「ザ・アドテクノロジー」 菅原健一他 2014年 翔泳社

 副題が「データマーケティングの基礎からアトリビューションの概念まで」となっています。広告業務から見たデータドリブンなマーケティングの入門書です。実際をちょっと垣間見て、ちょっとウンザリして、机上の理想論をちょっと、という体の本。ありきたりですが、それなりに講義の資料になりました。ありがとうございました。 以下は、この本の要約と引用です。*印は、生禿の見解です。

《1. 広告革命》

 “「枠」から「人」へ”への流れ。「人」単位で個別のメッセージを届けることができるようになりました。常に結果を見て、改善し続けます。
 − 広告出稿の設定をして数時間後には広告が発信される
 − 対象の人達に適したメッセージを作る
 − データをもとに効果を判断できる

 amazoneは、何が売れるのかを、他社の製品を使ってテストしています。また、自社以外のデータを取り込むために、決済の仕組みなどを外部のECサイトへ提供しています。

《2. ネット広告概論》

 日本の総広告費は、2007年の7兆円をピークに、現在は6兆円を下回る規模に縮小しています。

 ディスプレイ広告は、サイト上に埋め込まれて常時表示される広告。

 インプレッション(表示)回数やクリック回数やコンバージョン件数がわかる、CPA(Cost Per Acquisition 顧客獲得単価)が測れるのは、ネット上で購入する場合だけです。

*広告は、広告を投下しなくても売れるようにするのが役目です。広告による直接の販売額は、広告費よりも遥かに小さく、その限りの経済合理性で評価すれば、広告を出すなんて狂気の沙汰です。そういう事実を、未だに認識していないのが広告人という異常な人達です。

 ICM(統合マーケティングコミュニケーション)は、ターゲット別にすべてのコンタクト・ポイントで伝えるメッセージをマネジメントします。ICMでは、銘柄資産の算出や、マーケティング目標の明確化やROI(投資効果)分析も重視されます。

 検索連動型広告の登場が、ターニングポイントなりました。コントロールを毎日行う習慣が、広告業界に浸透していきました。

 検索連動型広告には、クオリティスコアが組み込まれました。CTR(Click Through Rate クリック率)が高い場合は、広告主は安い金額で入札に勝つことができ、より優位な(上位の)掲載位置が与えられます。ユーザーにクリックされない広告は、掲載したくないというGoogleの意思です。広告主や広告代理店は、精度の高いターゲティングとよりユーザーの興味を惹くクリエイティブを実現しなければなりません。

《3. アドテクノロジー》

 アドサーバー(広告配信用のサーバー)が登場し、広告配信の管理がより柔軟に行えるようになりました。メディアは、インプレッション(表示回数)ごとに広告を販売することが可能になりました。

 メディア側は、広告在庫が不足しないように販売していましたから、必ず広告在庫は余りました。アドネットワークは、余りのマネタイズを行いました。

 アドネットワークには、多くのメディアの広告在庫が登録されます。アドネットワークに自社の広告を登録すれば、自動で効率の良いメディアを探し、広告配信を行います。アドネットワークは、複数のメディアと複数の広告主のマッチングサービスです。広告出稿を決めるのは、アドネットワーク側であるため、広告主の思うように出稿ができません。

 RTB(Real Time Bidding)は、広告在庫が1インプレッション発生したタイミングでオークションを開催し、最も高い値段で買う広告主に在庫を売ります。RTBを実現するには、SSP(Supply-Side Platform)とDSP(Demand-Side Platform)が必要です。

 メディアで個別にコンバージョンを計測すると、重複カウントが発生します。第三者配信(3PAS)に入稿し、3PASに登録した画像が表示される仕組みにすれば、複数の広告画像配信を1つのシステムで行うことができ、配信結果が3PASに集まります。メディアを横断した広告配信数(インプレッション)や、ユーザー単位のフリークエンシー、複数のメディアを経由したコンバージョンの把握が行えます。

