「進化の教科書 第一巻 進化の歴史」
カール・ジンマー/ダグラス・J・エムレン 2016年 ブルーバックス
進化に関する米国で定評ある教科書です。読むべし!ですよね。 以下はこの本の要約と引用です。*印はネット検索の結果です。
■ 岩石の語ること
最古のストロマトライトは、34憶年前の岩石。古いものは非生物起源であるという説もある。確実にシアノバクテリアによって作られた最古のストロマトライトは27憶年前のものである。
チャールズ・ダーウィンは、最初は地質学者として知られていた。ビーグル号で航海しながら、地質学的な構造を観察し、それらが膨大な時間をかけて変化した結果であると気がついた。
たまたま遺骸が静かな湖に沈み、他の生物にバラバラにされる前に堆積物に覆われる。そして水が内部の隙間を鉱物で埋めていく。数千年が経つと、以外のまわりの堆積物は岩石に変わり、化石ができあがる。数百万年も、湖底が隆起して風雨によって削られ、化石が露出するかも知れない。そして、風雨が化石を破壊し始める。化石は過去に存在した生物の僅かな断片でしかない。
ティラノサウルス・レックスが速く走れなかった。速く走るには筋肉の力が足りないのだ。
炭素13は炭素12よりも重いため、植物に吸収されにくい。一部の草木は、炭素元素4つ含む分子を産出するC4型光合成を行う。牛や馬はC4型植物の葉を食べる。
ヒト族とは、人とチンパンジーが分かれた後、ヒトに至る系列に属する全ての種である。
岩石の年代を決定するためには、1つの岩石から複数の異なる鉱物をサンプリングし、それぞれの鉱物の同位体比を計測する。一つの岩石で、2つの異なる同位体比を測定し、同じ結果が得られれば、放射年代測定が有効だと判る。
炭素14は、いつも新しく作られている。宇宙からやってきた荷電粒子が、地球の大気中で窒素14原子と衝突し、炭素14原子に変化させるからだ。放射性炭素を使えば、4万年前までの化石の年代を決定することができる。
生命は細菌・アーキア(古細菌)・真核生物の3つのドメインに分けることができる。
現在知られているメタンを放出する生物は2つのグループのみ。その一つは牛の消化官にも生息しているので、牛のげっぷにはメタンが含まれている。
最古の真核生物の化石は19憶年前のもの。真核生物は、細菌の100倍以上の大きさになった。今でも世界の大部分は微生物で占められている。動植物には棲めない環境にも生息している。そして、単細胞生物の遺伝的多様性は、動植物を遥かに超えている。この惑星の遺伝子の大部分は、微生物かウィルスのものだ。
多細胞化は何十回も起きたようだ。動物と菌類では、多細胞化は独立に生じた。
バクテリアは、しばしばフィルム上に繋がっている。バイオフィルムでは、細胞同士がシグナルをやりとりして、互いの成長や活動を調整している。最古の多細胞生物(糸状の藻類)の化石は16憶年前のものだ。
複数の系統で、独自のエネルギー獲得方法を持つ多細胞生物が進化した。植物・緑藻・褐藻・紅藻は光合成をする。菌類は、酵素で食物を分解して吸収する。動物は、他の生物を飲み込むことができる。
4億年前の最古の菌類化石は、植物が光合成で作り出す有機炭素と引き換えに、根に栄養を供給するタイプのものだった。菌類と植物は助け合いながら海から陸へ進出したと考えられる。
4億8千年前の岩石からは、昆虫の仲間の足跡が見つかっている。完全な陸生動物の最古の化石は、4億3千年前のヤスデの仲間である。四肢(肢を持つ脊椎動物)の最古の化石は、3億7千年前のものである。
リグニンなど植物特有の化合物が進化すると、茎や幹を作るものが現れた。石炭紀になると、巨大な植物が出現した。シダやイチョウはその生き残りである。
花を咲かせる顕花植物は1億3千年前に出現する。今日もっとも広く分布している顕花植物は、イネ科の草木である。イネ科の草木が生息域を広げ始めたのは2千年前になってからである。過去5千年以上にわたって、大気中の二酸化炭素は減少していった。イネ科の草木は、C3植物よりも効率的に大気中から二酸化炭素を吸収できる。
顕花植物の出現とほぼ同時に、現生の哺乳類の系統も現れた。しかし、現生の哺乳類が新しい形態へと進化するのは、恐竜が絶滅した後である。
