「マネジメント エッセンシャル版」Ｐ・Ｆ・ドラッカー 2001年 ダイヤモンド社
この本は、1975年の「抄訳 マネジメント」を訳しなおしたもの。ドラッカーの「マネジメント」は、何度読んでも学びがある本です。今回もたくさんの学び直しがありました。以下はこの本の要約と引用です。
《まえがき》
社会の主な問題は、組織の手に委ねられた。その組織に成果をあげさせるものがマネジメントである。
《序》
今日の市民の典型は被用者である。
�� マネジメントの使命
組織は社会と個人のニーズを満たす手段である。
《1. 企業の成果》
企業にとって、利潤は条件であって目的ではない。利潤は活動の妥当性の判断基準である。利潤動機は、経済学者が経済を説明するために考え出したもの。その存在を証明するものはない。
企業は二つの機能を持つ。マーケティングとイノベーションである。マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。イノベーションは、新しい満足を生みだす。
企業の意思決定は、何を行い、何を行わないか。我々の事業は何か、を決定し共有することである。
事業の定義は、目標に具体化される。集中すべき分野をまず決めなければならない。組織のエネルギーを集中し、実行しなければ目標は達成できない。目標を達成するためには、費用＝利益が必要になる。
人材と資金を引き寄せることができなければ、企業は永続できない。
マネジメントを評価する尺度が、生産性、経営資源の活用の程度である。生産性とは、各種の要因の間のバランスをとることである。
計画は予想ではない。不確実な明日のために、今日何をなすべきかが問題である。経済活動は、現在の資源を未来に、不確実な期待に賭けることである。
何を行うかと同時に、いつ行うかも重要である。
《2. 公的機関の成果》
サービス機関は、政府機関であれ企業内のサービス機関であれ、余剰によってまかなわれている。
公的機関の問題は、効率やコスト意識ではなく、成果＝なすべきことをしていないところにある。
公的機関は予算によって運営される。予算の獲得こそ、存続のための第一の要件となる。予算で支払いを受けることは、誤った方向づけにならざるを得ない。サービス機関も、目標を定め成果を監査する必要がある。
所有は社会化するが競争は行わせる、オスカー・ランゲのいう社会主義的競争も存在する。国防や司法などでは、独立したマネジメントはあり得ない。
《3. 仕事と人間》
働くものが満足し、生産性が高い。両方が達成されなければ失敗である。「手だけを雇うことはできない。人がついてくる」エルトン・メイヨー。
成果を起点として考える。入力する資源を中心に考えてはならない。
仕事の上の人間関係は、尊敬に基礎を置かなければならない。心理支配は、根本において人を馬鹿にしている。
日本では職務の設計は行わない。仕事の内容≒出力を明らかにした段階で職場に任せる。組織のあらゆる階層において、組織全体のために責任を果たす観点から考えることが期待される。働く者自身が、自らの仕事を管理しなければならない。
組織論の殆どは、権限の組織化に焦点を合わせてきた。仕事の管理の基礎は、責任の組織化である。
福利厚生や労働者の経営参加は、働く者の仕事ぶりには関係が無い。働き甲斐を与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。現場に成果のフィードバック情報を与え、自己管理が可能でなければならない。働く者の知識と経験が生かされなくてはならない。
職場コミュニティに自治権を与え、責任を与える。意思決定の責任は、その意思決定の影響に直接かかわるところに与えなければなあない。そのためには、仕事(雇用だけでなく)と収入の保証がなければならない。
マネジメントは責任を持つ。責任を果たすために権限を必要とする。
組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。
人を活かすべきものとして扱う。必要なことは、実際に行うことである。
《4. 社会的責任》
第一次世界大戦前は、労働争議の時代だった。ヘンリー・フォードは1913年に、労働者に対して当時の平均の３倍の賃金を保証した。辞める者がいなくなり、生産性を高めた。米国の産業社会は変わった。米国の労働者は中産階級となった。
組織が果たすべき最大の社会的責任は、自らの特有の機能を果たすことである。
