「戦略・マーケティングの名著を読む」 日本経済新聞社 2015年 日経文庫

 暇つぶしに読んだ本なのですが、案外面白かった。以下はこの本の要約と引用です。*はWEB検索の結果です。


■「競争優位の戦略」マイケル・ポーター 〜 岸本義之

 製造はバリューチェーンの中でも差がつきにくい領域。ブランドやサービスの分野は差がつきやすい領域です。

 デルは部品メーカーに対して発注はしません。顧客からの受注状況を部品メーカーに公開しています。

 日本企業の多角化は、社内にあった事業の隣接領域に自前で進出していました。元の事業との境界が曖昧で、事業を切り出して売却するのも大変。ポートフォリオとは呼びにくものでした。

 ポーターの理論は、競争の激烈でないところに陣取ることを説きます。

■「良い戦略、悪い戦略」リチャード・ルメルト 〜 平井孝志

 戦略は、なすべきこととなすべきでないことを明らかにします。

 インテルのCEOのアンディ・グローブは、ゴードン・ムーア会長に質問します。「もし、我々が更迭され、取締役会が新しいCEOを連れてきた、その男は何をするだろうか?」ムーアは即答します。「メモリー事業から撤退するだろう」。グローブは質問します。「では、なぜ我々がクビになったつもりで、それをやらないんですか?」。みんなの意見を捨てることができず、誰の対面も傷つけないにようにしていては、良い戦略は生まれません。

 現状の問題に向き合います。課題を向き合わない戦略は、単なる願望です。業績目標も結果であって、論理ではありません。寄せ集めの戦略は、矛盾があったり、経営資源を奪い合います。実行不可能です。

 良い戦略は、単純明快で根拠に基づくしっかりとした構造を持っており、一貫した行動に直結します。診断と方針と行動を要素とします。

 ルイス・ガードナーがIBMのCEOに就任した際、問題はIBMの図体の大きさにあるという診断がなされていました。ガースナーは、問題は総合的なスキルを生かせていないことこそ問題だと考えました。そこで、技術力を生かし、顧客にカスタムメードのソリューションを提供する、という基本方針を掲げます。

 行動を起こすためには、「近い目標を掲げる」ことが有効です。

 ウォルマートは、複数の店舗をネットワーク化します。複数店舗をまとめる情報システムと物流を構築しました。

 何をすべきかの前に、なぜそうするのか、を問い直します。事業Aから撤退すべきかどうかについて考えるのではなく、なぜ今、事業Aの撤退問題を考えているのかを考えます。

 「群れる心」は難しい問題に直面したときに起こりやすいものです。内部の視点にとらわれると、周りが見えなくなります。

■「BMW物語」ディビット・キーリー 〜 岸田雅裕

 第二次大戦前にレースで実績のない自動車メーカーは、プレミアム・ブランドになる資格はない、と考えられていました。

■「メイカーズ」クリス・アンダーソン 〜 森下幸典

 クリス・アンダーソンは「ワイアード」編集長の編集長。「ロングテール」「フリー」の著者です。3Dロボティクス社のCEOとして企業を成長させました。

 インターネットを活用して製造業のビジネスモデルを構築する、というトレンド。ウェブ上で創作し、発明し、協力する方法をリアルワールドに当てはめます。

 世界には1000ヶ所の共通の工作施設「メイカースペース」が存在します。工作機械は自分では所有しない、町工場とコラボレーションするケースもあります。

 デスクトップ工房に必須のツールは、3Dプリンター、CNC装置(削り出し)、レーザーカッター、3Dスキャナー。

 3Dプリンターは、溶融プラスチックを積み上げる方式、樹脂にレーザーを照射して立体を成形する方法などがあります。金型や実部品まで作成するものもあります。3Dプリンターにより立体のイメージを確認でき、デザインの手戻りが減少し、設計工程が短縮されます。設計部門と製造部門が早い段階で意思疎通でき、品質の向上と納期短縮に役立ちます。

 CNC装置はドリルを使って削りだす装置です。刺繍やパッチワーク、スクリーンカッター、紙や繊維カッター。飛行機の機体を削り出す大きな装置もあります。

 レーザーカッターは、ガラス・金属・石材などを正確に切ることができます。接合部をピッタリと合わせる部品を作る場合などに適しています。折り曲げを行うこともでき、手作業での組み上げの手間を省けます。

 大量生産もカスタム生産のどちらも自動化され、選択肢を広げることができます。

 オートメーション化により人件費の割合は低下。輸送費や時間、すなわちサプライチェーンの優位性が決め手となります。

■「成功はゴミ箱の中に」レイ・クロック 〜 楠木建

 マクドナルドを創ったレイ・クロックの自伝。自分の足で動き、自分の目で見て、自分の手で触って理解しようとするハンズオン(実践を重視する)の人です。

 公開企業の舵取りを任されたプロの経営者と、リスクを取って事業を興す創業経営者とは、パーソナリティーやモチベーションが違います。創業経営者は強烈です。「深夜2時に競争相手のゴミ箱をあさって、前日に肉を何箱、パンをどれだけ消費したのかを調べる」レイ・クロック