クジラが陸上の哺乳類から海洋の捕食者の頂点に進化し始めるのは、5千年前のことだ。ほど同時期に、コウモリは空を飛べるようになった。最初の霊長類は、小さなキツネザルのような動物だった。
最古のヒト族の化石は700年前。現生人類の最古の化石は、エチオピアで見つかった。20万年前のものである。生命の歴史を1日圧縮した場合、ヒトが出現するのは、最後の5秒前だ。
■ 種の起源
「種について議論が始まると、それぞれの博物学者が色々なことを考えているのがわかって、可笑しくてたまらない。定義できないものを定義すようとするから、そういうことになるのだろう」ダーウィン。
生物学的種概念は、「交配可能な個体群で、他のグループから生殖的に隔離されている」と定義される。しかし、これは有性生殖をする生物にしか使えない。交配ができる種の中にも形態が違うものもある。系統学的種概念は、共通祖先に由来するグループ。今日では、全ての分類群に当てはまる種の定義が無いことに合意している。
有性生殖を行う種を維持するには、遺伝子交流を阻む隔離障壁が必要だ。隔離障壁には、地形(地理障壁)もあるが、生殖障壁もある。生殖的に隔離された時点で、別種が形成されたと考えられる。
生殖は、配偶者の発見、接合子の形成(卵と精子の受精)、生存力のある子孫の発生の三段階に分けられる。産卵する果実の違うハエは、別種同士で出会う機会が少なくなる。サンゴは一斉に精子と卵を放出する。種が異なると時刻が異なる。植物は送紛者に頼って受精させる。送紛者が異なれば交配しない。
多くの動物は求愛儀式を行う。オスは種ごとに異なる儀式を行う。メスの好みが交配前生殖障害になっている。交配そのものが生殖障害となる場合もある。他種と交配することで健康を害することがある。
交配後に精子は卵まで長い旅をする。他種の精子の多くは死んでしまう。卵に突入できない場合もある。
地理的隔離と同時に、自然淘汰も影響する。環境への適応のし方が違えば、オスとメスの互いの選択も変わってくる。
1500万年前には、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸は分けれていた。地峡が隆起して大西洋と太平洋が切り離された。多くの種が、自分と近縁な種がパナマの反対側にいた。
同じ場所に生息していても、異なる環境(餌など)に適応することで生態的種分化が起きることがある。生態的な分岐が性的障壁を発生させることもある。
種分化のスピードは数十万年かかることもあるが、数世代で起きることもある。
動植物以外の生物では、種の概念は異なる。原核生物は、有性生殖をしないのでオスもメスもない。無性生殖でクローンを作る。リボゾームRNAによる系統的種概念によって種が定義される。
微生物は動物のような有性生殖はしないが、水平遺伝子移行によって遺伝物質を交換することがある。大腸菌の全ての株は、水平遺伝子移行によって系統的に離れた微生物からも遺伝子を得ている。頻繁に起きる水平遺伝子移行と急速な多様化によって、微生物に関する普遍的な種概念は作れない。
■ 大進化
地球には微生物を除いて870万種の種がいる。カンブリア紀以降に現れた99.7%は絶滅している。原生種は、地球に現れた全ての種の0.3%でしかない。出現し、適応し、絶滅するプロセスとパターン。生物多様性の歴史を「大進化」という。
個体群の対立遺伝子頻度は、自然淘汰や遺伝的浮動(偶然変動)によって変化する。これを「小進化」という。淘汰と浮動のような小進化で説明できない大進化がある。
*対立遺伝子
個体が双方の親から1つずつの対立遺伝子を受け継ぐことで、その形質が決定されます。
種の出現と絶滅と種の移入と移出(地球全体では入出は零)の総数が、[ターンオーバー]。新種が出現する割合を[α]、絶滅する割合を[Ω]で表す。クレード(単系統群)内の出現率と絶滅率は、多様性を決める[現存多様性]。
殆どの分類群で、αはΩより少しだけ大きい。ターンオーバー率の低い種は、長く存続する。恐竜の種の存続期間は短い。ターンオーバー率はとても高い。絶滅は、2つの方法で起こる。Ωが増えるか、αが減るかである。何らかの理由で、恐竜の系統が新しい種を生み出さなかった。
生物多様性には、空間パターンがある。熱帯は種数が多い。特定のグループがよく見られる地域もある。異なるクレードで、独立に同じような形質が進化する収斂進化は、隔離された大陸間でよく見られる。
