でみる貧困層への社会支出が極めて小さい。

 諸外国においては「貧困の社会コスト」から、貧困対策の費用を捻出する根拠を導いている。子供の貧困対策は費用対効果においてペイする可能性が高い。貧困対策は「未来への投資」である。

 日本で行われている失業者や貧困者のための職業訓練は、規模も内容も貧弱である。

■ 要因は何か

 大部分の貧困層の子供は、大学受験を考えるだけの学力が無い。また、多くの貧困層の子供たちにとって、現在の貸与型の奨学金は大きな負担である。

 必要なのは、小中学校における「落ちこぼれ」をゼロとする義務教育改革や学習支援である。貧困の子供の学力が遅れるのは家庭環境が要因。家庭への経済支援が何よりも功をなす。家庭の中のストレス、心にゆとりのない生活は、子供の成長に著しく影響する。児童虐待に繋がる場合もある。大人の世界の格差と貧困による心理から、子供を隔離することはできない。母親の経済不安は、妊娠中の抑鬱の危険を高め、子供の知能発達が悪くなる。

 日本は、子供の教育への費用負担がOECD諸国の中で最高である。現在は友達と一緒に「頑張る」「協力する」経験も、習い事や体験学習など「お金で買う」時代である。

 日本は有数の長時間労働の国であるため、共働きや一人親世帯の場合は、子育てに充分な時間をとることができない。友人の家に入り浸ったり、繁華街をうろつくといった行為にも繋がる。

 国語や数学などの認知能力は遺伝子による影響は無い。認知能力と成人後の所得との関係は強くない。明るい性格や人好きのする性格の人の方が所得が高い。

 経済状況が悪い人は、健康状態も悪い。健康を介した貧困の連鎖も強い。

 近年は、就学前検診で発達障害や知的障害が発見されることも増えた。早期に適切な教育機関に繋ぐことができれば、障害の影響を抑えられる可能性がある。適応に問題があると、社会から排除されてしまう。貧困世帯では、障害があっても放置される可能性が高い。

 勉強に対する意欲が持てない背景として、貧困層の子供は自分の将来に明るい見通しを持てないことが挙げられる。貧困層の子供は、自尊心・自己肯定感が低い。

 かつては、未成年の子供でも働ける場があり、半ば親のように指導してくれる「親方」もいた。

・貧困の連鎖の経路

 家族ストレスは情緒により強く働き、経済要因は勉学に強く作用する。

 子供期に貧困であることが、低学歴の誘因となり、低学歴が非正規労働者となる危険を高め、低所得を誘発する。

■ 政策を選択する

 政策の効率=費用対効果は、判断基準である。その子が大人になった時の所得の大きさで政策の収益性を考える。

 日本の政策は、効果測定を測るように制度設計されていない。エビデンスに基づく政策立案が行われていない。

 子供の貧困対策プログラムは、特に実証が難しい。長期になると効果が消えてしまうこともある。本当の効果を見るためには長期間観測する必要がある。

 乳幼児の施策は、最も効果が安定している。教育分野では、カリキュラムの改革の効果が高い。高年齢では、「キャリア・アカデミー」のような就業支援に高い効果が認められる。

 メンター・プログラムは、一対一の関係の「見守る」大人を作る。低コストで実施可能である。

 子供の貧困に対する政策は投資である。子供の所得を上昇させ、税金や社会保険料を払い、GDPに貢献する。

■ 対象者を選定する

 対象者を特定する選別制度と、不特定の普遍制度。普遍制度を導入する理由は、多くの子供たちが支援から漏れてしまうこと。大陸の欧州諸国では普遍制度が多い。米国やオーストラリア、アングロサクソン系の国々では選別が多い。

 川上対策は、貧困が発生する前に手を打つ。義務教育、最低賃金、医療保険など。川下対策は、貧困に陥った人々に対するもの。生活保護、就学援助費、低額医療など。

 川下対策は、貧困者を判定しなければならない。川上対策は、国民の「権利」として受け取る。「救済」か「権利」か。給付する側にも受ける側にも、大きな意識の差がある。川下対策の給付は、偏見の対象となる。

