「ビッグデータ・ビジネス」 鈴木良介 2012年 日経文庫
来年度の講義に向けて、知識を整理するために再読です。 以下はそのための要約と引用です。＊は検索結果です。
■ ビッグデータ・ビジネスとは何か
「コンピュータ業界は女性ファッション業界よりも流行志向が強い業界だ」オラクルＣＥＯラリー・エリソン。「新しい概念」は、多くの場合「キャッチコピー」に過ぎません。
■ 顧客の好みを先読みする個客対応
１to１かつ即時での接客が有効であることは自明でしたが、実現が困難でした。
実店舗の棚前行動の記録（ＰＯＢデータ）の取得が容易になりました。興味は持たれたけれど購買に至らなかった商品や、全く関心を払われなかった商品を識別できるようになりました。また、指名買いなのか、複数の商品から選んだのか。どのように見比べ、どのくらい迷ったのか、も捉えることができます。
ドラッグストアにおける滞在時間の長い売場は、男性用化粧品。情報量が少なく、売場迷子になっています。
ライフイベント（結婚・出産・入学…）の兆しデータの収集。結婚情報誌を購入した人に対して、購入した瞬間のアプローチは適切だが、２週間後は要注意。破局後かも知れないからです。
ＧＰＳに依らずとも、場所に把握は可能です。利用店舗やＩＰアドレスから居住地や居場所を推定することができます。
「気がきく」と「気持ち悪い」の境界は不明瞭。適切な人に適切なものを適切な時機に訴求すると、「私のことを知り過ぎている」と違和感を感じ、プライバシー侵害と受け取られることがあります。たとえ通販業者の購買履歴のように「知っていて当然」のことであったとしてもです。アマゾンは「Ａさんにお薦め」とは言いません。「これを買っている人はこれも買っています」と言い方をしています。
冷蔵庫の中のストックが無くなると警告音が鳴らせば嫌われます。淡く光って控えめに伝えるなどの気遣いが必要です。
ターゲティング広告は、自動車の記事を閲覧した人に新車を紹介する、即売会を実施する地域の居住者に案内する、一度広告を見た人にもう一度広告を表示する、などです。
興味を示している人に即座に仕掛けることです。購買意欲が消える前に。
顧客との距離の取り方。個別の接近よりも、不特定の人々に伝えているように見せかける。即座に反応したのではなく、たまたまの今にように振舞うことが賢明なことも少なくありません。
■ ソーシャルメディアの限界を超える
殆どの市場調査はランダムサンプリングを前提とすることができず、行動経済学や神経科学の発展により無効なことが判明した質問も少なくありません。
顧客理解は、質問することから、傾聴することへと移行しています。
データが生成・取得される過程は、ソーシャル/センサ/業務付随です。センサ由来データは、ＧＰＳや映像も含みます。業務付随データは、事業者が保有するものであり、競争優位につながる消費者理解が得られます。
顧客満足の指標は「従業員の笑顔」。スマイルスキャンが店頭やコールセンターなど、顧客接点で利用されています。
患者コミュニティによって体験と知識を共有することは、患者にとっても患者家族にとっても有益です。同時に、患者理解の有力な方法でもあります。
複数のリモコンを統合する「学習リモコン」を発展させ、使用者の生活行動の傾向を把握し、様々な機器を自動で快適に制御する機構も開発されています。
味覚認識装置は、工場間の味のバラツキや、競合品との違いの評価に用いられます。味覚センサのデータと顧客の意見や評価を合わせて、有益な分析ができます。
汎用センサは、温度・湿度・加速度・光量などを検知します。３軸加速度計を持ちいて、移動距離・消費カロリー・運動強度・睡眠状態などのデータを取得する健康管理デバイス。食べたものを取り込めば、摂取栄養やカロリーの収支計算が行えます。
Googleは、Chromeの拡張機能により詳細なデータを取得しています。ブラウザの拡張機能によるデータの取得を許可した利用者には謝礼が提供されます。ルータ貸与によるデータ取得では、ブラウザ由来のデータだけでなく、全てのアプリケーションといデバイス由来のデータを取得することもできます。