 起業は若い人だけのものではありません。レイ・クロックは当時52歳。マクドナルド兄弟の反ばハンバーガーショップの原型はそのままに、事業をデカくする仕事に集中しました。いまより大規模にやるとしたら、どういう仕組みを導入すればいいのか。クロックは何も見てもこの視点で考えています。標準化ができて、多店舗展開が可能になります。

 過ぎに実行し、システムに乗らないと思ったら、即座に手を引きます。事前に失敗の基準をハッキリさせておけば、致命的な失敗になる前に手じまいできます。失ったもの以上の教訓を得られます。

 クロックは、商売となると自己中心ではなく、徹底して顧客視点になります。やることなすこと横紙破りの人なのに、顧客に対しては絶対に無理を通さない。お客に利益を与える。その結果として事業は儲かる。クロックが厳守した姿勢です。

 マクドナルドは、フランチャイいじーに対してサプライヤーを兼ねません。自分たちがサプライヤーになると、どうしてもその取引における自分の利益に目が向いてしまいます。フランチャイジーのビジネスが二の次になります。

■「フラット化する世界」トーマス・フリードマン 〜 赤羽陽一郎

 通信技術によって、地球上のあらゆる場所にいる人との共同作業が可能になります。グローバル・アウトソーシングやサプライチェーン・マネジメントによる経営モデルの改革されています。

 アウトソーシングは、社内業務の標準化が前提。社内ですら事業部が違えば業務のやり方が違う日本企業は、競争力を下げる要因です。

 「グローバル・アウトソーシングを進めることが地政学リスク回避の最良の方法になる」トーマス・フリードマン。

 グローバルSCMは、最前線のデータに基づくサプライチェーンを作ることが重要になります。そして、複雑性を減らし簡素化しないとガバナンスが効きません。また、他者との共同作業を活用します。サプライチェーンモデル全体の変革を企画します。

 70年代の日本の経営は拠点ごとにバラバラでグローバル化されていませんでした。

 日本企業は、販社と本社で、売上や在庫の定義すら統一されていません。データの翻訳は大きな隠れコストになります。製品のバリエーションが増えてしまい、サプライチェーンを混乱させています。

 他者との共同作業を設計する中で、事業部ごとに属人化されている業務がバラバラになっている部分が明らかになります。

 商談の進め方は、各ローカルのやり方を尊重します。営業要員の稼働率や売上計上ルールなどは世界で統一し、一元管理します。

 消費者が直接触れる機能や外見は、文化や所得に合わせて地域化しつつ、製品プラットフォームや部品調達は統一(グローバル標準化)します。

 グローバル先進企業がロカル会社に残す機能は、営業・ローカルマーケティング・国別法務対応・国別財務対応です。地域統括会社は、経営管理・投資決定・SCM統括・ロジスティックス統括・地域シェアドサービスセンター統括を担います。国別販社は、独立PLを持った販社から、セールスエージェントに再編されます。工場もフィーベースの製造拠点に再編されます。

 地域統括会社は、実売に基づいて地域全体の収支を管理できる仕組みを作る。地域全体の投資決定の権限を持つ。報告プロセスを変える。どこにどれだけの在庫があり、どの地域ではどの価格で売れているのかを把握できる仕組みを作ります。