プレートテクトロニクスは、生物地理学的な分断を形成するメカニズムの一つ。現在、有袋類の殆どはオーストラリアにいるが、最古の有袋類の化石は中国と北米から見つかっている。
レトロポゾンは、RNAを介してコピーされ、生物のDNA上を移動することができる。レトロポゾンを解析した結果、オーストラリアの全ての有袋類は単系統。南米のクレードに含まれていた。つまり、南米からオーストラリアへの分散は、1回だけだったことになる。オーストラリアの化石有袋類の系統を復元すると、単系統になる。
有袋哺乳類は、1億5千年前まで中国に住んでおり、1億2千年前までにアジアと地続きだった北米に広がった。その後多くが絶滅したが南米の有袋類だけが生き残った。5千年前、南米に陸続きだった南極大陸とオーストラリアに分散した。その後、南米と南極とオーストラリアは、有袋類を乗せて離れていった(分断)。南米と北米が再びつながった時、有胎盤類との競争により、南米の有袋類は絶滅した。オーストラリアは、4千万年以上の間、孤立して漂流している。2500万年前の時点では、オーストラリアの哺乳類は全て有袋類だった。1500万年前になると、オーストラリアはアジアに近づき、ネズミやコウモリなどがオーストラリアに移住を開始した。
現代型動物群のルーツはカンブリア紀にある。現代型動物群は、古生代型動物群ほどには、ぺルム期末の大量絶滅の影響を受けなかった。カンブリア型動物群に多い無脊椎動物はターンオーバー率が高く、古生代型動物群は中間型で、現代型動物群は低い。
種の分布の周辺領域にいる小さな集団が地理的に隔離されることにより、速く進化が起きる(周辺孤立モデル)。周辺孤立集団が小さければ、創始者効果により速く変化することができる。遺伝的浮動による変異の消失が減る。近接交配が増える。その結果ゲノム全体にホモ結合が増える。自然淘汰によって数年で対立遺伝子頻度が変わる例が存在する。
*創始者効果
創始者効果(Founder Effect)は、少数の個体が新しい地域に移住したり、隔離された状態で生息することによって、その個体群の遺伝的多様性が大きく減少する現象を指します。
小さな集団が新しい地域に移住した場合、その集団は元の集団よりも遺伝的多様性が低い傾向があります。これは、移住した個体が元の集団の一部であるため、元の集団の遺伝的特性を持ち込むことによって起こります。その結果、新しい集団は元の集団よりも遺伝的に均一な集団となります。
この効果は、生物集団が地理的に隔離されたり、環境の変化によって新たな繁殖地が形成されたりした場合にしばしば見られます。Founder Effectは、その地域の個体群の遺伝的特性が、移住した創始者個体の遺伝的特性に影響を受けることを示しています。
多くの種の形態は、地質学的な時間の間には殆ど変化しない。しかし時折、形態は短期間で急速に変化する(断続平衡説)。
クレードは、資源のある広大な土地に適応することによって、短期間のうちに多様化する(適応放散)。ハワイは、多くの動物種の適応放散が起きた場所である。東アフリカの大湖沼群は地質学的には新しく、数十年万年前に形成されたものが多い。湖が形成されるやいなや、近くの川から魚が移住してきて、多くの新種が形成された。
適応放散は、クレードが競争相手がいないニッチに人がるときに起きる。ある種が絶滅したときにも起きる。恐竜が絶滅したとき、大型の哺乳類が進化して多様化した。昆虫は4億年前に出現し、数百万種以上の種がいる。昆虫は翅が進化したため、新しいニッチに進出し易い。
全動物の共通の祖先は、8億年前には生息していた。最初の大きな分岐は、海綿動物とその他の動物の分岐だった。その次に、刺胞宇物と左右対称性動物の祖先が7億年前に分岐した。
地球が大きく変化したとき、例えばすべての大陸が氷河に覆われた時、海洋の化学組成も大きく変化した。氷河が後退し、酸素濃度が上昇した時、動物の放散が始まった。ツールキット遺伝子(遺伝子のON/OFFするスィッチ遺伝子)によって付属肢・器官・感覚器などの新しいパーツを進化させたのだろう。