 貧困の子供のみを対象とする制度は、しばしば給付削減の対象となる。2012年の生活保護バッシングと生活保護の改革はその典型。大部分の人々にとっては「自分には関係のない制度」である。長期で見ると必ず縮小される。普遍制度は、権利として確立し、縮小不可能となる。

 捕捉率は、受給する要件を満たしている人の中で、実際に受給している人の割合。生活保護では10〜30%。

 普遍制度の最大の欠点は、財政負担が大きいこと。大きな政府になる。

 現金給付は「ばら撒き」の印象が強い。現物給付についてはそのような反発は無い。

 1980年代から行われた税制改定により、日本は税の累進性が弱い国になった。社会保険料は逆進的な設計である。消費税は、所得税や社会保険料を課すことが難しい層にも負担してもらうことができるという意味では公平なものになってしまった。

 普遍制度を持つ国ほど、所得格差を縮小することに成功してきた。普遍主義の国の方が大きい政府となり、再分配される富の規模も大きかった。しかし、普遍制度と再分配の関係が薄れ、2000年代以降のデータではこの関係性が無くなった。貧困削減に効いているのは、再分配のパイの大きさであって、政策の違いでは無い。

 オーストラリアは徹底した選別主義。富裕層を除外することを目的とする。厳格な資格審査を必要としない。貧困層へのスティグマ(偏見)も漏給も少ない。オーストラリアでは貧困層に給付を行うことは当然と思われいる。

 乳幼児期の貧困は、子供の将来への悪影響が大きい。特に重要なのは、0〜6歳の子供である。

■ 現金給付を考える

 現金給付にすると、そのお金を親がどのように使うかを限定できない。貧困層の家庭にとって、まず必要なのは食費や住宅費などの家計への支援である。日本の子供のいる貧困世帯への現金給付は明らかに不充分である。

 現金給付には、貧困の子供が貧困から抜け出す確率を高める効果がある(所得効果)。現物給付では、効果があるものもあるが、全く効果が無いものもある。現金給付の利点は、効果が「確実」であることだ。現物給付では、本当に必要ではないことが多い。そして、子供が必要とするものを全て現物支給することはできない。

 海外において、子供の貧困対策として効果をあげているのは、親に対する支援=就労支援・医療サービス・育児指導・教育援助である。

 家計の苦しさは、子供に対する現物支給では緩和できない。家計を補うために、母子家庭の母親が仕事をかけ持ちしている。現金給付によって夜の仕事を減らすことができる。夜にお母さんが一緒にいることは、子供の成長にとって大切である。

 教育や保育は、現物給付が望ましい。メンター・プログラムは、無償のボランティアによって関係を築いていく。有償の事業で代替できるものではない。

 「俺は高校を卒業しても、どっちみち非正規だし、ろくな仕事にも就けない」。「底辺校」では、高校を卒業しても大きな便益は期待できない。

 使途を限定した現金給付=バウチャー制度は、使途の自由度が無く、公共サービスの現物支給の利点も無い。

 父子世帯でも、子育てを祖父母に任せられなければ、多くの場合、正規の仕事を諦めざるを得ない。

 公的年金制度には、親が亡くなった場合に家族に支給される遺族年金がある。この給付は母子家庭に対する大きな支援である。

 日本では再分配後の貧困率の方が、再分配前よりも高い。政府の再分配によって子供の貧困率が上昇している。OECD諸国の中では日本だけであった。これは改善されたが、日本の子供の貧困率に対する再分配効果は依然として小さい。日本の政府は、子供の貧困率を悪化させている。児童手当などの現金給付を拡充することが不可欠である。

■ 現物(サービス)給付を考える

 保育所はほぼ毎日、親との接触がある。家庭の問題にまで踏み込めるスタッフが必要である。

 貧困層においては、医療費を立て替える余裕が無いことも多い。窓口負担が無いと過剰受診の懸念がある。貧困層の子供は受診回数が少ない。

 放課後の子供の孤立は深刻である。家の中でテレビやゲームで時間を過ごしている。学童保育が充実していない地域も少なくない。

 日本では学校のクラブ活動が重要な居場所になっている。費用がかかる場合もある。

 児童館や図書館や公民館は「待ち」の姿勢。食事が提供されるなどの工夫が必要であろう。米国の放課後プロブラムでは、メンター・プログラムとセットとなっている場合は効果が高いとされている。