 統括会社は、毎月の売上報告を廃止します。結果指標ではなくプロセス指標(先行指標)を取る仕組みを作ります。プロセス管理のためのITを導入します。

 グローバル化は、バリューチェーン[開発→調達→生産→物流→販売]を下流から上流に遡るように進行します。

 グローバル調達は、日々のトランザクション管理は省力化・自動化を進め、サプライヤー調査・開拓とソーシングの立案に多く人材を投入します。

 業務の標準化、部材・素材の標準化、製品の標準化、情報の標準化(購買情報一元管理、グローバルBOM統一)などの標準化を実現します。

■「コトラーのマーケティング3.0」フィリップ・コトラー 〜 関一則

 好ましい社会・文化インパクトをもたらす企業を、消費者が支持するようになっています。

 逆SEOは、見られたくないサイトの検索順位を下げようとするもの。

 慈善事業や社会貢献をアピールする前に、ビジネスそのものに社会価値を組み込んでいきます。

 消費者は、企業よりも使用者の評判(口コミ)を信頼しています。

 HPは、自社のパソコンの魅力を伝える動画や記事を、消費者に募集しています。

 ソーシャル・リスニングでは、コンテストのテーマなどが消費者の共感を得られないものであれば逆効果になります。

 ザ・ボディショップは、事業活動と貧困撲滅の両立を目指し、動物実験を行わないことや、自社社員の公正性を追求する取り組みを継続しています。

*ザ・ボディショップは、倫理的な事業活動に重点を置いています。フェアトレードの取り組みや、環境保護、人権保護にも力を入れています。近年では、ザ・ボディショップは「Enrich Not Exploit(搾取ではなく、豊かさを)」というキャンペーンを展開し、事業活動を通じて社会や環境にポジティブな影響を与えることを目指しています。このキャンペーンには、動物実験反対、フェアトレード、リサイクル可能なパッケージの使用などの取り組みが含まれています。ただし、ザ・ボディショップは2017年にナチュラ&Coというブラジルの化粧品会社に買収され、その後の取り組みにも若干の変化が見られるかもしれませんが、基本的な倫理的方針は維持されています。

 ユニ・チャームは、サウジアラビアで女性だけが働くオムツ工場を建設しました。発展途上国に利益をもたらす企業として国連から世界の30社に選ばれました。

 「スピリチュアル・マーケティング」。スティーブ・ジョブスはストーリー・テラー。マッキントッシュを、コンピュータ産業を支配するIBMに対する反撃として描き出し、ディーラーや消費者が支配を逃れて選択の自由を享受するためには、アップルが唯一の希望の光であると主張しました。

 共感を生むストーリー。ユニリーバ「Dove」の「リアルビューティスケッチ」(2013年〜)。実験結果を基に、ポジティブ思考「あなたは自分が思っている以上に美しい」というメッセージを、ユーチューブも活用しながら訴えました。

■「コークの味は国ごとに違うべきか」パンカジ・ゲマワット 〜 平井孝志

 ゲマワットは画一的な政策は間違っていると考えます。距離が縮まり、国境が消え、嗜好が収束する世界を認めていません。企業に必用なのは、グローバル戦略ではなく、クロスボーダー戦略です。

 インターネット通信量で増えているのは各国内での通信。大陸間のシェアは低下しています。ネットの世界でも国境は厳然と存在しています。

 国際貿易の「重力モデル」。2国間の貿易額は、それぞれの国の経済規模に比例し、2ヶ国間の距離の二乗に反比例する。ウォルマートストアーズでは、海外展開国の首都と本社との距離が遠いほど利益率が低くなります。カナダとメキシコでは利益率は高く、韓国やドイツでは赤字(撤退)。

 距離だけでなく、文化、制度、経済の隔たりを照らし合わせて国ごとの差異を理解します。

 グローバルに事業を拡大する際、「なぜグローバル化するのか」を考えます。

 コークの味は、国ごとに違います。マクドナルドの商品も違います。

 モジュール化などの工夫によって、多様化のコストを抑えます。地域本部を作り、地域に根差して動ける形を作ります。過剰適応は、商品種類の氾濫、マネジメントの複雑化、コスト増につながります。

 第二次大戦後の国際貿易の拡大に寄与したのは、西欧やアジアといった地域内の貿易でした。

 地域内の後方支援業務を集約する、シェアード・サービス・センターによる地域間分業が確立されています。

■「なぜこの店で買ってしまうのか」パコ・アンダーヒル 〜 岸田雅裕

 都会の文化人類学のツールを利用して、トラッカー(追跡者)が行動を記録します。

 客は手がふさがっている場合、買う判断をしない。だから、買物籠は店舗内の必要としそうな場所に分散させておくべきです。買上点数の増加に直結します。

 衣料品店の場合、その場で試着したいのに、通路が狭い/その前に客がいると、買物客はその場をは離れてしまいます。荷物を置く台や鏡も必要です。しかし、通路が広すぎるとスカスカの売場に見え店舗の魅力が落ちます。

 移動中に読める文字数も限られています。店内の掲示や陳列。何をいつどのように言うかが重要です。

 買物客がサービス面で評価を下すのは「体感待ち時間」。不確実性を取り除けば、体感時間を短くすることができる。

 女性は店内を歩き回り、商品を手に取り、品質や値段を比較する。販売員に質問し、試着後であっても購入しないことも多い。男性はお目当てのものがなければ店を出る。男性は、女性よりも、提案に弱い。男は自分で読んで情報を得るのが好きだ。子供が歓迎されない店は、親が背を向ける。

 女性は男性を買物につきあわせるのに苦労する。女性は男性と一緒に店に来ると滞店時間が短くなる。日本でも、お店にソファが置かれて、男性がそこに座っているという光景は増えました。