動物が手に入れた新しいボディプランは、新しい生態系を作りだした。消化官の中では、他の動物を飼い始めた。そして、ついに他の動物を襲う動物が出現した。
海底に固着した柔らかい体をした生物たちは、捕食者の標的となった。硬い殻や外骨格や独などの防御手段が自然淘汰によって作られた。獲物になる方も視覚を使い始めた。
種は、気候の変化、生息地の生滅、他種との競争、新しい捕食者の出現など、様々な原因で絶滅する。絶滅はいつでも起きる。
5つの大量絶滅。オルドビス紀末、ペルム紀末、白亜紀末の大量絶滅は、絶滅率の急激な増加によるもの。デボン紀末は寒冷化と二酸化濃度の低下。三畳紀末は、火山活動による二酸化炭素濃度の上昇が要因と考えられる。数種が絶滅すると、彼らが依存していた種も絶滅し、生態系全体に破局が広がっていく。寒冷な時期の方が生物の多様性が高く、温暖な時期には多様性が下がる。絶滅率の上昇による。絶滅は、大気や海洋における二酸化炭素の劇的な変化と一致する。白亜紀末の大量絶滅の原因が小惑星の衝突だけだったのかについての論争は、今日でも続いている。恐竜のクレードの中には、小惑星が衝突する前から多様性が減少しているものがあった。
私たちは6つ目の大量絶滅の入口にいる。農耕による生息地の生滅や、森林伐採による乾燥化などの環境の破壊。人類の到着直後に、哺乳類の多様性が半分以下に低下した。人類は哺乳類を狩って食料とし、多くの種を絶滅させたようだ。過去500年間で絶滅した種だけでも、現在の絶滅率は、更新世末の絶滅率を上回る。もし絶滅率がこのままなら、300年後には全ての種の75%が絶滅するという予測もある。
今や人類は、大気組成すら変えてしまった。その影響は、まだ出始めたばかりだ。すでに動物や植物は、気候変動に対応し始めている。幾千もの種が、分布域を移動させてきた。
目の前で起きている大量絶滅を心配する必要は無い。絶滅は生物にとって避けられない現実なのだ。
人間中心の立場からは、大量絶滅は深刻な問題だ。海そして陸の食糧、そして水質も、生物多様性によって維持されている。
■ 人類の進化
1863年、2億8千年前に絶滅したネアンデルタール人の骨がドイツのネアンデル渓谷で見つかった(タールはドイツ語で渓谷)。
言語や抽象的な思考は、我々の祖先がネアンデルタール人と枝分かれした後に進化した(ネアンデルタール人の言語能力については諸説ある)。
最古の霊長類化石は、5500万年前に遡る。類人猿は3000万年前に旧世界猿から分かれた。類人猿は両手と両足で枝をつかむことができ、木を登ることに適応している。初期の類人猿は、欧州やアフリカやアジアで反映していた。中新世の類人猿の多くは絶滅した。欧州では完全に姿を消し、アジアでは僅かに数種が生き残った。アフリカでは多様な類人猿が生き延びた。
180万年前より古いヒト族の化石は、全てアフリカで見つかっている。ヒト族の最古の化石は、720万年前と推定される。(二足歩行する)ヒト族がヒト科から分岐した推定年代はまちまちである。ヒト科は、チンパンジーやボノボのパン属、ゴリラ属、オランウータンのポンゴ属が含まれる大型の類人猿。
ヒト族は中新世の末期に出現した。気候は寒冷化し、アフリカの降水量は低下した。乾燥したまばらな林や草原が広がり始めた。雨季と乾季が現れた。中生代に多くの類人猿が絶滅したのは、こに気候変動が原因と推測される。森林の減少は現在も続いている。
ヒト族は、熱帯雨林とは異なる環境に適応した。進化の初期段階で、ヒト族は直立二足歩行に適応していった。遠くまで移動して食料を見つめることができただろう。
ヒト族の化石に残っている咬まれた跡は、彼らが肉食獣の脅威に晒されていたことを示している。
哺乳動物の顎と歯は、それぞれの食性に適応している。歯の変化は、ヒト族の食性が、果実などから種子や硬い木の実に移行したことを反映している。
類人猿は道具を作る。エチオピアのゴアで、260万年前の斧やヘラのような石器(オルドアン石器)が、動物の骨と一緒に発見された。
ホモ・エレクトスの遺跡のから出土する精巧な大きな握り斧(ハンドアックス)。150万年前、この新しい道具を生んだのはアシュール文化。アシュールは石器が最初に見つかったフランスの地名である。
180万年前になると、ヒト族はアフリカの外へ進出し始めた。ほっそりとした身体をしたホモ・エレクトスはインドネシアにまで到達した。