《4. データドリブン》

 DMP(Data Management Platform)は、ユーザーを管理するものです。ユーザー(オーディエンス)の状態を把握し、適切なメッセージを送るたためのプラットフォームです。

 データをDMPで収集するためには自社サイトにDMPのタグを設置します。ページ閲覧データは、ルール化して分類します。セグメント単位で広告配信を行います。

 サイト訪問者に、外部メディアで広告を出すことを「リターゲティング」と呼びます。ECサイトでは、「トップ訪問ユーザー」「商品閲覧ユーザー」「カートインユーザー」に分けます。カートインユーザーには、期限付きのクーポンを配信します。商品閲覧ユーザーには、閲覧カテゴリーの広告を配信します。トップ訪問ユーザーの購買確率は低いと思われます。

 情報に接するデバイスも場所も時刻も多様になりました(デバイス・フラグメンテーション)。最新の商品情報で見込み客にリーチするための自動化が、データフィード(Data:データをFeed:供給する)です。商品データフィードは、商品データベースから、それぞれに必要な商品データを自動抽出し、各施策での活用に適した形で、商品データを提供します。自社ECサイト、ECプラットフォーム、検索連動型広告、ディスプレイ広告、アフェリエイト広告、ショッピングサーチ、比較サイトなどです。在庫がゼロの場合は、広告掲載は停止されます。

 Googleの商品リスト広告(PLA)は、商品の画像・名称・価格・企業名などをGoogleの検索結果に表示する広告フォーマットです。

 データドリブンなマーケティングには、あらゆるデータを統合する組織横断の位置づけが必要です。

 短期の結果を見ていると、改善の対象はチャネルの最適化になりがちです。どのチェンネルがよいかは、現在のクリエイティブが前提になっています。クリエイティブの改善こそが生活者の反応を変えます。

《5. アトリビューション》

 広告業界において、アトリビューションとは、広告効果測定のことを意味します。アトリビューションは、英語で「属性、帰属」です。コンバージョン(最終成果)への貢献度を数値化する試みとも言えます。

 コンバージョンの重複カウントは、計測の仕組みの問題です。計測するクッキーは、有効期限が設定されており、検索連動型広告は30日です。グーグルとヤフーの両方で検索した人が購買に至ると、グーグルもヤフーも両方で購買を認識し、コンバージョンの重複が発生します。

 セッションは、サイトにアクセスしてから離脱するまでの行動を一つの単位として扱います。ユーザーの行動が止まった場合は、30分を目途にセッションが切れたと見做します。

 アクセス解析ツールは、リファラー(リンク元のページ情報)の情報を取得し、セッション単位でリファラー情報を使ってコンバージョンをカウントしています。

 セッション単位でコスト効率を追求すると、目標値をクリアできる広告は少なく、超短期視点でペイする広告だけしか残りません(縮小最適化)。

 アクセス解析ツールでも、広告効果測定ツールでも、コンバージョン直前の広告クリック(ラストクリック)だけを評価対象にしています。

 テレビCMを出稿すると、その広告主サイトへのアクセスが増加します。

 アトリビューションは、コンバージョンパスデータ(目標に至る経路のデータ)を取得し、全ての経路を評価対象にします。

 クリックだけではなく、インプレッションも対象にして評価すると、第三者配信が必要になります。第三者配信を利用して広告を配信すると、クリックもインプレッションも取得できます。複数のメディアへの配信を一つのシステムで行うため、クロスメディアでのフリークエンシーも把握できます。ネット広告以外の自然検索経由やSNS経由やコンテンツサイト経由の情報も、リファラーから判別できます。ほぼ全ての流入を、第三者配信が集約できます。カスタマージャーニー(コンバージョンに至る経路)と呼ばれるユーザーの動線が可視化されます。

 DMPによってセグメント別のコンバージョンシナリオ/ブランドコンタクトヒストリーを設計します。ポータルサイト・検索サイト・SNSなどでのユーザーの行動履歴と、ポイントカードなどの実店舗の購買履歴を連結させ、様々なセグメントを設定します。DSP、第三者配信、メール配信ツール、コンテンツマネジメントシステム(CMS/LPO)を連結させて、ユーザの特性に適合したコミュニケーションを実施できます。

