「アジアのビジネスモデル」 村山 宏 2021年 日経文庫

 気になったので再読です。日本企業は、何故?世界に後れをとったのか、を確認するためです。以下は、その目的で、特に印象に残った部分の引用です。*印は、WEB検索結果です。


■ はじめに

 アジア経済の成長の背景には、アジア企業独特のビジネスモデルがある。

■ アジア企業の実力

 企業の社会への影響力は、利益よりも売上高の大きさに表われる。

■ 受託生産

・ファウンドリー 台湾‐TSMC

 世界最大のファウンドリー[大規模な受託生産企業]、台湾のTSMC。微細加工では世界最高水準を走る。

 米国では、資金の乏しい新興の半導体企業は設計に専心する工場を持たないファブレスの道を選んだ。TSMCは世界中から生産を委託されるようになる。半導体生産の設備設備は大きい。生産ラインが動かなければ赤字になる。TSMCは、スマホに使われる高性能半導体の受注を獲得していった。

 半導体業界は、設計と生産を分離することが当たり前になった。

・EMS 台湾‐フォックスコン

 フォックスコンは、EMS[電子機器の受託製造サービス]の世界最大手。iPhoneの50%を生産する。シャープなどを買収し世界展開している。

 EMSの利益は極端に少ない。複数の企業から似たような製品を大量に受注し、大量生産で利益を確保しなければならない。

・ODM 台湾‐クアンタ

 クアンタは、ODE[相手先ブランドによる設計・生産]の先駆者。生産拠点は中国。台湾本社は研究開発。世界のノート型PCの4台に1台はクアンタ製。

 米国企業から、物流機能を整えたクアンタへの受託が集中した。アジア太平洋地域内に、半導体メモリーや液晶パネルはアジアが生産拠点。台湾企業が開発し、中国で組み立てる。

 海を越えて企業群が連携しながら物作りをする「水平分業」。コストが大幅に削減できる。垂直統合型のビジネスから撤退した米国IT企業は、AIやネットワーク技術へと重心を移した。日本企業は、価格の低下についていけず、撤退が相次いだ。米国企業との技術格差も広がった。

■ ファブレス

・半導体設計 台湾‐メディアテック

 巨大なファウンドリーが近くにあるのだから、台湾から半導体ファブレスが生まれるのは自然の流れだった。

 様々な半導体を一つのチップにまとめて、小さな「チップセット」にする。半導体の個別の回路[IPコア]は、英アームや米シノプシスなどが提供している。IPコアを組み合わせて、チップセットを開発している。OSはグーグルがAndroidを無償提供している。

 メディアテックは、ファーウェイ・オッポ・シャオミなどのスマホメーカーを取り込んでいった。

 スマホ時代を迎え、電子機器の生産は「水平分業」に近づいた。今ではアジアの受託生産企業の協力なくしては、電子機器の生産は成り立たない。

 米国政府は、サプライチェーンから中国企業を排除する動きに出ている。

*米国は中国企業依存のサプライチェーンから、国内強化・同盟国連携・規制強化の方向で政策を進めています。米国の長期的な競争力・安全保障の強化につながる可能性がありますが、コストの増加や市場混乱を伴うリスクも存在します。一方、中国側も独自のサプライチェーン強化を進め、対立が長期化するとグローバル市場が分断し、非効率な二重構造になるリスクがあります。

・垂直統合 韓国‐サムスン電子

 サムスンは巨大な垂直統合体。垂直統合を生かせば開発期間が短縮できる。ファストフォロワー戦略も可能になる。先行企業が生産拡大に戸惑ってるうちにシェアを奪う。

 垂直統合の欠点は官僚主義。事業部制やカンパニー制はセクショナリズムを増幅する。重複投資が多くなる。コスト意識が希薄になる。最大の問題は、売れなければ一蓮托生で行き詰まる。

 サムスンはオーナー企業。経営方針の揺れや遅れを回避できた。

 製品の開発-製造の情報共有により、あらゆる部門の動き出しは早い。

 マーケティング部門が開発段階から介入し、機能をユーザーが求めるものだけに絞り、販売価格から逆算して生産コストを割り出す。どの国でも広告を露出し、サムソンを連呼する。

 アップルはCPUを自社設計の半導体に切り替えた。他のアップル製品と連携しやすくなる。垂直統合は、事業拡大の原点。自前主義の長短を冷静に判断すべきだろう。

・サプライチェーン型垂直統合 中国‐BYD

 「選択と集中」の経営は、環境変化で事業基盤が失われる危険がある。生き残るためには、ダイバーシティ(多様性)も必要になる。

 BYDはバッテリーの会社だった。自社の電池を搭載したEVを作った。

 垂直統合と水平分業の両型の事業を手がける企業グループが増えている。 ブランド事業と受託事業を同時に進めるためには、事業ユニットごとに会社が独立している必要がある。自社製品と他社製品を明確に分けなければ発注元企業の信頼を失う。

■ 農村から都市を包囲する

・自国の農村と新興国から先進国へ 中国‐ファーウェイ

 力の劣る企業は、優良企業が参入しない農村や新興国を開拓し、売上を伸ばす。品質が向上したところで先進国市場に参入する。

 アフリカの通信インフラの7割はファーウェイ。スマホは先進国でも受け入れられた。

 生活インフラが悪く、治安が良くない新興国。所得が小さいので利益も小さい。数多くの中国人がテロや身代金誘拐に巻き込まれた。それでも中国の担当者は、アフリカで生き抜く力があった。先進国出身者には真似はできない。