インドネシアのフローレス島で、9万年前から1万8千年前のヒト族の化石(ホモ・フローレシエンシス)が発見された。身長は1m、頭骸骨の容積も小さい。このヒト族の起源は不明である。
イギリス海峡にあるジャージー島の崖の下から、40万年前の木製の槍が見つかった。石器はルバロワ石器。鋭いスクレーパーやナイフや投げ槍の先端部など、作り方が複雑なこの石器で、食物を料理し、住居を作ったのだろう。当時の欧州は北部氷河で覆われ、南部は荒野だった。ヒト族の筋肉質な身体になった。
ネアンデルタール人の脳は、私たちと同じくらい大きかった。骨の同位体は、彼らが主に肉食であったことを示している。貝殻に顔料を塗り穴を開けた。ネックレスにしたのだろう。ネアンデルタール人は、欧州とアジアで進化した。3万年前になると姿を消してしまう。
アフリカでは、ホモ・サピエンスが進化した。エチオピアで20万年前の化石が発見された。道具の交換も始まり、製作地から何百キロも離れた地点で見つかるものもある。
ヒトの共通の祖先がいたのは15万年前。ネアンデルタール人とは系統樹が異なる。一部のネアンデルタール人の遺伝子は、アフリカ人よりも欧州やアジア人に近縁だ。交配が起きたのは、ヒトがアフリカからユーラシアへと進出した後で、かつユーラシアで多様化する前らしい。欧州人とアジア人のゲノムの2.5%はネアンデルタール人に由来する。
シベリアのアルタイ山脈にあるデニソワ洞窟で、デニソワ人の化石が発見される。デニソワ人とネアンデルタール人と現生人類のゲノムの比較から、3種の共通祖先は80万年前に存在していたことが示された。40万年前には、デニソワ人とネアンデルタール人が分岐した。西方に向かった集団はネアンデルタール人に、東方に進出した集団はデニソワ人に進化した。デニソワ人の対立遺伝子は、オーストラリアとニューギニアとフィリピンの集団に存在している。デニソワ人のDNAは、既に南アジアの集団には存在しない。
5万年前の地球には、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人とホモ・エレクトスとデニソワ人が住んでいた。
旧世界猿や類人猿は、色を見ることによって遠くからでも栄養に富む葉を見つけられるようになった。他者の顔を認識して、それがどのような感情を表しているかを理解する脳の新しい領域も特殊化した。200万年前からヒト族の脳は拡大を始め、10万年前まで続いた。
進化に最も影響するのは、蛋白質をコードしない調節配列に起きた突然変異だ。神経の発達と機能の進化は、主に非コード領域の変化によって起きた。
イギリスの研究者は、会話や文法の理解に障害のある家系で、言語能力の基盤となるFOXP2遺伝子を発見した。FOXP2遺伝子に欠陥のあるメンバーでは、ブローカー野の活性が低下していた。FOXP2遺伝子はヒト族の系統において、過去数十年間のどこかで自然淘汰を受けた。
進化の一般則に依れば、適応とは古いものを修正して、新しい用途に使うことである。
霊長類の進化の過程で、神経線維による前頭葉と側頭葉の結合が密になってきた。サルはブローカー野を、他のサルの鳴き声を理解するために使っている。蛇が来た時と、豹が来た時では、警告を知らせる鳴き声が違う。
インド・ヨーロッパ祖語の起源は、トルコで牧畜が広まった9800年前以降である。言語の多様化が起きた時期は、クルガン文化を持つ騎馬民族が欧州と中近東に広がった時期(6000年前)に一致する。
ヒトは解剖学的には殆ど4万年前から変わっていない。
小集団から人口が増加しても遺伝的多様性は増加しない。ヒトがアフリカを出て広がっていった時も、ボトルネックを経験した。アフリカ以外に住んでいる全ての現生人類は、少数の個体に由来する。集団にける対立遺伝子の多様性から、祖先集団がどのように拡散していったかを解明することができる。
多様性の損失は、アフリカを出たときに一度だけ起こった。集団のゲノムの多様性は、アフリカから離れるに従って減少していく。
ヒトは環境を変え、変わった環境に適応する。牛の家畜化は、乳頭耐性を生み出した。似た食事をとっている民族は、対立遺伝子頻度も似る傾向にある。
