「脳の健康」 生田哲 2002年 ブルーバックス
脳に関するブルーバックスで百円なら読んでおこうという本。初心者向きの本であるにも関わらす、知らなかったことが結構出てくるんです。生禿は脳についての基礎知識が足りないな、と思わされました。本の内容そのものは … 、まあ百円ですからね、文句言ちゃあいけませんやね。 以下はこの本の要約と引用です。*は生禿の見解です。
《はじめに》
幸福な人生とは「快楽を得て、前向きに生きること」である。
《1. 脳の構造と働き》
脳幹の一番上には視床がある。視床は脳全体の真ん中にあって、大脳新皮質から出ていく情報も入ってくる情報も全てここを経由する。視床下部を、本能を創る脳と呼ぶ。快楽こそが人間が生きていくエネルギー源だろう。
*三大欲=食欲・性欲・群欲の内、人間の群欲は、家族と集団という、餌の分配などで矛盾する要素を含んでいる。
視床下部で空腹を感じ、大脳辺縁系の側坐核で食べたいという欲を生み、海馬で側頭葉の記憶を呼び出し、扁桃体に伝える。扁桃体は食べたい料理を選び、前頭葉で決める。
小脳は、運動が俊敏な動物ほど発達している。小脳に運動に関する記憶も蓄えられているようだ。
記憶は、記銘-保管-再生からなる。記憶には、記述記憶と作業記憶がある。資格情報が、大脳辺縁系に達する「記銘」には0.1秒かかる。大脳辺縁系が情報を発してから大脳皮質が反応する「再生」には0.4秒かかる。
*前頭連合野は、攻撃と抑制を司る。人間は、不安と好奇心の遺伝子が強い。また、環境を作り変える人間の遺伝子の多様性は、他の類人猿に比べて小さい。
人間の脳には千数百億個の神経細胞と、同数以上のグリア細胞(神経膠細胞)がある。グリア細胞は膠(にかわ:glue)の神経細胞の傍にある。神経細胞に栄養を与えることと、血管から有害な物質が侵入するのを防いでいる。
グリア細胞には、オリゴデンドロサイトとアストロサイト(星状神経膠細胞)とミクログリアがある。オリゴデンドロサイトは、軸策を漏電から防ぐ髄鞘(ミエリン鞘)になる。ミクログリアは、脳内で損傷が発生した部位で増殖し、老廃物や有害物質を取り除く。神経細胞とグリア細胞は、同じ細胞から分化したものである。グリア細胞は、一生を通じて生産される。
*グリア細胞からは遊離ATPが放出され、ATPはシナプスを発火させる。グリア細胞のこの機能が、神経回路の大域統合を実現している可能性がある。
脳を興奮させるのは、ドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニンなど。脳の興奮を抑えるのがギャバ。ドーパミン神経は、脳幹〜大脳辺縁系〜前頭葉〜側頭葉を繋いでいる。
テストステロンは、意欲を生む物質。テストステロンは、男女両性に思春期を開始するホルモン。男性ホルモンとも称されるが、その受容体は女性の膣・クリトリス・乳首にもある。脳では、大脳辺縁系や性中枢にテストステロンも受容体が密集している。
テストステロンを投与すると、気分を高め、鬱状態を改善する。ドーパミンやテストステロンが脳内の受容体に結合することによって、脳が活性化する。注意力・感情・記憶・学習・理解・意欲・俊敏性・平衡感覚が高まる。
ドーパミン受容体遺伝子の繰り返し配列が多い米国人は好奇心が強く、東アジアや南アジアでは少ない。セロトニン遺伝子にはs型とi型がある。日本人はs型だけを持ち、米国人は不安を感じないi型を多く持つ。
《2. 脳の誕生》
胎芽中枢神経系は、どんな脊椎動物でも一本の管のように見える<神経管>。動物の生命維持活動を維持する脳幹は、受精から5ヶ月経てば十分に発達する。早産しても生存できる可能性がある。
シナプス結合が活発になるのは誕生後である。軸策や樹状突起が伸び、神経細胞が放出するニューロトロフィン(神経栄養因子)に誘導されてさらに伸び、シナプスが形成される。シナプスは、ニューロトロフィンを受け渡しできる神経細胞同士で形成される。
遺伝で支配されている死=アポトーシスは、ギリシャ語のアポ=去っていく、トーシス=落ちていくの合成語。細胞の特定の形を決めるのは、隣接する細胞から放出されるニューロトロフィンである。胎芽は、そのまま成長すれば女性の性器と頭脳を持つ。ヒト遺伝子の複製の仕組みは解明されていない点が多い。胎児に異常を発生させる物質やウィルスを「催奇物質」と呼ぶ。
《3. 脳を育てる》
人間の子供は、他の哺乳類に比べて1年早産だと言える。大脳新皮質が大きくなり、頭部が発達してからでは産道を通過できなくなった。
ハイハイやオスワリによって、乳児はそれまでとは異なる目の高さであたりを見回す。シナプスが強化され、固定化される。歩けるようになるのは。筋肉と神経が成長し、両者が協調始めた時期である。
軸策や樹状突起が十分に伸びていない未熟な脳は、髄鞘化が完成していない。三歳頃には基本動作にかかわる神経が髄鞘化される。大脳新皮質の髄鞘化は、脳幹や大脳辺縁系よりも遅く、三歳を過ぎてから進み十代末で完成する。三歳頃までの記憶が無いのはこのためである。
人間の脳では、最初にシナプスを多めに作っておいて、成長の過程で使われなければ減らす。脳の発達には環境因子が大きな影響を及ぼす時期がある<臨界期>。
《4. 身体を使って脳を鍛える》
脳以外の臓器では、ブドウ糖は酸素を使わずに分解され乳酸に変わる。乳酸は肝臓で再びブドウ糖に戻る。脳では、ブドウ糖は完全に酸化されて、二酸化炭素と水素に分解される。脳はブドウ糖を備蓄できない。肝臓に蓄えられているグリコーゲンがブドウ糖に変えられる。
海馬には、アセチルコリンを生産し、放出するアセチルコリン神経が集中している。レシチンは体内でアセチルコリンに変換される。レシチンを多く含む食物は、麦芽・大豆・ピーナツなど。
脳で眠るのは大脳だけ。延髄・橋・中脳などの脳幹は、心臓の拍動や体温制御などを行わねばならない。大脳の活動は睡眠の質に左右される。学習した当日に眠ると記憶が高まる。
《5. 頭を使って脳を鍛える》
好きなことに取り組む時、扁桃体からドーパミン神経を通って側坐核と海馬に伝わり、快感サーキット全体が興奮し、ドーパミンとテストステロンが放出される。海馬では、情報の書き込みと呼び出しが活性化され、記憶と学習のの能力が高まる。
《6. 脳を守る》
代謝にかかわる酵素の多くは37℃前後≒平熱で正常に働く。体温が1℃上がると、多くの反応が10%も速くなる。
脳は、42℃を超えると機能が衰え、45℃を超えると脳神経細胞の不可逆な変成が起こる。病気の時の発熱は、病原菌が高温環境に弱い性質を利用した対抗手段である。炎天下で帽子を被るのは、脳温を上げないためでもある。同じ気温なら、相対湿度が高いほど、汗が蒸発しにくく、熱中症が発生し易い。
疲労は、過労を避けるための仕組みであり、休息を求める信号を無視してはならない。現代は、椅子に座ったまま作業ができる。作業効率は高まったが過労が増えた。
癌やウィルスを撃退するナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、笑いによって増える。