 わざわざ店舗に来て、なにかの発見がなければ店舗の価値はありません。商品に触れることが衝動買いを誘発します。

 店員とお客が話すと、その商品を買う確率は1.5倍になり、お客が試着室を利用した場合には2倍になります。ディナーで着ようとする服ならば、テーブルに座った感じを味わえるようにセッティングすれば、より雰囲気が高まります。

 マットレスの販売店。安いマットから徐々にグレードアップしていきます。寝室のように演出し、いくつかの枕を持って来てきてくれました。寝心地をイメージすることができます。

■「予想どおりに不合理」ダン・アリエリー 〜 清水勝彦

 行動経済学。「自分が下す決断も自分が進む人生の進路も、最終的に自分でコントロールしていると考える」。そう感じるのは「現実というより願望によるところが大きい」。「自分が何の力で動かされているか殆どわかっていない」。

 「顔の無い集団を前にしても、私は行動を起こさないでしょう。一人一人が相手だからこそ、行動できるのです」マザー・テレサ。感情移入。身近で親近感があるかどうか。大勢の時は「焼け石に水」と思ってしまう。

 「人は大局の判断を迫られた場合は誤りを犯しやすいが、個々のことになると、意外に正確な判断を下すものである」「大局的な判断を民衆に求める場合、総論を展開するのではなく、個々の身近な事柄に分解して説得すればよい」マキャベリ。

 「理屈ではわかるけど…」は、「感情ではわからない」という拒絶です。

 我々は、意思決定の「基準」を簡単に変えてしまいます。

 米国企業は、経営者の報酬の開示を義務付けられました。結果として、他社の報酬が「アンカー」になり、経営者の報酬は上がる一方です。

 成果主義の欠点。仕事の達成感までを「金銭化」したとき、会社は単なる金儲けの場所に成り下がりました。「仕事の完全な金銭化」が起こりました。成果主義は、働き甲斐を示せない経営者の言い訳であってはなりません。「良い目標」を立て共有するのは大変なのです。規範こそ組織の力の源泉です。

 予想を正当化する情報を集めることが無意識に行われる。暗示が信頼や確信を生み、それが人を動かします。

 値引きされたものを見ると、定価のものより品質が劣っていると判断します。

 ステレオタイプ。「女性は数学が苦手」は、女性側の行動も変えてしまう。

 「企業方針や公共政策の重要な決定にかかわる問題では、実験の重要性があまり広く認識されていないことに私はいつも驚かされます」ダン・アリエリー。

■「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン 〜 清水勝彦

 意思決定にかかわるバイアス(先入観や偏見)。直感は「おおむね正しい」のです。直感が意味を持つのは、一定の規則性のある事象に限られます。

 意思決定者のエネルギーが落ちるタイミング、午前中最期と夕方遅くは避けまあす。

 注意力は有限。見ようとしなければ見えません。

 ヒューリスティックスは、「困難な問題に対して適切ではあるが往々にして不完全な答えを見つけるための単純な手続き」。

 「私たちの思考は自動的に原因を探すようになっている」「もっともらしい考え方」に飛びつきます。直感は「信じたがり」です(確証バイアス)。

 医師の診断や株価の予想などでは、専門家の判断よりも、アルゴリズムやチェックリストの方が効果的です。

 私たちは「本来答えるべき質問に答えていないことにさえ気づかない」。「分かりやすさ」問題を置き換えているだけかもしれません。

 「新聞を読まないと無知になるが、新聞を読むと間違った情報に振り回される」マーク・トウェイン。

 行動経済学のプロスペクト理論。デフォルトは目に見える基準です。一度決めたことは変えたくない。現状維持は低リスクで、楽なのです。

 「損失は利得より強く感じられる」。ジリ貧の企業で改革ができないのは、現状ではダメだと分かっていても、今は大丈夫。もし新戦略を打ち出して、大失敗したらどうするの。「行動した場合と、行動しなかった場合では、行動した場合の方が後悔が大きい」。わざわざデフォルトから解離した行動をとって失敗すると、後悔が高まるのです。

 「めったに起こりそうもない出来事は無視されるか。過大に評価される」。境目は、鮮明にイメージできるか、経験しているかです。

 目の前の個別事象を重視し、直感に引っ張られて行動を変えないことが多い。

 意思決定を「おかしい」と指摘してくれる信頼できる誰かがいることが大切です。

 できないのにできると思っていたり、危ないのに大丈夫と言ったり。本気でそう思っているのです。多くの場合は、それはいい方向に働きます。

 後知恵バイアス。直感や予感も、正しかったと判明した過去の推測についてだけ使われている。

 失うものがない、どちらにせよ失うだけという場合には、人はリスク追求型になります。

 死亡前死因分析。「今が1年後だと想像して下さい。先ほどの計画を実行し、大失敗しました。その経緯をまとめて下さい」。計画が進むと反対意見が言えなくなる。集団思考を打ち破り、自由な意見交換をし易くなります。