身長の上昇は、表現型可塑性(環境によって表現型が変異する)の例である。現代の生活では、自然淘汰はあまり働いていない。ある遺伝子型における相対適応度の差が小さくなっている。100年前なら感染によって子供のうちに死ぬことが多かったが、現在では抗体で治療するので、対立遺伝子の間で適応度の差が小さくなる。
私たち感情には、壮大な進化の歴史が刻まれている。0.1秒見ただけで、偏桃体は活性化する。大脳皮質を経由しないで、目や耳からの情報を偏桃体に伝える回路がある。偏桃体は、脳の他の領域にシグナルを送って、体に反応を引き起こす。ヒトでは、「毒」や「危険」といった単語を読むだけで、偏桃体が活性化される。
欲求を生じさせるのは、脳幹にあるニューロンの小さな塊だ。美味しそうな匂がすると、この領域からドーパミンが放出される。ドーパミンを産出するニューロンは、膨大なネットワークに結合していて、脳全体の働きを素早く変更できる。ドーパミンは、注意力を高め、ニューロン同士の結合を強化する。
哺乳類では、ドーパミンを作れなくすると、あらゆることに対する欲求を失う。多すぎるドーパミンは危険である。夢中になり、他のことは何もしなくなる。
私たちの強い感情は、他の人、特に家族に対して現れる。初期の哺乳類で、母子の絆が進化した。現生の全ての哺乳類では、育児を促すために同じホルモンが使われている。オキシトシン分子が乳腺にある受容体と結合すると、母乳の生産が始まる。オキシトシンは脳の神経細胞にも結合し、母親の行動を変化させる。オキシトシンを妊娠していない雌羊に注入すると、血縁関係の無い子羊に対して母親のような振る舞いを始める。
ヒトの女性でも、授乳期に子供の肌に接するだけで、オキシトシンの放出量は増加する。母親が子供に話しかけたり、子供のところに行ったり、見つめたりする回数を測定したところ、オキシトシンは母親と子供をより強く結びつけることがわかった。
オキシトシンは家族以外との交際にも関与している。オキシトシンは偏桃体を抑制する。他人を信頼し、寛容になる。
恋する相手を想っているときの人の脳にも、オキシトシンとバソプレシンが働いている。母子だけでなく男女の間でも、オキシトシンとバソプレシンは同じ回路で働く。2つのホルモンを流用して、目が合ったり、笑いかけたり、肌が触れたり、愛情に満ちた刺激によって、オキシトシンとバソプレシン経路が信号を出し始めた時に、恋は進化したのかもしれない。
バソプレシンの活性の違いが原因で、一夫多妻制が一夫一婦制に変わった。ハタネズミでは、母と子を結びつけている神経ペプチド(バソプレシン)が、長期間のつがい形成にも流用されていた。
バソプレシン受容体遺伝子AVPR1aの変異は、社会行動障害から自閉症までの原因と考えられる。AVPR1aの変異が、男性において、他人との結びつきの弱さと関連していた。人間関係に問題を抱えている率が2倍で、結婚率も低く、結婚している場合も離婚の危機に瀕している場合が多かった。
利得が確実な場合は、殆どの人は賭けをしないで確実な利得を選ぶ。利得ではなく損失の可能性に直面したとき、多くの人は賭けに出る。私たちは非常に損失を嫌う。既に持っているものを守るために、割に合わない危険さえ冒す。私たちは、株価が急落したのが分かっていても、それを手放すとことができない。
ある種の動物では、遺伝的な違いが大きな異性との交配を好む。脊椎動物の免疫機構は、体内に侵入する病原体を、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる遺伝子コード群にコードされているタンパク質によって認識する。ある個体が、両親から様々なMHC対立遺伝子を受け継いでいれば、様々な病気に抵抗性を持つことができる。MHCが異なる異性を好む傾向は、爬虫類、魚類、鳥類、鼠など、多くの動物で報告されている。
女性たちに男性の写真を見せて、魅力度を訊いた。すると、MHC遺伝子の異型接合(ヘテロ接合)が多い男性の方が、女性には魅力的に見えた。顔を見ただけで、異型接合が判ることも示している。MHC遺伝子の多様性が高い女性ほど、性交渉の開始が早く、多くの相手と性交渉を行う傾向がある。ヒトでも匂いからMHCの多様性を検出できる。女性たちは、自分とは異なるMHCの対立遺伝子を持つ男性が着ていたTシャツの匂いを好んだ。