 メンター・プログラムは様々。勉強を教える、バスケットボールをする、博物館にでかける。直接に学力を向上を意図していなくとも、学力が向上する。

 メンター・プログラムの課題は「継続」。ボランティアの選定が重要である。

 厚生労働省は、2009年より、生活保護世帯の子供に対する学習支援を行う自治体に事業費の補助を行っている。埼玉県の「アスポート」事業は、先駆事例として有名である。*私がボランティアをしているのは、このアスポートである。

 最近では、公務員削減の中で、自動虐待が増加している。学校、児童相談所、役所、児童養護施設など子供福祉の現場では、子供へのケアが不充分になっている。

 児童養護施設や乳児院や自立援助ホームなどの児童福祉施設は拡充されていない。里親を増やす政策が望まれる。

 貧困層の子供の多くが、未成年のうちに実家から離れる。実家が安息の場ではなく、実家から逃げるように出て行く場合も多い。しかし、彼らが出て行く先も、住居・所得共に不安定かつ危険である。何かあっても、「帰れる家」が無い。未成年であるにもかかわらず、頼れる場所が皆無なのである。

 日本の貧困問題は、失業の問題ではなく、ワーキング・プアの問題である。日本は先進諸国の中でも住宅費用が高い国。公営住宅への優先入居などが工夫されるべきである。

■ 教育と就労

 教育政策は、教育費の格差の解消、学力の格差の解消、学校生活の保障、教育と就労を結合。

 日本は、OECDの中で教育費の負担が最も重い国。学校外活動費の格差は拡大している。少なくとも学校生活の全てを無償化すべきだ。

*高校の無償化
 2024年度より、東京都が、高校や都立大学で、2024年度から授業料を実質無償化。

 学力格差は小学生の早い段階から始まっている。学力格差を解消する具体策は見つかっていない。学力格差の問題の全ては所得階層にある。

 米国において、1960年代に、貧困の連鎖を断ち切るために、教育予算が拡充された。残念なことに、政策評価の結果は思わしくない。

 米国の政策評価では、少人数学級による貧困層の子供の学力向上が確認されている。日本においても、少人数学級を継続している学校に在籍している子供の方が学力が向上する。

 教育カリキュラム「サクセス・フォー・オール」は、貧困層の子供を対象とした、読解力に焦点を合わせた教育内容。教育カリキュラムの開発は、大きな成果を生む可能性がある。

 学校生活への包摂。学校において、子供は社会性を育み、友達を得、自己を確立していく。子供が学校を楽しい場所と感じ、友達や先生から認められ、居場所があることが先決である。

 学校生活からの排除の究極が、不登校と中退である。子供が学校に来ることができない要因を突き止め、その要因を取り除く、取り除けなければ代替する教育を提供する。

 不登校の予防に必要とされる学校の改革は、貧困層の子供たちに必要とされる政策である。全ての子供にとって魅力ある学校を作ることは、子供の貧困対策としても重要である。

 定時制高校の学校数は大幅に削減されている。定時制高校の生徒数は増加している。

 日本の労働市場においては、最初の職が上手くいかないと、転職後も状況を改善することが難しい(初職の失敗)。社会人としてのスタートラインでの支援が重要である。

 厚生労働省が2008年から事業化した地域若者サポートシステム(サポステ)事業。アウトリーチ(学校内での窓口の設置、家庭訪問など)、相談、キャリア開発(マッチング、職場体験、職業紹介など)、を行う。

 社会人となっていく出口のソリューションがなければ、貧困の連鎖は止められない。

 労働法や社会保障制度について、自分の身を守る知識を学校教育の中で徹底させる。

■ 政策目標としての子供の貧困削減

 2013年、子供の貧困対策法(子供の貧困対策の推進に関する法律)が成立した。理念を定めた法で、基本方針は「子供の貧困対策に関する大綱」で定められる。

*子供の貧困対策に関する大綱
 方針を示しただけに留まっているようです。

 精神疾患や失業などに対処する現場で、その人に子供がいるのか、家庭の状況はどうなっているのか、という視点で取り組む必要がある。子供の生活支援と共に、子供の育つ世帯を丸抱えにする体制を築き上げる必要がある。

■ あとがき

 本書が解答となっていないことは、私自身、痛感している。