「マーチャンダイジングがわかる事典」 三浦一郎・服部吉伸 2002年 日本実業出版社

研修の参考にと読んでみたのですが、・・・質は高くありませんが、知識の抜け漏れを埋めてくれたので・・・、感謝です。

事典としての普遍の知識の体系という点では、あえてお勧めしません。入門書としては偏りがあり、専門書としては内容が浅いからです。という訳で、実務家が、電車の中で読む読み物としては良い本、という範疇の本です。


○ マーチャンダイジングの考え方

MDは、常に実験中で、仮説と検証によって進化し続けるものです。「全ての応えは顧客の中にある」。買い手から示されるニーズを、店頭で受け取り、買い手に投げ返す。そのサイクルを回し続ける仕組を経営総体として構築します。「個客対応を販売員個人の資質に任せていたのでは、恒久的な顧客満足は得られません」。

「小売店頭で収集した顧客ニーズが、バイヤーやコントローラーに伝わり、品揃えや店舗戦略に反映されていく仕組みが必要です」。「パートの主婦を最も重要な顧客と位置づける」と、組織として顧客感度を高めることができます。

小売が「価格決定権を持つには、完全買い取り制で、商品に関わる知識と仕入れた商品を完売力があるのが必須条件」です。これは常識ですが、業界の人間は忘れがちです。「例えば婦人服だと、原材料から生産工程にわたる知識がなければ、原価の分析、商品価値、品質評価ができず、価格設定ができません」。

「本格的なチェーンストアとは、1000店舗以上を、3つ以内のタイプで展開しているもの」「日本には、低コスト体質を身に着けた本格的なチェーンストアが存在せず、商品価格に流通の高コスト体質が反映されています」。

百貨店は、「ポイントカードの動態分析に基づいた『パーソナルプロモーション』への転換」を図っています。「馴染みの販売員から個人名で届くDMに対する反応率は、定型DMの4倍以上」だと言います。


○ マーチャンダイジングの実践

マーチャンダイザーは、「担当する商品分野のMDの結果について全責任を負う」。商品調達システムの設計と統括、商品開発、原材料、商品設計、生産、物流、売場のレイアウト設計、陳列・販売のMD全業務プロセスの設計と遂行を行います。対して、バイヤーは、特定の商品分野においてマーチャンダイザーの指示・命令の下に、取扱品目、仕入数量、仕入価格、納品時期、荷姿などの交渉を行うのが役割です。

マーチャンダイザーに最も求められるスキルは、販売予測です。予測能力の欠如による「エイヤー発注」や「チビリチビリ発注」「なんでも同数発注」が、品揃えを貧しくしています。日本にはマーチャンダイザーと言える人は、何人居るのでしょうか?

ディスカウンターは、EDLP、SB商品、海外生産、低価格商品のマスディスプレイ、高在庫回転、ローコスト経営(低販管費)、大規模チェーンストア、同一形状・同一規模の店舗、基本レイアウトの統一、サービス体系の確立、を特徴とします。

ストアブランド(SB)は、「製造段階での段取り替えや、パッケージの別刷りによる、生産性の低下や余分なコストが発生しコスト高になっている商品が多い」。


○ 品揃え

「売れない物が売場を占拠していては、売上が上がらないのも当たり前です。死筋商品の発見と排除のスピードが課題となります」「毎日のミーティングの定例議題として、死に筋商品の発見と処理を設定する」必要があるそうです。

「ある総合スーパーでは、「キッチン」に関わるあらゆる商品、食器や調理器具、家電、家具、ガス関連機器、室内装飾品を陳列した売場を作りました。しかし、それぞれの商品担当者が分かれていることによって、売場の管理・維持が困難になり、その売場は無くなってしまいました」。


○ 価格

ロープライスの「目安としては、メーカー希望小売価格から3割以上低い価格でないと、消費者はロープライスだと認知しないものです」「SB商品の場合は、類似のNB商品と比較して4割以上低い価格でないとロープライスにならない」。EDLPの場合は、「商品の3〜4割以上がEDLPでなくてはなりません」。

リベート(アローワンス)は、日本では『第二の価格』と言われ、「流通業者の利益の中でも大きな割合を占めています」。

販売費及び一般管理費(販管費)と支払金利の合計を企業コストと呼びます。「企業コスト率23%の小売業では、利益とロスを加味して30%程度の値入が行われ、企業コスト率10%の小売では15%程度の値入が行われることになります」。「現在、日本の大手小売業のほとんどが、企業コスト率20%を超えており、安価に商品を販売できる体質にはなっていません。ウォルマートの企業コスト率は、15%と言われています」。

粗利と値入の関係は以下の式で表されます。

粗利益率 = 利益 / (仕入価格+利益)
値入率  = (利益+ロス) / 販売価格

SBは、「販売価格を設定し、そこからそれぞれの原価を割りだしていく」「NB商品より3割以上売価を安く設定できる」「一品の粗利益額がNB商品とほど同額である」が基準になります。


○ 商品管理

「日本のマーチャンダイザーは、40坪を超える売場面積を受け持っている場合が多く、担当商品分野が広いのが特徴です。この為に、売場の管理、維持、商品の手配のための商談・発注に追い回されています」。

=MD担当者の業務=
・品揃えコンセプトの確立
・売場基本レイアウト(図)の作成
・品揃えの決定
・販売・利益計画の確立と発注数量の決定
・棚割
・商品開発
・新しい仕入先の開発
・データ分析と売れ筋追求・死筋退治
・生産、原材料情報の収集
・競合店調査
・各店への具体的な指示
・プライスラインの設定と品揃え(の充実)
・年間契約商品の選定
・受取リベート制度の設計
・特売計画の立案と実施