センサによるショッパーセプション=ＰＯＢデータの取得が可能になりました。ＰＯＳと併せて分析することができます。使用時点のデータも含めて［ＰＯＢ-ＰＯＳ-ＰＯＵ］の統合理解が望まれます。
■ 何をつくればいいのか、何をつくってはいけないのか
３Ｄスキャナと３Ｄプリンタ、ＰＣ制御ミシンなどのデジタル工作機械。デジタルファブリケーションが広がっています。
スチームコンベクションオーブンは、ヒーターと蒸気を併用して、焼く・煮る・蒸すなどあらゆる調理を行います。履歴データを評価し、調理データの共有する仕組みが開発されています。個別最適化された調理が、チェーン店でも可能になります。
ＡＰＩの活用で新しいサービスが開発される一方で、他社に自社サービスを決定されてしまう。プラットフォーマーが提供する機能を土台に独自の価値を示すことが必要になります。
社内の各部門の「顧客像」は同じものであるべきです。
顧客理解の中核となるデータ群を整備し、共有することは不可欠です。
部門間の調整を行ってデータを共有するより、外部事業者から購入した方が手間が少ない。大企業ではよくあることです。
データを取得しやすい事業者と、データを活用する事業者は異なります。既に事業買収や提携を通じてデータの収集を行っています。
データを安全に利用するための、仮名化と集合化。
「失業保険」の検索人数を知れば、「失業率」を予想することができます。
■ 何円ならば買いますか
需給調整のために、正確な需要予測と短時間の供給調整(生産調整)が必要です。そして、価格の調整も手法の一つです。
季節変動や販売促進やイベントの影響を考慮した価格の最適化により、利益を伸ばすことができます（イールド・マネジメント(収益管理)）。不誠実な価格調整は消費者の反感を招きます。価格決定の方法や消費者への説明が不適切なら、トラブルにつながります。コカ・コーラは、温度などによって価格が変動する自動販売機の設置を止めました。
価格は比較が容易。価格比較サービスも様々なものがあります。ショールーミングも発生しています。
価格による需要調整は、即時性が重要。電力・通信・交通では、ピーク需要に合わせて設備投資をすることは困難。供給可能な範囲で適時に調整を行うことが合理です。スマートメーターによる、電力の時間帯別料金などが設定されています。発展途上国では、通信では「開いている時間帯は割安」を訴求して通信サービスの利用を促しています。一貫して「割引」を訴求していることも、成功の要因です。
日本国内は、人口密度が高い、地価が高い、商品回転が早い、店舗スペースが狭い。物流を高頻度化する合理性がありました。日次の発注と配送が行われています。今後は、人口も経済も縮小します。身の丈に合った基盤投資を行い、融通し合って活用する考え方が求められます。
■ 社会課題の解決と「心地よさ」への挑戦
合理性を追求する領域からビッグデータの活用が始まっています。
日本の自殺率は世界の中でも高く、若年層の死因の第一位は自殺です。15〜34歳で死因の第一位が自殺なのは先進７ヵ国では日本のみです。
＊ 若年層(15歳から24歳)の死因 2022年-ＷＨＯ統計
自傷行為(自殺): 15歳から19歳の若者において、自殺が最も多い死因です。
交通事故: 思春期人々の主な死因の一つです。
暴力: 暴力による死亡も若年層の問題となっています。
母体の状態(妊娠に伴う合併症): 出産や安全性の低い妊娠中絶が死因の上位に位置します。
世界保健機構(WHO)は、「自殺の多くは防ぐことができる社会問題」としています。特定の薬の購買(組合せ含む)、ＳＮＳへの書き込み、通勤通学記録、入出金履歴、特定商品(アルコールなど)の購買履歴、などから自殺の兆候を捉えることができます。自殺の兆候の探索は、非常にセンシティブな課題。社会合意が必要です。
心地よさ・快適さ・気持ちよさ・愛着の実現。リモコンが睡眠中の呼吸・脈拍・体動を計測し、室温を最適な状態にするエアコンがあります。