グローバル企業の存在は、国家経済を定義不能にしている。
顧客をもてなすためにコールガールを雇うことは、倫理の問題ではない。清潔さが資質として要求されたことはない。
「知りながら害をなすな」ヒポクラテス。公的責任の倫理の基本である。
�� マネジメントの方法
ダーシー・フィッシャーは、硬い皮膚で支えられた生物は、一定の大きさ以上には成長できないことを明らかにした。
《5. マネージャー》
マネージャーとは、組織の成果に責任を持つ者である。
機能と地位は切り離さなければならない。軍では少佐という地位のほかに、大隊長という機能上の肩書を持っている。
部分を統合することが、全体を創造する方法である。マネジャーは、全体の成果を見る。
マネジャーの仕事は、１）目標を設定する、２）組織する、３）コミュニケーション、４）評価する、５）人材の開発、である。
何が正しいかを考え、誰が正しいかを考えない。
会議や調整が必要な仕事は間違っている。
最悪なのは、エリートを育成すべく、他の者を放っておくことである。
雇用主には、人の性格をとやかく言う資格は無い。雇用関係は成果を要求する契約に過ぎない。それ以外の試みは、人格の侵害である。要求されるのは成果だけである。
貢献は共通の目標に向けられなければならない。技能自体が目的となってはいけない。
特定の部門の目標を明らかにする。目標達成のために他部門の貢献を明らかにしなければならない。他部門への貢献を明らかにしなければならない。
プロダクトマネジャーは、製品についての全責任を持つ。直接の権限は無い。
組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。組織の良否は、成果中心の精神があるか否かによって決まる。
人は、優れているほど多くの間違いをおかす。優れているほど新しいことを試みる。
《6. マネジメントの技能》
日本企業は、合意によって意思決定を行っている。日本では、意思決定で重要なことは問題を明らかにすることである。問題への答えは、問題の明確化に伴って出てくるべきものとしている。そして、誰が決定すべきかを問題にし、意思決定に実施の方策を組み込む。これこそ、効果的な意思決定の基本である。
意思決定とは、行動と成果に対するコミットである。実行する者、実行を妨げることができる者全員を、議論の中に参画させておかなければならない。
意思決定の原則は、意見に対立を見ないときには決定を行わないこと。今は、何もしないことを決定するのも、決定である。何もしなければどうなるかとの問いに、うまくいくとの答えが出るときには何もしてはならない。行動するかしないか、二股をかけたり妥協してはならない。
公案「無人の山中で木が倒れたときに、音はするか」。音波は発生するが、聞くものがいなければ音はしない。音波は知覚されることによって音となる。
我々は期待したものだけを知覚する。コミュニケーションは、受け手の価値に合致するとき強力になる。
管理は客観的ではありえない。現象の外にいるときにしか、現象を客観的に観測することはできない。人間社会においては、測定という行為は中立的であり得ない。
管理手段は成果に焦点を合わせなければならない。測定できるものは過去のものである。測定できるものは内部の事象である。よく管理されていると見えるほど、管理していない危険がある。
管理手段が少ないほど管理は効果がある。正確な測定が困難な情報こそ重要である。
経営科学は、リスクや不確実性を最小にすることに注力する。企業活動から不確実性を無くそうとしても無駄である。
《7. マネジメントの組織》
繰り返し出てくる問題については、意思決定の原則を決めておけばよい。
意思決定は、行動に近いところで行う必要がある。同時に、意思決定はそれによって影響を受ける活動全体を見通せるレベルで行う必要がある。
相互活動の関係を最小にすることが、組織構造の原則である。組織の原則は、階層の数を少なくし、指揮系統を短くすることである。
取締役会にような審議機関は別として、会議は組織構造上の欠落を補うものと見てよい。調整役や補佐役など仕事をしない人たちを必要とする組織は細分化されすぎている。
職能別組織においては、人が動かずに仕事が動く。チーム型組織では仕事が固定される。職能別組織では、仕事の目的を理解することが難しい。適応性に欠けるが、業務は明快である。職能別組織は、現業の仕事に限られる。イノベーションと職能別組織とは相容れない。