「利益の出る商品を仕入れるためには、排除する基準を確立し、その上で採用基準を設定します」。ですが、「新規導入アイテムのリストアップができない仕入担当者が圧倒的に多い」のも事実です。

=季節ごとの展開MDの手順=
・品揃えコンセプトの確立
・プライスラインとプライスレンジの設計
・排除候補アイテムのリストアップ
・新規導入候補アイテムのリストアップ
・品揃えの仮決定
・責任者へのプレゼンテーションと承認
・売場の拡大、縮小案の作成
・売場基本レイアウト図の作成
・陳列・棚割案の作成
・責任者へのプレゼンテーションと承認
・売上・利益対策の確立
・売上・利益計画案の作成
・責任者へのプレゼンテーションと承認


○ 店舗におけるマーチャンダイジング

ウォールマートやしまむらのように、売上高が少なくても利益が出る経営は以下の特性を持ちます。

=低生産・高収益経営の特性=
・加工センターを保有する
・店舗単位では発注しない(マーチャンダイザーが各店の販売動向を考慮して、投入数を決める)
・各店は商品の発送に合わせて、店内ワーク(作業)にスケジュールを組み立てる
・開店時の品出しを完全に行う
・地域行事をマーチャンダイザーを知らせる
・各店舗に所在地の天候を予測し、投入数に活かす
・地域特性を分析、把握する
・1枚の売場基本レイアウト図を全店舗に適用する
・品揃えを全店舗共通のものとする
・パートの教育・訓練を徹底する

=セルフ店の販売数量の予測=
来店客数 = f(曜日・旬、天気予報、競合店の動向、(地域)行事)
部門一客当り買上点数 = 来店客数 × 部門係数
例:精肉買上点数 = 来店客数 × 0.64

=専門店の販売数=
延販売数=(接客数 × 一客当り販売数)+(非接客来店者数 × 一客当り販売数)

「専門店の接客数が少なくなっており、優秀な販売員も減っています」「専門知識を備えたスタッフを養成できていない」。「接客をするとお客様が嫌がる」のは、「お客様が嫌がる接客をしている」からです。「売上の70%以上が接客による売上でなければ、個客の顔が見えていない」と言われています。

=基準売場面積=
総売場面積 × (売上高比率×販売数量比率)^(1/2)
売場面積の適切な配分によって、品出し回数を減らし、作業の生産性を高めます。

=売場基本レイアウト(図)の作成=
・品揃えコンセプトの確立
・品群〜品種の面積配分の割出し
 伸びる・伸ばす品群の明確化
 重点販売品群の明確化
 新規導入品群の明確化
 品揃え上欠かせない品群に対する最低売場面積の設定
・客導線の設定
・売場全体のゾーニング
・棚やコーナーの位置の設定
 棚の活用法の明確化
・エンドや季節商品の設定
・商品配置
 フェイシングの設定

「導線調査の結果によると、エンドで何も展開していない場合の副通路への立寄り率は低くなります」。副通路は、「死に売場になるケースが多くみられます」。スポッター(主通路から見えるように、通路に対して直角に出すPOP)によって、視認性を高めます。

棚割り問屋とは、「棚割りを行うメーカーや問屋」で、「所謂メイン問屋が棚割り問屋となっている例が多い」。


○ 利益の構造とマーチャンダイジング

「いくら売上を上げても、無駄なコストを削らないと利益が出ない構造になっている流通企業が多くみられます」。

「ロスは、当初の値入率を低下させる全ての事象」です。

=ロス=
・見切りロス:値下げ
・廃棄ロス:賞味期限切れ
・不良商品ロス:製造段階〜陳列段階での不良と劣化
・万引きロス

=見切りロスの要因=
・適正数量を把握していたか
・見込み違い
・ベンダー営業マンに乗せられた
・品揃えの基準が曖昧だった
・川上の生産・企画・在庫情報を収集していなかった

粗利益額 =(値入による1個当り利益額 × 在庫数量 × 商品回転数)− ロス額


○ 物流とマーチャンダイジング

日本の流通費は高いことで有名です。一般的に、卸売業者と小売業者の粗利益、メーカーの流通費用(20%+35%+10%)で65%です。また、「日本では、GDPにおいて中間取引額が最終消費額の3倍に達しているように、原材料、中間資材、工具などの仕入れの為の卸・メーカー間取引、アセンブリ生産が非常に多くなっているのが特徴です」。「商品価値に占める物流費の割合は15%になると言われています」。

「店頭在庫やバックルームの在庫データを納入業者と共有すれば、納入業者が小売の在庫を確認し、売れた数量を基に商品を店舗に配送できます」。VMI(ベンダー・マネジメント・インベントリー)は、「メーカーや小売の発注業務を卸(物流業者)が引き受け、消費者の売上動向に反応できるようにする物流システムです」。CRP(連続自動補充システム)でも、POS情報を、受発注システムで取引先と結び、「在庫基準を一定に保ち、商品が欠品なく補充される」仕組です。また、SCMでは、小売の仕入業務は無くなります。


○ 出店と商業開発

都心部のCVS、SMなどの商圏は、徒歩5分圏。歩行限界は、300〜400mと言われています。

「SMやDSの機能を混合させたハイパーマーケットが出現しましたが、広すぎて買い難いことへの反省から、スーパーセンターが生まれました」。「生鮮を中心とする食品売り場と非食品の売場の両方で一度にまとめ買いをするお客様は少ない」のです。GMSは、衣食住を品揃えする店舗ですが、衣料品と住居関連の落ち込んでいます。「近年では、(不採算店をリニューアルするのではなく)閉店させる事例が増えています」。