 セカンドブランドで新興国の参入する場合がある。多品種生産のノウハウがあればよいが、そうでなければ、コストがかさむ。

・イスラム金融 マレーシア-メイバンク・イスラミック

 マレーシアなど東南アジアでは、イスラム圏ビジネスが増えている。

 熱心なイスラム教徒は、利息を嫌ってお金を自宅にしまい込むか、宝飾品を買って価値の目減りを防いでいた。

■ 所得階層別マーケティング

・低所得者マーケティングの難しさ インド‐タタ自動車

 ナノは2000$の格安車だったが、年間所得が1000$に満たない層にとっては高すぎた。

 上位低所得者層は、中間層の求める商品に憧れる。

・富裕層ビジネス マレーシア‐シャングリ・ラ・ホテル

 新興国こそ富裕層ビジネスが成立しやすい。メディカルツーリズムも東南アジアでは盛ん。

■ 時差展開 〜 先進国と新興国の橋渡し

 先進国からノウハウを導入し、本国で成功し、新興国に進出する。タイ・韓国・台湾は、先進国と新興国の中間に位置していた。先進国が新興国に事業を移植しようとしても、消費水準や生活様式が異なるために判断を誤る。

 家電やオートバイは、1人当りGDPが1000$に近づくと売れる。スーパーが歓迎される。年間3000$を超えると小型車や低価格車が売れ始める。5000$になると自動車が本格普及する。

 所得水準が上昇すると、低価格訴求のスーパーが失速し、CVSの時代を迎える。

・アジアから先進国へ 香港‐ジョルダーノ

 流行に素早く捉え、流通コストを低減する。ファストファッションを実現するにはSPA[製造小売]モデルが適している。

■ 先進国を跳び越すリープフロッグ(蛙飛び)

 インドのIT企業は、製造業の世界最適調達と同様、インターネットでフラット化した世界を相手に事業を展開する。

 中国のアリババの電子決済サービス「アリペイ」。スマホを決済は、欧米より進んでいる。ネット売買のモラルが未確立。工夫をして売手も買手も安心できる決済手順を独自に開発した。実店舗でも設備投資なしで導入でき、普及した。

 lineなどのメッセンジャーアプリは、[米国 → 韓国 → 中国 → 日本 → 他のアジア]で進んだ。日本のスマホは、優れた「携帯電話」が普及していたために、イノベーションのジレンマに陥った。電子決済も、ATMとクレジットの普及していたため、モバイル決済が遅れた。ハイブリッド車で先行していたために、電気自動車の市場投入が遅れた。

■ 独占

・独占企業 韓国‐現代自動車グループ

 自由競争では過当競争が起こり、成長への投資に資金が回らない恐れがある。グローバル化した経済社会では、世界規模で巨大企業が競争を繰り広げている。独占の弊害は起こりにくくなっている。

 参加の起亜自動車を合わせると国内シェアは7割。欧米の自動車メーカーはM&Aを繰り返し、400万台の生産台数をクリアしていた。

 現代と起亜は、生産基盤を統一し、生産性を高め、輸出攻勢に打って出た。

 日本では、自動車も電気も、大手10社前後が国内市場で争う構造となった。テレビでも、世界市場に残ったのはソニーのみ。

・スーパーアプリ 中国‐テンセント

 ウィーチャットは、決済をはじめほぼ全てのネットサービスを受けられる「スーパーアプリ」。中国人の共通プラットフォームになっている。各社とエコシステムで提携。世界中のコンテンツ企業の出資・買収。

 政府がどこまで巨大IT企業の独占を許すべきなのか。中国のみならず、世界各国が抱える問題になっている。

■ 国家資本主義

 国家が企業を支援する「国家資本主義」。成功例は、シンガポール。腐敗を防ぐ、厳格な法治主義。

 国家資本主義が望ましいか否かを考える前に、政府支援を受けた有力企業が存在し、日本企業が競っていかなければならない現実がある。

*中国の半導体
 AI半導体市場を牛耳るのはエヌビディアで、世界シェアの7割超を握る。22年10月の米国による輸出規制により、中国が輸入できるエヌビディア製のAI半導体は、中国向けに性能を落としたものに限定されていた。
ファーウェイのAI半導体「アセンド910C」は、エヌビディアが22年に市場投入した「H100」の65%程度の性能。米国の輸出規制で、中国国内ではエヌビディアからファーウェイへの代替が進む。
 米トランプ政権は、25年12月にエヌビディアの先端AI半導体「H200」の中国への輸出を認めると発表。中国政府はムーアなど中国のAI半導体企業を支援する。中国勢とエヌビディアのAI半導体を巡る争いは、予断を許さない。

■ 不断のM&A

 華人・華僑が経営する企業は、事業へのこだわりが薄く、利益が出ないと見れば簡単に切り捨てる。M&Aで、短期に事業を組み替える。日本のようにじっくり産業を育てる余裕はない。

 孫正義率いるソフトバンクグループ。株主や従業員の立場からは望ましくないが、成長を尺度として経営を考えるなら許容される。