チーム型組織にはリーダーがいる。上司も部下も無い。成果はチーム全体の責任である。メンバーは、チーム全体の目的と、自分の責任を知っている。事態の変化にも柔軟に適応できる。チーム型組織は小さい。大きくなれない。上司は一人でなければならない。
事業部制（分権型組織）は、課題を容易に理解できる。
組織構造は道具である。道具自体に良い悪いは無い。適切に使うかどうかだけだ。組織の健康を判定する基準は、成果である。
�� マネジメントの戦略
《8. トップマネジメント》
トップマネジメントは、「我々の事業は何か」を考えなければならない。事業の定義から、目標が設定され、計画が作成される。組織を作り、規範を定める。
トップマネジメントを監督し、助言し、意思決定を審査し、トップマネジメントを任命する機関の名称は国によって異なる。マネジャーが取締役会に加わることは、ドイツではできないが、米国・英国・日本ではできる。
取締役会は、もはや所有者を代表しない。誰も代表していない。統治機関たりえなくなっている。非常勤では徹底した検討などできない。取締役会は、トップマネジメントに成果を要求する。業績をあげないトップマネジメントを排除する。
《9. マネジメントの戦略》
組織が大きくなれば、その大部分が外部環境から遠ざかる。
殆どの小企業は戦略を持たない。機会中心ではなく、問題中心である。問題に追われて日を送る。だから、成功できない。
マネジメントの能力の向上が、規模の増大に歩調を合わせている。しかし、ベッド数が1000床を超える病院は、マネジメント不能である。
トップマネジメントが事業の現実の姿を自らの目で知ることが出来なくなり、抽象的なものに依存するようになったとき、組織は複雑になった。
新事業に進出することにより既存事業の弱さを補う多角化は失敗する。自力開発が得意な会社と、買収が得意な会社がある。それは体質であり、両方をうまく行う企業はあまりない。
合弁は、成功すると厄介な問題を生ずる。成功した時は、親会社のいずれからも分離して独立させなければならない。
グローバル市場が出現したが、政治体制の発展は伴わなかった。経済と政治が分離している。分離は、１７世紀までは当たり前だった。グローバル企業は政治主権から絶縁している。解決策は無い。
途上国は資本と技術を必要とする。グローバル企業以外には技能を移転する能力を持たない。
成長には戦略が必要である。準備が必要である。目的に合わせた行動が必要である。トップに変革の意思が無ければ、いずれも無題になる。
長期にわたる成長は不可能である。成長を目標にするのは間違いである。大きくなること自体に価値は無い。良い企業になることが正しい目標である。
企業は業績に貢献しない活動を切り捨てることによって成長できる。
成長が必要であると自覚しながら、自らの行動を変えることを欲していないなら、道は一つしかない。身を引くことである。
イノベーション生み出すものは、新しい価値である。イノベーションには、既存事業のための管理手法とは別のものが必要になる。予算も別に設定する。イノベーションのためのチームは、既存事業の組織外に独立して作る。
イノベーションは、「手を引きべきか」「どのように手を引くか」を問うことも必要である。
変化に対する抵抗を問題にしている限り、解決は不可能である。抵抗に焦点を合わせることは、問題を扱いにくくするだけだ。イノベーションとは、（トップマネジメントの）姿勢であり行動である。
優れたアイディアは、実現性のないものに見え、同時に素晴らしいものに見える。
《マネジメントのパラダイムが変わった》
危機に瀕したとき、命運を決するのは明快な命令の有無である。沈没しかけているときに、会議を開く船長はいない。
働く者は全てフルタイムの従業員であり、その組織内の誰かの部下であるという前提は無くなった。アウトソーシング先の人たちや派遣社員が多くなった。
多くの上司が部下の仕事を経験していない。専門家に対して何をいかに行うかを指示できない。
人をマネジメントすることは、仕事をマネジメントすることを意味する。人の働き方についてではなく、成果ついてのマネジメントのし方である。
ノンカスタマーの数は顧客よりも多い。変化はノンカスタマーから起こる。
マネジメントにおける内部重視の傾向は、情報技術の進展によって増大している。組織の内部に焦点を合わせるようになってしまった。内部で発生するのはコストだけである。成果は組織の外にしかない。