オーディエンスアトリビューション
セグメント別のシナリオ

 メールでキャンペーン内容を配信します。メールを開封する人/しない人に分かれます。メールを開封しない人には、ディスプレイ広告を配信します。ディスプレイ広告をクリックする人/しない人に分かれます。クリックしない人のCRMデータを確認し、住所データがあればDMを送ります。住所データのない人のシナリオは終了します。

 メールを開封してくれた人は、過去1週間以内にサイト訪問履歴があるか否かを識別して、表示コンテンツを変えます。コンテンツDを見せて、コンバージョンする/しないに分かれます。コンバージョンしなければ、ディスプレイ広告を配信します。クリックしない人には、再度ディスプレイ広告を配信します。

 DMPのタグを設置し、そのクッキーによって、既存顧客なのか未買(見込)顧客なのかを識別します。検索連動型広告経由の訪問者は既存顧客が多く、新規顧客の獲得にはつながりにくいことがあります。ブランド指名で検索するユーザーにはその傾向が高いです。検索連動型広告が表示されていなくても、自然検索経由で来訪してコンバージョンに至る可能性があります。既存顧客の反復購入は、自然検索などで捕捉できます。SEO対策がなされていることが条件です。但し、キャンペーンを実施している期間は、トップページに誘導してしまい、キャンペーン用のランディングページに誘導できないことに留意します。

カスタマージャーニー
カスタマージャーニー

 グーグルが、国別・業界別にカスタマージャーニーを見ることができるツールを公開しています。

 カスタマージャーニーの情報は、ユーザーのネット上のすべての行動や、実店舗の行動が解る訳ではありません。

 ラストクリックに強いメディアは、検索連動型広告やアフェリエイトなどです。ラストクリックに弱いメディアは、純広告系のディスプレイ広告やSNSなどです。それぞれのメディアの役割を把握して貢献度を推定します。

セグメント別のシナリオ
オーディエンスアトリビューション

 オーディエンスアトリビューションは、セグメント別シナリオ別にアトリビューション分析を行います。

 コンバージョンをKPIにすると、長期の視点を失います。コンバージョン率を比較すると、サイト訪問歴のあるユーザーの方が高くなります。中間指標で重視すべきなのは「好感度」です。反復購買を高めていくこと、ロイヤルカスタマーを増やしていくことが大事です。

 テレビCMとネットを連結することの重要性が理解され、検索ボックスをつけてキーワードを訴求するようになりました。

 構造方程式モデル(共分散構造分析)によって、マーケティング活動を可視化します。売上に貢献するのは「第一(純粋)想起」です。それを上げるにはテレビCMが有効です。好意度が重要ならば、雑誌広告を増やすべきかも知れません。

 自動車メーカーは、ディーラー店舗検索や試乗予約をコンバージョンポイントにしていました。実際には、車種紹介ページのアクセス数が増えた時に、店舗来店数が増加しています。携帯キャリアのサイトでは、携帯端末の紹介ページと店舗来店数の相関が高いことが判り、マーケティング戦略を再構築しました。

 検索連動型広告は、今その時その場にある顕在化したニーズを刈り取るのに適しています。少ない予算でできます。顕在化したニーズを刈り取ってしまうと、効率が下がっていきます。テレビCMの方が効率が高くなります。

《6. 賢人に聞く》

 新製品は広告効果が高くなる。テレビCMの投下とインターネットの検索数が相関する。テレビCMで新しいキーワードを訴求した場合も、検索を誘発しやすい。上昇した検索数は、広告投下が終了しても維持される。

 認知の高い銘柄は、検索数の規模が大きく、広告投下の影響が誤差の範囲に入ってしまう/識別できない。(個人視聴率で)月間2000GRP以上のテレビCMを投下しないと、良い結果は得られない。